日本産の鉱物や岩石のマクロ(=拡大)写真。
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伊予石 / Iyoite
伊予石 / Iyoite
MnCuCl(OH)3
愛媛県伊方町大久
伊予石は三崎石(Misakiite: Cu3Mn(OH) 6Cl2)と共に発見された鉱物で、両鉱物は産地のある佐田岬半島を囲む伊予灘と三崎灘にちなんで名づけられた。伊予石はマンガン鉱石と海水との反応で生じる鉱物だが、それはやがて三崎石へ変化し、三崎石もまたいずれ別のアタカマ石族鉱物へと移り変わる。そのため伊予石の標本は、そうした自然の流れの中で本当にちょうどいい時に出くわすしかない。標本箱に収めてしまえば伊予石はその姿を留める。写真の標本は最近に得られたもので、こういった造形がまさに伊予石の典型。伊予石のマンガン(Mn)を銅(Cu)に置き換えた鉱物にボタラック石(Botallackite: Cu2Cl(OH)3)がある。
エリー石 / Elyite
エリー石 / Elyite
CuPb4(SO4)O2(OH)4·H2O
福島県南会津市南会津町水引鉱山
エリー石は銅(Cu)と鉛(Pb)の含水硫酸塩の組成を持つ二次鉱物であり、1971年にネバダ州の鉱山から発見された。今では多くの産地が知られ、鉱滓中にも生じることがある。日本では福島県水引鉱山が唯一の産地であろう。エリー石はどこの産地でもユニークな紫色の針状結晶で産出し、それが日本での発見の決め手となった。地元の愛石家が1990年に採集した不明鉱物の特徴は、百科事典に掲載されているエリー石の記述と一致しており、その後の研究によって、この鉱物がやはりエリー石であることが確認された。学名は19世紀における米国ネバダ州の実業家、John H. Elyにちなんで名づけられた。
デフェルネ石 / Defernite
デフェルネ石 / Defernite
Ca6(CO3)1.58(Si2O7)0.21(OH)7[Cl0.50(OH)0.08(H2O)0.42]
埼玉県秩父市秩父鉱山
デフェルネ石はGüneyce-Ikizdere(トルコ)の高温スカルンで見つかったケイ酸基をふくむ炭酸塩鉱物で、無色の板状結晶が扇形に集合した姿で発見された。そして、秩父鉱山もまた高温スカルン地域である。秩父鉱山の東北域にはぱっと見でモノを特定できない白色塊がよく転がっており、それにはかすかにオレンジ色を帯びた脈が走る。それがデフェルネ石であった。それを割ると透明で微細な板状結晶の集合が現れるが、拡大しても存在はかなりわかりづらい(2枚目)。ただし、その面がやや風化するとオレンジ色が染みだし、独特のワックス感も出てくる(3枚目)。学名はジュネーブ自然史博物館の Jacques Deferne (b. 1935)にちなんで命名された。デフェルネ石はあとはKombat(ナミビア)鉱山くらいでしか産出が知られていない稀産鉱物である。
酸化フォイット電気石 / Oxy-foitite
酸化フォイット電気石 / Oxy-foitite
◻(Fe2+Al2)Al6(Si6O18)(BO3)3(OH)3O
兵庫県神河町砥峰高原琢美鉱山
酸化フォイット電気石は2016年に承認されたわりと最近の鉱物であるが、おそらく稀な鉱物ではなく、その存在に気が付いた例が少ないだけだと思っている。電気石はひとつの結晶のなかで組成がものすごく変化する。そのため一つの結晶が鉱物種としては3-4種にまたがっていることはしごく普通。そして、琢美鉱山の電気石もまた同様であった。粒状や針状の結晶にはやはり類帯構造が発達しており、結晶を構成する鉱物種のひとつとして酸化フォイット電気石の産出が報告された。結晶は酸化フォイット電気石のほかに、鉄電気石、苦土電気石、フォイト電気石、苦土フォイト電気石、未承認の酸化苦土フォイト電気石を含むことが報告されている。よく調べたものだ。それにしてもこの状況でラベルをどうするか。私の標本箱では「酸化フォイット電気石を含む電気石」としてある。学名は酸化型フォイット電気石の意味であり、名づけは命名規約で決められている。根源名は鉱物学者のFranklin F. Foit, Jr. (b. 1942)にちなむ。
ベメント石 / Bementite
ベメント石 / Bementite
Mn7Si6O15(OH)8
三重県伊勢市矢持町菖蒲
ベメント石は日本の層状マンガン鉱床には普通に産出する鉱物として知られている。しかし、そのほとんどはいわゆるカツブシ鉱(微細なマンガン鉱物の雑多な集合体)としての産出であって、これは見事という標本的なベメント石はほとんど見かけない。個人的にはベメント石としてまともな姿は伊勢市菖蒲で見ただけにとどまっている。ベメント石は黒色の鉄マンガン鉱石を無数に貫く脈として生じ、脈面にそって割れると放射状にそろった葉片状結晶がぶわっと広がる。乳白色から淡黄色が本来の色だが、風化で褐色に変色する。学名は鉱物・コイン蒐集家のClarence Sweet Bement (1843-1923)にちなむ。
スザン石 / Susannite
スザン石 / Susannite
Pb4(SO4)(CO3)2(OH)2
栃木県日光市大笹鉱山
スザン石はヨーロッパを中心に産地は多く知られているが、これまで日本では産出が確認されていなかった。ところが、最近になり久しく忘れ去られた栃木県大笹鉱山とおぼしき跡が発見され、そこの二次鉱物を調べるなかで見つけてしまった。二次鉱物にまみれた鉱石にはレッドヒル石に見える六角形の結晶が散らばっており、調べてみたところそれがスザン石であった。スザン石はレッドヒル石の同質異像にあたり、肉眼ではもちろん、普通の粉末X線回折でさえ見分けるのはほぼ不可能。確実な判別には単結晶からのX線もしくは電子線回折が有効。学名は模式地のSusanna鉱山(イギリス)にちなむ。そこはレッドヒル石の模式地でもある。
フリーデル石 / Friedelite
フリーデル石 / Friedelite
Mn2+8Si6O15(OH)10
栃木県鹿沼市鷹ノ巣鉱山
フリーデル石はマンガンパイロスマル石の近縁にあたる鉱物で、組成的には塩素をわずかに含む(マンガンパイロスマル石)か、含まない(フリーデル石)かだけの些細な違いしかない。そのため、マンガンパイロスマル石があれば近くにフリーデル石がいても不思議ではないように感じられる。そして最近になって鷹ノ巣鉱山からフリーデル石が見いだされた。鷹ノ巣鉱山と言えばマンガンパイロスマル石が古くから有名であり、それなのにこれまでフリーデル石が見つからなかった理由はきっと単純なものだろう。マンガンパイロスマル石を探しているさなかに、写真のような標本は普通の感性では採集できない。しかし、これがフリーデル石であった。世界的には19世紀には発見されている古典鉱物で、著名な化学者であるCharles Friedel (1832-1899)にちなんで命名された。フリーデル則としても名を残している。
ソーダ菱沸石 / Chabazite-Na
ソーダ菱沸石 / Chabazite-Na
(Na3K)[Al4Si8O24]·11H2O
島根県松江市美保関町北浦
沸石は内包する陽イオンの種類ごとに独立の名称が与えられ、菱沸石はいまのところ最もシリーズの多い沸石である。根源名は楽曲を意味するギリシア語が由来とされる。数ある菱沸石シリーズ中で、日本では灰菱沸石(Chabazite-Ca)とソーダ菱沸石の産出が知られている。しかし、灰菱沸石はありふれた普通種であるのに対して、日本ではソーダ菱沸石の産出は限定的。とはいえ、それは単に調べられていないだけなのかもしれない。北浦で産出する菱沸石を調べたらソーダ菱沸石であった。ソーダ菱沸石の下に広がる板状結晶の群生はフェリぶどう石。
シャンタル石 / Chantalite
シャンタル石 / Chantalite
CaAl2(SiO4)(OH)4
埼玉県秩父市秩父鉱山石灰沢
シャンタル石はジュネーブ自然史博物館鉱物学部の鉱物学者であるHalil Sarpによって記載された鉱物で、妻のChantal Sarp (b. 1944)にちなんで命名された。Halil Sarpの研究活動をずっと支えてきたという名目での命名であった。カルシウム(Ca)とアルミニウム(Al)を主成分とする含水のケイ酸塩鉱物であり、それだけ聞くと普通種かと思えるが、かなりの稀産鉱物である。それでも日本では秩父鉱山石灰沢で産出が確認された。しかし、残念ながら結晶形はまったく認識できず、拡大したところでどこになにがいるかさっぱりわからない。これはホルツタムざくろ石の露頭を殴っていた際にこぼれ落ちた濃灰色塊であり、ぱっと見はただの塊状ゲーレン石に思えたのだがなぜか気になった。そして、これが稀産のシャンタル石である。ほぼ等量の(鉄を含まない)ベスブ石との混合となっている。
砒メダ石 / Arsenmedaite
砒メダ石 / Arsenmedaite
Mn2+6As5+Si5O18(OH)
鹿児島県大和村大和鉱山
砒メダ石はメダ石(Medaite: Mn2+6V5+Si5O18(OH))のヒ素(As)置換体であることから名付けられた鉱物で、イタリアのMolinello鉱山から2016年に発見された。いまのところ模式地とあとほかに2カ所くらいしか産地が知られていない鉱物だが、鹿児島県大和鉱山からも産出することが判明した。そこではバラ輝石中に鮮やかなオレンジ色の粒として埋没する。大和鉱山ではメダ石も産出する。しかし、産状と色がメダ石と砒メダ石とではかなり異なっていることから混同することはないだろう。大和鉱山産の砒メダ石の詳細は、2024年の鉱物科学会で報告される予定となっている。
ハーマー閃石 / Hjalmarite
ハーマー閃石 / Hjalmarite
Na(NaMn)Mg5Si8O22(OH)2
愛知県設楽町田口鉱山
ハーマー閃石はスウェーデンのLågban鉱床から発見された角閃石で、スウェーデン自然史博物館のキュレーターを務めたStens Anders Hjalmar Sjögren (1856-1922)にちなんで命名された。2017年に承認された最近の鉱物であるが、それよりもかなり以前に日本から産出していたことを石友から教えてもらった。それが写真の田口鉱山産の標本で、これまではリヒター閃石と認識されてきた。しかし、記載論文[1]に記された分析値はマンガン(Mn)に富んでおり、これを改めて解析するとハーマー閃石としてまとめることができる。写真の標本も同じくハーマー閃石の組成を示したので、標本箱のラベルを書き換えておいた。
[1] Shoda T., Bunno M. (1973) Optica rotation axes in a manganoan richterite from the Taguchi mine, Aichi Prefecture, Japan. Mineralogical Journal, 7, 159-168.
ユーグスター石 / Eugsterite
ユーグスター石 / Eugsterite
Na4Ca(SO4)3·2H2O
鹿児島県霧島市牧園町硫黄谷温泉
霧島火山の南麓は温泉地帯で、その中のひとつに硫黄谷温泉が知られる。弱アルカリ性で約70℃の源泉の湧き出し口のすぐそば、温度が約60℃くらいに下がった場所にユーグスター石が析出する。ぱっと見はややガラス質の白色塊で、温泉析出物にはよくある姿。しかし、拡大して見ると小塊のところどころに特徴的な柱状~針状の結晶が観察される。日本ではアルカリ性温泉の周りでしか期待できないが、もとはトルコやケニアの塩性土壌から発見された。学名はアメリカの地球化学者であるHans-Peter Eugster (1925-1987)にちなむ。
水マンガン鉱 / Manganite
水マンガン鉱 / Manganite
Mn3+O(OH)
北海道今金町美利河鉱山
水マンガン鉱は三価マンガン(Mn3+)の水酸化鉱物のひとつで、グラウト鉱やファイトクネヒト鉱の同質異像にあたる。この中で水マンガン鉱の産出がもっとも一般的で、発見された年代も最も古い。日本では北海道美利河鉱山で標本的な結晶集合体が産出する。光沢の強い黒色板状~柱状結晶がゴロゴロと集まった姿が美利河鉱山における水マンガン鉱の典型的な産状。一方で、この産地にはグラウト鉱も産出し、それは葉片状結晶の放射状集合であることが多いが、水マンガン鉱の姿を保ったままグラウト鉱に変化しているケースもあるため油断ならない。写真の標本は問題ない水マンガン鉱。学名はマンガンを主成分に持つことから。和名は含水という特徴も入っている。
ヘルビン / Helvine
福島県いわき市御斎所鉱山
ヘルビン / Helvine
Be3Mn2+4(SiO4)3S
ヘルビンはマンガン鉱床で見かけることのある鉱物で、産出はわりと偏る。一つの鉱山では割と見かけるものの、他ではめったに見つからない。それでも通い詰めるとみつかることがある、そんな鉱物だと感じている。日本のマンガン鉱床では少し濁った緑色でガラス光沢を示すことが多い。しかし、ヘルビンの学名は黄色という意味のラテン語から名付けられているように、もともとは黄色の鉱物と認識されていた。日本でもごくまれに黄色のヘルビンを見かけることがある。しかし緑色に慣れ過ぎていると、この黄色は見てもヘルビンと思いあたらない。ヘルビンの鉄置換体はデーナ石。
メダ石 / Medaite
メダ石 / Medaite
Mn2+6V5+Si5O18(OH)
鹿児島県大和村大和鉱山
メダ石は鉱物愛好家のFrancesco Meda (1926-1977)にちなんで命名された、赤色が鮮やかな鉱物である。日本では大和鉱山から産出が知られ、ブラウン鉱が主体の鉱石中に、不定形ながらもへき開面が輝く赤い結晶として見られた。しかし、この産状と赤色、さらにはギラリと輝く特徴は大和鉱山ではメダ石だけのものではない。大和鉱山ではパレンツォーナ石、ナビア石、レッピア石が、メダ石とほとんど同じ産状と色で産出する。いずれもマンガン(Mn)とバナジウム(V)を主成分に持つ。それぞれ赤の色味というか深みというか、わずかな違いがあるものの肉眼での区別するのは至難であろう。ヒ素(As)置換体に砒メダ石があり、大和鉱山ではどちらも産出するが、砒メダ石はメダ石とは産状や色が異なっている。
ゲッチェル鉱 / Getchellite
ゲッチェル鉱 / Getchellite
SbAsS3
北海道洞爺湖町洞爺(財田)鉱山
ゲッチェル鉱はアンチモン(Sb)、砒素(As)、硫黄(S)からなる鉱物で、その色は暗い血のような赤と称される。とは言え、鶏冠石(Realgar: AsS)やロランド鉱(Lorándite: TlAsS2)の赤色との区別は明瞭ではなく、それらは同じ産地から見つかったりするので肉眼鑑定はほぼ不可能だろう。そもそもの発見の経緯も、新鉱物だと確信があって採集されたわけではない。さまざまな硫化鉱物を採集する目的でとりあえずごそっと採取した後、詳しく調べた際に改めて新鉱物であることに気が付いたという経緯であった。学名は発見地のGetchell鉱山(アメリカ)にちなむ。
コピアポ石 / Copiapite
コピアポ石 / Copiapite
Fe2+Fe3+4(SO4)6(OH)2·20H2O
福島県南会津町八総鉱山
コピアポ石は二次鉱物の一大産地であるコピアポ(アタカマ、チリ)から発見された硫酸塩鉱物で、黄鉄鉱などの鉄硫化物の最終形態ともいえる。坑道壁などで濃度が高まった箇所に、黄色から黄土色のもこもこした土や塊、鍾乳石状で産出する。写真の標本は恵与品で、おそらくは鍾乳石状に生じたものの一部であろう。その姿は硫黄の塊にも見えるが、コピアポ石にはいわゆる卵の腐ったようなにおいは無い。水に溶け、酸性水が形成されるので多湿の日本では保管には気を遣う。
重土ジルコニウム石 / Bazirite
重土ジルコニウム石 / Bazirite
BaZrSi3O9
岩手県田野畑村田野畑鉱山
重土ジルコニウム石はバリウム(Ba)とジルコニウム(Zr)を主成分に持つことから命名されたケイ酸塩鉱物で、ベニト石(Benitoite: BaTiSi3O9)のジルコニウム置換体にあたる。ベニト石の特徴と言えば短波紫外線で蛍光を示すことであり、重土ジルコニウム石もやはり強烈な青色蛍光を示す。一方でその実体は無色透明かつ不定形で、ベニト石との区別は分析するしか手はない。また、どちらも蛍光は強烈だが、実体はあまりにも小さい。一般に、蛍光するからと言って手を出しても、小さすぎて答えがわからないということはよくある。重土ジルコニウム石は田野畑鉱山では長石や石英をかむバラ輝石塊に含まれており、オレンジ色蛍光は水酸燐灰石。
軟マンガン鉱 / Pyrolusite
岩手県洋野町舟子沢鉱山
軟マンガン鉱 / Pyrolusite
MnO2
軟マンガン鉱はいわゆる二酸化マンガンのひとつで、たとえばマンガン鉱石を野外に放置すればやがて生じる黒い被膜に軟マンガン鉱が含まれる。マンガン(Mn)の主要な鉱石にもなる。大規模に風化して軟マンガン鉱だらけになった鉱床はやわらかく掘りやすい上に品位も高いので特に好まれた。しかし、そういう鉱床では軟マンガン鉱はただの黒い土くれであり標本としてはあまり好まれない。標本としての軟マンガン鉱は鉱石の裂傷や隙間に生じた黒色の結晶だが、頻繁に目にする機会がないうえに、モノによって面構えが異なるので肉眼鑑定はわりと難しい。学名は「火」および「流し去る」というギリシア語からきている。ガラスの着色を軟マンガン鉱の添加でコントロールできるらしい。和名は特徴をあらわしている。
苦ばんざくろ石 / Pyrope
愛媛県新居浜市権現山
苦ばんざくろ石 / Pyrope
Mg3Al2(SiO4)3
苦ばんざくろ石は高温高圧環境で出現する鉱物であり、日本ではその環境は限られる。特に肉眼的に見える結晶が産出するのは愛媛県の別子地域だけであろう。そこでの苦ばんざくろ石の産状は主に二つで、かんらん岩中のものと、エクロジャイト岩中のものがある。しかし、かんらん岩中の結晶のほうが標本としては圧倒的に優れていると思う。この産状だと苦ばんざくろ石成分が非常に高く、結晶の周囲にはこまごまとした余計なものがあまり伴われないので存在が際立つ。一方でエクロジャイト岩中の結晶はなんとかギリギリで苦ばんざくろ石というもので、その周囲はちょっとごちゃついている。いずれも明瞭な結晶形は観察されず、なんとなくコロコロした姿に留まる。海外でも苦ばんざくろ石の結晶はルーズであることが多い。原産地の苦ばんざくろ石はかなり赤かったようで、赤色を暗示させる「燃えるような目」を意味するギリシア語が学名の由来となっている。一方で和名は化学組成に基づいている。
マンガンタンタル石 / Tantalite-(Mn)
マンガンタンタル石 / Tantalite-(Mn)
Mn2+Ta2O6
茨城県常陸太田市妙見山
タンタル石はタンタル(Ta)を主成分とする鉱物で、タンタルという名称はギリシア神話に登場するタンタロスに由来する。今のところタンタル石には鉄(Fe)、マンガン(Mn)、マグネシウム(Mg)に富む種類が知られており、マンガンタンタル石は19世紀には記載されている。日本でも産出が知られ、妙見山からは黒色の結晶として産出するというレポートがあるものの、あくまでマンガンタンタル石だろうという予測に留まっている。写真の標本は黒ではなくむしろ赤茶けている。しかし、これがマンガンタンタル石であった。結晶の内部にはフッ素灰マイクロ石も伴われる。
マンガンコルンブ石 / Columbite-(Mn)
マンガンコルンブ石 / Columbite-(Mn)
Mn2+Nb2O6
福岡県福岡市西区今宿長垂山
マンガンコルンブ石はコルンブ石族のうちマンガンに富む種類であり、もとは1892年にマンガノコルンブ石(Manganocolumbite)の名称で記載されたが、2008年に今の名称に変更された。長垂ではマンガンコルンブ石はリチウムペグマタイトから産出することが知られており、結晶の一部はマンガンタンタル石にも相当するという報告がある。その標本を見てみたいので、とりあえずタンタル石の触れ込みで購入したものが写真のモノになる。これはマンガンタンタル石にはかすりもしないマンガンコルンブ石であった。懲りずにさらに2度、同じ経験をした。
鉄コルンブ石 / Columbite-(Fe)
鉄コルンブ石 / Columbite-(Fe)
Fe2+Nb2O6
福島県石川町中野
鉄コルンブ石の根源名はアメリカの別称であるコロンビアに由来し、コネチカット州(アメリカ)で採集された標本から新元素が発見されたことで、鉱物名(コルンブ石)と元素名(コルンビウム)が同時に名付けられた。ただし、コロンビウムは後にニオブへと改名された。2023年にはコルンブ石超族が成立し、5つの族(コルンブ石族、イクシオライト族、サマルスキー石族、ウォッジナ石族、鉄マンガン重石族)の筆頭に挙げられている。鉄コルンブ石は典型的にはペグマタイトから産出し、黒色で板状から棒状の結晶となるものの、多くの場合で長石に埋没しているために採集の際に割れやすい。石川町では鉄コルンブ石、サマルスキー石、石川石がほとんど同じような産状と外観で現れ、それらは固溶体を形成するため、分析するしか区別する方法ない。なお、このなかで石川石は独立種としての立ち位置が揺らいでいる。コルンブ石超族の成立の際にデータ不足が指摘された。
トウチェク鉱 / Tučekite
トウチェク鉱 / Tučekite
Ni9Sb2S8
栃木県鹿沼市鷹ノ巣鉱山
トウチェク鉱は世界的にもかなり珍しい鉱物で、ニッケル(Ni)とアンチモン(Sb)を主成分とする硫化鉱物。最初はオーストラリアの金鉱床から見つかった鉱物だが、日本ではマンガン鉱床の鷹ノ巣鉱山から見つかった。いかにも硫化物というよくある色つやだが、その結晶外形はとてもユニークで、両端がピラミッドで閉じる四角柱状結晶となる。ただ、割れやすいようで、なかなかいい状態では観察できない。学名はチェコ共和国の国立博物館でキュレーターを務めたKarel Tuček(1906-1990)にちなむ。
ボルカライト / Borcarite
ボルカライト / Borcarite
Ca4MgB4O6(CO3)2(OH)6
岡山県高梁市布賀鉱山
ボルカライトはホウ素(B)とカルシウム(Ca)を主成分に持つことから名づけられた。和名として硼灰石(ほうかいせき)と表現することもあるが、発音すると方解石と区別がつかないしため、ここではカタカナ読みのボルカライトとする。日ボルカライトは日本産新鉱物の沼野石(Numanoite: Ca4CuB4O6(CO3)2(OH)6)からみて、銅(Cu)をマグネシウム(Mg)に置換した鉱物であり、沼野石はかならずボルカライトを伴う。一方で、ボルカライトは沼野石を伴わずに単独で産出することがある。写真はボルカライトからなる群晶で、この場合の結晶は非常に小さく薄い。また、やや青みがかることが特徴。
俊男石 / Tosudite
俊男石 / Tosudite
Na0.5(Al,Mg)6(Si,Al)8O18(OH)12·5H2O
岐阜県郡上市北濃鉱山
俊男石は粘土鉱物であり、粘土鉱物を専門に研究活動を行ってきた須藤俊男(1911-2000)にちなんで命名された。須藤の名称は先に須藤石(sudoite)として使用されていたため、二つ目となるTosuditeには氏名が組み合わされたが、和名としては俊男があてられている。粘土鉱物は内部が層構造になっており、それが不規則なものと規則的なものがあり、規則性が不十分だと種として認められない。俊男石は規則的なほうで、スメクタイト(もしくはモンモリロナイト)型層と緑泥石型層が交互に積み重なる1:1型層間鉱物として、独立の鉱物種として認められている。日本では北濃鉱山をはじめいくつかの産地が知られる。外観はどこの産地も特に違いはなく、乳白色でもっさりした土状塊。鉱物名に日本人の名前が採用されているが、模式地はウクライナ(Solnechnogorsk Village)。
フローベルグ鉱 / Frohbergite
フローベルグ鉱 / Frohbergite
FeTe2
北海道札幌市小別沢鉱山
小別沢鉱山はテルル(Te)鉱物が産出することで知られ、同じくテルル鉱物の産出がある手稲鉱山とは割と近くに位置しているものの、鉱石の特徴や構成鉱物は大きく異なる。フローベルグ鉱は鉄(Fe)のテルル化鉱物で、手稲鉱山には産しない小別沢鉱山の特産品と言える。一方でそのサイズは非肉眼的で、それを観察するには反射顕微鏡が必要。テルルアンチモニーやテルル鉛鉱が散らばる鉱石に黄鉄鉱が見えると、フローベルグ鉱がわずかに伴われることがある。小別沢鉱山はメロネス鉱(Melonite: NiTe2)やシルバニア鉱(Sylvanite: AgAuTe4)の産出も知られているが、それらもまた非肉眼的な大きさであり、それらはフローベルグ鉱よりも稀な存在。フローベルグ鉱の学名はカナダ鉱物学会の会長を務めたMax Hans Frohberg (1901-1970)にちなむ。鉱物コレクターでもあり、その収集物は今ではロイヤル・オンタリオ博物館に所蔵されている。
テルルアンチモニー / Tellurantimony
テルルアンチモニー / Tellurantimony
Sb2Te3
北海道札幌市小別沢鉱山
テルルアンチモニーはアンチモン(Sb)のテルル化鉱物で、硫テルル蒼鉛鉱族の一員として知られる。そのくせ硫テルル蒼鉛鉱を伴うことはむしろ少なく、テルル鉛鉱などのほかのテルル化鉱物を伴うことが多い。新鮮な時は銀白色だが、時間が経つと黄色やピンクなどに微妙に色づくことがある。黒色化することもあるが、削ってみれば内部は銀白色。やわらかく、また、完全なへき開によってペラペラによく裂ける。見ただけでは共存するテルル鉛鉱とは区別は難しいが、針先でつつくとテルル鉛鉱はぼろっと崩れる。テルルアンチモニーは日本ではあまり産出しない鉱物だが、小別沢鉱山からの標本が知られている。学名は化学組成からきている。こういう鉱物の和名は「鉱」で終わりそうなものだが、なぜか学名のカタカナ読みのまま通用している。
スティルプノメレン / Stilpnomelane
埼玉県秩父市荒川
スティルプノメレン / Stilpnomelane
(K,Ca,Na)(Fe,Mg,Al)8(Si,Al)12(O,OH)36·nH2O
スティルプノメレンは黒雲母によく似た外観を示すケイ酸塩鉱物で、顕微鏡下にあっても区別が難しかったことからかつてはよく混同されていた。結晶構造もシート状の四面体と八面体からなる点で共通する。一方でカリウム(K)の入り方と過剰の四面体がある点で異なっている。そうした構造的な違いは肉眼的な特徴にはあらわれにくいのだろう。スティルプノメレンは今では低変成度の変成岩には普遍的に伴われる鉱物であることが判明しており、特に片岩の構成鉱物として褐色から黒の縞模様を形成する。そのような産状としては埼玉県秩父市長瀞の虎岩が日本では著名。また喜和田鉱山では放射状の集合体として多産した。学名は黒く輝くという意味のギリシア語に由来する。
ゲージ石 / Gageite
ゲージ石 / Gageite
Mn2+21Si8O27(OH)20
静岡県湖西市大知波鉱山
ゲージ石は20世紀の初頭に記載されてしばらくは世界的な稀産鉱物だった。ところが日本でマンガン鉱床の研究が進むと、いわゆるチョコレート鉱には多量のゲージ石が含まれることが判明した。変成度の低い秩父帯のマンガン鉱床からの産出が顕著だが、一般的には顕微鏡で観察するような大きさに過ぎないため、特徴をよく示す標本となるとなかなか難しい。その中で大知波鉱山ではゲージ石の結晶が目に見える大きさで産出することで知られる。標本からは一つ一つは針状結晶で、それが束状から放射状に密接に集合する様子が観察される。学名はアメリカの化学者Robert Burns Gage (1875-1946)にちなんで命名されている。
田村鉱 / Tamuraite
田村鉱 / Tamuraite
Ir5Fe10S16
熊本県美里町払川
田村鉱はフェロトリーウェイゼル鉱(Ferrotorryweiserite: Rh5Fe10S16)のイリジウム(Ir)置換体にあたる白金族鉱物である。発見からまだ間もないため公式には模式地であるKo川(ロシア)でしか産出が知られていないが、北海道と払川でも見つけている。北海道では模式地と同じくイソフェロプラチナ鉱の包有物としての産状であったが、払川ではイソフェロプラチナ鉱の粒子に伴われる黒色のコブとして表れる。フェロトリーウェイゼル鉱もまったく同じ外観であるため分析なしに区別はつかない。しかし、こういう外観でどういう鉱物があり得るかは、産地情報のひとつとして頭に入れておくのもアリだろう。学名はフランス生まれの日系アメリカ人のNobumichi Tamura (b. 1966)にちなむ。放射光施設に所属する物理学者でありながら、恐竜や魚竜を描く科学イラストレーターとしての顔も持ち合わせた人物として知られる。
サフィリン / Sapphirine
サフィリン / Sapphirine
Mg4(Mg3Al9)O4[Si3Al9O36]
熊本県宇城市松橋町竹崎
サフィリンは高温の変成岩に出現するケイ酸塩鉱物で、名称は青色のコランダム(サファイア)に似ることから名づけられた。実際にサフィリンはコランダムとよく共存し、ぱっと見では区別がしづらい。分析すれば確実に分類できるが、硬度の違い(サフィリン7.5、コランダム9)も分類の目安になるだろう。また、松橋町ではサフィリンのほうがやや大きく出現し、板状結晶が重なって伸長して最大で2cmに達する。海外では宝石用にカットされることもあるようだが、日本産はそこまでには至らない。
フォスゲン石 / Phosgenite
フォスゲン石 / Phosgenite
Pb2(CO3)Cl2
和歌山県串本町串本
フォスゲン石は炭素(C)、酸素(O)、塩素(Cl)を含む鉱物であり、それらの元素からなる塩化カルボニル(COCl2)の別称であるフォスゲン(Phosgene)が名称の由来となっている。しかし、フォスゲン石の結晶構造はフォスゲンとは全く無関係であることが後に判明した。フォスゲン石の生成場は世界的にほとんど共通で、海水などの塩素源が存在する場所で鉛を含む鉱床が酸化されることで生成する。串本町もまた同様で、砂岩中に生じた鉛を含む熱水脈が海岸で露出し、それが風化作用を受けることでフォスゲン石をはじめとした様々な二次鉱物を生じた。非常に光沢が強い結晶であり、形態はベスブ石に似る。写真の標本は蛍光を示さなかったが、橙色の蛍光を示すものも知られている。
岩塩 / Halite
岩塩 / Halite
NaCl
福島県喜多方市熱塩温泉
岩塩はいわゆる塩のことであり、学名は塩を意味する古代ギリシア語に由来する。鉱物名ではあるが、一般には鉱物種よりは天然に産出する塩化ナトリウムの集合体を指す名称として用いられる。海外では岩塩は塩湖でまとまって産出するが、多湿の日本ではそのような産状はない。日本では晴天時に海辺などで少量が生じるほか、塩化物泉で見られる程度。熱塩温泉は塩分濃度の高い温泉として知られ、浴槽の縁や配管には岩塩が結晶化することがある。そのほとんどは粉状のものだが、ある程度の大きさの塊となることもある。無色透明の塊で外観にはこれと言って特徴はないが、水溶性があり、舐めればあたりまえに塩辛いしで、産状や性質を考慮すれば鑑定は易しい。
葉銅鉱 / Chalcophyllite
葉銅鉱 / Chalcophyllite
Cu18Al2(AsO4)4(SO4)3(OH)24·36H2O
栃木県日光市足尾銅山
葉銅鉱は緑色の板状結晶で産出することの多い鉱物であり、銅(Cu)を主成分にもつ。その姿と組成から、葉と銅を意味するギリシア語が学名の由来となっており、和名はその直訳。特に珍しい元素からなるわけではないこともあってか海外では産地が多い。しかし、日本での産出はなぜか少ない。いまのところは足尾銅山からの標本が良く知られており、六角形の板状結晶が重なる姿は雲母とも重なるが、この産状で雲母は出ない。含まれる水が飛びやすいと聞いたことがあり、それが原因かはわからないが、結晶質に見えて実は非晶質だったことがあった。
マンガンベルゼリウス石 / Manganberzeliite
マンガンベルゼリウス石 / Manganberzeliite
NaCa2Mn2+2(AsO4)3
福島県いわき市御斎所鉱山
マンガンベルゼリウス石はヒ酸塩鉱物であり、その化学組成を見ても気が付きにくいが、ざくろ石超族の一員である。マンガンベルゼリウス石は日本では御斎所鉱山でのみ見つかっている。発見当初はそこそこあったと聞いているが近年はなかなか採集できない。ブラウン鉱を切る脈に南部石を伴うオレンジ色の微細な粒として産出する。ざくろ石らしい明瞭な結晶形はほとんど示さないが、割れ口は不定形でへき開のないざくろ石らしさがうかがえる。学名はベルゼリウス石(Berzeliite: NaCa2Mg2(AsO4)3)のマンガン(Mn)置換体であることからで、根源名の「ベルゼリウス」はスウェーデンの化学者であるJöns Jacob Berzelius (1799-1848)にちなむ。
ダイアホル鉱 / Diaphorite
ダイアホル鉱 / Diaphorite
Ag3Pb2Sb3S8
北海道札幌市豊羽鉱山礼文ヒ
ダイアホル鉱は方鉛鉱から鉛(Pb)の一部を銀アンチモン(AgSb)で置き換えた組成を持ち、方鉛鉱の近縁鉱物と理解されている。断面のぎらつきはたしかに方鉛鉱に近い印象を受ける。しかし、結晶は方鉛鉱とは異なり一方向に伸びることが多く、色もまた青や黒色を帯びるため、よくみると方鉛鉱とは異なる鉱物と認識できる。日本での産地は豊羽鉱山くらいだが、世界的には産地が多く、発見も19世紀とかなり古い。学名は異なるという意味のギリシア語に由来する。化学組成の近いフライエスレーベン鉱(freieslebenite: AgPbSbS3)とは異なる鉱物という意味が含まれている。
ゴベリン石 / Gobelinite
ゴベリン石 / Gobelinite
CoCu4(SO4)2(OH)6·6H2O
愛知県新城市中宇利鉱山
16世紀ごろのドイツでは、コバルトを含む鉱石には銅や銀が含まれると考えて精錬しようとした。しかし、どうやっても銅や銀は精錬できず、そうした鉱石は「コボルト(kobold)」という妖精が魔法をかけたせいだと考えられていた。そして、18世紀になりコバルトが単離された際、この逸話に基づいて元素名のコバルト(Co: cobalt)が命名される。ゴベリン石はコバルトを主成分とし、フランス(North鉱山)とドイツ(Eisenzecher Zug鉱山)を模式地とする。そのため、コボルト(kobold)の古フランス語読みであるgobelinにちなんで名づけられた。ゴベリン石はクテナス石族の一員であり、そのニッケル(Ni)置換体にあたる浅葱石と共に、日本でも発見されている。蛇紋岩の裂傷に生じた菱亜鉛鉱の上に板状結晶として産出し、ゴベリン石を含む標本は浅葱色よりはやや緑色に寄る。
鉄電気石 / Schorl
福島県古殿町叶神
鉄電気石 / Schorl
NaFe2+3Al6(Si6O18)(BO3)3(OH)3(OH)
鉄電気石は数ある電気石超族の中にあって、もっともふつうに見かける種類の電気石であろう。とにかくやたらめったらいろんなところにふいに顔をだす。そのくせ顔は様々という曲者でもある。ここには一般的ではない顔の鉄電気石をいくつか並べた。ペグマタイトの鉄電気石は黒色柱状で条線が柱面に平行に走り、頭が尖っていることが多いが、それ以外の産状では実に様々なツラを見せる。小大下島のものなどリチウム(Li)が入っていそうな色合いをしているが、調べてみるとリチウムが入る余地のないほどの普通の鉄電気石の組成であった。叶神のものは産状的に苦土かと思いきや鉄電気石であった。フォイット電気石と思いきや、まったくそうではないということもある。産状を考慮しても鉄電気石の肉眼鑑定は難しい。学名は14世紀ごろにあったドイツの地名に由来すると伝わる。
ポルクス石 / Pollucite
ポルクス石 / Pollucite
Cs(Si2Al)O6·nH2O
茨城県里美村妙見山
ポルクス石はリチウムに富むペグマタイトに産出する鉱物で、日本でも産出が知られる。存在は稀というほどではないはずだが、その標本はおそらく稀であろう。その理由は存在がわからないから。ポルクス石は白色で粒状から塊状で産出する鉱物である。そして、新鮮であれば石英と、やや風化すれば長石とほとんど見分けがつかない。写真の標本にもポルクス石がちらちら入っていることを分析で確認しているが、どこだと聞かれても具体的に場所を示すことができないという困りもの。セシウム(Cs)を主成分とする沸石族の鉱物。学名はふたご座β星のポルックスにちなむ。ポルクス石が発見されたとき、つねにペタル石(当時はカストル石)が伴われ、その関係をふたご座の由来にちなんだとされる。
モンブラ石 / Montebrasite
モンブラ石 / Montebrasite
LiAl(PO4)(OH)
茨城県常陸太田市妙見山
モンブラ石はリチウムペグマタイトにしばしば出現する白色のリン酸塩鉱物で、風化に伴って象皮状と称される独特のガサガサした表情を呈する。一方で新鮮な断面では長石とほとんど区別がつかない。また、フッ素(F)置換体のアンブリゴ石も全く同じ産状を示すため、それとは分析する以外に区別するすべはない。学名は発見地のMontebras鉱山(フランス)に由来する。ただし、先に名前を誤ってあたえて後にモノが見つかったという経緯であったことから、そのような命名には批判もあったと伝わる。
ウルボスピネル / Ulvöspinel
東京都青ヶ島湯浜
ウルボスピネル / Ulvöspinel
TiFe2O4
ウルボスピネルは模式地であるUlvö島(スウェーデン)にちなんで名づけられたスピネル超族鉱物で、その下位分類であるウルボスピネル亜族の筆頭に位置する鉱物である。古くからその存在は知られ、磁鉄鉱やチタン鉄鉱とは離溶組織を形成することが多いが、単独の結晶で産出することも稀にある。東京都青ヶ島では離溶組織ではない結晶としてのウルボスピネルが産出する。ここの玄武岩は固化する際にガスを放出して小さな晶洞を作りがちで、その中に鱗珪石を伴いながら黒色の八面体結晶として産出する。鉱滓中に生じることもあり、下の写真は鉄かんらん石が主体となる鉱滓中に生じたウルボスピネルの八面体結晶。鉱滓からの産出だと鉱物とは言えないが、面白い例なので紹介した。
サニディン / Sanidine
和歌山県太地町太地
サニディン / Sanidine
KAlSi3O8
サニディンはカリウム(K)が支配的な長石のうち、高温環境で出現する種類であり、典型的には流紋岩や石英斑岩の斑晶鉱物として産出する。模式地はドイツにあり、薄い板および見えるという意味のギリシャ語に基づいて名づけられた。日本でも産地は各所にあるが、鉱物標本としては和歌山県太地町の分離結晶が有名で、日本地質学会から和歌山県の鉱物に認定されている。愛媛県久万高原町でも似たような結晶が得られる場所がある。双晶も多いが、岩石を割る際の衝撃で結晶も割れてしまうことが多い。富山県南砺市の結晶にはシラー効果による不思議な光沢が見られることがあり、これは結晶の内部に生じた相分離が原因となっている。
ルステンブルグ鉱 / Rustenburgite
ルステンブルグ鉱 / Rustenburgite
Pt3Sn
熊本県美里町払川
ルステンブルグ鉱はプラチナ(Pt)と錫(Sn)が3:1の金属鉱物で、イソフェロプラチナ鉱(Isoferroplatinum: Pt3Fe)の錫置換体に相当する。砂白金の包有物や、正マグマ鉱床の鉱石中に数~数十μm程度の粒子として産出することが普通で、産地も今となっては広く知られている。その一方、数ある白金族鉱物の例にもれず、ルステンブルグ鉱もまたその姿はほとんど知られていない。という状況だったが、熊本県の砂白金鉱床から産出することがわかった。写真の矢印下のコブがルステンブルグ鉱で、それ以外のところはイソフェロプラチナ鉱。コブがあること以外にはその部分の質感に変化がないので、これまで調べもしていなかった。北海道の砂白金からは、ルステンブルグ鉱はイソフェロプラチナ鉱粒子の包有物として産出することを確認している。学名は発見地のあるRustenburg(南アフリカ)から。当地にはMerenskyリーフと呼ばれる世界最大級の白金族鉱床がある。
クララ石 / Claraite
クララ石 / Claraite
(Cu,Zn)15(CO3)4(AsO4)2(SO4)(OH)14·7H2O
栃木県日光市足尾銅山
水色で断面には真珠光沢が見えることから調べる前は水亜鉛銅鉱かと思ったが、結果はクララ石という珍種であった。鉱物種はもうすぐ6000種を超えるだろうが、その中にあって炭酸基、ヒ酸基、硫酸基のすべてを有する鉱物はいまだにクララ石のみとなっている。分類は炭酸塩鉱物。非常に薄い板状結晶が束から放射状に集合することが一般的で、写真の標本もそうなっているが細かすぎてうまく写らない。学名は模式地であるCalara鉱山(ドイツ)にちなむ。産地はこれまで極端にヨーロッパに偏っていたが、ようやく日本でも見つかった。アジアとしても初めての産出であろう。名古屋鉱物同好会のメンバーが中心となって2023年の鉱物学会で報告される。
スワインフォード石 / Swinefordite
スワインフォード石 / Swinefordite
Ca0.2(Li,Al,Mg,Fe)3(Si,Al)4O10(OH,F)2·nH2O
岩手県洋野町舟子沢鉱山
舟子沢鉱山のアルミノ杉石は淡紫色で葉片状結晶を示す鉱物であるが、モノによっては同じく葉片状でありながらもオレンジ色を帯びていることがある。それはアルミノ杉石ではなく、粘土鉱物のスワインフォード石である。スワインフォード石はスメクタイト族の一員で、母相のアルミノ杉石と同じくリチウム(Li)を主成分に持つ。アルミノ杉石を期待した石友はスワインフォード石を含む標本をアルミノ杉石の死体と表現したが、スワインフォード石のほうが世界的に見てむしろ稀産種であるので、ラベルを変えることになろうとも愛でてやるのが良いだろう。葉片状集合がオレンジ色であれば完全にスワインフォード石に置き換わっている。アルミノ杉石と共存する場合、アルミノ杉石は紫色からピンク色をしっかり残しているので、肉眼的にはっきり区別できる。例えば一番下の写真で、真ん中あたりに左右に広がるピンクの葉片はアルミノ杉石だが、それより上のオレンジ色はスワインフォード石である。学名は粘土鉱物学者のAda Swineford (1917-1993)にちなむ。
バウィー鉱 / Bowieite
バウィー鉱 / Bowieite
Rh2S3
熊本県美里町払川
白金族鉱物の多くは母岩が被る蛇紋岩化作用で消失するほどに軟弱であるが、合金の砂白金粒子に包有された状態だと生き残って地上にもたらされる。バウィー鉱も同様で、最初は砂白金粒子の包有物として発見された。熊本県払川でもバウィー鉱は包有物として見つかる場合がほとんどだが、ごくごくまれに砂白金粒子の表面で見られることがある。イソフェロプラチナ鉱粒子の中央にある灰黒色でつるっとした部分がバウィー鉱である。しかし、さらにその中央や周辺のざらついた部分に硫銅ロジウム鉱(Cuprorhodsite: (Cu+0.5Fe3+0.5)Rh3+2S4)が生じており、なんとかギリギリでバウィー鉱として生き残っているという産状を示している。バウィー鉱はイギリス地質調査所のStanley Hay Umphray Bowie (1917-2008)にちなん名づけられて1980年に承認され、1984年に記載論文が発表されている。一方で、中国の研究者が同じ鉱物をSulrhoditeの名で1983年に論文で発表した。論文発表の時期を比較するとSulrhoditeがバウィー鉱に先行しているが、Sulrhoditeのほうはそもそも申請されていない。そして、IMAは1990年にSulrhoditeの抹消を宣言したという経緯がある。
カリ明礬石 / Alunite
カリ明礬石 / Alunite
福島県郡山市逢瀬多田野高旗山
KAl3(SO4)2(OH)6
カリ明礬石はミョウバン(ラテン語でAlum)の原料になる鉱物で、15世紀にはすでに採掘対象となっており、18世紀末ごろにAluminiliteと命名されたが、その30年後に現在に通じる名称へ改名された。和名ではカリウム(K)を主成分とする意と、製品としてのミョウバンと区別するようにカリ明礬石と呼ぶことがある。一方で、族名としてはカリ明礬石族とは呼ばずに、たんに明礬石族と呼ぶことがほとんど。カリ明礬石は主に変質作用で生じる鉱物で、日本では火山性の熱水脈や噴気のある地域で多く見られ、高旗山も古くから知られる産地である。緻密な塊であることも多いが、結晶が成長すると葉片状や板状となる。
プロトフェロ直閃石 / Proto-ferro-anthophyllite
広島県江田島市大柿町(能三島)
プロトフェロ直閃石 / Proto-ferro-anthophyllite
□Fe2+2Fe2+5Si8O22(OH)2
プロトフェロ直閃石は日本産新鉱物として知られ、フェロ直閃石だがプロト型というちょっと特別な結晶構造を有することが学名に組み込まれている。岐阜県蛭川のペグマタイトから発見され、塊状の鉄かんらん石に伴われるという産状を示す。このようなペグマタイトは普通にあり、蛭川だけが特別な環境とは思えないがほかの産地をあまり聞かない。その原因はおそらく同定方法のミスマッチであろう。実は、粉末X線回折を取ろうとグリグリと粉末にするとプロトフェロ直閃石は単斜晶系のグリュネル閃石(Grunerite)へ相転移してしまう。角閃石の場合、プロト型かほかの構造かは電子線回折で判断するのがもっとも確実な手段となる。調べてみるとほかの産地であっても鉄かんらん石に伴われる角閃石はかなりの確率でむしろプロト型であった。広島県能三島からのプロトフェロ直閃石は本年度の鉱物学会で大西君から報告される。
ストークス石 / Stokesite
ストークス石 / Stokesite
CaSnSi3O9・2H2O
岐阜県中津川市蛭川田原
ストークス石はケンブリッジ大学の数学者・物理学者のSir George Gabriel Stokes(1819-1903)にちなんで命名された鉱物で、「セレナイト(Selenite)」のラベルで個人のコレクションに収集されていたものが、後に新種と判明したという経緯がある。セレナイトとは特に透明度の高い石膏(Gypsum)の結晶のことであり、菱形の面が出ていると確かによく似ている。しかし、ストークス石は錫(Sn)を主成分とするケイ酸塩鉱物で硬く、爪でも傷がつく石膏とは触れば区別できる。日本では蛭川から産出した記録があり、長石の結晶の上に透明度の高い菱形の結晶が見えたらそれがストークス石である。結晶の透明度が高すぎてかつ下地が白いために写真に写すことが難しく、やや汚れている箇所を撮るしかなかった。
ウチュクチャクア鉱 / Uchucchacuaite
ウチュクチャクア鉱 / Uchucchacuaite
AgMnPb3Sb5S12
北海道古平町稲倉石鉱山
ウチュクチャクア鉱はペルーで発見された鉱物で、模式地のUchucchacua銀鉱山にちなんで命名された。世界的にも珍しい鉱物だが日本では稲倉石鉱山から産出した記録がある。見た目は輝安鉱や太い毛鉱のような印象だが、触ってみるとウチュクチャクア鉱にはへき開があまり感じられない。いわゆる中瀬鉱の近縁種にあたる。分析してみるとベナビス鉱(Benavidesite: Pb4MnSb6S14)が少量の銀(Ag)を含むケースとの線引きがかなり難しく、少量しかないので粉末X線回折にもトライできなかったため、写真の標本は透過型電子顕微鏡の電子線回折で同定した。
鉄明礬 / Halotrichite
鉄明礬 / Halotrichite
FeAl2(SO4)4·22H2O
福島県福島市高湯温泉
鉄明礬の学名は塩と毛を意味するギリシア語に基づいており、塩については沈殿物であることを、毛については見た目を現している。和名については苦土明礬(Pickeringite: MgAl2(SO4)4·22H2O)の鉄置換体であることから。日本では鉄明礬の産出はおおむね温泉地にあり、いわゆる「湯の花」として得られる。それ以外の産地は公にはあまり聞かないが、廃鉱山で貯鉱の下を掘ったら出てきたという例はなくはない程度にはあって、愛媛県大久喜鉱山では屋根の付いた貯鉱の下で見かけたことがある。しかし潮解性があるので出くわすにはタイミングやいくつかの条件が必要となる。様々な利用法があり、江戸時代には幕府の専売品として独占的な取引が行われていたと伝わる。
ノリッシュ雲母 / Norrishite
岩手県洋野町舟子沢鉱山
ノリッシュ雲母 / Norrishite
KLiMn3+2(Si4O10)O2
ノリッシュ雲母はオーストラリアの土壌科学者Keith Norrish(1924-2017)にちなんで名づけられた雲母族の鉱物で、Hoskins鉱山(オーストラリア)からまず見出された。その後、Wessels鉱山(南アフリカ)やCerchiara鉱山(イタリア)から産出が報告され、日本でも愛媛県古宮鉱山で微小なものが見つかっている。ここに挙げた鉱山は(アルミノ)杉石が産出することでも知られる。そして、昨年にアルミノ杉石が報告された舟子沢鉱山にもノリッシュ雲母はやっぱりちゃんといた。ノリッシュ雲母は、多くの種類がある雲母族の中にあって3種しかない「酸化雲母」のひとつで、リチウム(Li)と三価マンガン(Mn3+)を主成分にもち、アルミニウム(Al)を必須としない。その特徴だけでもかなり珍しくあたりまえに稀少だった。ところが、舟子沢鉱山や近隣の小玉川鉱山では岩石の主要構成鉱物として普遍的に分布している。過去の論文や地質調査でもただの黒雲母として記述され、ベラベラと無数にあるがゆえに誰にも見向きもされなかったそれこそが、実は超稀産のはずのノリッシュ雲母である。詳細は今年の鉱物科学会で報告する予定。
イットリウムカイシク石 / Caysichite-(Y)
イットリウムカイシク石 / Caysichite-(Y)
(Ca,Yb,Er)4Y4(Si8O20)(CO3)6(OH)·7H2O
福島県川俣町飯坂水晶山
イットリウムカイシク石は化学組成にちなんで名づけられた鉱物で、カルシウム(Ca)、イットリウム(Y)、シリコン(Si)、炭素(C)、水素(H)をならべてiteで閉めたという名称になっている。後年になって主成分の希土類元素を後ろにくっつけるルールが定まり、現在はイットリウムカイシク石(Caysichite-(Y))が正式名称となっている。日本ではいまのところ福島県水晶山が唯一の産地となっており、写真の標本については、ザラメ状石英と黄鉄鉱集合の裂傷中に伸びた薄板状結晶が束になって生じていた。ほかにもいくつか違う母岩や産状があるようだが、いずれにせよ裂傷やら空隙に生じる二次鉱物であり、近くには方解石や菱鉄鉱がしばしば伴われる。
トール石 / Thorite
トール石 / Thorite
Th(SiO4)
福島県川俣町飯坂水晶山
トール石はトリウム(Th)を主成分とすることから命名された鉱物で、主にペグマタイトで産出するジルコン族の鉱物である。ジルコンがペグマタイトでは普通に見られる鉱物であることに比べると、トール石は珍しいほうで、特に日本ではその姿はあまり見かけることがない。実はトール石は変質にかなり弱く、しばしば完全にトロゴム石に変化してしまっている。そして、かつて聞いたことがあるのは、トロゴム石の中にある緑褐色の不定形粒という産状であり、水晶山のトール石はそれを体現する標本となっていた。
ポッツ石 / Pottsite
ポッツ石 / Pottsite
(Pb3Bi)Bi(VO4)4·H2O
福島県川俣町飯坂水晶山
ポッツ石はネバダ州(アメリカ)のLinka鉱山から見出された鉱物で、鉱山が位置するPottsという地域にちなんで名づけられた。ポッツ石は鉛(Pb)とビスマス(Bi)の含水バナジン酸塩鉱物なので組成だけ見るとやや稀産かくらいに思ったが、調べてみると原産地以外ではむしろ超稀産で、世界的にもほとんど産出が無いという鉱物であった。それがどういうわけか何故か福島県水晶山から見つかった。当地は典型的なペグマタイト鉱床であり、ポッツ石は長石の裂傷に生じていた。たまに見かける金属硫化物が風化して生じたと思われるが、それにしてもこんな稀産鉱物に全く予想外の場で出会うとは数奇な巡り合わせである。写真中、オレンジ色の小粒がポッツ石であり、周囲の黄色はウラノフェンかと思いきや緑鉛鉱であった。
自然パラジウム / Palladium
自然パラジウム / Palladium
Pd
北海道小平町海岸
白金族の元素鉱物の中で自然パラジウムの発見は自然プラチナに次いで古く、1803年にブラジルの砂白金から見出された。そして、その二か月前に発見されていた小惑星パラス(Pallas 2)にちなんで名づけられている。なおパラスという名称はギリシア神話に登場する女神・アテーナーの別名のことで、友人であるパラスとの闘技中に誤って殺害してしまったことを悔いて、パラス・アテーナーと名乗ったことに由来するらしい。ともかく自然パラジウムは鉱石に含まれる産状で見つかることがあるものの、砂白金として見られることは稀。日本でも産出はこれまでなかったが、いわゆる浜白金を調べる中で単独の粒子として見つかった。自然プラチナやイソフェロプラチナ鉱とは見た目で区別できない。砂白金・浜白金はこれまで何千粒と調べてきており、自然パラジウムはその中でたった一粒だけしか見つかっていないので、日本ではとてつもなく稀少な存在なのだろう。いまのところ日本では白金族の元素鉱物について自然ロジウムだけまだ見つかっていない。
クーパー鉱 / Cooperite
クーパー鉱 / Cooperite
PtS
熊本県美里町払川
一般に白金族元素は反応性に乏しく、白金族元素を主成分とする白金族鉱物もまた反応性に乏しく変質作用にも耐えると思われがちだが、案外そんなこともない。実のところ安定なのは金属(合金)鉱物と一部の硫化鉱物(ラウラ鉱&エルリッチマン鉱)くらいで、160種ほどもある白金族鉱物のほとんどはおどろくほど変質に弱い。マントル中で生成されたとしても地表にもたらされる過程や風化で多くが消滅し、マイクロメートルサイズの微小粒が包有物としてとらわれた場合のみ生き残る。そのため、白金族鉱物のほとんどは目に見えないサイズでかつ鉱石や砂白金の中にひっそりと存在するのみであるが、スペリー鉱とクーパー鉱(ブラッグ鉱)は例外的で、ごくまれに砂白金として産出することがある。熊本県払川からも砂白金として得られた。クーパー鉱はプラチナ(Pt)と硫黄(S)が1:1となる鉱物で、Richard A. Cooper (1890–1972)が最初に南アフリカのRustenburgからその産出を報告し、その功績によって発見者の名称が授けられた。なお、クーパー鉱とブラッグ鉱はどちらもPtSの化学組成とされてきたが、ブラッグ鉱にはパラジウム(Pd)が必須ということが判明し、2022年にブラッグ鉱の化学組成はPdPt3S4へと改訂された。
輝プラチナ鉱 / Platarsite
輝プラチナ鉱 / Platarsite
PtAsS
北海道幌加内町雨竜川
白金族鉱物には白金族元素、砒素、硫黄が1:1:1で構成される一連の鉱物群があり、それらはすべて化学組成にちなんだ学名になっている。ここに挙げる輝プラチナ鉱も同様で、Platinum+Arsenic+Sulphurが由来。直訳すれば硫砒プラチナ鉱であろうが、イリジウム(Ir)置換体が輝イリジウム鉱と呼ばれていることから、ここでは輝プラチナ鉱と呼ぶことにする。ただしその名の通り輝いているわけではない。見た目は写真の矢印先にあるように黒くざらざらしているだけで、それ以外のキラキラしている箇所はラウラ鉱。そもそも輝イリジウム鉱も輝コバルト鉱族であるために、名が体を表していないながらも先例に引きずられた和名であろう。世界的に産地は少ないわけではないが多産することもなく、日本では北海道で砂白金粒子の表面や内部にごく少量が認められるのみである。
なお、輝プラチナ鉱は2023年4月に抹消となった。記載に用いられた試料のデータを解析すると、それは輝コバルト鉱型構造ではなく、黄鉄鉱型構造として解釈される内容であった。つまり、輝プラチナ鉱に含まれるヒ素(As)と硫黄(S)は同じ席にあり、わずかにAsがSより多かっただけで、結果的にこれは硫黄に富むスペリー鉱(Sperrylite: PtAs2)だと結論付けられた。合成実験においても輝プラチナ鉱の組成PtAsSは黄鉄鉱型構造を示すことも、その結論を裏付けている。
二アー石 / Niahite
二アー石 / Niahite
(NH4)Mn2+(PO4)·H2O
愛知県設楽町田口鉱山
ニアー石はアンモニウム塩(NH4)とマンガン(Mn2+)からなる含水リン酸塩鉱物で、マレーシアのニアー洞窟で発見されたことから命名された。そこではグアノの分解によって生じたと考えられているが、アンモニウム塩もマンガンもどちらも珍しい成分ではないものの、同時にとなるとさすがに環境が限られる。そのため世界的に見てニアー石の産地はかなり少ない。その少ない中に愛知県田口鉱山が含まれており、ここではニアー石は黒褐色の二酸化マンガン鉱に練りこまれた白色の土状塊として産出する。
チリ硝石 / Nitratine
チリ硝石 / Nitratine
Na(NO3)
栃木県宇都宮市大谷町
栃木県宇都宮市北部には軽石凝灰岩が分布しており、古くから建材として採掘されてきた。採掘された土地ごとに呼び方は異なるものの、なかでも大谷石(おおやいし)は良く知られた名であろう。このような凝灰岩でできた洞窟の壁面には、春先になるとわっと成長して梅雨頃にすっと消え去るという旬のある鉱物がみられ、現地の人々はそれを「いわしお」と呼んでいた。そのいわしおの構成鉱物のひとつがチリ硝石であり、見た目は白色の粉末である。南米のチリで多く産出した硝酸塩鉱物であることからチリ硝石という和名となっているが、学名は硝酸塩という意味だけで構成される。硝酸塩鉱物は炭酸塩鉱物のカテゴリーに含まれる。
ツメブ石 / Tsumebite
ツメブ石 / Tsumebite
Pb2Cu(PO4)(SO4)(OH)
秋田県大仙市亀山盛鉱山
ツメブ石はナミビアにあるツメブ鉱山から見出された鉱物で、その名が示すように模式地にちなんで名づけられた。緑色でつやのある板状結晶が理想形で、それが球状に集合することが多い。その見た目からは想像しづらいが実は東京石と同族であり、ブラッケブッシュ石超族に分類される。日本では秋田県亀山盛鉱山から報告があり、黄緑色で六角柱状の緑鉛鉱の上に青緑色の球状集合体として現れた。
プロンビエル石 / Plombièrite
プロンビエル石 / Plombièrite
Ca4Si6O16(OH)2(H2O)2·(Ca·5H2O)
神奈川県山北町箒沢ザレノ沢
プロンビエル石は1858年に見いだされた鉱物だが、化学組成と結晶構造の確定はそこから約150年後の2014年であった。いまではトベルモリ石超族の一員として完全な独立種としての立場が確定しているが、かつては「14Å(オングストローム)トベルモリ石」と呼ばれたように、トベルモリ石の変種として扱われることもあった。その名が示すように14Åの回折が顕著ではあるが、その回折を持たないポリタイプがあったりもする。日本産の、特にザレノ沢からのプロンビエル石は世界的にもよく知られており、白色でガラス光沢を示すペラペラの葉片状結晶がスカルン中に産出する。学名は模式地であるPlombières-les-Bains(フランス)にちなみ、当地はプロンビエル石が発見された当時から温泉地として知られている。
鉛重石 / Stolzite
鉛重石 / Stolzite
PbWO4
岡山県鏡野町銅珍鉱山
鉛重石はモリブデン鉛鉱のタングステン(W)置換体にあたり、和名では化学組成にちなんだ名称が当てられているが、学名は医師で鉱物コレクターであったJohann Anton Stolz (1778-1855)にちなんで名づけられた。ちなみにモリブデン鉛鉱の学名も人名に由来する。鉛重石は様々な形態や色を持って産出することが知られており、どれが典型ともいいがたいが亜ダイヤモンド光沢を示すため結晶は強く輝く特徴がある。
ペリクレース / Periclase
ペリクレース / Periclase
MgO
岐阜県本巣市能郷谷
ペリクレースはマグネシウム(Mg)の酸化鉱物で、周囲および割れるという意味のギリシャ語が学名の由来。日本では岐阜県能郷谷においてスカルン中に生じた例が知られている。写真中の茶色粒が該当するが、今はそのほとんどがブルース石に変質しているため全体としてはペリクレースの仮晶。それでも2-300粒に一つくらいは中心部に数十μm程度のペリクレースが生き残っている。手に入る標本としてはあまり見かけることのない鉱物だが、地球規模で見ると存在量はとてつもなく多い。地球の体積の7割程度を占める下部マントルにあってその中の3割ほどがペリクレースで構成されている。
カーン石 / Cahnite
カーン石 / Cahnite
Ca2[B(OH)4](AsO4)
岡山県布賀鉱山4番坑天井露頭
カーン石は形態結晶学者、鉱物コレクター、鉱物ディーラーであったLazard Cahn (1865-1940)にちなんで命名された鉱物で、カーン石を最初に見出した人物だと伝わる。世界的に稀な鉱物だが、出現する際の姿かたちはおおむね共通。無色透明な四面体結晶が典型的で、それが連結した集合体となることが多い。日本では布賀鉱山でのみ見つかっており、やはり四面体結晶で産出するものの、小さいので方解石の結晶とややまぎらわしい。結晶構造はB(OH)4の四面体が組み込まれており、分類としては硼酸塩鉱物になる。
フォスフォシデライト / Phosphosiderite
京都府和束町石寺
フォスフォシデライト / Phosphosiderite
Fe3+(PO4)·2H2O
フォスフォシデライトはストレング石の同質異像にあたる鉱物で、学名は化学組成に基づいている。和名では結晶形も考慮した単斜燐鉄鉱と呼ばれることもあるが、燐鉄鉱と呼ばれることのあるストレング石との紛らわしさを避けるために、学名のカタカナ読みであるフォスフォシデライトと呼ぶほうがわかりやすい。フォスフォシデライトの標本は板状の単結晶もしくは球形集合のものが良く知られており、色は無色~赤から紫まで幅が広い。京都府和束町や群馬県桐生市において石英脈中の空隙にややピンク色の球状集合が見られたことがある。一方で内部には未同定の鉱物が含まれることもあり、均一な集合というわけではない様子。
ストレング石 / Strengite
ストレング石 / Strengite
Fe3+(PO4)·2H2O
愛知県設楽町段戸鉱山
ストレング石はドイツの鉱物学者であるJohann August Streng (1830-1897)にちなんで名づけられた。その化学組成から和名では燐鉄鉱と呼ばれたこともあるが、同質異像にフォスフォシデライト(Phosohosiderite)があって直訳ではむしろこっちが燐鉄鉱になってしまうため、ストレング石と呼ぶ方が素直であろう。世界的に見れば稀な鉱物ではなく、日本でも褐鉄鉱鉱床からの産出が知られていた。一方でそれ以外の産状はあまり知られておらず、近年に変成マンガン鉱床である段戸鉱山から報告された際はなぜ?というちょっとした驚きがあったように思う。当地ではピンク~紫色の板状結晶が放射状に集合して産出する。
アンドリーズロンバード鉱 / Andrieslombaardite
アンドリーズロンバード鉱 / Andrieslombaardite
RhSbS
熊本県美里町払川
2023年2月6日に公開されたCNMNCニュースレターには蝦夷地鉱や北海道石などの報告と共に、個人的にはちょっと悔しい報告が含まれていた。それがアンドリーズロンバード鉱であり、熊本県払川の砂白金鉱床から産出を確認していたものの、新鉱物への競争で負けた。アンドリーズロンバード鉱の模式地は東部ブッシュフェルド岩体に位置するOnverwachtプラチナパイプであり、学名はブッシュフェルド岩体の発見のきっかけをもたらしたAndries Lombaardにちなむ。当地の農夫であるLombaardは農場の小川から採集された砂白金をHans Merenskyへ送り、それが世界最大の白金族鉱床群を持つブッシュフェルド岩体の発見へつながった。模式地ではおそらく鉱石中の粒子として産出すると思われるが、熊本県払川ではアンドリーズロンバード鉱は皆川鉱や三千年鉱と同じく砂白金粒子のコブとして産出した。ただ数が非常に少ない。
幌満ルビー
幌満ルビー
北海道様似町ポンサヌシベツ川
2000年に出版された書籍である「北海道の石」。それは名著とも言えないが、他の図鑑では現われないこの本でのみ見られた石がいくつかあって、その一つが幌満のルビーだった。産出自体は少し前に論文で報告されていたが、まさかここまで日本離れした代物とは思わず、一目見て感動したことをいまでも覚えている。論文を読んで産地を確認し、北海道にいた時期には幾度か探しに行ったのだがついに自採は叶わなかった。しかし、今年になって当時の標本を恵与いただき感激いっぱいである。論文にあるように斑レイ岩が上昇する過程ではルビーが不安定化したようで、周囲は反応縁として少し鉄(Fe2+)を含む濃緑色のスピネルで取り囲まれている。さらにその周囲は灰長石と透輝石であった。ルビーはわずかなクロム(Cr)を含んでおり、長波長の紫外線で紅色の蛍光を呈する。幌満かんらん岩体に伴われる斑レイ岩の大トロともいえるこの標本はいまだ露頭が見つかっておらず、現物がかぎられるため大切にしていきたい。
ブラッシュ石 / Brushite
熊本県球磨村大瀬
ブラッシュ石 / Brushite
Ca(PO3OH)·2H2O
ブラッシュ石はGeorge Jarvis Brush (1831-1912)にちなんで命名されたリン酸亜鉛鉱物で、主に生物の住む洞窟で生成する。そして、グアノの変質によって生じる最もふつうの洞窟鉱物でもある。海外をはじめ日本でも産地は多い。また、骨の分解物として生成することもある。多くの場合で乳白色の土状であり、触れると粉が手につき、そして軽い。ブラッシュ石の結晶は日本では福島県から産出した。植物片や動物の骨片と共に、土坑中から産出した。その外観は石膏とよく似ており、海外の標本でもやはりブラッシュ石は石膏と見分けることが難しい。それもそのはずで、ブラッシュ石は石膏と共通の結晶構造であり、組成的には石膏の含水燐酸基置換体に該当する。
グラウベル石 / Glauberite
グラウベル石 / Glauberite
Na2Ca(SO4)2
和歌山県田辺市本宮町湯の峰温泉
グラウベル石はドイツの錬金術師Johann Rudolf Glauber(1604-1668)にちなむ鉱物で、彼が発見したGlauber塩(Na2SO4·10H2O)と組成的に似ていることが由来とされる。グラウベル石は水溶性であり、塩湖などが乾燥してできた蒸発岩で形成されることが多いものの、熱水性堆積物や噴気孔の昇華物などでも形成される。福島県小高町では地下水の昇華によって薬師寺堂磨崖佛の表面に生じた。そして写真の標本は湯の峰温泉の沈殿物であったもので、それが乾燥した状態で届いた。温泉地ではよく見かけるただの珪華だと思っていたが触ってみると珪華にしてはもろい。調べてみたらグラウベル石だった。白い粉など興味を持って調べることはなかなかないため、日本でどのくらい広く産出があるのかよくわかっていない。
鉛鉄明礬石 / Plumbojarosite
鉛鉄明礬石 / Plumbojarosite
Pb0.5Fe3+3(SO4)2(OH)6
新潟県阿賀町三川鉱山
カリウム(K)を主成分に持つ鉄明礬石からみて、そのカリウムを半量の鉛(Pb)で置き換えた鉱物が鉛鉄明礬石となる。学名もまた鉛を主成分とする鉄明礬石の意で現されている。金褐色(Golden brown)と称される独特の色が特徴とされ、周囲に散らばる黄色の他の明礬石超族鉱物(銅ビーバー石や尾去沢石)と明らかに異なる。粉状から土状で産出することが多い。組成からすると普通種のように考えられるが、貧弱な産状のために産出したとしても見落とされているか気にも留められないようで、日本では産出の記録が思いのほか少ない。
バルトフォンティン石 / Bultfonteinite
バルトフォンティン石 / Bultfonteinite
Ca2SiO3(OH)F·H2O
岡山県高梁市備中町布賀鉱山4番坑
バルトフォンティン石は布賀鉱山においては産出頻度のわりには主役になることの少ない鉱物だと思う。例えば新鉱物である沼野石の下地はふわふわした毛になっており、それがバルトフォンティン石であるものの、その標本には沼野石のラベルしかつかないだろう。バルトフォンティン石というラベルを付けるにはどういう標本が良いか、というところで写真の標本になる。全体がバルトフォンティン石で構成されており、微細な針状結晶が放射状に密に集まっている。個々の結晶の特徴は感じられないが標本として特徴的なツラと言える。学名は模式地であるBultfontein鉱山(南アフリカ)にちなむ。
クスピディン / Cuspidine
岡山県高梁市備中町布賀西露頭
クスピディン / Cuspidine
Ca4(Si2O7)(F,OH)2
クスピディンの産地は日本ではいくつか知られているが、まっとうに記載されたのはこれまで岡山県布賀の西露頭だけだと思われる。そこではクスピディンはスパー石やティレー石を切るガラス光沢のある白色の脈もしくは斑点として産出する。ひたすら地味だが、産地・産状を合わせて考えればこれならクスピディンと鑑定できよう。一方、布賀鉱山においても産出があったようで、それはひたすら白い繊維状の結晶の集合体であった。これは目の前に出されても言い当てることはムリだろう。結晶は双晶によって槍の穂先形になることが多いようで、槍を意味するギリシア語が学名の由来となっている。
クルチャトフ石 / Kurchatovite
クルチャトフ石 / Kurchatovite
CaMgB2O5
岡山県高梁市備中町布賀鉱山4番坑
クルチャトフ石はソ連の原子爆弾プロジェクトの責任者として著名なIgor Vasil’evich Kurchatov (1903-1960)にちなんで命名された鉱物で、バイカル湖東部に位置するホウ素(B)を含む石灰岩スカルン鉱床から見出された。岡山県布賀鉱山を含めて世界で3カ所しか産地がなく、数少ない産地の中にあって産出は極めて稀という出会うことが至難な鉱物。布賀鉱山ではクルチャトフ石は無色透明な板状結晶として産出する。それだけだと母岩(島崎石)と同化して姿が全く見えないはずであったが、なぜか黒色の微細鉱物をまとっており、かえって存在を認識することができるのでありがたい。布賀鉱山ではクルチャトフ石は二価鉄(Fe2+)置換体が存在しうることが報告されている。
コルヌビア石 / Cornubite
コルヌビア石 / Cornubite
Cu5(AsO4)2(OH)4
奈良県御所市三盛鉱山
コルヌビア石は模式地が位置するCornwall(イギリス)の中世ラテン語であるCornubaにちなんで命名された鉱物で、同質異像にコーンウォール石がある。いずれも擬孔雀石の関連鉱物であり、透き通ったアップルグリーンの球が最もそれらしい標本。しかし、現実的には皮膜状であることも多く、手持ちの標本もその例に漏れない。粉末にした際の淡色化が顕著だと言われているので量さえあれば鑑定の目安になるだろうが、量に乏しい場合は肉眼鑑定でどうこうできない困りもの
銅アルミナ石 / Chalcoalumite
銅アルミナ石 / Chalcoalumite
CuAl4(SO4)(OH)12·3H2O
新潟県阿賀町三川鉱山
銅アルミナ石はその名が示すように銅(Cu)とアルミニウム(Al)を主成分とする鉱物で、学名もまた銅とアルミニウムに由来する。水の多い硫酸塩の二次鉱物で、土状の被膜で産出することが多いが、板状結晶が放射状の集合をつくることもある。色は無色から青色まであり、結晶や被膜の厚みが効いているのかもしれない。三川鉱山では亜鉛(Zn)置換体のキルギスタン石も産出する。外観だけではどちらとも区別がつかない。また、クリソコラやアロフェンともまた区別が難しい。海外では産地が多いが日本ではなぜか産地がすくないのは、それらと誤認されているからかもしれない。
鉄スピネル / Hercynite
埼玉県秩父市秩父鉱山石灰沢
鉄スピネル / Hercynite
Fe2+Al2O4
鉄スピネルもまた和名が示すようにスピネルの鉄(Fe2+)置換体のことであるが、学名の由来は組成ではなく地名。発見地であるヘルシンキの森(Hercynian Forest)にちなんで名づけられている。鉄スピネルも様々な環境で出現し、その代表となるとどれを選ぶか悩ましい。よく知られているモノとしては石灰沢のいわゆる青いスピネルであろう。亜鉛(Zn)をやや含むもののこれは鉄スピネルである。ただし鉄スピネルの部分は見えている表層から下のせいぜい数十μm厚だけで、中身はスピネルのために完全無欠の標本とはいいがたい。完全な鉄スピネルは肉眼的には真っ黒となる。叶神には中温中圧の変成岩が分布しており、風化帯に黒い棒錘状集合が落ちていることがある。これは鉄スピネルの集合体であり、割ってみると三角形の面が見えることがある。鉄スピネルはエメリーの主要構成鉱物でもある。
亜鉛スピネル / Gahnite
亜鉛スピネル / Gahnite
ZnAl2O4
広島県尾道市生口島瀬戸田町林
亜鉛スピネルはその和名が示すようにスピネルの亜鉛(Zn)置換体のことであるが、学名はスウェーデンの化学者・鉱物学者であるJohan Gottlieb Gahn (1745-1818)にちなんで命名されている。亜鉛スピネルは産状が広く、ペグマタイトをはじめ、中~高圧変成岩、マンガン鉱床、酸化帯、スカルンなどいろいろと顔を出す。さらには別種と累帯構造をなすことも多い。そのため代表となる亜鉛スピネルをどうしようかと思っていたが、ここでは酸化帯からの標本を紹介する。生口島では酸化鉄にまみれた石英質の岩石の裂傷に鈍い緑色の八面体結晶として産出する。
イットリウムカンポーグ石 / Kamphaugite-(Y)
イットリウムカンポーグ石 / Kamphaugite-(Y)
CaY(CO3)2(OH)·H2O
京都府亀岡市畑野町広野
イットリウムカンポーグ石はカルシウム(Ca)とイットリウム(Y)を主成分とする含水炭酸塩鉱物で、花崗岩類中のイットリウム含有鉱物が低温熱水変質することで生じる。多くの場合で乳白色を呈する微細な球で、岩石の空隙や亀裂中に点在する。結晶が大きくなると板状を示すことがある。こうした産状と姿かたちはイットリウムテンゲル石(Tengerite-(Y): Y2(CO3)3·2-3H2O)にも共通する。模式地においてイットリウムカンポーグ石は当初イットリウムテンゲル石として記載されていたが、後の調査で新種であることが判明したという経緯がある。学名はノルウェイの鉱物収集家Erling Kamphaug (1931-2000)ちになむ。新種記載のための標本を提供したと伝わる。
ラムスベック石 / Ramsbeckite
ラムスベック石 / Ramsbeckite
Cu15(SO4)4(OH)22·6H2O
大阪府箕面市温泉町平尾旧坑
ラムスベック石は銅を含む硫酸塩の二次鉱物であるが、酸化帯よりも鉱山内部のような湿潤環境で生成する。産地はヨーロッパに極端に偏り、日本では近畿地方で3カ所知られている。平尾旧坑では1941年に採集された標本が2000年ごろになってラムスベック石だと同定された経緯がある。平尾旧坑のラムスベック石は菱餅型をした青緑の結晶が典型で、シューレンベルグ石などを周囲に伴う。学名は模式地近郊にあるRamsbec(ドイツ)にちなんで命名された。当地は記載論文に先立ってラムスベック石の産出が最初に記録されたと伝わる。
ボーダノウィッチ鉱 / Bohdanowiczite
ボーダノウィッチ鉱 / Bohdanowiczite
AgBiSe2
静岡県下田市河津鉱山
ボーダノウィッチ鉱はポーランドを初産とする鉱物で、同国出身の地質学者であるKarol Bohdanowicz (1864-1947)にちなんで命名された。世界的に産地は少なくないが、鉱物標本としてこれこそがボーダノウィッチ鉱という典型例がない。それはつまり肉眼鑑定が非常に難しいことを意味している。日本では河津鉱山から産出が知られているが、世界の事情と同様に標本としてのボーダノウィッチ鉱は知られていないと思われる。そして、写真の標本こそがボーダノウィッチ鉱である。板状に分布する姿は一見して河津鉱の結晶かと思ってしまうが、よく見ると微細な結晶の集合体となっている。そして微細結晶は半分程度が河津鉱で、残りの半分がボーダノウィッチ鉱であった。河津鉱の仮晶なのかもしれない。
車石(菫青石)
車石(菫青石)
山梨県道志村
菫青石は室温では直方晶系を採る鉱物であるが、高温では六方晶系を採るため、直方晶系とは思えない姿かたちをしていることがある。高温環境下で生まれて三連双晶によって六角柱状となった菫青石が母岩から剥落したものを、産地のある道志村の人々は車石と呼んで親しんでいた。明治期になると車石は東京の標本商から出回るようになったが、その出所はいつしか忘れ去られ(もしくは秘匿されており)、昭和期には車石そのものが幻の鉱物と言われるようにすらなっている。そして、平成の終わりになって車石の露頭が愛好家によってようやく突き止められた。車石は今でこそ菫青石であるが、それが風化すると白雲母と化し、その断面は桜石と呼ばれる。
マックアルパイン石 / Mcalpineite
マックアルパイン石 / Mcalpineite
Cu3Te6+O6
和歌山県岩出市山崎
マックアルパイン石は模式地(McAlpine鉱山:アメリカ)にちなんで名づけられた鉱物で、テルル酸塩の二次鉱物として記載された。マックアルパイン石はテルル(Te)の供給があってこそ生成する鉱物であるため日本で出るなら河津鉱山や手稲鉱山が想定されたものの、初報告は三波川帯に位置する和歌山県山崎からであった。そこから産出する輝銅鉱類や斑銅鉱は内部に微細なテルル鉱物を含んでおり、風化作用によって鉱石の裂傷に緑色皮膜状のマックアルパイン石や青色の手稲石が生じていた。テルルの二次鉱物は観察されていないものの、テルル鉱物を含む輝銅鉱類は三波川帯の西側延長にあたる佐田岬半島からも見いだされている。また、マックアルパイン石の化学組成は2013年に現在のように改訂されている。構造解析の結果、ビクスビ石(Bixbyite: Mn2O3 = Mn3(MnO6).)と同構造であることが明らかとなったためである。
ネルトネル鉱 / Neltnerite
岩手県軽米町小玉川鉱山
ネルトネル鉱 / Neltnerite
CaMn3+6O8(SiO4)
一見してありふれた普通種にしか見えない標本が調べてみると実は希少種だったということがある。写真の標本はだれがどうみてもブラウン鉱であり、普段はこういったものはわざわざ調査対象にならないが、アルミノ杉石やフェリリーキ閃石のついでで調べてみたらネルトネル鉱であった。正確にはネルトネル鉱も含まれるという表現になるだろう。ネルトネル鉱はブラウン鉱のカルシウム(Ca)置換体にあたる。舟子沢鉱山から小玉川鉱山あたりのブラウン鉱はカルシウムに富んでおり、標本によっては半分以上が確実にネルトネル鉱の領域に入る。ただ、見た目はブラウン鉱の標本でしかなく、含まれるネルトネル鉱の多寡は見ただけではわからない。ネルトネル鉱はモロッコからの新鉱物で、模式地を研究したLouis Neltner (1903-0985)にちなんで名づけられた。
クレドネル鉱 / Crednerite
クレドネル鉱 / Crednerite
CuMnO2
愛媛県伊方町大久
クレドネル鉱はドイツで最初に発見された鉱物で、発見者と伝わるKarl Friedrich Heinrich Credner (1809-1876)にちなんで命名された。銅(Cu)とマンガン(Mn)からなる酸化物という単純な化学組成であり、それだけ見ると日本のマンガン鉱床ならたいてい出そうに感じられるが、実際はその逆でめったに産出しない。クレドネル鉱は黒色の箔状結晶として鉱石の裂傷などに生じ、箔面が非常に強く輝く。地味な割には見つけてくれという主張が強いために出てくるとすぐわかる。パイロファン石とやや紛らわしいことがあるが、色味が判断のポイントなるだろう。
マラヤ石 / Malayaite
マラヤ石 / Malayaite
CaSnO(SiO4)
山口県岩国市喜和田鉱山
マラヤ石はチタン石の錫(Sn)置換体となる鉱物で、スカルン鉱床で産出することがある。日本でもいくつか産地が知られるものの、その姿は無色の微細粒なために実体顕微鏡を用いたとしても肉眼で捉えることは非常に難しい。一方、短波長紫外線によって黄緑色に強く輝く特徴があり、マラヤ石が含まれていそうな候補を照らしていくことで存在を認識することができる。喜和田鉱山では珪灰石のなかに含まれていた。マレーシアから最初に報告された鉱物で、学名は模式地にちなむ。
ロウ石 / Roweite
ロウ石 / Roweite
Ca2Mn2+2B4O7(OH)6
岡山県高梁市備中町布賀鉱山4番坑
ロウ石はフランクリン鉱山(アメリカ)で最初に見つかった鉱物で、鉱山長であったGeorge Rowe (1868-1947)にちなんで命名された。産地は世界中で数か所でのみであるものの、そのなかに岡山県布賀鉱山が含まれている。ロウ石は褐色の板状結晶となることが多いが、未詳鉱物を伴って黒く染まることもあって肉眼での鑑定はつらい。母岩についても論文ではウラル硼石の例が紹介されているが、写真の標本だとビムス石であった。しかしウラル硼石かビムス石かというのも見た目での区別が難しいので探すための目安がつかみづらい。ロウ石は収集家泣かせの鉱物であろう。
砒ゴールドフィールド鉱 / Arsenogoldfieldite
砒ゴールドフィールド鉱 / Arsenogoldfieldite
Cu6Cu6(As2Te2)S13
静岡県下田市河津鉱山
四面銅鉱超族の命名規約が整備されたことによってゴールドフィールド鉱の名をもつ鉱物は3つに分かれた。それぞれゴールドフィールド鉱(Goldfieldite: (Cu4□2)Cu6Te4S13)、安ゴールドフィールド鉱(Stibiogoldfieldite: Cu6Cu6(Sb2Te2)S13)、そしてここに挙げた砒ゴールドフィールド鉱になる。特に砒ゴールドフィールド鉱について命名規約が定まった時点ではまだ未承認種であり、河津鉱山を模式地として日本産の新鉱物とすべく科博で研究が続けられていた。しかし、アメリカ産のものがごく最近に新鉱物として承認されてしまった。河津鉱山産の砒ゴールドフィールド鉱はかつて「ゴールドフィールド鉱」として出回っていた標本そのものであるため、ラベルを書き換えればいいだろう。鹿児島県入来鉱山もゴールドフィールド鉱の産地として知られるが、そちらは安ゴールドフィールド鉱のラベルが適当である。なお、今の基準のゴールドフィールド鉱は日本ではいまだ産出が確認されていない。根源名は模式地が位置していた新興都市(Goldfield)の名称に由来し、学名は化学組成が反映されている。
タタリノフ石 / Tatarinovite
タタリノフ石 / Tatarinovite
Ca3Al(SO4)[B(OH)4](OH)6·12H2O
福島県郡山市多田野大沢山
タタリノフ石はロシア人地質学者のPavel Mikhailovich Tatarinov (1895-1976)にちなんで命名されたエットリング石族の鉱物で、今吉石の硫酸基置換体に相当する。細かいところは絹糸光沢で、ある程度大きなへき開片だとガラス光沢となり、見た目の印象よりずっと軽く感じる。多田野のエットリング石族はソーマス石と言われてきたが、今吉石、千代子石に続いてまたソーマス石と異なる結果だった。今まで調べたなかでソーマス石を見たことがない。とはいえ、調べた例がまだ少ないだけなのかもしれない。
ベーカー石 / Bakerite (B-rich Datolite)
ベーカー石 / Bakerite (B-rich Datolite)
岡山県高梁市備中町布賀鉱山1番坑
ベーカー石は端正な結晶となることがあまりなく、球状のモコモコ集合体で産出することが多い。1903年にアメリカ産の新種として記載され、ダトー石よりホウ素(B)が多い種として認知されるようになった。1994年には岡山県布賀鉱山から産出が確認されている。しかし、2017年のガドリン石超族の命名規約の成立とともにベーカー石は独立種としての立場を追われた。現在の分類ではダトー石になるものの、かつて独立の名前を付されていたことからベーカー石として紹介した。学名は発見者と伝わる起業家のRichard Charles Baker (1858-1937)にちなんで名づけられた。
チャールズ石 / Charlesite
チャールズ石 / Charlesite
Ca6Al2(SO4)2B(OH)4(OH,O)12·26H2O
岡山県高梁市備中町布賀鉱山4番坑
チャールズ石はエットリング石族の一つで、発見当初はエットリング石の変種として記載されている。その当時からホウ素(B)に富むことが指摘されており、後年に新鉱物として改めて申請されて認められた。学名はハーバード大学教授のCharles Palache (1869-1954)にちなむ。日本で布賀鉱山から産出が知られているが、ここのチャールズ石は二酸化炭素(CO2)を多く持ち、新種になる可能性が指摘されている。自形結晶は扁平な六角錐状となる。
セリウムフェリ褐簾石 / Ferriallanite-(Ce)
セリウムフェリ褐簾石 / Ferriallanite-(Ce)
CaCe(Fe3+AlFe2+)[Si2O7][SiO4]O(OH)
福島県田村市羽山岳
フェリ褐簾石にはセリウム(Ce)とランタン(La)を主成分とする種が知られ、日本ではそのどちらも産出する。そして羽山岳のセリウムフェリ褐簾石については広島県、香川県に次ぐ産出となるだろう。いずれにしてもその産出は稀。羽山岳ではペグマタイト中に角閃石と共に産出し、どちらも一見は黒色であるために非常に見分けづらいが、よく見ると角閃石はわずかに緑色を、褐簾石は褐色を帯びている。セリウムフェリ褐簾石は2000年にモンゴル共和国で見いだされ、褐簾石のフェリ置換体であることから命名された。2006年に命名規約が整備された際も学名はそのまま維持されている。
ヘムス鉱 / Hemusite
ヘムス鉱 / Hemusite
Cu1+4Cu2+2SnMoS8
静岡県下田市河津鉱山
ヘムス鉱はバルカン山脈(ブルガリア)で最初に見いだされた鉱物で、バルカン山脈の旧名であるHemusにちなんで1971年に命名された。そして河津鉱山はヘムス鉱の世界第二産地として報告されている。その報告文にも述べられているように、河津鉱山ではヘムス鉱は微細な粒子として産出し陶石質の石英に墨流し状に分布する。ぎらついている部分は河津鉱で、それくらいしか共生鉱物は認められなかった。ヘムス鉱は世界的も稀産鉱物であり、分析する以外に見極める方法ないコレクター泣かせの鉱物となっている。
アロフェン / Allophane
アロフェン / Allophane
Al2O3(SiO2)1.3-2.0·2.5-3.0H2O
北海道白老町南白老バライト鉱山
アロフェンは土壌中に広く分布する粘土鉱物で、とくに火山性灰土壌には普遍的に含まれる。例えば関東ロームではアロフェンの含有量が50%に達することもある。しかしいくら含有量が多くとも鉱物標本としてそれでは面白くない。鉱物標本としてふさわしいアロフェンは金属鉱床において魚卵状からぶどう状に集合したものであろう。無色が基本であるが、副成分によって橙色や青色を呈することも多い。アモルファスであることから鉱物の定義を満たしていないが、アロフェンは例外的に鉱物種として認められている。強熱すると外観が変化することから異なって見えるという意味のギリシャ語が学名の由来となっている。
桃簾石 / Thulite
長野県上田市真田町傍陽入軽井沢
桃簾石 / Thulite
緑簾石族鉱物の和名には外観色が当てられることがあり、桃簾石はその名が示すように桃色を示す。ただしこれは種の名称ではなく、桃簾石とは桃色を示す緑簾石族鉱物の総称である。実体は(単斜)灰簾石から緑簾石まで幅がある。また、桃色はマンガン(Mn)が原因と言われることもあるが、調べてみるとほとんど含まれないこともありはっきりしていない。写真の標本についてはいずれもマンガンはMnOとして0.5%未満であった。日本では長野県入軽井沢の標本が古くから知られており、緑簾石族として典型的な姿と見事な桃色がよく現われている。愛媛県明神島の桃簾石も古典標本として知られており、九州大学の高壮吉が見出した。ここでは桃簾石は桃色の斑点として現れる。桃簾石はスカンディナヴィア半島から最初に見いだされ、そこの古代の名称であるThuleにちなんでいる。
カニュク石 / Kaňkite
カニュク石 / Kaňkite
Fe3+(AsO4)·3.5H2O
京都府福知山市宮坂富国鉱山
カニュク石はチェコスロバキア(当時)のKaňk地域における中世に開発された鉱山のズリから見いだされた鉱物で、模式地にちなんで命名された。含水の鉄ヒ酸塩鉱物ということでスコロド石とは組成的に非常に近いものの、スコロド石が結晶を示しやすいことに比べてカニュク石のほうは結晶がみられることが非常に少ない。結晶があったとしてそれは電子顕微鏡で観察できるスケールであることが多い。そしてカニュク石の標本は独特である。黄土色のウネっとした集合体が典型であり、この姿はまるで地衣類を思わせる。野外でカニュク石を見分けるのはおそらく難しい。
チェルマック閃石 / Tschermakite
チェルマック閃石 / Tschermakite
□Ca2(Mg3Al2)(Si6Al2)O22(OH)2
福島県古殿町叶神
ケイ酸塩鉱物はしばしばM席元素2++T席元素4+-M席元素3++T席元素3+のように二つの席の間で合計の価数が等しくなるような置換関係を示し、これをチェルマック置換と呼ぶ。例えば、苦土普通角閃石からチェルマック置換(Mg2++Si4+ → Al3++Al3+)が進んだ角閃石がチェルマック閃石にあたる。これまでこれという標本が得られなかったが最近になって竹貫変成岩から産出することが分かった。阿武隈高地に分布する変成岩は御斎所変成岩と竹貫変成岩に区分されており、竹貫変成岩のほうは泥質岩が原岩だったようで、コランダムやスピネルが出現するようにアルミニウム(Al)にやや富む傾向がある。そして、主要構成鉱物のひとつである角閃石もアルミニウムに富む種が期待され、調べてみたらチェルマック閃石であった。学名はウィーン大学の鉱物学者Gustav Tschermak von Sessenegg (1836-1927)にちなむ。
キルギスタン石 / Kyrgyzstanite
キルギスタン石 / Kyrgyzstanite
ZnAl4(SO4)(OH)12·3H2O
新潟県阿賀町三川鉱山
キルギスタン石は模式地のあるキルギス共和国のかつての正式名称(キルギスタン)にちなんで名づけられた鉱物で、銅アルミナ石(Chalcoalumite: CuAl4(SO4)(OH)12·3H2O)からみて亜鉛(Zn)置換体に相当する。三川鉱山は亜鉛ビーバー石(Beaverite-(Zn))が産出するなど亜鉛を主成分とする二次鉱物の産出があることからキルギスタン石の出現はまったく不思議ではないが、見た目が銅アルミナ石と共通であるために調べてみるまで気づかなかった。わずかに銅(Cu)を含むことで水色を呈し、おおむね土状、またはもこもこした被膜として産出する。
直閃石 / Anthophyllite
直閃石 / Anthophyllite
□Mg2Mg5Si8O22(OH)2
福島県郡山市愛宕山
直閃石はノルウェーで最初に発見された角閃石で、それは独特の「clove brown」色であったためにcloveのラテン語である「anthophyllum」から名付けられた。しかしそのような色を示す直閃石はむしろ例外的で、世界各国の例をみても白色からやや緑色であることが多い。和名は偏光顕微鏡下で直消光することに由来し、これはその特徴をよくとらえた名称と思われる。直閃石は蛇紋岩化作用を被った超苦鉄質岩中に産出することが多いが、ペグマタイトにもまれに産出する。直閃石を含む直方晶系角閃石にはプロト型という種類が共存しうるが、写真の標本についてはそこまで検証していない。
マースター石 / Marsturite
マースター石 / Marsturite
NaCaMn2+3Si5O14(OH)
岩手県洋野町舟子沢鉱山
マースター石は鉱物収集家のMarion Stuart (1921-2000)にちなんで名づけられた鉱物で、学名は彼女の名前と名字の最初の三文字に由来している。日本では東京都白丸鉱山で産出が知られるものの白い薄い脈という産状だった。写真の標本は褐色で最大1cmにも達する結晶で、その見た目から何かの角閃石かと思って調べてみたところまさかのマースター石だった。しかしよく考えれば舟子沢鉱山からマースター石が産出することは不思議ではない。マースター石はソーダ南部石(Natronambulite: NaMn2+4Si5O14(OH))からみて、ひとつのマンガン(Mn)をカルシウム(Ca)に置換した種にあたる。
ヨハンセン輝石 / Johannsenite
ヨハンセン輝石 / Johannsenite
CaMnSi2O6
新潟県新発田市赤谷鉱山
ヨハンセン輝石はマンガン鉱床やスカルンなどに産出し、緑色~褐色系統の結晶が多いが割ってすぐだとスカイブルーを呈することがある。新潟県赤谷鉱山はそうしたヨハンセン輝石の産地として知られていた。しかし、その色合いは長続きせず次第に褐色を帯びていく。写真の標本もかつてはスカイブルーだったのかもしれないという痕跡だけが残っている。学名はシカゴ大学で岩石学講座の教授をつとめたAlbert Johannsen (1871-1962)にちなむ。Johannsenは著名な岩石学者であり、その名称を授かったヨハンセン輝石は灰鉄輝石(Hedenbergite: CaFe2+Si2O6)のマンガン(Mn)置換体に相当するものの、それを灰マン輝石と呼ぶものはいない。
ザッカーニャ石 / Zaccagnaite
ザッカーニャ石 / Zaccagnaite
Zn4Al2(OH)12(CO3)·3H2O
兵庫県朝来市生野鉱山
ザッカーニャ石はイタリア人鉱物収集家のDomenico Zaccagna (1851-1940)にちなんで名づけられた炭酸塩鉱物で、ハイドロタルク石超族のクインティン石族の一員という立ち位置で分類される。加水されることで積層の周期が変化することがあり、それが新鉱物として期待されたものの及ばなかった経緯がある。世界的にもまれな鉱物であり、これまで粉末に近い標本しか知られていなかったが、生野鉱山からのザッカーニャ石は六角板状結晶が観察できる良標本であった。
針鉄鉱 / Goethite
針鉄鉱 / Goethite
FeO(OH)
北海道今金町美利河鉱山
針鉄鉱はいわゆる鉄さびを構成する鉱物の一つであり、それゆえに広く分布するものの、これこそが針鉄鉱という標本はあまり多くない。北海道美利河鉱山はグラウト鉱(Groutite: Mn3+O(OH))の日本初の産地として知られているが、そこでは鉄(Fe)置換体にあたる針鉄鉱もまた産出する。モコモコしたこうした集合について腎臓状(Kidney-shaped)という言葉があてられることがあり、腎臓の断面にも同様のモコモコした組織がみられる。この産状を腎臓に見立てたのが誰であるかは伝わっていないが、医学にも造詣の深い人物なのだろう。またこうした組織は針状の結晶で構成されており、和名はそこから採用されたのだろう。いわゆる褐鉄鉱の主成分鉱物でもある。学名はドイツの文豪Johann Wolfgang von Goethe(1749-1832)に由来する。Goetheはドイツで鉱物学会が創立された際には会員に推挙されたと伝わる。
マンガン砒四面銅鉱 / Tennantite-(Mn)
マンガン砒四面銅鉱 / Tennantite-(Mn)
Cu6(Cu4Mn2)As4S13
北海道札幌市手稲鉱山
かつて四面銅鉱族はアンチモン(Sb)を主成分とする四面銅鉱と砒素(As)を主成分とする砒四面銅鉱という区分だけであったが、命名規約の成立を受けて副成分で細分化することになったために最近になって急激に種の数をふやした。2021年には北海道手稲鉱山から産出したマンガン四面銅鉱(Tetrahedrite-(Mn): Cu6(Cu4Mn2)Sb4S13)が新種として認められている。そして、そのヒ素置換体に相当するマンガン砒四面銅鉱はチリ産のものが2022年に新種として登録されたばかりであった。そうしたところで手稲鉱山のマンガン四面銅鉱ではなかろうかという標本を調べてみたら、それはむしろ最新のマンガン砒四面銅鉱であった。その見てくれは塊状の四面銅鉱というもので、副成分がどうであれ見た目で個々を判断することはできない。学名は砒四面銅鉱シリーズのマンガン優占種であることから。
アループ石 / Arupite
アループ石 / Arupite
Ni3(PO4)2·8H2O
三重県鳥羽市菅島
アループ石はSanta Catharina隕石の風化で生じた鉱物で、1988年に新鉱物として申請された。その後、1994年に三重県菅島から報告されたものの以降の続報はなく、産地はいまのところこの二カ所のみとなっている。そのため地球起源アループ石(Terrestrial arupite)として菅島は唯一無二の産地である。ただしアループ石は菅島でもほとんど見かけない鉱物なのでその実体はほぼ不明。東海鉱物採集GUIDE BOOKには緑色のアループ石が掲載されているが、隕石中のものはターコイズブルー~スカイブルーと記載されているので、その食い違いがますます実体不明に拍車をかけていた。そしてこのたび手に入れて分析によって確定したアループ石は論文の記載と同じくスカイブルーであった。アループ石は藍鉄鉱族の鉱物であるため藍鉄鉱のように時間経過で色が変わるのか、不純物のせいで色の幅が広いのか、はたまた緑色は疑ってかかるべきか。観察例がすくないためまだよくわからない。含ニッケル金属を多く含む習志野隕石も風化が進行するとアループ石が生じる可能性はあるだろう。学名はデンマークCorrosion Centerの所長であったHans Henning Arup(1928-2012)にちなむ。
習志野隕石 / Narashino Meteorite
習志野隕石 / Narashino Meteorite
普通コンドライト5H
千葉県船橋市
習志野隕石は2020年7月2日未明に千葉県北西部の習志野市周辺に落下した隕石で、午前2時半ごろには関東や東海地方で火球として目撃されていた。7月13日になって千葉県習志野市内のマンションに落下した破片2個体が発見されて、それが習志野隕石と命名された。その後の7月22日には千葉県船橋市からも発見され、7月13日のものが1号、7月22日のものが2号と命名された。写真の標本はそれよりもさらに1か月経過した後に船橋市から発見された2号の追加個体にあたる。現時点では10月25日に発見された3号までが知られている。隕石種としては5Hコンドライトという普通種でしかないが、地球の石からは産出することのない正方テイニア鉱(Tetrataenite: FeNi)という金属鉱物が含まれていたりとなかなか面白い。これは日本新産鉱物としてあつかってもいいのだろうか。
シプリン / Cyprine
シプリン / Cyprine
Ca19Cu2+(Al,Mg)12Si18O69(OH)9
東京都奥多摩町白丸鉱山
シプリンとは銅(Cu)を固溶して青色を呈するようになったベスブ石を指していたが、2015年に新種として生まれ変わった。銅は一つのサイトに優先的に配分されることが判明し、ベスブ石とは異なる種として分類が可能になったためである。著者の意向により、古来より使用されていたシプリンの名称がそのまま学名に引き継がれている。その名称は銅を意味するギリシア語に由来する。海外産の標本は確かに青いが、白丸鉱山のシプリンは紫色であった。これは赤色を出す三価マンガン(Mn3+)が含まれているためであり、青色と合体して紫色になったからと思われる。この標本はダムが干上がっていない時期に行ったために、仕方なくそのとき見えているところを叩いて得たものだと聞いている。そんなところこれまで誰も見向きもしていなかったが、そこからもこのようなレアモノが出現するとは白丸鉱山のポテンシャル恐るべし。
クテナス石 / Ktenasite
クテナス石 / Ktenasite
ZnCu4(SO4)2(OH)6·6H2O
大阪府箕面市温泉町平尾旧坑
クテナス石は Jean Baptiste鉱山(ギリシア)から発見された独特の青緑色を示す二次鉱物で、その産地はヨーロッパに集中している。それ以外となるとかなり少なく、日本では大阪府平尾旧坑が唯一の産地となっている。2019年に現在の化学組成へ改訂され、亜鉛(Zn)と銅(Cu)は異なる席に位置することが明らかとなった。この亜鉛の箇所をニッケル(Ni)に置き換えた浅葱石(Asagiite)が最近になって中宇利鉱山から発見されている。クテナス石の学名はギリシア人医師であるKonstantinos I. Ktenas (1884-1935)にちなんで名づけられた。Ktenasは多才な人物であり、大学教授、博物館館長、地質調査所所長などをつとめアテネ・アカデミーの創立メンバーのひとりでもあった。
中沸石 / Mesolite
福島県飯館村佐須
中沸石 / Mesolite
Na2Ca2(Si9Al6)O30·8H2O
中沸石はソーダ沸石(ナトリウム端成分)とスコレス沸石(カルシウム端成分)の中間的な組成であるために、中間を意味するギリシア語から学名が定められた。これら3種は共通の結晶構造を有しているため、結晶外形も似通ったものになる。おおむね針状であるが、傾向としてソーダ沸石は結晶端がピラミッド形に、スコレス沸石はやや扁平につぶれる特徴がある。しかし、中沸石はどちら側にも寄ることがあるため肉眼鑑定はどうにもならない。上二つはソーダ沸石のラベルだったが分析してみたら中沸石だった。長野県上田市手塚では安山岩からこぼれおちる白い小さな塊を「蛇骨」と呼んでいた。その実体は中沸石であり、割ると放射状の集合体となっていた。
福徳岡ノ場その2
かんらん石双晶でFo86Fa14程度の組成
2021年の晩秋、鹿児島県奄美郡島から沖縄県本島あたりの海岸が突如として大量の軽石で埋め尽くされた。それは8月に噴火した福徳岡ノ場と呼ばれる海底火山からもたらされている。その軽石にはかんらん石が含まれており、まれに双晶も得られる。写真の標本は分離品として手元に来たもので、どのような軽石にこれが含まれていたのだろうか。福徳軽石を外観でタイプ分けして調べた論文があり[1]、含まれる鉱物の化学組成も詳細に報告されている。比べてみると、双晶の化学組成は淡灰色型(Pale gray type)軽石に含まれるオリビンの化学組成と非常によく似ている。論文には双晶の存在について言及はないが、苦鉄質マグマが双晶の生成に関与しているのかもしれないと思えた。また、双晶は包有物にかなり富んでおり、クロム鉄鉱(黒色)、透輝石(結晶質)、苦鉄質ガラス(のっぺり)、気泡(球)の4つがまとまって含まれていることが多かった。
[1] Yoshida K., Tamura Y., Sato T., Hanyu T., Usui Y., Chang Q., Ono S. (2022) Variety of the drift pumice clasts from the 2021 Fukutoku-Oka-no-Ba eruption, Japan. Island Arc, 31, e12441
ワイラケ沸石 / Wairakite
ワイラケ沸石 / Wairakite
Ca(Si4Al2)O12·2H2O
福島県郡山市熱海町高玉字蛇喰
ワイラケ沸石はニュージーランドのWairakei地熱地域で発見されたことから命名された沸石族の鉱物で、日本でも地熱地帯沿いに産地は多い。ただ、そのわりにはその標本が出回ることが少なく、私もつい最近までワイラケ沸石の姿を知らなかった。そしてやってきたその標本は方沸石と瓜二つであった。よく見れば方沸石にしては・・と感じるちょっと扁平な結晶があるが、産地の情報なくモノだけ見ての肉眼鑑定は厳しいだろう。
○○のおさがり
○○のおさがり
灰輝沸石化したウミニナの化石
福島県南相馬市鹿島区橲原
貝化石はその外形が鉱物に置換されることがある。そして特に巻貝がオパールやメノウで置換されたものを「月のおさがり」と、赤みを帯びた方解石で置換されたものだと「日のおさがり」と呼ぶ。しかし写真の標本はオパールや方解石ではなく、なんと沸石で置換されている。これを何と呼ぶべきかわからないが、薄氷のような沸石の輝きは美しいの一言につきる。福島盆地はかつて海底にあった。大昔にそこでひっそりと暮らしたのちに生を終え、ただ朽ちるのを待つだけだったものが地質作用に巻き込まれて美しい鉱物に生まれ変わる。石好きにとってはちょっとあこがれる死にざまであろう。
バスタム石 / Bustamite
岐阜県揖斐川町春日鉱山
バスタム石 / Bustamite
Mn2Ca2MnCa(Si3O9)2
バスタム石は珪灰石族の一つで、カルシウム(Ca)とマンガン(Mn)が含まれ、うっすら紅を帯びていることが多い。スカルンや珪質のマンガン鉱山でよく見られ、岐阜県春日鉱山ではピンク色のガラス質板状結晶として産出した。繊維状結晶で産出することも多く、それはちょっと色づいた珪灰石といった様相となる。どっちが典型とも言えず肉眼鑑定はなかなか悩ましい。学名はメキシコの大統領を務めたAnastasio Bustamante y Oseguera (1780-1853)にちなむ。
セリウムバストネス石 / Bastnäsite-(Ce)
セリウムバストネス石 / Bastnäsite-(Ce)
Ce(CO3)F
福島県川俣町飯坂水晶山
セリウムバストネス石は希土類元素のひとつセリウム(Ce)を主成分とする炭酸塩鉱物で、フッ素(F)か水酸基(OH)で種が分けられる。水酸基だとセリウム水酸バストネス石(Hydroxylbastnäsite-(Ce))となる。一般にはどちらも褐簾石が変質して生じる粉末として産出するが、ペグマタイトにはまれに結晶が認められる。産地を問わず暖色系に色づいていることが多く、海外ではセリウムバストネス石を宝石として加工することがある。根源名はスウェーデンのBastnäs鉱山で見つかったことによる。
ヘイロフスキー鉱 & アシャマルム鉱 / Heyrovskýite & Aschamalmite
ヘイロフスキー鉱 / Heyrovskýite: Pb6Bi2S9
アシャマルム鉱 / Aschamalmite: Pb6-3xBi2+xS9
福島県いわき市八茎鉱山
ヘイロフスキー鉱はノーベル化学賞を受賞したJaroslav Heyrovský (1890-1967)にちなんで命名された鉱物で、チェコ共和国を模式地とする。アシャマルム鉱はオーストリアのAscham Alpe山で発見されたことから命名された。両者は同質異像で、高温相(ヘイロフスキー鉱)と低温相(アシャマルム鉱)の関係にある。高温から急激に温度が低下すると、ヘイロフスキー鉱がアシャマルム鉱へ変化しきらず残ることがある。八茎鉱山ではまさにそのような内部組織が観察され、ラベルとしては両方書くしかない。共存することのあるコサラ鉱とはやや紛らわしい。
ザッカリーニ鉱 / Zaccariniite
ザッカリーニ鉱 / Zaccariniite
RhNiAs
北海道幌加内町雨竜川
ザッカリーニ鉱はドミニカ共和国の超苦鉄質岩から見いだされた白金族鉱物で、輝コバルト鉱の近縁種としてロジウム(Rh)、ニッケル(Ni)、砒素(As)からなる。これまで世界中で5か所くらいしか産地が知られていなかった。しかし、日本の砂白金を調べていたら北海道内だけで5か所以上で見つかってしまった。そのうち雨竜川では砂白金粒の表面にザッカリーニ鉱が顔を出す産状で現れ、これは世界でも初めてのお目見えではないだろうか。写真の中央、ぽちっとたたずむのがザッカリーニ鉱である。ザッカリーニ鉱はこれまで包有物としてしか見つかっていない。学名は砂白金研究の第一人者であるFederica Zaccarini (b.1962)にちなむ。
クリプトメレン鉱 / Cryptomelane
北海道余市町国興鉱山
クリプトメレン鉱 / Cryptomelane
K(Mn4+7Mn3+)O16
クリプトメレン鉱はマンガン鉱床の酸化帯には普通に生じる鉱物の一種で、野外に放置されたマンガン鉱石が風化する過程でも生成する。しかしそのような産状では標本として保管するほどではない。標本としてよく知られたクリプトメレン鉱は黒い腎臓状集合をなす姿で、北海道国興鉱山でみられた。岩手県小玉川鉱山では黒色でズシリと重い塊状鉱として産出し、破断面には葉片状の結晶が放射状に集合した姿が現れる。学名は「隠された」と「黒」を示すギリシア語にちなむ。かつて黒色のマンガン鉱はpsilomelaneという野外名で呼ばれていた。その中から本鉱が見つかったことに由来する。
ジルコン / Zircon
岡山県新見市大佐山
ジルコン / Zircon
Zr(SiO4)
ジルコンは紀元前にはすでに知られていた鉱物で、そこから現代までに呼び名はさまざまあったとされる。今の学名は金を意味するアラビア語と色を意味するペルシア語に基づいて18世紀末に誕生したと伝わる。現代では和名はそのままジルコンと読むことが多いが、かつては風信子石(ヒヤシンス石)と呼ぶこともあった。それはヒヤシンス(花)のように様々な色を示すことにちなむと言われている。ジルコンは放射性元素を含むために年代測定の対象鉱物として広く研究に用いられている。地球上で広く産出し、一般的な風化や変質にも強いため、砂鉱として広く堆積する。しかし低温熱水にはちょっと弱い。例えば愛媛県岩城島では熱水中で反応して結晶の周囲にソグディア石が生じている。またペグマタイト中ではゼノタイムやモナズ石などと混晶を形成しやすく、そのために湿式分析しか分析手段のなかった時代ではそういった混晶が新鉱物として提案されたこともある。
コチュン石 / Cotunnite
コチュン石 / Cotunnite
PbCl2
兵庫県朝来市新井鉱山
コチュン石は鉛(Pb)の二塩化鉱物で、ヴェスヴィオ火山(イタリア)の昇華鉱物として19世紀前半に記載された。日本では薩摩硫黄島において生成が確認されており、噴気孔を調査するためにシリカチューブを突っ込んだらその表面に成長していたという話がある。写真は新井鉱山のズリから得られた標本で、肉眼的にはそうは見えないが、電子顕微鏡で見ると緑鉛鉱とコチュン石が複雑に絡み合っていた。学名はナポリ大学教授のDomenico Cotugno(1736-1822)にちなむ。XO2型の組成を持つ鉱物は高圧下でコチュン石型構造となることが多い。自身の例だとルチルに40万気圧(+高温)をかけてコチュン石型構造へ相転移させたことがあり、自身が筆頭というくくりではこれが最も引用数が多い論文だったりする[1]。ただのキーワードつながりでしかないが、日本産のコチュン石の発見に貢献できたことは実は結構うれしい。
これも2022年の鉱物学会で報告予定の鉱物で、詳細は大西氏から報告される。
[1] Nishio-Hamane D., Shimizu A., Nakashita R., Niwa K., Sano-Furukawa A., Okada T., Yagi T., Kikegawa T. (2010) The stability and equation of state for the cotunnite phase of TiO2 up to 70 GPa. Physics and Chemistry of Minerals, 37, 129-136.
ベイルドン石 / Bayldonite
ベイルドン石 / Bayldonite
Cu3PbO(AsO3OH)2(OH)2
岡山県高梁市成羽町小泉鉱山
ベイルドン石は19世紀中ごろには産出が報告された古典鉱物の一つで、銅(Cu)と鉛(Pb)を主成分とするヒ酸塩の二次鉱物である。緑色でドロッとした集合体になりやすいようで、明瞭な結晶形を示すことはまれ。日本では稀産鉱物であったためにその標本はほとんど出回らなかったが、小泉鉱山で発見されて以降は手に入りやすくなった。ただやはり端正な姿かたちは見られない。脇にやや緑色が鈍くパリッとした結晶があったがそれはオリーブ銅鉱。学名はイギリス人医師のJohn Bayldon (1837-1872)にちなむ。Bayldonが発見者もしくは採集者だと伝わるのだが、記載論文にはそんなことは書かれていない。論文にはBayldonが記載者の友人そして大学の先輩であったこと、そして標本は標本商から手に入れたと記されている。
亜ピエロット鉱 / Parapierrotite
亜ピエロット鉱 / Parapierrotite
TlSb5S8
青森県恐山山地
青森県下北半島の南西から北西にかけて広がる第四期火山としても知られる恐山山地は、かつてはカルデラを形成するほど猛々しい噴火を起こし、現在でも火山ガスや温泉が湧くなど活動は続いている。この辺りは古くからヒ素を主成分とする鉱物の産地としても知られており、火山性温泉地にはつきものも珪華もまた広く分布している。その珪華は黒や赤に染まり、中をよく見るとつやのある黒色球がたくさん入っている。調べてみたところパラピエロット鉱というタリウム(Tl)を主成分に持つ鉱物だった。学名はピエロット鉱(pierrotite)の同質異像であることに由来する。ピエロット鉱はフランスの鉱物学者であるRoland Pierrot (1930-1998)にちなむ。
砒藍鉄鉱 / Symplesite
砒藍鉄鉱 / Symplesite
Fe2+3(AsO4)2·8H2O
長野県茅野市金沢向谷鉱山
砒藍鉄鉱は藍鉄鉱(vivianite)のヒ素置換体となる鉱物で、和名はその意味を示している。一方で学名の由来は全く異なり、ほかの珍しいヒ酸塩鉱物と共に産出する傾向から「一緒に」という意味のギリシア語が元になっている。ギザギザとした結晶は石を割ってすぐだと青みを帯びた透明であるが、酸化によって急速に緑色に染まる。割ってすぐにホッカイロと共に密封容器に放り込むと、ホッカイロが容器内の酸素を消費するために標本は新鮮な姿を保つ(ことがある)。砒藍鉄鉱は日本ではあまり見かけることが少ない。同質異像に日本産新鉱物の亜砒藍鉄鉱(parasymplesite)が知られるものの、肉眼的に区別はつかない。
ネクラソフ鉱 / Nekrasovite
ネクラソフ鉱 / Nekrasovite
Cu13VSn3S16
静岡県下田市河津鉱山
河津鉱山からは数々の日本新産鉱物が見いだされているが、誰も実態を把握しておらず文献で名前を見かけるだけの鉱物もある。ネクラソフ鉱もそういった鉱物の一つであったが、いろいろ調べている中でようやく出会うことができた。ただ、標本の見た目としてはいわゆる銀黒であるためそのほかの標本との差別化は難しい。反射光学顕微鏡では茶色を帯びた明るい黄色といったところで、周りにはまだ名前のついていない鉱物が伴われている。学名はロシア人鉱物学者のIvan Yakovlevich Nekrasov(1929-2000)にちなみ、ウズベキスタンの金鉱床から見出された。模式地での産状も河津鉱山とよく似ている。
ソーダ束沸石 / Stilbite-Na
長崎県壱岐市長者原
ソーダ束沸石 / Stilbite-Na
Na9(Si27Al9)O72·28H2O
いわゆる束沸石には今のところカルシウム(Ca)を主成分とする灰束沸石と、ナトリウムを主成分とするソーダ束沸石が知られている。そして灰束沸石は様々な産状でやたらめったら出現するのに対し、ソーダ束沸石の産出はいつもひっそりとささやかである。産地も灰束沸石とは比べ物にならないほど少ない。日本では長崎県長者原で産出が古くから知られており、最近に調べたところでは福島県東玉野の束沸石もまたソーダ束沸石であった。小さいのでわかりづらいが、どちらも頭が斜めに尖るタイプの結晶であった。根源名は鏡を意味するギリシア語に基づいており、ガラス光沢もしくは真珠光沢を暗示しているとされる。
パボン鉱 / Pavonite
パボン鉱 / Pavonite
AgBi3S5
北海道札幌市豊羽鉱山
パボン鉱はカナダの鉱物学者であるMartin Alfred Peacock(1898-1950)にちなんで名づけられた鉱物で、苗字のPeacock(=孔雀)のラテン語読みであるPavoが当てられた。やや高温の熱水鉱脈鉱床には広く出現する鉱物で、輝蒼鉛鉱に伴われやすい。組成が近いベンジャミン鉱(benjaminite: Ag3Bi7S12)とも共存し、塊状で産出することが多いが、結晶として産出すると針状から毛状の形態となる。しかし、こうした外観は多くの鉱物に共通するために肉眼鑑定は不可能に近い。写真の標本は調べてみてパボン鉱だと判明したが、見た目からは毛鉱(jamesonite)だと判断されていた。
エトリング石 / Ettringite
エトリング石 / Ettringite
Ca6Al2(SO4)3(OH)12·27H2O
福島県郡山市逢瀬町多田野
エトリング石はドイツのEttringenで19世紀に見いだされた鉱物で、今では14種の関連鉱物が知られ、日本産新鉱物の今吉石や千代子石も入っている。命名規約はまだできていないがこれらはエトリング石族として扱われる。エトリング石族の鉱物は六角柱状もしくはそろばん玉状となることが多く、遷移金属を含むと色づく。たとえば南アフリカから産出したエトリング石は黄色に染まっている。それは標本としてわかりやすいが本来は無色透明。日本では福島県多田野から産出報告があり、そこでは無色透明なそろばん玉状として産出した。この産地においてエトリング石族の鉱物は共通の外観で産出する。見た目で区別できないためラベルが書きづらい。中央から右下にある透明な結晶がエトリング石で、黒みがあってちょこんと乗っているのは加藤ざくろ石。
フェリリーキ閃石 / Ferri-leakeite
岩手県洋野町舟子沢鉱山
フェリリーキ閃石 / Ferri-leakeite
NaNa2(Mg2Fe3+2Li)Si8O22(OH)2
フェリリーキ閃石は1991年に申請されたKajlidongri鉱山(インド)を模式地とする角閃石で、スコットランドの地質学者Bernard Elgey Leake(1932-)にちなんで命名されている。その当時は接頭語を使わない「リーキ閃石(Leakeite)」だけの名称であったが、2012年に化学組成に基づいてフェリリーキ閃石へと改名された。現時点では模式地のほかにはスペインでごく小規模に産出が知られるだけの超稀産の角閃石であり、検索してもその写真すらまともに出てこない。しかし、どうやら日本ではまったく稀でないほどに産出していたようだ。岩手県舟子沢鉱山から小玉川鉱山あたりは粘板岩が分布しており、その主要構成鉱物の一つがフェリリーキ閃石であった。そのあたりでは粘板岩の薄層がむやみに紫色に染まっていることがあり、細い結晶が密接して並ぶことで片理に平行な断面には絹糸光沢がみえる。通常はあまりに細いために一つの結晶を肉眼的にとらえることは難しいが、透明感のある赤紫色の結晶がパラパラとみえることがある。それは紅簾石にも見え、だからこそ誰にも注目されることはなかったのだろう。しかし、調べてみるとこれらはいずれも角閃石であり、しかもリチウム(Li)が顕著に検出されたのだった。その解析はちょっとややこしいがフェリリーキ閃石だと結論付けられた。当地でこのような外観を示す角閃石は調べた範囲だとフェリリーキ閃石と苦土アルベソン閃石があり、残念ながらそれらは肉眼的に区別できない。分析しても適切に解析しないとこれまた区別できないという厄介さがあるが、経験的にはフェリリーキ閃石であることが多い。それにしてもこれまで見向きもせずに蹴っ飛ばしてきた粘板岩にすら超稀産のリチウム鉱物がじゃぶじゃぶとは恐れ入った。リチウム鉱物である南部石やアルミノ杉石が当地から顔を出すのも頷ける。
2022年鉱物学会の予定鉱物はこれでおしまい。
マンガンチェルキアラ石 / Cerchiaraite-(Mn)
マンガンチェルキアラ石 / Cerchiaraite-(Mn)
Ba4Mn3+4(Si4O12)O2(OH)4Cl2[Si2O3(OH)4]
岩手県洋野町舟子沢鉱山
マンガンチェルキアラ石はイタリアのCerchiara鉱山から2000年に発見された鉱物で、鉱山名にちなんで命名された。2013年には三価鉄(Fe3+)とアルミニウム(Al)の置換体が発見されるに至り、それを契機にそれぞれ接尾語を用いて鉱物種を区別するように改名されている。いずれもめったに見かけることのできない稀産種であるものの、日本では大分県下払鉱山でマンガンチェルキアラ石の産出があることを個人的に確認している。ただしそれは電子顕微鏡でのみ存在を認識できるほどの微細さでしかなかった。ところが最近になって岩手県舟子沢鉱山から目で見えるマンガンチェルキアラ石が産出することが判明した。ブラウン鉱を主体とする鉱石を割ると、苔にも見える深緑色が一面に広がる。よく見ると葉片状集合となっており、これがマンガンチェルキアラ石であった。なお、これまでのマンガンチェルキアラ石には例がないことだが、写真の標本は分析してみると少量のリチウム(Li)が検出されるなど、なるほど舟子沢鉱山らしい特徴だと感じ入った。
2022年の学会でアルミノ杉石とあわせてその産出を報告する。
アルミノ杉石 / Aluminosugilite
アルミノ杉石 / Aluminosugilite
KNa2Al2Li3Si12O30
岩手県洋野町舟子沢鉱山
アルミノ杉石はその名が示すように杉石のアルミニウム(Al)置換体に相当し、根源名は九州大学で教授を務めた杉健一(1901-1948)にちなむ。イタリア(Cerchiara鉱山)を模式地とし、そこでは少量のマンガン(Mn)を含み紫色に染まる姿で産出した。新鉱物の申請は2018年であったがそれよりもずっと以前に産出があり、1956年に愛媛県古宮鉱山から採集された紫色の杉石の分析値[1]を解析するとそれはアルミノ杉石となる。惜しむらくはその標本は死蔵されたか散逸した可能性が高いことで、確かな続報が無いこともまた悔やまれる。ところが最近になってかつてあこがれた国産の紫色鮮やかなアルミノ杉石がやってきた。聞くとそれは岩手県舟子沢鉱山から出たようで、粘板岩の片理に沿って広がる石英薄層に濃集し、葉片状の結晶が無造作に交錯する産状を示す。そのため、その層だけをうまく開いてやると一面にバラの花びらをちりばめたような美しい標本に仕上がる。そのあまりに現代ばなれした様相から鉱山稼働時の採集品かと尋ねたが、いま転がっている石を割ったら現れたというのだから驚くほかない。舟子沢鉱山の環境を考えたらアルミノ杉石が出てくることに不自然はなく、共生鉱物や組織も周囲と共通だったので現地性であることもまた疑いないが、出所は露頭かズリかどちらだろうか。
これも2022年の学会で報告する予定。
[1] 広渡文人, 福岡正人 (1988) 日本のマンガン鉱物に関する2,3の問題. 鉱物学雑誌, 18, 347-365.
今吉石 & 千代子石 / Imayoshiite & Chiyokoite
今吉石 / Imayoshiite: Ca3Al(CO3)[B(OH)4](OH)6·12H2O
千代子石 / Chiyokoite: Ca3Si(CO3)[B(OH)4]O(OH)5·12H2O
福島県郡山市逢瀬町多田野(大沢山)
今吉石と千代子石はそれぞれ三重県水晶山と岡山県布賀鉱山から見出されたエットリング石族の日本産新鉱物である。そしてこのたび、この二つが同時に福島県から見出された。郡山市多田野には安山岩中にスカルンゼノリスが分布しており、和田石(Wadalite)や加藤ざくろ石(Katoite)など日本ではそこでしか見られない鉱物が産出し、無色透明な六角形結晶となるソーマス石(Thaumasite: Ca3Si(CO3)(SO4)(OH)6·12H2O)が共生鉱物として知られていた。そして40年前に採集された標本を最近になって分析してみたところソーマス石にあるべき硫黄(S)がほとんど検出されない。そうなるとその不足分は炭素(C)とホウ素(B)とみなすことになる。一見して分からないが写真の結晶は芯が今吉石で、ガワが千代子石となっていた。両者は理想化学式で見るとAl3+H+(今吉石)-Si4+(千代子石)の近い関係であるため連続固溶体を形成しそうなものだが、くっきりと分布が分かれており、結晶面によって取り込みやすい元素が異なった結果のようにみえる。エットリング石族では例を知らないが、それは鉱物全般で見るとそんなに珍しい現象でもない。今吉石は鉱物蒐集家の今吉隆治に、千代子石は岡山大学の逸見千代子にちなむ。共存する和田石や加藤ざくろ石も日本人にちなんで命名された鉱物で、それらが一堂に会することになろうとはちょっと驚いた。
苦土フェリ普通角閃石 / Magnesio-ferri-hornblende
福島県田村市羽山岳
苦土フェリ普通角閃石 / Magnesio-ferri-hornblende
□Ca2(Fe2+4Fe3+)(Si7Al)O22(OH)2
普通角閃石(hornblende)を根源名にもつ角閃石はこれまで4種が知られており、2022年になって新たに誕生したのがこの苦土フェリ普通角閃石になる。その名前からしてどこにでもありそうで、産出もおそらく全く稀ではない。こういった角閃石が近年まで確立されていなかったことを意外に感じるかもしれないが、角閃石の新たな種を確立するということは思う以上に難しいのである。しかし、いったん成立してしまえば同定そのものは可能になる。私の標本では3カ所について苦土フェリ普通角閃石という結果が得られている。ペグマタイト、スカルン、広域変成岩と産状には幅があるが、母岩にはいずれも方解石が伴われていた。学名は命名規約により、根源名の由来は苦土普通角閃石を参照のこと
銅リヴァイ石/ Cuprorivaite
銅リヴァイ石/ Cuprorivaite
CaCuSi4O10
東京都青ヶ島湯浜
銅リヴァイ石は非常に鮮やかな青色を特徴とする1938年に記載されたケイ酸塩鉱物であるが、人類との付き合いは紀元前数千年にはもう始まっている。人類最古の合成顔料として知られるエジプシャン・ブルーの主成分が実は銅リヴァイ石である。銅リヴァイ石の創りだす独特の青色は古代エジプトにおいて生命を象徴する色として珍重された。天然においてはヴェスビオ火山(イタリア)で最初に発見され、標本としてはドイツ産で非常に美しい結晶が知られている。ただ、いずこでもきわめて稀産である。そんな銅リヴァイ石が青ヶ島でも見つかった。輝石による褐色まみれの中にポンと咲くさわやかな青が美しい。学名は銅の多いリヴァイ石(Rivaite)と推定されたことによる。リヴァイ石とは珪灰石(Wollastonite:CaSiO3)のかつての呼称であり、現在では使用されない。
鮮やかな青に気が付いた熱心な愛石家の指摘で調査が始まり、ようやくデータが集まったので学会発表の予定に追加。
スクロドフスカ石 / Sklodowskite
スクロドフスカ石 / Sklodowskite
Mg(UO2)2(SiO3OH)2·6H2O
福島県郡山市愛宕山
スクロドフスカ石は放射能研究で数々の功績を残したMarie Skłodowska-Curie (1867-1934)にちなんで命名された鉱物で、コンゴ共和国のウラン鉱山から発見された。原産地では非常に明るい黄色で強い光沢を有する板柱状結晶として産出し、銅(Cu)を含むことで緑色を帯びることもある。世界を見渡すとウラン(U)を含む鉱床では産出はまれではないようだが、日本の産地は今のところ福島県愛宕山だけと思われる。そこではスクロドフスカ石はペグマタイト中に小さな黄色塊として産出するが、目で見えない微小な孔の中には板状の結晶が成長していた。
イットリウムタレン石 / Thalénite-(Y)
イットリウムタレン石 / Thalénite-(Y)
Y3Si3O10F
福島県川俣町飯坂水晶山
イットリウムタレン石は天文学者であるTobias Robert Thalén (1827-1905)にちなんで命名された鉱物で、19世紀末にスウェーデンで発見された。ペグマタイトに産出することがほとんどで、放射性元素の影響でしばしばメタミクトとなっている。その変質の程度によって色は様々に異なり、教科書的には肉色、褐色、黒色でさらには緑がかった色と表現されている。一番上の写真が教科書的なタレン石なのかもしれないが、鉄分に汚れた石英片と区別しがたい。世界的にも多くの場合で塊状で産出し、端正な結晶としての産出は極めて稀。日本では福島県水晶山から粗粒な褐簾石の隙間に無色透明な結晶が産出したことがある。三重県宗利谷では新鉱物・ベタフォ石を内包していた。
黒銅鉱 / Tenorite
秋田県鹿角市尾去沢鉱山
黒銅鉱 / Tenorite
CuO
黒銅鉱は銅の単純酸化鉱物の一つで、銅鉱床の酸化帯においては二次鉱物として広く産出する。一方でその姿は黒色の土状や塊状であって、周りにある色鮮やかな二次鉱物の引き立て役になっている。下手をすればただの汚れと認識され、標本箱に入っていたとしても黒銅鉱のラベルを付している人は少ないように思う。また、黒銅鉱は火山昇華物としても産出することがあり、模式地であるベスビオ火山(イタリア)では葉片状の薄板結晶で産出する。日本でも東京都大島から昇華物として黒銅鉱が産出したが、今となっては良標本は難しい。最近になって東京都青ヶ島のスコリアを調べているなかで黒銅鉱の結晶が見いだされた。やや厚みのある板状結晶はチタン鉄鉱と酷似する。和名は外観と化学組成に由来するが、学名はナポリ大学の植物学者Michele Tenore (1780-1861)にちなむ。19世紀には知られた鉱物で、かつてはMelaconiteの名称もよく用いられたが、1962年からTenoriteに統一された。
銅スピネル / Cuprospinel
銅スピネル / Cuprospinel
Cu2+Fe3+2O4
東京都青ヶ島湯浜
銅スピネルは銅(Cu)と鉄(Fe)からなる酸化鉱物であり、銅を含むスピネル族であることから命名された。珍しくもない元素の単純な組み合わせからは想像しがたいが、実は世界的な超稀産種である。硫化物では銅と鉄の組み合わせなどありふれていても、両者が酸化物として反応する環境は天然にはまず見当たらない。世界で初めて発見された銅スピネルはなかば人工的であり、鉱山のズリが自然発火したことで各種の条件が偶然に満たされ、その中で生成した。完全な天然環境としてはTolbachik火山(カムチャツカ、ロシア)が銅スピネルの産地ではあるが、そこは他に例がないほどの異質場であって、要するに銅スピネルの新たな産地など世界を見渡してもまず期待できなかった。ところが予想外に東京都でそれが見つかった。東京都青ヶ島は八丈島よりもさらに南方約70kmに位置する絶海の孤島となっている火山島であり、交通の便はこれ以上ないほどに悪い。ただ、青ヶ島は知る人ぞ知るバナジン銅鉱の産地であり、限られた渡海のチャンスをものにした二人の愛石家がその標本を採集してきた。そしてバナジン銅鉱が貧弱な標本をこそよく観察すると、艶のある黒色で多粒子からなる丸みを帯びた集合体が点在しており、それが銅スピネルであった。その希少性はバナジン銅鉱とは比ぶべくもなく、青ヶ島は今後はむしろ銅スピネルの産地として熱心な愛石家の耳目を集めるかもしれない。ただし、ほとんど同じ外観でただの赤鉄鉱ということもかなり多い。これらはいわゆる昇華鉱物であり、高温の火山ガスに含まれていた銅成分が赤鉄鉱と反応することで銅スピネルが生じたと考えられる。
2022年の鉱物科学会で詳細を報告する予定。
ラング石 / Langite
ラング石 / Langite
Cu4(SO4)(OH)6·2H2O
新潟県関川村大石鉱山
ラング石は鮮やかなスカイブルーを特徴とする銅(Cu)の含水硫酸塩鉱物で、銅鉱床の酸化帯にしばしば伴われる二次鉱物として知られる。その結晶は結晶端が斜めに落ちる細板状結晶となることが多いが、そのほかの形態で出現することがあって、総合的に肉眼的な鑑定は容易ではない。ただ産地ごとにその姿はある程度固定されているように見えるので、産地情報と合わせれば鑑定できるようになるだろう。また分析でもスタンダートの相性問題が生じることがあり、誤った元素比率が導かれたあげくうっかり新鉱物を期待させてしまった苦い経験がある。学名は発見当時に大英博物館に勤務していた結晶学者のVictor von Lang(1838-1921)にちなむ。
加藤ざくろ石 / Katoite
加藤ざくろ石 / Katoite
Ca3Al2(OH)12
福島県郡山市逢瀬町多田野(大沢山)
加藤ざくろ石は国立科学博物館の加藤昭(b.1931)にちなんで命名されたざくろ石超族の一種で、Campomorto採石場(イタリア)を模式地として1982年に新種として申請された。水を多く含むざくろ石であることから、かつては加水ざくろ石という一般名称で記載されることがあり、日本では加藤ざくろ石という正式名称で報告されたのは2019年になり、産地は福島県多田野であった。そこは和田石の模式地であり、和田石と共生することが記されていたが、姿かたちや色の情報に乏しく加藤ざくろ石の実体がいまいちわからない。そこで調べてみると、多くの加藤ざくろ石の見た目は和田石そのものであった。加藤ざくろ石それ自体は完全に無色透明であったが、和田石が生成した後の変質で形成したようで、外形は和田石を保っており、内部に微小な黒色の和田石が残っている。結果的に加藤ざくろ石の見た目は和田石そのものので、肉眼的に区別はできない。珍しいところではオレンジ色に染まった和田石様の結晶があり、それは大部分がアモルファスであったが内部には加藤ざくろ石が含まれる。かつて灰バンざくろ石-加藤ざくろ石固溶体のことを「ヒブシュざくろ石(Hibschite)」と呼んだが、現在はヒブシュざくろ石は独立種として認められていない。現在では灰バンざくろ石と加藤ざくろ石の中間組成にはホルツタムざくろ石が独立種として位置づけられている。
青針銅鉱 / Cyanotrichite
島根県美郷町銅ヶ丸鉱山
青針銅鉱 / Cyanotrichite
Cu4Al2(SO4)(OH)12(H2O)2
青針銅鉱の学名はギリシア語で青い毛を意味する。そのため、本来の意味を踏襲した青毛鉱という和名が使われることがあるものの、青針銅鉱のほうがとおりが良いためかすっかりこちらが普及している。毛~針状の結晶が放射状にふわっと開く姿が典型とされるが、潰れた束のような産状もめずらしくない。青針銅鉱は硫酸塩鉱物であり、硫酸基が炭酸基に置き換わったものは炭酸青針銅鉱(Carbonatecyanotrichite)という別種になる。ただし、外観に変化はないとされる。上にあげた二つの産地では炭酸青針銅鉱の産出が知られているが、写真の標本は炭酸基が入る余地がないほどに硫酸基で占められていた。
フェロホルムクイスト閃石 / Ferro-holmquistite
フェロホルムクイスト閃石 / Ferro-holmquistite
□Li2(Fe2+3Al2)Si8O22(OH)2
福島県田村市羽山岳
角閃石は様々な価数の元素を収容できる柔軟な構造を有しており、リチウム(Li)を主成分とすることもできる。リチウム角閃石亜族という分類があり、フェロホルムクイスト閃石もそれに含まれる。錫・タンタル・リチウムを資源とするペグマタイト鉱床であるGreenbushes鉱山(オーストラリア)から2004年に見いだされ、これまでこの産地でしか産出が知られていなかった。ところが最近になって昔に採集された福島県羽山岳のペグマタイトを調べる機会があり、蓋を開けてみれば模式地でしか知られていなかったフェロホルムクイスト閃石がバラバラと入っていた。濃紺色の板柱状結晶は一見して電気石にも見えなくもないが、劈開があるのでよくみれば角閃石だと理解できるだろう。細い結晶は絹糸光沢を示し、典型的な角閃石アスベストを形成する。リチウムは本来なら電気石に取り込まれやすいが、羽山岳では石灰岩とペグマタイトとの反応で斧石が生じており、そこでホウ素(B)が真っ先に消費されたためにホウ素を必須とする電気石が生じなかった。その結果として余剰のリチウムが角閃石に取り込まれることになり、フェロホルムクイスト閃石という稀種が出現したのだろう。根源名はスウェーデンの岩石学者であるPer Johan Holmquist(1866-1946)にちなみ、学名はその二価鉄(ferro:Fe2+)置換体であることによる。
今年の学会で報告予定。これから夏頃にかけてちょいちょいそういった予定のものを掲載していく。
フェロトリーウェイゼル鉱 / Ferrotorryweiserite
フェロトリーウェイゼル鉱 / Ferrotorryweiserite
Rh5Fe10S16
熊本県美里町払川
フェロトリーウェイゼル鉱はロジウム(Rh)を主成分にもつ白金族鉱物で、クラスノヤルスク地方(ロシア)の砂白金鉱床から2021年に発見された。原産地においてはイリジウム系砂白金の包有物として最大30㎛ほどの不定形の粒として見いだされている。そして、その記載論文を読むとその化学組成にはなんとなく見覚えが。皆川鉱の記載論文で「フェロードス鉱様鉱物」とした未詳鉱物に非常に近く、改めて解析し直すとフェロトリーウェイゼル鉱でうまく収束する。自分で形にすることはできなかったが、ともかくこれでようやくラベルが書ける。日本では熊本県払川の砂白金鉱床において、フェロトリーウェイゼル鉱はイソフェロプラチナ鉱粒の表面に黒色のコブもしくはシミのように産出する。まったく同じ産状で硫銅ロジウム鉱が産出するため、それとは肉眼的に区別できないだろう。近縁種に田村鉱がある。学名はトリーウェイゼル鉱(Torryweiserite: Rh5Ni10S16)のフェロ置換体であることから。なおトリーウェイゼル鉱は、白金族鉱物、特にジンバブエのグレートダイクや南アフリカのブッシュベルトに関連する鉱床の研究者として知られるThorolf (Torry) W. Weiser (b.1938)にちなむ。
アロクレース鉱 / Alloclasite
アロクレース鉱 / Alloclasite
CoAsS
和歌山県すさみ町三陽鉱山
アロクレース鉱は輝コバルト鉱と同質異像となる鉱物で、いずれの端成分もCoAsSとなっているが、実際のアロクレース鉱は鉄を含む傾向が強い。それもそのはずで、アロクレース鉱は硫砒鉄鉱(arsenopyrite: FeAsS)と共通の結晶構造となっている。一般に鋼灰色であり、輝コバルト鉱のようにうっすら紅をさすということがない。結晶面が出れば形状は硫砒鉄鉱に似ると思われるが、海外ではむしろ白鉄鉱とよく似ていると判断された。しかし、白鉄鉱とは異なる方向にへき開が発達することから、ギリシア語で「他の:allos」「割れ方:klasis」から学名が定められた。
トロフカ鉱 / Tolovkite
トロフカ鉱 / Tolovkite
IrSbS
北海道羽幌町愛奴沢川
トロフカ鉱も輝コバルト鉱型の白金族鉱物で、イリジウム(Ir)、アンチモン(Sb)、硫黄(S)からなる。同系統の白金族鉱物である輝イリジウムやホリングワース鉱と比べると産地は極端に少なく、産出はかなり稀。それでも日本の、特に北海道からの砂白金には伴われることがあり、ルテニイリドスミンや自然イリジウム粒の表層に付着するようにドロフカ鉱は産出する。輝イリジウムと共通の産状と外観であり分析しない限りは区別できない。学名は模式地のあるTolovka川(カムチャツカ、ロシア)に由来する。これまで輝コバルト鉱型の白金族鉱物には「輝」の頭文字が採用されがちではあったが、松原氏は「輝」を付けない「硫安イリジウム鉱」の和名を提案した。しかし、学名に由来がある鉱物なのだから、和名についても学名の読みであるトロフカ鉱が適切であろう。
ホリングワース鉱 / Hollingworthite
ホリングワース鉱 / Hollingworthite
RhAsS
熊本県美里町払川
ホリングワース鉱もまた最も普遍的な白金族元素鉱物の一つであり、これが伴われない砂白金鉱床のほうがむしろ珍しい。ただし、産状は輝イリジウム鉱と同じで、ほぼ包有物でしかみかけない鉱物でもある。そのためふつうは電子顕微鏡でようやく捉えられる程度の存在だが、なんとかギリギリ光学顕微鏡でも捉えることができた。トラミーン鉱に埋没する青黒色の斑がホリングワース鉱となる。分類としては輝コバルト鉱や輝イリジウム鉱から見てロジウム(Rh)置換体であるために、その連想で輝ロジウム鉱と呼ばれることがある。しかし、可視光反射率はせいぜい50%にすぎず、輝きはほとんど感じられない鉱物であるため輝ロジウム鉱という和名はふさわしくない。学名は地質学者のSidney Ewart Hollingworth(1899-1966)にちなんでおり、和名であってもその読みのままが望ましい。
輝イリジウム鉱 / Irarsite
北海道沼田町沼田奔川
輝イリジウム鉱 / Irarsite
IrAsS
輝イリジウム鉱は最も普遍的な白金族元素鉱物の一つであり、世界各国の砂白金鉱床にはほとんど必ず伴われている。そのため産出は全く珍しくないものの、砂白金の包有物としての産状が主なため、一般にはその姿を目にする機会は少ない。ただ、北海道の砂白金に限っては砂白金粒をぐるっと覆う産状で出現することがある。輝イリジウム鉱をまとう砂白金は光を強く反射することなく黒くざらつく。そのため和名に「輝」がつくことはちょっと不思議な印象だが、輝イリジウム鉱は輝コバルト鉱のイリジウム(Ir)置換体となる鉱物なので、その対比で生まれた和名なのだろう。学名は化学組成をそのまま読むかたちとなっている。
輝コバルト鉱 / Cobaltite
輝コバルト鉱 / Cobaltite
CoAsS
和歌山県すさみ町三陽鉱山
輝コバルト鉱はコバルト(Co)の砒硫化物で、コバルトの重要な資源鉱物として知られる。世界的に見れば鉱物標本として人気が高く、図鑑などでは桃色を帯びた銀白色の立方体や5角12面体の結晶がしばしば紹介される。日本でもかつては含銅硫化鉄鉱鉱床からそのような結晶が産出したようだが、今となっては輝コバルト鉱はお目にかかることが少ない鉱物であろう。和歌山県三陽鉱山では緑泥石中の輝コバルト鉱を採掘したことがある。その鉱石は遠目では微結晶がチカチカ輝く黒色の集合体であり、拡大すると八面体結晶が観察された。学名は成分に由来し、和名はチカチカ輝く様子も加味しているのだろう。
鉄珪蒼鉛石 / Bismutoferrite
鉄珪蒼鉛石 / Bismutoferrite
Fe3+2Bi(SiO4)2(OH)
福島県飯館村蕨平高ノ倉鉱山
鉄珪蒼鉛石はビスマス(Bi)を主成分とする二次鉱物で、産地を問わず産状は黄緑色~淡褐色の皮膜もしくは土状塊となる。19世紀にはすでに知られていた鉱物であるが、まったく目立たない姿であるがために注目されることは少なく、日本で見いだされたのは21世紀に入ってからだった。福島県高ノ倉鉱山では自然蒼鉛を伴うスカルンの酸化帯で生じ、その標本はやはりどこの産地とも共通する姿であった。あらかじめわかっていれば別であろうが、予備知識ないままに産地に赴いて鉄珪蒼鉛石に気づくことは難しい。珪蒼鉛鉱が伴われることがあるため、むしろそちらが目印となるだろう。学名は化学組成に由来する。
イットリウムエシキン石 / Aeschynite-(Y)
イットリウムエシキン石 / Aeschynite-(Y)
(Y,Ln,Ca,Th)(Ti,Nb)2(O,OH)6
福島県郡山市中田町中津川宇野橋
イットリウムエシキン石はイットリウム(Y)とチタン(Ti)の酸化鉱物で、ペグマタイト中に黒色の角柱状結晶として産出する。同質異像にイットリウムポリクレース石(Polycrase-(Y))がある。その結晶は西洋剣のような頭を持った扁平な板状になるためその姿であればエシキン石と区別が付く。しかしどちらもメタミクト状態になった黒色の不定形塊で産出することが多い。そうなると加熱とX線回折で見極めることになるが、きっちり加熱しきらないと分けることができないややこしさがある。ともかくコレクションという視点では、頭が見えない場合はエシキン石というラベルを書くことになるだろう。学名は「恥」を意味するギリシア語に基づく。エシキン石は19世紀に発見された鉱物だが、当時の技術では分析が困難であり、誤って「チタン酸ジルコニア」と記載されたことがその理由とされる。
マイクロ石族
福島県郡山市愛宕山
酸化灰マイクロ石 / Oxycalciomicrolite
Ca2Ta2O7
水酸灰マイクロ石 / Hydroxycalciomicrolite
Ca1.5Ta2O6(OH)
フッ素灰マイクロ石 / Fluorcalciomicrolite
(Ca,Na,□)2Ta2O6F
パイロクロア超族(A2B2X6Y)のうち、B = Ta5+かつX = Oの組成をもつ鉱物はマイクロ石族としてまとめられており、これまでに11種が知られている。ペグマタイトを主要な産状とし、八面体結晶が典型的ではあるが陵が崩れて丸みを帯びることがあるほか、塊状で産出することもまた多い。色は緑色、褐色、黒色などがあり、経験的に緑色ほど結晶性が良い傾向がある。放射性元素を固溶することでメタミクト状態にあることが多く、そのような結晶や塊は油脂光沢を示す貝殻状に割れる。マイクロ石はパイロクロア(B = Nb5+,X = O)やベタフォ石(B = Ti4+,X = O)と固溶体を形成するが、ベタフォ石との間には不混和領域がある可能性が指摘されている。また一つの結晶内の塁帯構造で複数種にまたがることも多い。最初に記載された標本が非常に小粒であったことから、小さいという意味の根源名が定められた。全体の学名は各結晶学的席の内容をもとに決定される。
ブーランジェ鉱 / Boulangerite
福井県あわら市剣岳鉱山
ブーランジェ鉱 / Boulangerite
Pb5Sb4S11
ブーランジェ鉱は鉛(Pb)とアンチモン(Sb)の硫化鉱物で、スカルンやマンガン鉱床、硫化鉱床など様々な環境において鉛灰色~青銀色の針状結晶として産出する。産状や外観は毛鉱(Jamesonite)と共通するため、肉眼的にこれらを見分けることはほぼ不可能と言える。ただ毛鉱はけっこう見かける鉱物であるのに対し、ブーランジェ鉱の産出は少ないように感じる。またブーランジェ鉱は共生鉱物にやや珍しい硫化物を伴うことがあり、たとえば車骨鉱(Bournonite)、セムセイ鉱(Semsyite)、ジオクロン鉱(Geocronite)、ヨルダン鉱(Jordanite)などがあげられるだろう。学名は鉱山技術者の Charles Louis Boulanger (1810-1849)にちなむ。ブーランジェ鉱を最初に分析した人物で、含まれる成分を明らかにした。
トウェディル石 / Tweddillite
トウェディル石 / Tweddillite
CaSr(Mn3+2Al)[Si2O7][SiO4]O(OH)
愛媛県砥部町古宮鉱山
トウェディル石はプレトリア地質博物館(南アフリカ)の初代学芸員だったSamuel Milbourn Tweddill (1852-1917)にちなんで命名された鉱物で、2002年にT. Armbrusterによって記載された。トウェディル石はストロンチウム紅簾石(Piemontite-(Sr): CaSr(Mn3+Al2)[Si2O7][SiO4]O(OH))に二つあるアルミニウム(Al)の一つを三価マンガンで置換した鉱物に相当する。ストロンチウム紅簾石でさえ稀産のたぐいだが、トウェディル石はもっと稀産で公式には世界でも3カ所しか産地がない。ただし個人的に調べたところでは愛媛県古宮鉱山や長崎県戸根鉱山からも産出することが分かっている。外観はストロンチウム紅簾石と区別が難しく、トウェディル石はより微細でかつ赤黒いといったところだろう。いずれも緑簾石超族に属する鉱物で、T. Armbrusterは2006年に命名規約を作ったのだが、系統的な命名法を徹底するために自らが名付けたトウェディル石すらストロンチウムマンガニ紅簾石(Manganipiemontite-(Sr))へ改名した。この際に新潟石(Niigataite)およびハンコック石(Hancockite)もそれぞれストロンチウム単斜灰簾石(Clinozoisite-(Sr))と鉛緑簾石(epidote-(Pb))へと改名されている。この命名規約は合理的ではあるもののハンコック石の改名にまで手をだしたことは世界中の愛石家から不評を買い、「永遠の侮辱」とまで評された。ハンコック石は画家で愛石家でもあったElwood P. Hancock(1835-1916)への栄誉として1899年に命名されたのち100年以上も親しまれていた名称だったのだ。こういったことは他の命名規約でも生じており、2013年になって新鉱物・鉱物・分類委員会は「既得権のある種については名前の変更を避けることを推奨する」というガイドラインを発表するに至った。そして2015年にハンコック石の名称を復活させる提案が上がり、新潟石とトウェディル石もそのおまけで名称の復活が承認された。
リリアン鉱 / Lillianite
リリアン鉱 / Lillianite
Pb3-2xAgxBi2+xS6
栃木県日光市足尾銅山
リリアン鉱は鉛(Pb)とビスマス(Bi)からなる硫化鉱物で、その端成分はPbS : Bi2S3 = 3 : 1の割合となる。ただし天然ではグスタフ鉱(Gustavite: AgPbBi3S6)と一部固溶体を形成することが多く、簡単に言うと多くの場合で少量の銀(Ag)成分を含むのがリリアン鉱の特徴といえる。形状としては板状から棒状と一方向に延びた黒光りする金属という印象で、近縁鉱物のグスタフ鉱、ガレノビスマス鉱(Galenobismutite)、ヘイロフスキー鉱(Heyrovskýite)などとは見た目が酷似し、反射顕微鏡でも区別が非常に難しいため、同定には分析が必須となる。栃木県足尾銅山ではこれまでリリアン鉱の産出は知られていなかったが、2021年になってオーストラリアの研究者がその産出を報告した。写真の標本は足尾銅山のリリアン鉱となる。リリアン鉱は生野鉱に突き刺さる小さな棒状の結晶として、また無垢のリリアン鉱からなる青光りする脈状塊として産出する。このような産状は先行研究の報告と大きく異なっており、詳細はいずれ報告されると聞いている。
ナマンシル輝石 / Namansilite
ナマンシル輝石 / Namansilite
NaMn3+Si2O6
大分県佐伯市下払鉱山
ナマンシル輝石はエジリン輝石の三価マンガン(Mn3+)置換体に相当する輝石族の鉱物で、その化学組成が命名の由来となった。下払鉱山のナマンシル輝石は肉眼的なサイズに成長することはなく、光学顕微鏡はおろか電子顕微鏡でさえその姿を捉えることは簡単ではない。しかし、ナマンシル輝石は色の主張が極めて強い鉱物であり、ナマンシル輝石を含むチャートは典型的に紫色から赤紫色に染まるため、姿かたちが見えなくともいるということはすぐわかる。下払鉱山はナマンシル輝石をはじめ、宮久石(Miyahisaite)、キュムリ石(Cymrite)、ストラコフ石(Strakhovite)、ネールベンソン石(Noelbensonite)、マンガンチェルキアラ石(Cerchiaraite-(Mn))など世界的にも産出が稀な鉱物が極めて微細ながらも目白押しで産出する。このような珍しい共生鉱物はナマンシル輝石の模式地であるロシアのIr-Nimiマンガン鉱床や、イタリアのCerchiara鉱山も共通する。
エジリン輝石 / Aegirine
福島県いわき市御斎所鉱山
エジリン輝石 / Aegirine
NaFe3+Si2O6
エジリン輝石はかつて錐輝石(きりきせき)と呼ばれたことがあり、黒色から緑色または褐色の柱状結晶の端が錐のようにスッと尖る姿からつけられた。しかしその名称は海外産のごく一部の標本に由来したものであって、実際に日本産の標本ではその姿はまずお目にかかることがない。そのためここではエジリン輝石を用いる。日本で最も一般的なエジリン輝石の標本というと、福島県御斎所鉱山や岩手県田野畑鉱山で見られる褐色の塊状もしくは粒状の集合体であろう。そのほか愛媛県岩城島では曹長石岩中でエジリン輝石は濃緑色の粒状集合として見られ、鹿児島県薩摩硫黄島では極微細な柱状結晶が火山噴出物中の隙間に成長している。またこれは世界的にもかなり珍しい例だが、愛媛県上須戒鉱山からは無色透明の針状結晶が繊維状に集合した姿で産出したことがある。エジリン輝石の模式地が海辺にあったため、Aegirineという学名は北欧神話の海の神(Aegir)にちなみ1834年に名付けられた。ただしそれに先だって1827年に同じ鉱物が槍の先という意味のギリシア語にちなんだAcmiteの名称で記載されている。この場合だとAcmiteのほうに命名の優先順位がありそうだが、Acmiteは角閃石として、Aegirineは輝石として記載されていた。そして結果的にこの鉱物は輝石であったために、Aegirineのほうが正式な学名として後世に伝わることになった。
エジリン普通輝石 / Aegirine-augite
エジリン普通輝石 / Aegirine-augite
(Ca,Na)(Fe3+,Mg,Fe2+)Si2O6
東京都青ヶ島湯浜
エジリン普通輝石はエジリン輝石(Aegirine)と普通輝石(Augite)の中間的な化学組成を有する単斜輝石であり、端成分を持たないものの輝石族命名規約によって独立種の立場が認められている。一般には安山岩やアルカリ火山岩の副成分鉱物として産出し、存在そのものは造岩鉱物であるがゆえに珍しくはないが、鉱物標本として手に取って見えるエジリン普通輝石は世界的に極めて稀とされている。日本産ではこれまで見たことがなかったが、最近になって標本としてのエジリン普通輝石を得る機会に恵まれた。東京都青ヶ島から採集された安山岩において、その空隙に褐色透明な板状の結晶がたくさん成長していた。岩石内部には存在せず空隙にのみ自形で成長するという産状から、火山昇華物として生成したと思われる。
マンガノマンガニアンガレッティ閃石 / Mangano-mangani-ungarettiite
マンガノマンガニアンガレッティ閃石 / Mangano-mangani-ungarettiite
NaNa2(Mn2+2Mn3+3)Si8O22O2
岩手県田野畑村田野畑鉱山
岩手県田野畑鉱山から産出する赤黒い角閃石は神津閃石だと言われてきたが、調べてみるとそれは神津閃石ではない別のいくつかの角閃石であった。赤黒い角閃石をならべて比べてみると色の違いがあることに気づくだろう。赤が強調されるのはリヒター閃石であったが、中にはほとんど真っ黒に近い角閃石があり、それがマンガノマンガニアンガレッティ閃石となる。100種類以上もある角閃石超族の中にあって三価マンガン(Mn3+)を主成分とする角閃石はマンガノマンガニアンガレッティ閃石だけという稀少さである。マンガノマンガニアンガレッティ閃石は1994年にHoskins鉱山(オーストラリア)から見出された角閃石であるが、田野畑鉱山の標本は神津閃石と思いこまれてずいぶん早くから広く出回っていたことになる。根源名はPvia大学(イタリア)で鉱物学の教授を務めたLuciano Ungaretti (1942-2001)にちなむ。
パイロクロア族 / Pyrochlore group
福島県田村市羽山岳
酸化灰パイロクロア / Oxycalciopyrochlore
Ca2Nb2O6O
水酸灰パイロクロア / Hydroxycalciopyrochlore
(Ca,Na,U,□)2(Nb,Ti)2O6(OH)
パイロクロア超族はA2B2X6Yという一般式において、パイロクロア族(B = Nb5+, X = O)、マイクロ石族(B = Ta5+, X = O)、ベタフォ石族(B = Ti4+, X = O)、エルスモア石族(B = W6+, X = O)、ローメ石族(B = Sb5+, X = O)、ラルストン石族(B = Al3+, X = F)、コウルセリ石族(B = Mg2+, X = F)から構成される。その名が示すようにパイロクロア族は超族の筆頭となる族で、いまのところ11種のメンバーで構成されているものの、個々の種は見た目では判別できない。いずれもペグマタイトで典型的に産出するが、パイロクロア族は日本ではお目にかかる機会は非常に少なく産地は限られる。全般的に副成分に富み、放射性元素を持つことも多いためにメタミクト状態であることもしばしば。そのような結晶の断面は油脂光沢を示す貝殻状となる。結晶は八面体を典型とするものの不定形な塊状で産出することもまた多い。色は結晶性と関連があるようで、褐色だと結晶構造が残っている場合があるが、黒色だとほとんど非晶質となっている。根源名は加熱によって緑色となることから、火および緑色を示すギリシア語が由来となっている。全体の学名は各結晶学的席の内容をもとに決定されるものの、塁帯構造があることが多く、一つの結晶内で異なる種が出現することも稀ではない。たとえば出雲鉱山の結晶は酸化灰パイロクロアと水酸灰パイロクロアが半々ほどで構成されている。
グレイ石 / Grayite
グレイ石 / Grayite
(Th,Pb,Ca)(PO4)·H2O
福島県郡山市愛宕山
グレイ石はラブドフェン族の一員となる含水のリン酸塩鉱物で、モナズ石などトリウム(Th)を少量含む鉱物の変質によって生じる。日本では福島県愛宕山のペグマタイトから産出が報告されたのが最初で、元鉱物の外形がそのままグレイ石に置き換わった産状で出現した。白色から淡黄色の微粉末集合体となっている。世界的には結晶として産出することがあるようだが、残念ながら日本では見られない。学名は鉱山エンジニアでイギリス原子力庁の顧問をつとめたAnton Grayにちなむ。
イットリウムイットリア石 / Yttrialite-(Y)
イットリウムイットリア石 / Yttrialite-(Y)
Y2Si2O7
福島県川俣町飯坂水晶山
現状、日本でイットリア石(Yttrialite)というとそれは希土類元素のイットリウム(Y)を主成分とすることから名付けられたケイ酸塩鉱物を指す。ただし、世界ではYttriaiteという名称の鉱物(Y2O3組成)が存在しており、この鉱物は日本ではまだ産出がないが、今後に日本から産出した際はお互いの和名を再考する必要が出てきそうである。ともかくイットリア石(Yttrialite)は日本では水晶山の標本が古くから知られている。希元素鉱物の典型的な産状であり、放射能焼けした赤色の長石と黒雲母の境界近くに貝殻状断口を示す塊状として産出する。イットリア石はガラス光沢で暗緑色を帯びる特徴がある。
イットリウムヘランド石 / Hellandite-(Y)
イットリウムヘランド石 / Hellandite-(Y)
(Ca,REE)4Y2Al□2(B4Si4O22)(OH)2
福島県田村市羽山岳
イットリウムヘランド石はイットリウム(Y)とホウ素(B)を主成分に持つ珍しいケイ酸塩鉱物で、産出はほとんどヨーロッパ(特にノルウェー)に偏る。日本でも少ないながら産出が知られており、岐阜県蛭川や宮崎県大崩山から報告があり、福島県羽山岳の標本を調べる中でも見つかった。羽山岳の標本はペグマタイト中に赤褐色でガラス光沢を示すへき開性の弱い板状結晶として産出し、周囲には(なぜか)砒鉄鉱が散らばっていた。根源名はオスロ大学(ノルウェー)で地質学の教授を務めたAmund Theodor Helland(1846-1918)にちなむ。
ネオジム灰アンキル石 / Calcioancylite-(Nd)
ネオジム灰アンキル石 / Calcioancylite-(Nd)
Nd2.8Ca1.2(CO3)4(OH)3·H2O
福島県川俣町飯坂水晶山
アンキル石族の鉱物はしばしば丸まった集合体として産出することから、曲がるを意味するギリシア語が根源名の由来となっている。日本においては佐賀のタマちゃんとして知られたピンク色球状の(いわゆる)弘三石がアンキル石族だと言われるとその名の由来がしっくりくるだろう。ネオジム灰アンキル石はネオジム弘三石のカルシウム(Ca)置換体に相当し、福島県水晶山の標本から見いだされた。ただし名前の由来となったような丸みは感じられず黄土色の八面体結晶として産出する。
イットリウム褐簾石 / Allanite-(Y)
福島県川俣町飯坂水晶山
イットリウム褐簾石 / Allanite-(Y)
CaY(Al2Fe2+)[Si2O7][SiO4]O(OH)
褐簾石は緑簾石超族の一員で、二価鉄(Fe2+)と希土類元素(Rare earth element)を主成分とする。支配的となる希土類元素の種類によって鉱物種が分けられており、イットリウム(Y)を主成分とする種がイットリウム褐簾石となる。褐簾石はほとんどの場合でセリウム褐簾石となるため、それ以外の元素が主成分となることは大変珍しく、イットリウム褐簾石も産出が稀な鉱物である。塁帯構造の一部としてではなく一つの結晶がまるまるイットリウム褐簾石である産地は、日本では福島県水晶山と三重県宗利谷くらいであろう。イットリウム褐簾石は緑色が強く出ており、名前の由来になっている褐色はほとんど感じられない。水晶山では透明なイットリウムヒンガン石を、宗利谷では苦土ローランド石を密接に伴う。根源名は銀行家であり鉱物学者であるThomas Allan (1777-1833)にちなむ。
プッチャー石 / Pucherite
プッチャー石 / Pucherite
Bi(VO4)
福島県石川町字和久新房鉱床
プッチャー石はビスマス(Bi)のバナジウム酸塩鉱物で、Wolfgang Maaßen鉱山(ドイツ)のPucher坑から産出したことにちなんで名称が与えられた。結晶形には多くの形態が知られるものの、赤褐色を示すことはどの産地も共通している。産出頻度として世界的に見るとまあまあ稀なほうであり、日本に限れば福島県和久からしか産出が知られていない相当な稀産鉱物である。和久のプッチャー石は明るい橙色の板状結晶として石英や長石の裂傷に張り付くように産出し、しばしば放射状に集合する。
バベノ石 / Bavenite
バベノ石 / Bavenite
Ca4Be2+xAl2-xSi9O26-x(OH)2+x (x = 0 to 1)
福島県郡山市田村町手代木字東山
バベノ石はベリリウム(Be)を主成分に持つケイ酸塩の二次鉱物であり、金緑石を伴うペグマタイトにしばしば出現する鉱物として知られている。しかしながら日本では金緑石の産出自体が非常に稀であるため、必然的にバベノ石の産出も非常に稀となっている。手代木においてバベノ石は無色透明の板状結晶として石英の裂傷に産出し、わさっと集合した姿はガラス光沢のある白色を示す。学名は模式地があるBaveno(イタリア)から。
金緑石 / Chrysoberyl
福島県郡山市手代木字東山
金緑石 / Chrysoberyl
BeAl2O4
金緑石はベリリウム(Be)とアルミニウム(Al)からなる酸化鉱物で、主にペグマタイトから産出する。世界的にはとくにめずらしいわけではないが日本では産地が限られる。緑色を基本として黄色を帯びることがあり、その結晶は六角板状やそれが一方向に延びた板状になる。海外では双晶を形成して星形になった標本や、少量のクロム(Cr)を固溶して光源によって変色する金緑石が知られている。六角板状に結晶化したベリル(緑柱石)とは区別しがたいことがあり、学名は黄金色およびベリルを意味するギリシア語に由来する。
(苦土)フォイット電気石 / (Magnesio-)Foitite
宮崎県日之影町乙ヶ淵鉱山
フォイット電気石 / Foitite
□(Fe2+2Al)Al6(Si6O18)(BO3)3(OH)3(OH)
苦土フォイット電気石 / Magnesio-foitite
□(Mg2Al)Al6(Si6O18)(BO3)3(OH)3(OH)
電気石にはナトリウム(Na)やカルシウム(Ca)で満たされる結晶学的席があるが、いわゆるフォイット電気石はその席が空隙となっている。二価鉄(Fe2+)を主成分とするフォイット電気石とマグネシウム(Mg)を主成分とする苦土フォイット電気石が知られ、後者は日本産の新鉱物として誕生した。これらは大きな結晶として成長する例は見たことがなく、いつも微細な針状結晶として産出する。電気石は透明感があるすがすがしい結晶であってもその中身は塁帯構造となっていることがほとんどで、それはフォイット電気石もまた例外ではない。塁帯構造の規模は産地によってまちまちで、乙ヶ淵鉱山や京ノ沢では塁帯構造は小さく種をまたぐことはあまりない。それぞれ、フォイット電気石と苦土フォイット電気石であった。また月形鉱山の標本は当初は苦土電気石として掲載していたが、指摘を受けて調べたところフォイット電気石と苦土フォイット電気石からなっていた。結晶の根っこや中心部が苦土フォイット電気石で、先端や外周がフォイット電気石となっている。根源名はワシントン州立大学の鉱物学者のFranklin F. Foit, Jr. (b. 1942)にちなんで名づけられた。
アフテンスク鉱 / Akhtenskite
アフテンスク鉱 / Akhtenskite
MnO2
岩手県洋野町舟子沢鉱山
アフテンスク鉱はマンガン(Mn)の二酸化鉱物の一つで、ラムスデル鉱とパイロリュース鉱とは同質異像関係にある。この三種の中でもっとも稀な鉱物がアフテンスク鉱となり、発見された年代も最も新しい。南ウラル山地(ロシア)のAkhtensk鉄マンガン鉱床から報告され、発見地にちなんで名づけられた。日本でも産出が報告されているがその標本を見たことがなかったので、舟子沢鉱山の標本が私にとっての初見となるアフテンスク鉱である。褐鉄鉱に覆われた褐色の仏頭状集合体の内部が真っ黒で緻密な塊となっており、パイロリュース鉱だとおもったが念のために調べたところアフテンスク鉱ばかりが検出された。アフテンスク鉱はいまのところ世界的にも稀産な鉱物であるが、それはわざわざ調べていないだけのことなのかもしれない。
日本式双晶 / Japanese law twin
群馬県南牧村三ツ岩岳
いわゆる双晶とは複数の同種の結晶が一定の規則性の元で接合してひとつの個体となったもので、ざっくりと貫入型と接触型がある。そして水晶(石英)の双晶でもっとも有名となっているのが日本式双晶であり、二つの平板状の結晶がV字型や扇形を成す姿で現れる。見た目で区別は困難だが貫入型と接触型の両方があり、高温石英相からの相転移による双晶ドメインが種となって低温石英相が成長すると陥入型の日本式双晶となり、低温石英相のまま日本式双晶が形成されると接触型になるとされる。接触型の日本式双晶の理想型はY字型だと聞いたことがある。
トベルモリ石 / Tobermorite
トベルモリ石 / Tobermorite
Ca4Si6O17(H2O2)·(Ca·3H2O)
岡山県高梁市備中町布賀鉱山四番坑
トベルモリ石は1882年に記載されたカルシウム(Ca)を主成分とする含水ケイ酸塩鉱物で、1960年代までに14Å、12.6Å、11.3Å、10Å、9.3ÅのX線回折を示すトベルモリ石が報告された。それぞれは「XXÅトベルモリ石」と呼ばれて研究が続けられ、今となってはそれぞれ鉱物名が決まり、14Å:プロンビエル石(Plombierite)、11.3Å:トベルモリ石(Tobermorite)もしくは単斜トベルモリ石(Clinotobermorite)、10Å:大江石(Oyelite)、9.3Å:リバーサイド石(Riversidite)の対応となっている。これらはトベルモリ石超族としてまとめられ、最近になり11.3Åにケノトベルモリ石(Kenotobermorite)とパラトベルモリ石(Paratobermorite)がさらに加わっている。大変困ったことにこれらを見た目でこれらを分けることは不可能で、いずれも白い繊維状の結晶としてスカルンなどに生じ、放射状から脈状に集合することが非常に多い。学名は模式地であるスコットランドのマル島、Tobermoryにちなむ。
アダム石 / Adamite
アダム石 / Adamite
Zn2(AsO4)(OH)
広島県尾道市生口島瀬戸田町林
アダム石はオリーブ銅鉱の亜鉛(Zn)置換体となる鉱物で、銅の酸化帯に二次鉱物として生じる。不純物を含まない場合は無色透明であるが、しばしば少々の不純物を含み、色は黄色、赤色、緑色、青色などさまざまな色彩を示す。結晶形状も多様で、針~棒状や八面体が知られている。ただし多くは放射状の集合体として産出する。生口島では緑~青色を示す放射状の集合体で産出した。学名はフランスの鉱物コレクターであったGilbert Joseph Adam(1795-1881)にちなむ。個人のコレクション一覧が後に書籍としてまとめられるほどのリッチな鉱物収集家であった。
イットリウムサマルスキー石 / Samarskite-(Y)
イットリウムサマルスキー石 / Samarskite-(Y)
YFe3+Nb2O8
福島県石川町和久
イットリウムサマルスキー石は19世紀に見いだされた古典鉱物の一種で、ロシア鉱山技師団の参謀長であったVasilii Yevgrafovich Samarskii-Bykhovets大佐(1803-1870)にちなんで命名された。そしてこの鉱物から見出された新しい希土類元素にサマリウム(Sm)の名称が与えられた。日本でも海外でも、黒色の板状から角柱状結晶でペグマタイトから産出する。放射性元素をほぼかならず含むことからメタミクト化していることがほとんどで、そのせいで長いあいだ結晶構造が決まらなかった。イットリウムサマルスキー石の結晶構造と理想化学組成が解明されたのはつい最近の2019年であった。そして日本産新鉱物である石川石(Ishikawaite: U4+Fe2+Nb2O8)もまた同構造であることが確認されている。
イットリウムテンゲル石 / Tengerite-(Y)
イットリウムテンゲル石 / Tengerite-(Y)
Y2(CO3)3·2-3H2O
佐賀県唐津市肥前町満越
東松浦玄武岩中で第五期の玄武岩は希土類元素に富む特徴を持っており、その小晶洞にイットリウムテンゲル石をはじめとした関連鉱物(ロッカ石、木村石、肥前石)が産出することが知られる。これらは似た外観となり、おおむね白色で強い真珠光沢を示し、箔状の結晶が放射状に集合する。とりわけイットリウムテンゲル石とイットリウム木村石はお互い非常によく似た集合となる。肉眼での区別は不可能に思われるが、やすやすとそれをやってのける愛石家もいる。学名は19世紀にスウェーデンの化学者C. Tengerにちなんで命名された。しかしその模式標本はイットリウムロッカ石であることが判明し、スミソニアン博物館に保管されていた別の標本がテンゲル石の新たな模式標本となった。
ジャクスディートリッヒ石 / Jacquesdietrichite
ジャクスディートリッヒ石 / Jacquesdietrichite
Cu2BO(OH)5
岡山県高梁市備中町布賀鉱山4番坑
ジャクスディートリッヒ石はフランスの地質学者・鉱物学者であるJacques Emile Dietrich(1926-2009)にちなんで命名された。Dietrichが1967年に標本を採集し、木箱に入れられたままになっていたが、2000年頃にようやく開封したところ青い結晶に気づいたことが発見の経緯になっている。ジャクスディートリッヒ石は銅を主成分とする含水ホウ酸塩鉱物で、岡山県布賀鉱山では青くもこもこした集合体として産出するが、個々の結晶は非常に微細ながらも柱状となっている。模式地(モロッコ)のほかは布賀鉱山しか産出がないという非常に稀な鉱物でもある。
シベリア石 / Sibirskite
シベリア石 / Sibirskite
CaH(BO3)
岡山県高梁市備中町布賀鉱山4番坑
シベリア石は含水のホウ酸塩鉱物で、ロシア領内のハカス共和国を模式地とし、産地がシベリア地方に該当することから学名が定まった。かなり稀な鉱物で、ロシア内に二箇所の産地があるほかは岡山県布賀鉱山しか産出が知られていない。布賀鉱山においてシベリア石は顕微鏡サイズの角柱状結晶が密に集合した姿で産出し、箇所によってはすこしふわっとした印象を受ける。日本産新鉱物のパラシベリア石とは同質異像の関係にあり、シベリア石のほうが高温安定相となっている。
濁沸石 / Laumontite
静岡県伊豆市土肥大洞林道
濁沸石 / Laumontite
CaAl2Si4O12·4H2O
濁沸石はその名が示すように沸石族の一員であり、その中でもひときわ不安定な種類といえる。通常、沸石に含まれる水分子は過熱しなければ構造の外に出ていかないが、濁沸石については空気中に放置するだけで水分子が抜けて白濁化し、ボロボロになってしまう。それ故の和名となっているが、学名はフランスの鉱山監察官だったFrancois Pierre Nicolas Gillet de Laumont(1747-1834)にちなむ。Laumontは鉱物愛好家でもあったようで、濁沸石の最初の発見者とも伝わる。新鮮な状態だとその結晶は無色透明な四角柱状で、先端が一方向にスパッとおちる形状となる。
ネオジムランタン石 / Lanthanite-(Nd)
ネオジムランタン石 / Lanthanite-(Nd)
Nd2(CO3)3·8H2O
佐賀県唐津市肥前町満越
ネオジムランタン石は希土類元素のネオジム(Nd)を主成分とするランタン石であり、ブラジルを模式地とする。日本でも産出が確認されており、東松浦玄武岩からのネオジムランタン石が著名である。薄板状結晶で玄武岩中の小晶洞に産出し、太陽光など演色性に富む光源下ではピンク色を呈する。ランタン石は希土類元素のランタン(La)を主成分にすることから名付けられた鉱物であったが、後世の研究でその模式標本はランタンではなくセリウム(Ce)種であることが明らかとなった。そのため当初の名付けの意味は霧散してしまっている。
針銀鉱 / Acanthite
静岡県河津町菖蒲沢
針銀鉱 / Acanthite
Ag2S
針銀鉱は銀(Ag)と硫黄(S)からなるカルコゲナイド鉱物で、組成的にはナウマン鉱の硫黄置換体に相当する。針銀鉱もまた浅熱水性の金銀鉱床においていわゆる銀黒鉱の主要構成鉱物をなす。針状の結晶として産出したことが名前の由来で、学名は針もしくはとげを意味するギリシア語に基づいている。一方で針銀鉱は必ずしも針状ではなく、ころっとしていることも非常に多い。Ag2Sは177℃以上の温度では立方晶相が安定であるものの、それ以下の温度では単斜晶相(針銀鉱)となる。そのため、ころっとした針銀鉱を見かけたらそれは生成時に177℃以上の環境にあったと推定できる。X線結晶学が未発達の時代はこのようなコロコロした針銀鉱の結晶を輝銀鉱(Argentite)と呼び、独立の鉱物と扱っていた。
ナウマン鉱 / Naumannite
北海道枝幸町歌登鉱山
ナウマン鉱 / Naumannite
Ag2Se
ナウマン鉱は銀(Ag)とセレン(Se)からなるカルコゲナイド鉱物で、浅熱水性の金銀鉱床においていわゆる銀黒鉱の主要構成鉱物をなす。基本的に黒色で不定形な微小粒として産出するため、同様の形態となる針銀鉱やヘッス鉱とは肉眼的に区別は不可能。ナウマン鉱は物質的には128℃以下で生じる直方晶系のベータ型Ag2Seに相当するが、天然環境においてはおそらくそれ以上の温度で生じる立方晶系のアルファ型として結晶化した後にベータ型に転移するのだと思われる。初めからベータ型として結晶化させるとナウマン鉱は棒状に伸びた結晶となる。またナウマン鉱は酸化的な熱水脈に生じることが多く、端成分にちかいナウマン鉱はエレクトラム以外の共生鉱物をあまり伴わないことが知られている。学名はドイツ人鉱物学者であるGeorg Amadeus Carl Friedrich Naumann (1797–1873)にちなむ。
ウィレムス石 / Willemseite
ウィレムス石 / Willemseite
Ni3Si4O10(OH)2
長野県辰野町浜横川鉱山
ウィレムス石は葉ろう石-滑石族の一員となる鉱物で、滑石からみてマグネシウム(Mg)をニッケル(Ni)に置き換えた化学組成をもつ。浜横川鉱山ではバラ輝石を主体とした(浜横川としては)低品位の鉱石中に産出し、ぱっと見は緑色の小さなシミであったが拡大するとペラペラな板状結晶が積み重なった集合体であった。その姿かたちは色を除けば滑石によく似ている。南アフリカのBon Accordニッケル鉱床を模式地とし、当地の地質学者であるJohannes Willemse (1909-1967)にちなんで名づけられた。
ポリジム鉱 / Polydymite
ポリジム鉱 / Polydymite
Ni3S4
三重県鳥羽市菅島
ポリジム鉱はニッケル(Ni)の硫化鉱物であり、スピネル超族に分類される。化学組成の近いビオラル鉱と共存すると思われがちだが、予想外に共存することなく同じ産地でも別々に産出する。菅島の場合では外観もそれぞれ異なっており、ビオラル鉱が紫色を帯びるのに対し、ポリジム鉱は紫色をほとんど感じることのない黒色を示すため見た目で区別できる。塊状であるこの標本では観察できようもないが、双晶となることが非常に多いそうで、学名も双晶および多いという意味のギリシア語が由来となっている。
ビオラル鉱 / Violarite
ビオラル鉱 / Violarite
FeNi2S4
三重県鳥羽市菅島
ビオラル鉱はスピネル超族の一員となる硫化鉱物で、鉄(Fe)とニッケル(Ni)を主成分に持つ。世界的に産地は非常に多く日本でもあるところにはあるはずだが、その標本となるとそういえば見たことがないという鉱物でもあろう。写真の標本は三重県菅島から産出したビオラル鉱の標本であり、バイオレットグレイと称される独特の色合いが良く出ている。学名もまたその色合いが由来となっており、バイオレット(紫)のラテン語であるviolaが当てられた。外観に変化はないものの、組成的には端成分のものから鉄に富む傾向がある。一方でニッケルに富む方向へはまったく進まないようで、完全なニッケル置換体であるポリジム鉱と共存することはなかった。
レッドヒル石 / Leadhillite
レッドヒル石 / Leadhillite
Pb4(SO4)(CO3)2(OH)2
新潟県魚沼市入広瀬白板鉱山
レッドヒル石は鉱床の酸化帯に生じる鉛(Pb)を主成分とする二次鉱物で、硫酸基を有する炭酸塩鉱物に分類される。組成だけ見ると普遍的な鉱物に思えてしまうが、少なくとも日本ではあまり産地は多くない。白色からやや黄色を帯びた六角厚板状結晶が典型的な姿で、青鉛鉱やブロシャン銅鉱など鉛の二次鉱物を伴う。同質異像にマクファーソン石(Macphersonite)やスザン石(Susannite)があり、これらも同様の姿をとるため確実な鑑定には単結晶からのX線や電子線回折が必要となる。学名は模式地が属するLeadhills地域(スコットランド)にちなむ。
ヨルダン鉱 / Jordanite
青森県平川市碇ケ関湯ノ沢鉱山
ヨルダン鉱 / Jordanite
Pb14(As,Sb)6S23
ヨルダン鉱は鉛(Pb)とヒ素(As)の硫化鉱物であり、ジオクロン鉱のヒ素置換体に相当する。ジオクロン鉱は化学組成の錬金術的解釈からの命名であったが、ヨルダン鉱は医師であるHermann Jordan (1808-1887)にちなんで名付けられた。Jordanは研究のためにその標本を提供した人物だと伝わっている。ヨルダン鉱は日本では湯ノ沢鉱山がその産地として古くから知られている。湯ノ沢鉱山では鉛灰色の微粒子が塊状に集合した姿で産出することが多い。福井県剣岳鉱山では六角形の板状結晶が知られているが、ジオクロン鉱もまったく同じ姿で産出しかつ塁帯構造で共生することがあるので両方のラベルを書くことになろうか。
ジオクロン鉱 / Geocronite
ジオクロン鉱 / Geocronite
Pb14(Sb,As)6S23
福井県あわら市剣岳鉱山
ジオクロン鉱は鉛(Pb)とアンチモン(Sb)の硫化鉱物であり、その学名の由来はなかなか面白くて、化学組成の錬金術的解釈から生まれている。かつて錬金術は金属と天体を関連付けて考えていた。そして金-太陽、銀-月、水銀-水星、銅-金星、アンチモン-地球、鉄-火星、錫-木星、鉛-土星という関係から、アンチモン-地球(古代ギリシア語でGea)、鉛-土星(古代ギリシア語でChronos)にちなんでGeocroniteという名称が与えられた。スウェーデンで最初に発見され、日本でも産出が確認されている。剣岳鉱山において、ジオクロン鉱は六角形の板状結晶やその平行連晶で産出し、光加減によって黒色から銀色に見える。結晶は硫酸鉛鉱がうっすらまとわりつくと白っぽくなるが、破断面は非常に強く輝く。ヒ素置換体にヨルダン鉱があり、剣岳鉱山ではどちらも共通する姿で産出することを確認している。それらを区別するには分析するほかないので、一般には両方を記したラベルを作れば良いだろう。
福徳岡ノ場
奄美大島にたどり着いた軽石
2021年8月13日、福徳岡ノ場と呼ばれる海底火山が噴火した。そして今頃(2021年11月)になってその際に噴出した大量の軽石が海流に乗って1000km以上も離れた大東諸島、沖縄諸島、奄美諸島各地の海岸に漂着し、それぞれの浜辺の景観を一変させてしまった。そんな軽石に含まれる鉱物を観察してみた。写真の標本は奄美大島にたどり着いた軽石となる。ぱっと目に付く鉱物は輝石、長石、かんらん石。輝石は多くが自形結晶で産出し、組成を調べてみると多くが透輝石であり、普通輝石の領域にうっかり足を踏み入れるものもあった。長石はいわゆる中性長石で、福徳岡ノ場の近隣にある硫黄島から産出する中性長石(うずら石)とよく似た組成で、厳密には曹長石になる。うずら石はこうやって産出したのかとなるほど納得。かんらん石については目につく大きさの結晶は不定形で、組成的にはFo65程度とかなり鉄が多い。一方であまりに微細で肉眼的には見えないが、透輝石がかんらん石を内包することがあり、その場合だとFo90と鉄がすくない。微細な鉱物としてはほかにフッ素燐灰石と磁鉄鉱があった。また軽石の部分の組成は中性長石にけっこう近い内容だった。軽石は指でつぶしたり割ったりすることができ、小さな軽石を指先でぐりぐりもむだけで鉱物の結晶を取り出すことができる。
キミマン鉱 / Pyrochroite
キミマン鉱 / Pyrochroite
Mn2+(OH)2
長野県辰野町浜横川鉱山
キミマン鉱はブルース石の二価マンガン(Mn2+)置換体に相当する鉱物であり、その産地は多いとされるが、真の姿を見ることがなかなか難しい鉱物と思われる。鉱石を割った直後の新鮮な状態だと、キミマン鉱は真珠光沢をまとう無色透明の薄板状結晶で現れる。しかしこの姿は長くは続かない。2-3日もすれば褐色が目立つようになり、ファイトクネヒト鉱へ徐々に変質していく。加熱するとみるみる変色する。そして加熱によって色づくことから、火と着色を意味するギリシア語が学名の由来となっている。和名であるキミマン鉱は元は鉱石の名称だった。キミマン鉱は最高品位のマンガン鉱石に典型的に伴われる鉱物であり、そういった鉱石の色が穀物のキビに似ていたことから「きびマン」や「きみマン」と呼ばれ、それが後に鉱物の和名となった。
ファイトクネヒト鉱 / Feitknechtite
ファイトクネヒト鉱 / Feitknechtite
Mn3+O(OH)
長野県辰野町浜横川鉱山
ファイトクネヒト鉱は三価マンガン(Mn3+)の水酸化鉱物で、グラウト鉱や水マンガン鉱とは同質異像の関係にある。日本は世界的に産地が多い地域だと言われているが、標本としてのファイトクネヒト鉱が得られる産地は決して多くは無い。そのなかでも浜横川鉱山のファイトクネヒト鉱はわかりやすいように感じる。ハウスマン鉱を主体とした塊状鉱を割ると黒茶色で鱗片状の結晶集合が現れ、その断面は亜金属光沢を示す。しばしば緑マンガン鉱を伴い、産状的にも緑マンガン鉱やキミマン鉱の変質で生じたようにも見える。ファイトクネヒト鉱を合成しその諸性質を明らかにしたベルン大学(スイス)のWalter Feitknecht (1899-1975)にちなむ学名となっている。
燐銅ウラン石 / Torbernite
燐銅ウラン石 / Torbernite
Cu(UO2)2(PO4)2·12H2O
福島県川俣町房又鉱山
燐銅ウラン石は砒銅ウラン石の燐(P)置換体にあたる鉱物で、ペグマタイトやウラン(U)を含む鉱床の酸化帯に二次鉱物として生じる。緑色をおびた正方形の薄板として産出し、その姿は砒銅ウラン石と共通するため肉眼でこれらを見分けることはできない。そして外観をそのままに脱水してメタ燐銅ウラン石(Metatorbernite)という別の鉱物になることがある。結果的にウラン鉱床で緑の薄板状二鉱物を見かけると、ヒ素(P)か燐(P)か、さらには脱水の有無によって4種類の可能性があることになるが、ラベルには基本種を記せば良いだろう。写真の標本も脱水の有無までは確認していない。学名はスウェーデンの鉱物学者であるTorbern Olof Bergman (1735-1784)にちなみ、和名は化学組成による。
砒銅ウラン石 / Zeunerite
砒銅ウラン石 / Zeunerite
Cu(UO2)2(AsO4)2·12H2O
岡山県倉敷市三吉鉱山
砒銅ウラン石はヒ素(As)と銅(Cu)を主成分とするウラン(U)の二次鉱物で、ペグマタイトやウランを含む鉱床の酸化帯に生じる。緑色をおびた正方形の薄板が重なって産出する姿が一般的だが、その姿のまま脱水してメタ砒銅ウラン石(Metazeunerite)へ変質していることが多い。また、リン(P)置換体のリン銅ウラン石もまた同じ姿で産出するためこれらは肉眼的には区別が難しい。ウランの二次鉱物は蛍光を示すことが多いが、砒銅ウラン石は蛍光を示さない。和名はその主成分に由来し、漢字の「砒」を用いることが多い。学名はフライベルク(ドイツ)鉱山学校の校長だったGustav Anton Zeuner (1828-1907)にちなむ。
神津閃石 / Mangano-ferri-eckermannite
神津閃石 / Mangano-ferri-eckermannite
NaNa2(Mn2+4Fe3+)Si8O22(OH)2
岩手県田野畑村田野畑鉱山
神津閃石は苦土アルベソン閃石の二価マンガン置換体となる角閃石で、本来の学名は東北大学で岩石学・鉱物学の教授を務めた神津俶祐(こうづしゅくすけ)(1880-1955)にちなんだKozuliteであった。しかし、最新の命名ルールはエッケンルマン閃石を基準としており、そこから二価マンガン(Mn2+: Mangano)と三価鉄(Fe3+: Ferri)置換体ということでMangano-ferri-eckermanniteが現在の学名となっている。学名はどうにもならないが、この記事では和名については過去のまま神津閃石とする。ともかく神津閃石は写真に示したように橙色で角柱状の角閃石である。二価マンガンを多く含む苦土アルベソン閃石は橙色を呈し、その二価マンガンがあとほんのちょっと多くなってマグネシウム(Mg)を越えれば神津閃石になるのだから、外観の変化もほんのちょっとだけである。田野畑鉱山からは赤々黒々したが神津閃石だと言われてきたが、それを調べて神津閃石だったことは一度も経験していない。ではなにかと言われると、一つは三価マンガン(Mn3+)を含むリヒター閃石である。あといくつかあって、それらは解析的には結論は出ているものの物証が足りずの状態で止まっている。どうやら後世に託すことになりそうで、もうそろそろ学会発表くらいはしておこうと思う。
苦土アルベソン閃石 / Magnesio-arfvedsonite
岩手県軽米町小玉川鉱山
苦土アルベソン閃石 / Magnesio-arfvedsonite
NaNa2(Mg4Fe3+)Si8O22(OH)2
苦土アルベソン閃石はエッケルマン閃石からみて三価鉄(Fe3+)となる角閃石であり、最新の命名ルールを厳密に適用すればフェリエッケルマン閃石になるところであったが、アルベソン閃石の名称が岩石学を中心にすでに広く使用されているために今さら消すと混乱を招く恐れがあった。そのために例外的に過去のままの苦土アルベソン閃石という名乗りが許された。これも個人的な経験だが、苦土アルベソン閃石もまたマンガン鉱床ばかりで遭遇し、それ以外の産状ではまだ出会ったことがない。小玉川鉱山では繊維状結晶が片理に沿って並ぶ産状を示し、少量の二価マンガン(Mn2+)を含み橙色を帯びる。田野畑鉱山でも古くから産出が知られており、橙色の角柱状結晶としてセラン石や石英中に埋没しており、破断面はガラス光沢を示す。橙色の強い苦土アルベソン閃石は二価マンガン(Mn2+)を多く含み、あと一歩でマグネシウム(Mg)を上回るという結晶も少なくない。二価マンガンがマグネシウムを越えるとそれは神津閃石(Mangano-ferri-eckermannite)になる。学名はスウェーデンの科学者であったJohan August Arfvedson (1792-1841)にちなむ。
セラドン石 / Celadonite
セラドン石 / Celadonite
KMgFe3+Si4O10(OH)2
静岡県河津町やんだ
当初この記事を海緑石として書いていたが、それは勘違いでCeladoniteの和名はセランドン石であった。セラドン石は雲母族に入る鉱物であるが、その和名について雲母ではなく石で閉めることがすでに習慣になっている。堆積岩石中に薄く広く含まれることもあるが、濃集する例としては杏仁状組織で沸石を伴う安山岩や玄武岩において、杏仁状晶洞の壁にまとわりついていることが多い。河津町やんだでは玄武岩質溶岩中に発達する沸石脈に沿って、沸石と溶岩の境界にセラドン石が生じているためある程度大きな面で採集できる。しかしどういった産状でも目に見える結晶として産出する例を見たことはない。また、まとまって産出すると岩絵の具として利用されることもある。学名は「海の緑」を意味するフランス語に由来する。そのため和名は海緑石だとばかり思っていたが、カタカナ読みのセラドン石が広く使われていた。海緑石は固溶体であるGlauconiteに対し与えられた和名であり、今となってはGlauconiteの名称は正式な鉱物名として認められていない。しかし、学名の由来がそうだったこともあってけっこう長い期間かんちがいをしていた。文章にしたあとで調べなおして改めて気が付いた。
アヘイル石 / Aheylite
アヘイル石 / Aheylite
Fe2+Al6(PO4)4(OH)8·4H2O
静岡県下田市河津鉱山
アヘイル石はメリカ地質調査所のAllen V. Heyl (1918-2008)にちなんで名付けられた鉱物でトルコ石やファウスト石の二価鉄(Fe2+)置換体にあたる。世界的な稀産鉱物だが日本では産出があり、河津鉱山がその産地として知られる。石英脈の晶洞を満たすように生じるが、結晶形はまったく認められないガサガサした印象の集合体となる。表面が褐鉄鉱で汚れているのでわかりづらいが、破面において青灰色が観察できる。基本的にファウスト石も同じ産状を示すため、肉眼的に両者は区別できない。
ファウスト石 / Faustite
ファウスト石 / Faustite
ZnAl6(PO4)4(OH)8·4H2O
静岡県下田市河津鉱山
ファウスト石はトルコ石族の一員となる鉱物で、トルコ石の亜鉛置換体(Zn)に相当する。海外においてファウスト石はトルコ石と共存し、まとめて研磨されて宝飾品として扱われることがあるが、日本ではそのようなファウスト石は産出しない。いまのところ河津鉱山が唯一の産地で、粉を固めたようなぼそぼその印象を有する黄土色の集合体や被膜で産出する。またファウスト石の二価鉄(Fe2+)置換体にあたるアヘイル石も同じ環境と似たような外観で産出するため、この二つは肉眼で区別ができない。学名はアメリカ地質調査所の George Tobias Faust (1908-1985)にちなむ。
エメリー(コランダム岩) / Emery (Corundite)
大分県佐伯市木浦鉱山
エメリーはコランダム、鉄スピネル、磁鉄鉱(もしくはチタン鉄鉱)を主成分とする黒色で堅硬緻密な岩石のことで、ラテライトやボーキサイトのような高アルミニウム堆積物を原岩とする。それが続成作用に留まるとベルチェリンが主体の岩石が形成され、より高温高圧の変成作用を受けるとエメリーが生成する。エメリーはより具体的にはコランダム岩(Corundite)と称される。昭和30年代中頃までにほとんどの資源を掘り尽くした木浦鉱山にあったが、数万トンが見込まれるエメリー鉱床が発見された。当時エメリーは研磨材や耐火材として用途が開発されつつある新資源であり、昭和40年代から本格的に採掘が始まっている。その当時、木浦鉱山は日本で唯一のエメリーの産地であったが、後に小大下島でも見つかった。ただし小大下島では石灰岩を目的に採掘しており、エメリーは邪魔者扱いされ海岸にうち捨てられた。現在でも海岸にはエメリーが転がっている。英名はナクソス島(ギリシア)のEmeri岬にちなむ。エメリーの発見地だと伝わっている。
リヒター閃石 / Richterite
愛知県設楽町田口鉱山
リヒター閃石 / Richterite
Na(NaCa)Mg5Si8O22(OH)2
個人的な経験則としてリヒター閃石に遭遇するのはマンガン鉱床と相場が決まっているものの、見てわかるリヒター閃石は少ない。古くから産出が知られている田口鉱山では、リヒター閃石は黒緑色を呈し、板状に発達した劈開にガラス光沢がよく見える角閃石らしい角閃石である(訂正:これはリヒター閃石ではなくハーマー閃石だった)。これは前評判を聞いていたので納得したが他は予想外だった。ここでは舟小沢鉱山、古宮鉱山、田野畑鉱山からのリヒター閃石も掲載した。肉眼鑑定はお手上げである。特に田野畑鉱山は一見していわゆる神津閃石であるが、組成的にはこれもリヒター閃石におちつく。いわゆる神津閃石がいつもリヒター閃石であるとは限らないが、いわゆる神津閃石がほんとうに神津閃石だったことはとりあえず一度も経験していない。リヒター閃石の学名はフライベルク工科大学(ドイツ)の教授を務めたHieronymus Theodor Richter (1824-1989)にちなむ
硬石膏 / Anhydrite
硬石膏 / Anhydrite
CaSO4
大分県日田市中津江村鯛生金山
硬石膏は重晶石や天青石からみてカルシウム(Ca)置換体となる硫酸塩鉱物であり、石膏(Gypsum: CaSO4・2H2O)から水(H2O)を抜いた組成となる。そのため「水なし」を意味するギリシア語が学名の由来となっている。和名については石膏としばしば共存しながらもそれより硬いことからだと思われる。重晶石ほどではないが日本でも多くの産地がある。基本的には無色透明だが色づくことがあり、例えば鯛生金山からの硬石膏はやや薄紫であることが知られる。へき開が三方向もあって割れやすい。
重晶石 / Baryte
福島県猪苗代町沼尻鉱山
重晶石 / Baryte
BaSO4
重晶石は天青石や硬石膏からみてバリウム(Ba)置換体となる硫酸塩鉱物であり、熱水性金属鉱床やマンガン鉱床にはほぼ必ず伴われる普遍的な鉱物と言える。学名は重いという意味のギリシア語にもとづいており、和名もまた同様である。重晶石の主成分であるバリウムはストロンチウム(Sr)の1.5倍、カルシウム(Ca)の3.5倍と非常に重い元素であり、そのため大きな重晶石はずしりと重い。重晶石は基本的には無色透明だが様々な包有物によって色のバリエーションが多い。結晶も典型的には菱形の板状であるが、その板が太くなってコロコロした姿や犬牙状になることもある。また双晶も多く、重晶石は産地ごとに違った面構えがあっておもしろい。
天青石 / Celestine
島根県大社町鵜峠鉱山
天青石 / Celestine
SrSO4
天青石はストロンチウム(Sr)の硫酸塩鉱物であり、しばしば青色を呈する。その独特な青を空と見立てて、天を意味するギリシア語にもとづいて現在の学名が定まった。和名はそれを天青と解して読んだようだ。世界中に多くの産地が知られており、今となっては赤や緑を示す天青石も産出が認められている。一方、日本では産地が少ない。それでも古くから知られている産地に島根県鵜峠鉱山がある。そこでは天青石は黒鉱を横切る脈として産出し、淡い灰青色の繊維状結晶が束になった標本が知られている。福島県安積鉱山では石膏に埋没する産状で淡青色を示す束として産出した。天青石は重晶石や硬石膏とは同族となる。
ブライアンヤング石 / Brianyoungite
ブライアンヤング石 / Brianyoungite
Zn3CO3(OH)4
大阪府箕面市温泉町平尾旧坑
ブライアンヤング石はイギリス地質調査所の地質学者であるBrian Young (b. 1947)にちなんで名付けられた鉱物で、最初の研究試料を提供した人物でもある。新鉱物については発見者が自分の名前をつけることはできないルールであるが、厳密には「申請書や論文の著者に入れない(入ってはいけない)」ということであり、標本提供という重要な貢献であってもそれを著者として共有するかどうかの判断はまちまちである。ブライアンヤング石は透明から白色で頭が斜めに落ちた薄板状の結晶で産出し、それが放射状に集合することもある。亜鉛(Zn)の含水炭酸塩という単純な内容であるため世界的には産地は多いものの、日本では少ない。
正長石 / Orthoclase
愛媛県松山市才之原
正長石 / Orthoclase
K(AlSi3O8)
いわゆるカリ長石には微斜長石(Microcline)、正長石(Orthoclase)、サニディン(Sanidine)があり、これらはシリコン(Si)とアルミニウム(Al)の秩序状態によって種が分かれている。一方で鉱物の分類は本質が同じ構造であれば元素の秩序-無秩序で種を分けないことを原則としているので[1]、カリ長石は例外的な分類と思われる。それはともかくも、正長石は中程度に秩序化した構造を有するカリ長石であり、3種の中でもっとも広い分布をもつ。わかりやすい例として、花崗岩の斑晶として生じるカリ長石はほとんど正長石である。通常は大きくとも1-2cm程度であるが、屋久島では大きいものは20cmを越える。多くの場合で双晶を形成し、写真の標本はいずれもカルルスバット式双晶となっている。二方向に明瞭なへき開を示し、学名はその現象を意味するギリシア語に基づく。和名の由来は調べてもわからなかったが、想像するに斜長石(Plagioclase)への対義語としての正長石ではなかろうか。
[1] Nickel E.H., Grice J.D. (1998) The IMA commission on new minerals and mineral names: procedures and guidelines on mineral nomenclature, 1998. The Canadian Mineralogist, 36, 237-263.
フライポント石 / Fraipontite
フライポント石 / Fraipontite
(Zn,Al)3(Si,Al)2O5(OH)4
山口県美祢市喜多平鉱山浜の宮鉱床
フライポント石は粘土鉱物の一種で分類としてはカオリナイト-蛇紋石族の蛇紋石亜族に位置する。日本では喜多平鉱山から産出の報告があり、アロフェンやハロイサイトと共に水色から白色の土状集合体として産出し、そういった標本には所々に二酸化マンガンのシミが生じている。色と鉱物の量に相関があるとされ、水色部はアロフェンが多く、フライポント石を多く含む部分は白濁する。学名はJulien Jean Joseph Fraipont (1857-1910)およびCharles Marie Joseph Julien Fraipont (1883-1946)親子にちなむ。いずれもLiège大学(ベルギー)で古生物学の教授を務めた。
イットリウムフェルグソン石 / Fergusonite-(Y)
愛媛県今治市波方町馬刀潟
イットリウムフェルグソン石 / Fergusonite-(Y)
YNbO4
いわゆるフェルグソン石は希元素鉱物であり、主成分とする希土類元素によって種が細分される。これまでイットリウム(Y)を主成分とするフェルグソン石がもっとも広く産出し、産状としては温度の低いペグマタイトにほぼ限定される。黒色から茶褐色の棒錘形の結晶として産出し、赤色化した長石の断片をまとうことが多い。組成的にはトリウムやウランを含むことがほとんどであり、放射線により結晶構造は多くの場合で破壊されて非晶質となっている。βフェルグソン石とは同質異像の関係にあり、実験的には低温相(フェルグソン石)-高温相(βフェルグソン石)の対応となる。これらは結晶形状で見分けることができβフェルグソン石は板状で産出する。学名はイギリス人鉱物コレクターのRobert Ferguson (1769-1840)にちなむ。
自然硫黄 / Sulphur
北海道弟子屈町アトサヌプリ(硫黄山)
自然硫黄 / Sulphur
S
自然硫黄は天然で産出する硫黄(S)のことで、元素名と区別するため和名では「自然」の接頭語をつけて呼ぶ慣習となっている。火山国である日本において自然硫黄の産出は対して珍しくなく、さまざまな温泉地でもっともふつうにみられる鉱物であろう。温泉に沈殿していることや、噴気孔にも生じる。結晶成長が極めて速い鉱物であり、稜のみが急速に成長して面内や内部がスカスカな骸晶となりやすい。一方、粘土中でゆっくり成長すると大きな単結晶が得られる。精進川鉱山の自然硫黄は数cmの塊として産出し、一見して不定形な集合体にみえるが、光を透かして見ると単結晶であることがわかる。この単結晶は熱には非常に弱いそうで、寒い冬の日に凍えるような冷水を使って加工するのだと聞いた。硫黄の元素名(学名)は14世紀ごろには導入されたようだが、その由来は燃えやすい性質や色など諸説ある。和名の由来や定まった時期もまたたどることはできなかった。
フォンセン石 / Vonsenite
フォンセン石 / Vonsenite
Fe2+2Fe3+O2(BO3)
宮崎県日之影町千軒平鉱山
フォンセン石は二価鉄(Fe2+)と三価鉄(Fe3+)を主成分とした黒色のホウ酸塩鉱物で、大きめの結晶は亜金属光沢を示すものの、細い結晶やその集合は絹糸光沢を呈する。あまり見かける鉱物ではなく、特定のスカルンに集中して産出し、日本では釜石鉱山や千軒平鉱山が著名な産地と思われる。千軒平鉱山のフォンセン石はしばしばハルス石(Hulsite: (Fe2+,Mg)2(Fe3+,Sn)(BO3)O2)を塁帯構造で伴うことがあるが、見た目で区別はできないだろう。学名は鉱物コレクターのMagnus Vonsen (1880-1954)にちなむ。
アワルワ鉱 / Awaruite
高知県高知市岡豊
アワルワ鉱 / Awaruite
Ni3Fe
アワルワ鉱はニッケル(Ni)と鉄(Fe)からなる金属鉱物で、やや黄色みを帯びた金属として超苦鉄質岩およびそれが変質した蛇紋岩中に含まれる。産出はまれではあるが、見つからないということはない。しかし非常に微細であることが多く、こういった産状を写真で捉えることができたのは岡豊のアワルワ鉱だけだった。アワルワ鉱はニュージーランドのAwarua湾の砂鉱から見出されたことにより名付けられたが、後年になり260km以上離れたGorge川がその出所だったことが明らかとなっている。北海道白金川の砂鉱にもアワルワ鉱が含まれている。
単斜エンスタタイト / Clinoenstatite
単斜エンスタタイト / Clinoenstatite
MgSiO3
東京都小笠原村
単斜エンスタタイトはエンスタタイト(直方晶系)の単斜晶系多形となるために命名された鉱物で、石質隕石や地球の深部では主要構成鉱物をなすものの、地球上でとなるとなかなか見られない。その貴重な産地が小笠原村に知られており、無人岩(ボニナイト)と称される高マグネシウム安山岩の中に斑晶として、黄土色の破断面が絹糸光沢を帯びる単斜エンスタタイトが含まれる。無人岩は輝石に富むかんらん岩が含水条件下で部分融解して生じる特殊なマグマに由来するとされる。エンスタタイトを冠する鉱物にはもうひとつプロトエンスタタイトがあり、それは実験的には単斜エンスタタイトより低温で出現する相であるためちょっと期待して探したことがあるが、それは見つかっていない。
シャモス石 / Chamosite
シャモス石 / Chamosite
(Fe,Mg,Al)6(Si,Al)4O10(OH,O)8
秋田県大仙市協和荒川鉱山
シャモス石は緑泥石族の一員でクリノクロアの二価鉄(Fe2+)置換体に相当する鉱物で、クリノクロアに並んで普遍的に産出する。量の過多や質の程度を問わなければ産地はいたるところにあるが、標本としての産地だと秋田県荒川鉱山や宮田又鉱山がその代表になろうか。シャモス石は黄銅鉱を伴う石英脈に派生して生じ、深く濃い緑色の球から放射状集合として産出する。荒川鉱山の緑水晶は内部に微細なシャモス石が含まれることによって色づいている。学名は模式地であるChamoson(スイス)にちなむ。
ヒーズルウッド鉱 / Heazlewoodite
ヒーズルウッド鉱 / Heazlewoodite
Ni3S2
愛知県新城市中宇利鉱山
ヒーズルウッド鉱は超苦鉄質岩やそれを母岩にした金属鉱床にほぼ限定して出現する鉱物で、それ以外の産状はほぼ見られない。ほとんどの場合で不定形であり、新鮮な破断面はやや青みを帯びる金属光沢を示すが、時間がたつと黄色っぽくなる。日本では中宇利鉱山で大きめのヒーズルウッド鉱が産出することで知られている。写真は典型的な標本であり見るからに一様なヒーズルウッド鉱に思えたが、実は塁帯構造によって半分近くがコバルトペントランド鉱になっている。学名は発見地を含む地域であるHeazlewoodite地区(オーストラリア)にちなむ。
輝銅鉱 / Chalcocite
愛知県新城市中宇利鉱山
輝銅鉱 / Chalcocite
Cu2S
輝銅鉱は古くから銅(Cu)の重要な資源鉱物であり、古来より様々な名称で呼ばれてきたが、19世紀に今の学名が定まった。銅を意味するギリシア語(chalkos)がその由来となっている。輝銅鉱は日本でも産地は非常に多く、金属光沢を示す黒色塊として産出する。ただし金属光沢は風化によって失せるため、露頭ではただの黒色塊とみえる。中宇利鉱山では輝銅鉱の塊の中に方輝銅鉱(digenite: Cu9S5)が一部存在すると言われているが、それは誤認の可能性もあるだろう。輝銅鉱のX線回折を取るためにメノウ乳鉢でゴリゴリと丁寧に粉末にすると、輝銅鉱の一部は方輝銅鉱へ分解・相転移してしまうことが知られている。三崎の輝銅鉱にはコロラド鉱や金銀テルル化鉱物などが多く含まれている(ただし数μm程度)。
ラムスデル鉱 / Ramsdellite
ラムスデル鉱 / Ramsdellite
Mn4+O2
静岡県下田市寝姿山
ラムスデル鉱はMn4+O2の化学組成をもつ鉱物で、アフテンスク鉱とパイロリュース鉱とは同質異像の関係にあり、産出頻度はパイロリュース鉱 > ラムスデル鉱 > アフテンスク鉱の順になると思われる。いわゆる二酸化マンガンと称される真っ黒な鉱物を片端から分析する中で見つかった鉱物であるが、発見者であるミシガン大学のLewis Stephen Ramsdell (1895-1975)は特に名前を与えなかった。そして後年に再発見された際、他の研究者らが最初の発見者であるRamsdellの功績を称えて命名した経緯が知られている。日本では寝姿山のラムスデル鉱が古典標本として親しまれており、真っ黒な柱状結晶の柱面や破断面が白色に輝く、思いのほか美しい標本と思っている。
トロール石 / Trolleite
トロール石 / Trolleite
Al4(PO4)3(OH)3
山口県阿武町日ノ丸奈古鉱山
トロール石は世界的に見てけっこう稀な鉱物であり、一般に自形結晶は認められない鉱物として知られる。一方で日の丸奈古鉱山では半透明なそろばん玉状のトロール石の結晶が産出する。それはたしかにトロール石ではあるが、トロール石の対称性(単斜晶系)ではなかなか出ない晶癖であるため、なんらかの仮晶にも思われる。可能性としてはベルリン石や石英が考えられるがどうだろうか。トロール石にはしばしば内部に鉄天藍石が包有されるため、青みを帯びることが多い。学名はスウェーデンの化学者だったHans Gabriel Trolle-Wachtmeister (1782-1871)にちなむ。
ベルチェリン / Berthierine
高知県高知市土佐山桑尾
ベルチェリン / Berthierine
(Fe2+,Fe3+,Al)3(Si,Al)2O5(OH)4
ベルチェリンはフランスの化学者・鉱物学者であるPierre Berthier (1782-1861)にちなんで名付けられた鉱物で、いわゆる粘土鉱物の一種である。日本でもその産出が知られており、ラテライトやボーキサイト質の土壌が続成作用を被ることで生じる。写真に示したふたつの標本は暗緑黒色の岩石のほぼ全体が微細なベルチェリンで構成されており、桑尾のほうには多量のダイアスポアもまた含まれている。こういった岩石は裂傷には塩基アルミナ石が生じる。また、このベルチェリン(+ダイアスポア)岩がさらに変成作用を被ると堅硬緻密な岩石であるエメリーとなる。ベルチェ鉱(Berthierite)もまたPierre Berthierの名を冠する鉱物として知られるが、名前以外にベルチェリンとの関連は無い。
亜鉛孔雀石 / Rosasite
亜鉛孔雀石 / Rosasite
CuZnCO3(OH)2
静岡県下田市河津鉱山
亜鉛孔雀石は孔雀石に関連した結晶構造を有しており、また亜鉛(Zn)を主成分に含むことから亜鉛孔雀石の和名がついた。学名は模式地であるRosas鉱山(イタリア)から。亜鉛孔雀石は青みを帯びたモコモコとした集合体で出現することが一般的である。銅(Cu)と亜鉛を含む鉱床は日本でも多くあり、その酸化帯に普遍的な二次鉱物として産出してほしいものだが産地は多くない。日本では河津鉱山から最初に見いだされた。ただ、亜鉛孔雀石の銅をさらに亜鉛でおきかえた鉱物(Zincrosasite)が海外で知られている。それをそのまま和訳すると亜鉛亜鉛孔雀石になってしまうので、和名は今となってはカタカナ読みのローザ石としたほうが良いように思う。
アレガニー石 / Alleghanyite
アレガニー石 / Alleghanyite
Mn2+5(SiO4)2(OH)2
愛媛県伊方町三崎
アレガニー石はヒューム石族のマンガンヒューム石系列に属する鉱物で、マンガン(Mn)とケイ酸塩基(SiO4)と水酸基(OH)が5 : 2 : 2で構成される。近縁鉱物にはマンガンヒューム石と園石があり、それらはほぼ共通の外観で、組成的な違いも小さいので分析だけではなかなか区別が難しい。ただマンガンヒューム石系列の中ではアレガニー石が最も多産し、次いで園石が続く。同系列ではマンガンヒューム石がもっとも見かける機会が少ない。アレガニー石は赤から紫を帯びた褐色塊としてマンガン鉱石中によく見られる。ほとんどが微細粒で産出し、個体として識別できるような結晶は非常に稀。学名は模式地があるノースカロライナ州のAlleghany郡から。
カルグーリー鉱 / Kalgoorlieite
カルグーリー鉱 / Kalgoorlieite
As2Te3
北海道札幌市手稲区手稲鉱山
カルグーリー鉱はGolden Mile鉱山(オーストラリア)に近接する鉱山町であるKalgoorlie-Boulderにちなんで名付けられた鉱物で、ヒ素(As)とテルル(Te)からなる鉱物はこのカルグーリー鉱のみである。カルグーリー鉱としての命名は2016年だが、それ以前に手稲鉱山からは未命名の状態ですでに産出があることを聞いていた。よそから出るはずもないとのんびりやっている内に先を越され、慌ててデータを集めて翌2017年に学会で発表したという経緯がある。手稲鉱山では棒状に結晶化した自然テルルの周囲に微結晶としてカルグーリー鉱が伴われている。ぱっと見はどこにいるのかわからないが、切断面を作るとパラパラ伴われていることがわかる。一方でカルグーリー鉱をともなう自然テルルは今のところひとつの岩石からしか見つかっていないと聞いている。
セリウムチェフキン石 / Chevkinite-(Ce)
千葉県南房総市
セリウムチェフキン石 / Chevkinite-(Ce)
Ce4(Ti,Fe2+,Fe3+)5O8(Si2O7)2
チェフキン石の名称はロシアで鉱山技術者を務めたKonstantinVladimirovich Chevkin(1803-1875)にちなんでおり、セリウムチェフキン石は14種の関連鉱物を含めてチェフキン石族の筆頭となっている。たとえば松原石や蓮華石がチェフキン石族に含まれていると聞けば何となく親近感があるだろう。セリウムチェフキン石は日本では千葉県南房総市の凝灰岩と高知県足摺岬の閃長岩から産出が報告されている。いずれも黒色で、なんというかぬらっとした光沢を示す。へき開があってもよさそうな構造をしているが、実際には特に決まった方位は無く、不定形もしくは貝殻状に割れる。
擬孔雀石 / Pseudomalachite
三重県鳥羽市赤崎
擬孔雀石 / Pseudomalachite
Cu5(PO4)2(OH)4
擬孔雀石はその字面が示すように孔雀石と紛らわしいために名付けられた鉱物で、学名も同様の意味をもつ。実際はどうかというと、モノによるとしか言いようがない。皮膜状で産出した場合は紛らわしく感じることもあるが、擬孔雀石の集合は孔雀石よりもどこか青みがかる。組成的には擬孔雀石も孔雀石も銅(Cu)を主成分とする点で同じである。しかし、擬孔雀石と孔雀石はそれぞれリン酸塩鉱物と炭酸塩鉱物で、結晶構造もまったく異なっている。擬孔雀石が産出するようだと他のリン酸塩の二次鉱物が期待できる。大栗須ではランタンピータース石(Petersite-(La))という新鉱物が見つかった。
普通輝石 / Augite
宮城県蔵王町刈田岳
普通輝石 / Augite
(Ca,Mg,Fe)2Si2O6
普通輝石は安山岩からそれよりやや苦鉄質の火成岩の造岩鉱物として普遍的に含まれている輝石族の鉱物であり、その普遍性により普通輝石と和名がついている。学名のほうはへき開面が強い光沢を示すことに由来しており、輝くという意味のギリシア語が由来となっている。岩石標本は別として、鉱物標本としては分離結晶を探すのがなかなか楽しい。蔵王の御釜を望む刈田岳付近には、マグマ中で結晶化した普通輝石が噴火に伴って無数に散らばっているため、それが容易に採集できる。分離結晶が得られる産地は蔵王にかぎらず、特に長野県には多くの産地が知られている。
シーゲン鉱 / Siegenite
シーゲン鉱 / Siegenite
CoNi2S4
群馬県桐生市茂倉沢鉱山
シーゲン鉱はコバルト(Co)とニッケル(Ni)の硫化鉱物であり、スピネル超族の一員に分類される。一方でいわゆるスピネルのようにころころした八面体結晶になることは多くないため、いざ遭遇した時に判別できる自信はまったくない。マンガン鉱床やスカルンに生じることがあり、茂倉沢の標本では特にほかの共生鉱物を伴わずに板状のやや赤みをおびた金属塊としてバラ輝石に包まれていた。学名は模式地が含まれるSiegen地区(ドイツ)から。
ベトパクダル石 / Betpakdalite-CaCa
ベトパクダル石 / Betpakdalite-CaCa
[Ca2(H2O)17Ca(H2O)6][Mo6+8As5+2Fe3+3O36(OH)]
広島県生口島南生口鉱山
ベトパクダル石はカザフスタンのBetpakdala砂漠から見出された二次鉱物で、学名は模式地にちなむ。今となっては含まれる成分によって5種類に細分されており、日本ではカルシウム(Ca)に富む種のみ産出が知られている。ナミビアのツメブ鉱山からはベトパクダル石の肉眼的な八面体の結晶が産出することが知られているが、日本産地である生口島でも世界各国でもベトパクダル石は黄色の粉状集合体として産出する。吹けば飛ぶようなその地味な姿は全く目に留まらない。
ラベンダー石 / Lavendulan
広島県生口島南生口鉱山
ラベンダー石 / Lavendulan
NaCaCu5(AsO4)4Cl·5H2O
ラベンダー石の模式標本はラベンダーのような紫色を示していたことから、ラベンダー石と名付けられた二次鉱物であるが、後年になってその紫色は不純物の影響であることが明らかとなった。そして不純物の少ないラベンダー石はむしろスカイブルーと言えるほどの爽やかな青を示し、紫色などかすりもしない。つまり名づけの根拠を失ってしまった鉱物だが、名前はもはやどうしようないほどに流通している。日本産の標本では自形結晶は認められないがラベンダー石らしいスカイブルーがよく現われている。日本では生口島がながらく唯一の産地であったが、鹿児島県早崎鉱山からも産出することが明らかとなった。。
ケノ鉄銀四面銅鉱 / Kenoargentotetrahedrite-(Fe)
ケノ鉄銀四面銅鉱 / Kenoargentotetrahedrite-(Fe)
Ag6(Cu4Fe2)Sb4S12◻
兵庫県赤穂市坂越大泊鉱山
いわゆる銀四面銅鉱はもともとfreibergiteという名称で記載されたが、四面銅鉱族の命名規約の成立によって個別の鉱物名としては抹消になってしまった。今ではfreibergiteは族の名称になっている。一方で和名ではfreibergiteをそもそも銀四面銅鉱としていたので、和名が英訳されたかのような名称(argentotetrahedrite)に変更されたことについてむしろスムーズに受け入れられるだろう。ケノ鉄銀四面銅鉱はfreibergite族において、硫黄(S)が一つ欠損し、かつ鉄(Fe)を主成分とする鉱物である。大泊鉱山のいわゆる四面銅鉱を調べる中で見つかった、反射光に青みがおびる微小粒であった。
セリウム水酸バストネス石 / Hydroxylbastnäsite-(Ce)
セリウム水酸バストネス石 / Hydroxylbastnäsite-(Ce)
Ce(CO3)(OH)
福島県福島市飯坂町庭坂鳥川鉱山
ババストネス石はもともとスウェーデンのBastnäs鉱山で見つかったセリウムとフッ素(F)を主成分とする炭酸塩鉱物で、模式地にちなむ学名となっている。時代が下ると様々な置換関係が知られるようになり、今となってはバストネス石の名を冠する鉱物は合計8種類ある。セリウム水酸バストネス石はその名が示すようにセリウム(Ce)と水酸基(OH)に卓越する。海外では六角板状の結晶が知られているが、日本では褐簾石が変質して生じる粉末として産出することが一般的であろう。褐簾石が普遍的な鉱物であるために、その変質で生じるセリウム水酸バストネス石もまた稀ではないはずだが、その姿のためにおそらくだいぶ見落とされている。
ウイゼル石 / Wiserite
ウイゼル石 / Wiserite
Mn2+14(B2O5)4(OH)8·(Si,Mg)(O,OH)4Cl
埼玉県秩父市浦山広河原鉱山
ウイゼル石は淡黄色から橙色を呈する繊維状結晶として出現する鉱物で、スイスを模式としながらも海外では産出が非常にまれであり、産地はほとんど日本に集中している。一方で産出はややまれであり、サセックス石(Sussexite)をともなって岩石中に薄く広く含まれる場合も多いため、ぱっと見でわかるウイゼル石を見かける機会は多くない。学名はスイス人鉱物学者のDavid Friedrich Wiser (1802-1878)にちなむ。鉄鉱石ディーラーでもあったWiserは38歳で今でいうところのFIREを達成し、残りの人生を鉱物収集に捧げたと伝わる。
セピオ石 / Sepiolite
セピオ石 / Sepiolite
Mg4Si6O15(OH)2·6H2O
三重県いなべ市大安町石榑北山
セピオ石は絹糸光沢を示す非常に細い針状の結晶として生じ、それが無数に絡み合った姿で産出することが常である。その姿は毛皮のようにも見え、パリゴルスキー石などと共に「山皮(やまかわ)」とも称される。またそのパリゴルスキー石とは外観で区別することはできない。写真のセピオ石はスカルンから産出した。多孔質で軽いことがイカの甲と共通するため、イカを意味するギリシア語(セピオン)から学名が定まった。セピオ石と呼ばれるようになる以前にもいくつかの名称があったとされる。
白鉛鉱 / Cerussite
秋田県大仙市亀山盛鉱山
白鉛鉱 / Cerussite
Pb(CO3)
白鉛鉱は鉛(Pb)を含む鉱床の酸化帯でみられる鉱物で、鉛の二次鉱物としては最も普遍的な鉱物であろう。見ての通り光沢が白いことが特徴となっており、酸化された鉱石の空隙に板状結晶として生じる産状が一般的に思われる。白鉛鉱は粉末にしても絶妙な明るさと反射を示すことから、かつては白粉(おしろい)として顔料にも用いられた。そのため、白粉を意味するラテン語が学名の由来となっている。しかしこのような利用によって多くの鉛中毒が発生した負の側面がある。白鉛鉱は標本として愛でるだけにしておきたい。
フェロパーガス閃石 / Ferro-pargasite
フェロパーガス閃石 / Ferro-pargasite
NaCa2(Fe2+4Al)(Si6Al2)O22(OH)2
福岡県宮若市三ケ畑
フェロパーガス閃石はパーガス閃石の二価鉄(Fe2+)置換体となる角閃石である。じつは探していた角閃石でようやく出会えた。この角閃石はスカルン、それもアルミニウム(Al)に富むスカルンからでると思って調べていたが、鉄が多くなるとカリウム(K)また多くなってしまう傾向があった。結果的に友人が拾った石に普通に含まれており、みたところ斑レイ岩である。一部の例外を除いて、二価鉄が主成分である角閃石は学名にフェロを入れることが命名規約で決まっている。
フッ素エデン閃石 / Fluoro-edenite
フッ素エデン閃石 / Fluoro-edenite
NaCa2Mg5(Si7Al)O22F2
山口県下関市勝谷
フッ素エデン閃石はエデン閃石の水酸基(OH)をフッ素に置き換えた角閃石であり、これもまた独立の鉱物種として認められている。人工合成によって先にその組成が存在しうることが明らかとなり、次いで天然で見つかったという経緯がある。模式地はイタリアのCalvario山にあり、溶岩を母岩とする。自身の標本では下関市勝谷のアルカリ玄武岩中からフッ素エデン閃石が見つかった。透明感のある茶色の板状結晶が岩石中の空隙にすっと伸びている。フッ素を主成分とする角閃石の学名は、「Fluoro-」を頭に持ってくるルールが命名規約で定まっている。
フェロエデン閃石 / Ferro-edenite
フェロエデン閃石 / Ferro-edenite
NaCa2Fe2+5(Si7Al)O22(OH)2
三重県いなべ市大安町石榑南宇賀渓
フェロエデン閃石はエデン閃石の二価鉄(Fe2+)置換体に相当する角閃石で、エデン閃石と同じくスカルンなどのカルシウム(Ca)交代作用で現れる。ただ(フェロ)パーガス閃石も同じような環境で生じることが多いため、結局は分析してみないことにはわからない。手持ちの標本の中での比較に過ぎないが、宇賀渓のスカルンで生じたフェロエデン閃石はエデン閃石に比べてずっと濃い緑色を示し、ほとんど黒色に近かった。学名はエデン閃石の二価鉄(フェロ)置換体であるため。模式地はカナダのLa Tabatièreにあり、そこでは閃長岩を母岩としている。
エデン閃石 / Edenite
三重県鳥羽市菅島
エデン閃石 / Edenite
NaCa2Mg5(Si7Al)O22(OH)2
エデン閃石はカルシウム角閃石に分類され、スカルンやロジン岩化作用にともなうカルシウム(Ca)交代作用で現れ、ヒスイ輝石岩にも伴われる。同じくカルシウム角閃石であるパーガス閃石とはチェルマック置換の関係にあり、エデン閃石のほうがシリコン(Si)とマグネシウム(Mg)に富む。エデン閃石からナトリウム(Na)とマグネシウム(Mg)をひとつずつ取ってアルミニウム(Al)を一つ加えると苦土普通角閃石になる。エデン閃石は一般にはやや鈍い緑色であるが、菅島では褐色を示していた。一般に角閃石は塁帯構造が著しいことが多いが、写真のエデン閃石はいずれも塁帯構造が少なかった。学名は模式地であるEdenvill(アメリカ)に由来する。
苦土リーベック閃石 / Magnesio-riebeckite
徳島県徳島市眉山
苦土リーベック閃石 / Magnesio-riebeckite
□Na2(Mg3Fe3+2)Si8O22(OH)2
苦土リーベック閃石は藍閃石から見て三価鉄(Fe3+)に相当する角閃石である。そして、命名規約の命名ルールを厳密に適用した場合はフェリ藍閃石になるが、すでに有名を馳せていたために例外的に苦土リーベック閃石の名乗りが許された。この名称のルーツは日本にあり、徳島県眉山から得られた角閃石が苦土リーベック閃石と呼ばれたことに端を発している。その名称が示すように苦土リーベック閃石はリーベック閃石のマグネシウム置換体でもある。三波川変成帯には結晶片岩の構成鉱物として広く分布するが、眉山のようにその結晶がはっきり見える産地は多くない。また藍閃石よりも藍色が鮮やかに出やすい印象を抱いている。根源名はイツ人探検家・鉱物学者・民俗学者のEmil Riebeck (1853-1885)にちなむ。
フェロ藍閃石 / Ferro-glaucophane
フェロ藍閃石 / Ferro-glaucophane
Na2(Fe2+3Al2)Si8O22(OH)2
熊本県八代市東町
フェロ藍閃石は藍閃石から見て二価鉄(Fe2+)置換体となる角閃石であり、これもまたやや高圧の変成岩に出現する。高圧が必要なため世界的に見るとややまれな角閃石であろうか。いずれにしても肉眼的な結晶となることは少ない。八代市で得られるフェロ角閃石の標本は深い青色を呈する片岩として得られる。水にぬれた状態だとほぼ黒となるため雨天では存在が分かりづらい。またその片岩中には微細なヒスイ輝石が散らばっているため見た目以上に割れにくい。
藍閃石 / Glaucophane
藍閃石 / Glaucophane
Na2(Mg3Al2)Si8O22(OH)2
三重県鳥羽市浦村町砥谷海岸
藍閃石は「青色」と「現れる」意味するギリシア語に基づいて学名が定まった角閃石であり、和名もまた独特の青色を藍色と解して藍閃石とされた。しかしぱっと見で藍色でない藍閃石も多いため、色だけを頼りに探すとなかなか見つからない。ただし、藍閃石はやや高圧の変成岩に出現することが多いため、産状を頼りに探すと良いだろう。また薄片下では見事に藍色となるので、それもまた鑑定の手助けとなろうか。二価鉄(Fe2+)置換体のフェロ藍閃石や三価鉄(Fe3+)置換体の苦土リーベック閃石とは連続した組成変化を示し、特に苦土リーベック閃石は藍閃石よりも鮮やかな藍色を呈することがあるので紛らわしい。
フェロフェリ普通角閃石 / Ferro-ferri-hornblende
フェロフェリ普通角閃石 / Ferro-ferri-hornblende
□Ca2(Fe2+4Fe3+)(Si7Al)O22(OH)2
三重県津市白山町福田山ペグマタイト
フェロフェリ普通角閃石は苦土普通角閃石からみて二価鉄(Fe2+)と三価鉄(Fe3+)置換体となる角閃石であるものの、その外観から種を確実に同定することは不可能であろう。ただし、ペグマタイトなどマグネシウム(Mg)に乏しい環境で生じる角閃石はおおむね鉄に富むため、産状は大きなヒントとなるだろう。三重県の福田山ペグマタイトは大きな褐簾石が産出することで名をはせているが、その褐簾石に見間違いやすい鉱物としてこのフェロフェリ普通角閃石がある。こまかく発達したへき開とわずかな緑色が褐簾石とは異なるため、よく観察すれば判別が可能であろう。学名は化学組成が反映されており、根源名については有用鉱物と見間違えられることと尖った形状に由来している。和名は根源名を普通角閃石と呼んだことに始まり、学名と同じく化学組成も反映されている。
胆礬 / Chalcanthite
岡山県久米南町中籾竜山鉱山
胆礬 / Chalcanthite
Cu(SO4)·5H2O
胆礬は銅(Cu)の含水硫酸塩鉱物であり、鮮やかな青色を特徴とする。硫化銅鉱床の酸化帯には二次的に生じることが多いが、水溶性であるために仮に生成したとしてもすぐさま消え去ることもまた多く、野外では採集できるタイミングが限定されてしまう。一方で放置された坑道などでは安定した温度と湿度が保たれるため、そこでは胆礬が大きく成長することがある。ただしそれらは塊状かせいぜい繊維状の集合体であり、胆礬が天然で自形結晶として得られることはほとんどない。学名は模式地であるGoslar(ドイツ)にちなむ。和名の由来はよくわからない。
青鉛鉱 / Linarite
兵庫県猪名川町辻ヶ瀬鉱山
青鉛鉱 / Linarite
CuPb(SO4)(OH)2
青鉛鉱も銅鉱床の酸化帯でよく見られる含水硫酸塩の二次鉱物であり、主成分には銅(Cu)のほかに鉛(Pb)も含まれている。透明感のある深い青色を呈する板状から柱状の結晶に成長しやすく、結晶は放射状に集合することが多い。兵庫県辻ヶ瀬鉱山は青鉛鉱の美しい結晶が得られる産地として知られる。一方で皮膜状集合に留まる産地も多い。それでもよく見るとどこかしらピリッとした箇所が見つかることがあり、藍銅鉱とは同じ青色系統の鉱物でありながらもそれとは少し違って見える。結晶が小さい場合だと青色は薄くなる。学名は模式地であるLinares(スペイン)にちなみ、和名は青色と鉛を含むことによる。
藍銅鉱 / Azurite
藍銅鉱 / Azurite
Cu3(CO3)2(OH)2
福島県南会津町舘岩鉱山
藍銅鉱はその名の通り鮮やかな藍色を呈する鉱物であり、銅鉱床の酸化帯に二次鉱物としてしばしば産出する。緑色を呈する孔雀石とは主成分を共通にしており、どちらも銅(Cu)の含水(OH)炭酸塩(CO3)の鉱物である。組成上はわずかな違いしかないが色が全く異なることが面白い。藍銅鉱は日本では被膜で生じることが非常に多く、結晶粒としての産出はややまれに思える。結晶として出てきたとしてもそれはどことなく鋭さに欠ける印象があり、ただの丸っこい粒ということも少なくない。炭酸塩鉱物ということもあって酸には弱いので、多湿の環境では成長と融解がせめぎあうのかもしれない。学名は濃青色を意味するペルシア語にちなむ。和名は色と銅を主成分とすることにちなむ。
鉄重石 / Ferberite
茨城県城里町高取鉱山
鉄重石 / Ferberite
FeWO4
鉄重石は鉄(Fe)とタングステン(W)を主成分とする鉱物で、手に持ってみると和名の通りズシリと重い。学名は人名に由来しており、ドイツの鉱物学者Moritz Rudolph Ferber (1805-1875)にちなむ。茨城県高取鉱山では亜金属光沢を示す黒色の柱状結晶が束になって石英中に埋没し、ときおりトパーズを伴うことで知られている。また、実験的にはマンガン重石(Hübnerite)と完全固溶体を形成し、鉄重石はしばしばマンガン(Mn)を多く含む。一方でマンガン重石には一般には鉄はあまり多くは含まれない。山梨県乙女鉱山では、灰重石の結晶形を示す鉄重石が知られており、かつては新種と考えられてライン鉱と呼ばれた。鉄重石はタングステンの重要な資源鉱物であり、日本でもかつては盛んに採集された。
ソーダ雲母 / Paragonite
ソーダ雲母 / Paragonite
NaAl2AlSi3O10(OH)2
新潟県糸魚川市青海川
ソーダ雲母は白雲母から見てカリウム(K)をナトリウム(Na)に置き換えた雲母であり、ナトリウムの英名を用いてソーダ雲母と呼ばれる。白雲母の仲間であるからにして、あたりまえに白い雲母である。日本では新潟県糸魚川地域の転石で良い標本が得られる。ソーダ雲母ばかりの転石があるため標本としてものが分かりやすく立派であり、紫色のダイアスポアが伴われるとなお美しい。一方でソーダ雲母と新潟石の両どりをすることはできない。このようなソーダ雲母はすくなからずストロンチウム(Sr)を固溶しており、分配の関係で共存する緑簾石族鉱物(茶色の部分)にはストロンチウムがいきわたらない。ソーダ雲母が消えてぶどう石とダイアスポアが主体となると、緑簾石族鉱物にストロンチウムが入るようになり、それには新潟石が出てくる。学名はその外観が滑石のようにも見えることから、誤解を招くという意味のギリシア語(paragon)にちなんで名づけられている。
水酸燐灰石 / Hydroxylapatite
水酸燐灰石 / Hydroxylapatite
Ca5(PO4)3(OH)
山梨県道志村室久保川
水酸燐灰石はグアノ(糞)の主成分であり、それはリン(P)の需要な資源として盛んに採掘されている。一方でそれは粉に過ぎず、結晶標本としての水酸燐灰石はなかなかお目にかかることが少なく、標本を調べてみるとじつはフッ素燐灰石であることもまた多い。そうした中で室久保川のペグマタイトから産出した燐灰石からはフッ素がほとんど検出されず、水酸燐灰石であることが判明した。六角形の柱状で産出し、透明な皮と黒い中身の二重構造になっているが、黒いところもほんの一皮だけであり、その内部はまた透明になっている。学名は化学組成に基づいており、根源名のapatiteは他の鉱物と形状がまぎらわしかったことから欺くという意味のギリシア語が基になっている。和名は化学組成にちなむ。
ウィッチヘン鉱 / Wittichenite
岡山県鏡野町伊茂岡鉱山
ウィッチヘン鉱 / Wittichenite
Cu3BiS3
ウィッチヘン鉱は銅(Cu)とビスマス(Bi)の硫化鉱物で、最も典型的にはスカルン鉱床で斑銅鉱鉱石中に不定形塊として生じる。斑銅鉱は高温ではビスマスと結びついた相で安定となるが、温度が低くなると斑銅鉱とウィッチヘン鉱へ分解して産出する。この産状においてウィッチヘン鉱は黄色から青みを帯びた金属塊として産出し、斑銅鉱も時間と共に変色していくため、錆び具合によってはその存在はけっこうわかりにくい。一方で熱水からそのまま生じるウィッチヘン鉱も知られており、それは日本では河津鉱山で見られる。河津鉱山ではウィッチヘン鉱は棒状結晶として石英に埋没しており、石英を割った際に強い光沢を示す棒状の破断面が見られる。また石英の晶洞では青みがかった棒状の集合体として産出することがある。河津鉱山では一見して不明な金属鉱物が多産し、そういったものにインジウム銅鉱のラベルが付くことがあるが、実際に調べてみるとウィッチヘン鉱であることが非常に多かった。学名は模式地のWittichen(ドイツ)にちなむ。
テルル蒼鉛鉱 / Tellurobismuthite
テルル蒼鉛鉱 / Tellurobismuthite
Bi2Te3
静岡県下田市河津鉱山
テルル蒼鉛鉱は硫テルル蒼鉛鉱の硫黄(S)をテルル(Te)に置き換えた鉱物で、これもまた硫テルル蒼鉛鉱をはじめとした一連の鉱物と共通の外観を示し、へき開面は銀白色に輝く。一方で産状には多少の違いが認められる。テルル蒼鉛鉱は自然ビスマスとは共存せず、自然テルルやヘドレイ鉱と共存するので、それを目安にラベルを書くことになろうか。また、ヘドレイ鉱とは固溶体を一部形成することが知られている。アメリカの複数の産地を模式地とし、化学組成に基づいて学名と和名が定まった。
生野鉱 / Ikunoite
兵庫県朝来市生野鉱山
生野鉱 / Ikunoite
Bi4S3
生野鉱は兵庫県生野鉱山から見いだされた日本産の新鉱物で、鉱山名に由来する学名が与えられている。ピルゼン鉱からみてテルル(Te)をすべて硫黄(S)に置き換えた化学組成となっており、結晶構造も共通すると考えられている。一方でピルゼン鉱にはあまり感じられた無かった劈開が生野鉱ではよく発達しており、面で割れることが多い。標本としての面構えが産地によってけっこう異なり、生野鉱山産では銀白色の強い光沢が見えるが、足尾銅山の標本は青みがかる。どちらにせよ自然ビスマスと共存することが多く、硫テルル蒼鉛鉱などほかの同族鉱物はあまり伴われない。
ピルゼン鉱 / Pilsenite
長野県茅野市金鶏鉱山
ピルゼン鉱 / Pilsenite
Bi4Te3
ピルゼン鉱もまたビスマス(Bi)とテルル(Te)からなるカルコゲナイド鉱物の一種で、ハンガリーのNagybörzsönyから見いだされ、その古名であるDeutsch-Pilsenにちなんで命名されている。分析をすると少量の硫黄(S)が検出されることがあるが、単位格子が積み重なる中でたまに挟まれる硫テルル蒼鉛鉱の層に由来するのかも知れない。表面は黒色から紫色に錆びやすく、破断面では灰鋼色の新鮮な顔を覗かせるものの、劈開性は強くないようで不定形に割れる。こうした特徴から、しばしば共存する硫テルル蒼鉛鉱や都茂鉱との区別は可能だが、ヘドレイ鉱とは区別しがたいことがある。ピルゼン鉱は硫テルル蒼鉛族の中でその産出はとりわけ稀ではないが、日本では限られた地域でしか見ることができない。
河津鉱 / Kawazulite
静岡県下田市河津鉱山
河津鉱 / Kawazulite
Bi2Te2Se
河津鉱は静岡県下田市にある河津鉱山から見いだされた鉱物で、模式地に由来した学名が採用された。河津鉱は硫テルル蒼鉛鉱からみて、硫黄(S)をセレン(Se)に置換した化学組成となっており、結晶構造も共通する。そのため両者は肉眼的に区別ができないこまった関係となっている。河津鉱は石英中に埋没した箔状の結晶で産出することが多く、これは自由空間で成長できなかった結果かと思っていたが、石英の晶洞という自由空間で成長した河津鉱の結晶もまたペラペラであり、自形結晶にはなりにくいのかも知れない。試験管内で合成した河津鉱には三方晶系の晶癖が現れる。
硫テルル蒼鉛鉱 / Tetradymite
福岡県香春町三ノ岳
硫テルル蒼鉛鉱 / Tetradymite
Bi2Te2S
硫テルル蒼鉛鉱はビスマス(Bi)に硫黄(S)とテルル(Te)が結びついた鉱物で、層状に劈開の発達した金属光沢を示す。おおむね塊状で岩石中に胚胎されており、岩石を割った際にしばしば層状の断面が見える。硫テルル蒼鉛鉱の硫黄はセレン(Se)に連続的に置換され、セレンの端成分が河津鉱(kawazulite)である。両者は共存することもあり、外観や物理的性質はほぼ共通なため、分析以外にそれらを区別する方法はないだろう。熱水性金銀鉱床やスカルンから産出し、日本では三ノ岳や河津鉱山が典型的な産地として知られる。海外では四重双晶を成す例が知られており、四連を意味するギリシア語が学名の由来となっている。和名は化学組成から。
グリュネル閃石 / Grunerite
三重県いなべ市宇賀渓
グリュネル閃石 / Grunerite
□Fe2+2Fe2+5Si8O22(OH)2
グリュネル閃石は単斜晶系角閃石で□Fe2+2Fe2+5Si8O22(OH)2の化学組成を持つ。同じ化学組成ながら異なる構造の角閃石にフェロ直閃石(直方晶型)、プロトフェロ直閃石(プロト型)があり、それらとは同質異像の関係にある。しかし、いずれもほぼ共通の外観と産状を示すため、肉眼での区別はできない。宇賀渓に限らないが、通常はペグマタイトで生じる塊状の鉄かんらん石に伴われて板状から繊維状の形態でグリュネル閃石が産出する。やや厚い板状であればガラス光沢を示す緑褐色で、細くなると絹糸光沢に見える。そして、繊維状のグリュネル閃石にはアモサイト(amosite)という別名があり、それは角閃石系アスベストの代名詞にもなっている。アモサイトの繊維は肺に入ると肺疾患のリスクがあるため、保管するなら密封することが推奨されている。学名はグリュネル閃石をはじめて分析したとされる Emmanuel Ludwig (Louis) Gruner(1809-1883)にちなむ。
ストロンチウム紅簾石 / Piemontite-(Sr)
ストロンチウム紅簾石 / Piemontite-(Sr)
CaSr(Al2Mn3+)[Si2O7][SiO4]O(OH)
長崎県長崎市琴海戸根鉱山
ストロンチウム紅簾石は紅簾石(Piemontite)の二つあるカルシウム(Ca)のひとつをストロンチウム(Sr)に置き換えた鉱物に相当する。模式地がイタリアにあり、イタリア内ではそれなりに産地があるが、そこを除くと海外にはほとんど産地がない。一方で日本は報告がある産地だけでも5-6カ所知られるなど産地が多い。また、わざわざ報告されていないだけで、三波川帯や秩父帯のマンガン鉱床では見かけることが多い。ただし外観からはただの紅簾石やマンガンを含む緑簾石と区別は困難であり、ひとつの結晶内の塁帯構造で種をまたぐことも普通にある。いずれも濃い紅色を帯びた柱状もしくは板状結晶として産出し、偏光により強い多色性を示す。学名は化学組成に由来する。二つあるアルミニウム(Al)のひとつが三価マンガン(Mn3+)に置換されるとトウェディル石(Tweddillite)となる。
輝蒼鉛鉱 / Bismuthinite
栃木県日光市足尾銅山
輝蒼鉛鉱 / Bismuthinite
Bi2S3
輝蒼鉛鉱はビスマス(Bi)の硫化鉱物で、やや高温の金属鉱床やスカルンにしばしば生じる。実験的には輝安鉱と完全固溶体を形成するが、天然では輝蒼鉛鉱と輝安鉱が固溶体を形成することや共存することはむしろ例外的であろう(→幌別鉱)。そのため共生鉱物から輝蒼鉛鉱であることが類推できることが多く、特に周囲に薄紅がかった自然ビスマスが伴われるようならまず間違いなく輝蒼鉛鉱である。北海道有珠山の噴気孔に生じる輝蒼鉛鉱は高温の状態では従来のものとは結晶構造が異なるとされるが、室温でしばらく放置すると普通の輝蒼鉛鉱の構造に戻ってしまう。輝蒼鉛鉱の反射面は白いことが特徴で、オレンジ~青紫に錆びることがある。学名はビスマスを含むことに由来し、和名はビスマスの和名である蒼鉛と反射面の特徴をあわせた造語となっている。
島崎石 / Shimazakiite
島崎石、武田石、方解石からなる岩石標本
上の岩石から切り出した薄片の光学顕微鏡写真(クロスニコル)で、中央の結晶が島崎石
島崎石 / Shimazakiite
Ca2B2O5
岡山県高梁市備中町布賀鉱山
島崎石は東京大学で鉱床学講座の教授を務めた島崎英彦(b.1939)にちなんで名づけられた鉱物で、カルシウム(Ca)とホウ素(B)と酸素(O)だけからなる単純な化学組成であるが、これまでのところ岡山県布賀鉱山からしか産出が知られてない稀少鉱物である。一般に知られている島崎石の標本は武田石や方解石と混合した岩石標本であり、島崎石の姿を拝むには薄片を光学顕微鏡で観察する必要があるが、ルーペでも観察できる島崎石ばかりからなる結晶質の標本もまた存在する。その標本のなかで島崎石は針状~板状結晶が束に集まった姿となり、側面は強い絹糸光沢を呈する。これはエットリング石族にしばしば見られる外観とも共通するが島崎石と同定された。
インジウム銅鉱 / Roquesite
インジウム銅鉱 / Roquesite
CuInS2
静岡県下田市河津鉱山
インジウム銅鉱はレアメタルであるインジウム(In)を主成分に持つ硫化鉱物であり、黄銅鉱からみて鉄(Fe)をインジウムで置き換えた関係となっている。和名は化学組成に基づいているが、学名はフランスの地質学者であるMaurice Roques (1911-1997)にちなむ。世界的にインジウム銅鉱の産地そのものは少なくないが、それは銅鉱石中に微小粒が点在するばかりで肉眼的には不可視な存在であるため、インジウム銅鉱そのものの姿を捉えた写真は非常に少ない。ところが河津鉱山ではインジウム銅鉱ばかりがまとまって産出することがあり、不定形ながらも肉眼的にその存在を捉えることができた。インジウム銅鉱は破断面においては灰色の金属光沢を示し、遠目には黒色の集合体に映る。河津鉱山のインジウム銅鉱には微量のセレン(Se)もまた含まれる。
逸見石 / Henmilite
逸見石 / Henmilite
Ca2Cu[B(OH)4]2(OH)4
岡山県高梁市布賀鉱山
逸見石は1981年に見いだされた日本産の新鉱物で、岡山県布賀鉱山を模式地としている。布賀鉱山から見いだされた数々のスカルン鉱物の記載に貢献した、岡山大学の逸見吉之助(1919-1997)および逸見千代子(1949-2018)親子にちなんで名付けられた。逸見石は氷砂糖のような結晶形状と深い青色を特徴としている。発見当時は非常に微細でさらに産出が稀な鉱物であったが、後に田邊晶洞と名付けられるホウ酸塩鉱物のポケットから大量に産出したため、今となっては手に入れやすい日本産新鉱物として愛好家に親しまれている。逸見石は銅(Cu)を主成分に持ち、その磁性に注目した物理学的研究が行われた[1]。そのプレスリリース文に逸見石の結晶構造が従来型と異なると記されていたので、さらに別の新鉱物になる可能性があるのかと内容を検討してみた。そして従来型と新型の構造を比較したとき、これらはa軸に沿ってならぶ水素(H)の向きが異なる関係性であった。つまりこれは従来型を-1aと表記したときに、新型は-2aと表記できるポリタイプである。(現時点での)鉱物種の定義からすると、構造が従来型・新型のいずれであっても「種」という単位では「逸見石(Henmilite)」という単独の鉱物種である。
[1] Yamamoto et al. (2021) Quantum spin fluctuations and hydrogen bond network in the antiferromagnetic natural mineral henmilite. Physical Review Materials, 5, 104405.
単斜末野閃石 / Clino-suenoite
愛知県設楽町田口鉱山
単斜末野閃石 / Clino-suenoite
◻(Mn2+2)(Mg5)(Si8O22)(OH)2
単斜末野閃石は枯草色を呈する薄板状結晶が角柱形に集合する姿で産出する、イタリアを模式地として2016年に見いだされた目新しい鉱物である。角閃石の代表的な結晶構造には単斜型、斜方(直方)型、プロト型の三種類があり、同じ化学組成であっても構造によって種が分類される。そしていわゆる末野閃石は◻(Mn2+2)(Mg5)(Si8O22)(OH)2の理想化学組成を持つ角閃石であり、その構造によって単斜末野閃石(Clino-suenoite)、末野閃石(Suenoite: 斜方・直方型)、プロト末野閃石(Proto-suenoite: 未発見)に分けられる。そのために見た目はおろか化学組成分析でも種名を決定できず、構造に由来した特徴も捉える必要がある。そして特定の方位からの透過電子線回折は、それぞれの構造や、互いに混じっているかどうかを絵合わせ的に一発で見分けることのできる有効な手段となっている。昨年(2020年)、田口鉱山を含む愛知県段戸山地域から産出する末野閃石は単斜型であることが組成分析と光学顕微鏡観察によって報告されている[1]。そこで透過電子線回折で確認したところ、他の構造が入り込まない単相の単斜末野閃石であることが確認された。三重県山田鉱山からも産出を確認している。根源名は筑波大学で教授を務めた末野重穂(1937-2001)にちなんで名づけられている。
[1] 丹羽美春 (2020) 愛知県段戸山地域から産出した単斜末野閃石. 豊橋市自然史博物館研報, 30, 47-49.
シャップバッハ鉱 / Schapbachite
シャップバッハ鉱 / Schapbachite
Ag0.4Pb0.2Bi0.4S
静岡県下田市河津鉱山
シャップバッハ鉱はマチルダ鉱(Matildite: AgBiS2)の同質異像となる鉱物で、おおむね220℃を境にしてそれより高温ならシャップバッハ鉱が、低温ならマチルダ鉱が安定となる。そしてシャップバッハ鉱として産出するには、220℃以上の温度から急冷される必要がある。シャップバッハ鉱は方鉛鉱と同じ構造であり、高温では完全固溶体を形成するためにシャップバッハ鉱は常に少量の鉛(Pb)を含む。そのために理想化学組成はAg0.4Pb0.2Bi0.4Sのように設定されている。世界的にみてシャップバッハ鉱が報告された産地は少なくないが、構造まで調べられた例は限られているためにそれらが本当にシャップバッハ鉱であるかは疑わしいとされる(マチルダ鉱が常に疑われる)。実際にオリジナルのシャップバッハ鉱はマチルダ鉱であることが判明したため、鉱物名はいったん取り消された。そして2004年になり別の産地の標本を用いた研究でシャップバッハ鉱の名称が復活した経緯がある。もともとはドイツのSchapbachから見出されたため産地にちなんで名づけられたが、上記の経緯から新しい模式地はSilberbrünnle鉱山(ドイツ)に再設定されている。写真の標本は河津鉱山からのシャップバッハ鉱で、透過電子線回折を用いて同定した。
メラノフログ石 / Melanophlogite(仮晶)
メラノフログ石 / Melanophlogite(仮晶)
C2H17O5·Si46O92
埼玉県秩父市秩父鉱山石灰沢
メラノフログ石は基本的にはSiO2の鉱物であるが、結晶構造の内部にメタンをはじめ様々なガス分子を内包する天然の包摂化合物でもある。同様の特徴をもつ鉱物に千葉石と房総石が知られ、それらは名前からわかるように千葉県から見出された日本産の新鉱物である。いずれも加熱すると内部のガス分子が炭化して結晶は黒色化する。その性質から、メラノフログ石の学名は過熱すると黒くなるという意味のギリシア語に由来する。メラノフログ石は結晶外形を残したまま石英に変質してしまうことがしばしばあるが、典型的なサイコロ状の四角形結晶は石英では現れない晶癖であるため、四角形結晶の石英を見かけたらそれはかつてのメラノフログ石である可能性が非常に高い。このようなかつてメラノフログ石だった結晶は和歌山県串本町や長野県小谷村から見出されており、秩父鉱山石灰沢でもそうした結晶群が見いだされた。モノとして石英だったが、これはメラノフログ石の標本として扱うことにした。
モリブデン鉛鉱 / Wulfenite
福井県大野市中竜鉱山
モリブデン鉛鉱 / Wulfenite
PbMoO4
モリブデン鉛鉱は鉛(Pb)とモリブデン(Mo)の酸化鉱物で鉱床の酸化帯に二次鉱物として生じる。19世紀中ごろにオーストリアから見いだされ、オーストリアの植物学者・鉱物学者であるFranz Xavier von Wulfen (1728–1805)にちなんで命名された。典型的には黄色から橙色の四~八角形の薄板状結晶として産出するが、棒錘状、犬牙状、針状の形態となることもある。ここでは三カ所からのモリブデン鉛鉱の写真を掲載したが、これらが同じ鉱物とは思えないほど見た目が異なることがある。板状結晶として産出しない場合、モリブデン鉛鉱もまた肉眼鑑定が至難な鉱物であろう。
デクロワゾー石 / Descloizite
群馬県沼田市数坂峠
デクロワゾー石 / Descloizite
PbZn(VO4)(OH)
デクロワゾー石は19世紀にアルゼンチンから見出された古典鉱物で、フランスの鉱物学者であるAlfred Louis Olivier Le Grand Des Cloizeaux(1817-1897)にちなんで命名された。鉛(Pb)と亜鉛(Zn)を主成分とする含水バナジウム酸塩鉱物で、二次鉱物として産出する。日本でもいくつかの産地があり、今となってはもっとも代表的な産地は群馬県数坂峠であろう。ここでは黒色に近いほど濃い茶褐色の爪状結晶が群生する姿で見られる。一方で福岡県池野鉱山では淡いオレンジ色の板状結晶で産出する。図鑑で見る姿も安定せず、所変われば品変わるを体現する鉱物であろう。デクロワゾー石の近縁鉱物は似たような傾向があり、例えばコニカルコ石、オリーブ銅鉱、ヴァニア石はデクロワゾー石と同じ結晶構造であり、これらもまた産地によって面構えがけっこう異なるために肉眼での鑑定に困る。
ヘディフェン / Hedyphane
ヘディフェン / Hedyphane
Ca2Pb3(AsO4)3Cl
群馬県沼田市数坂峠
ヘディフェンは19世紀にスウェーデンのLångban鉱山から見出された鉱物で、へき開面が強く輝くことから「美しい」および「出現する」という意味のギリシア語から名付けられた。日本では群馬県数坂峠での産出が知られている。そろばん玉のように中央が膨らんだ六角形の結晶として産出し、白から乳白色を呈する。ヘディフェンは燐灰石超族の一員としてヘディフェン亜族の筆頭に位置付けられており、結晶構造中でイオンサイズの異なる二価陽イオンが2:3の割合で秩序化することがその特徴となっている。ヘディフェン亜族には日本産新鉱物の宮久石((Sr,Ca)2Ba3(PO4)3F)も入っている。
トパーズ / Topaz
滋賀県大津市田上山
トパーズ / Topaz
Al2SiO4F2
トパーズは古代から知られている鉱物であり、呼び名が先行したために学名の由来は今となっては定かでない。和名では黄玉と呼ばれることがあるように黄色を帯びた結晶が知られている。海外の産出例を見ると色のバリエーションは多いが、黄色や青色以外は日本では見かけることがほとんどなく、大多数は無色で産出する。産状は花崗岩ペグマタイトや流紋岩、グライゼンなどが一般的となっている。一方でトパーズは揮発性成分に富んだ高温環境に選択的に出現する鉱物であり、その環境が変化すると不安定となる。そのために結晶には溶けたような様相(蝕像)が残ったり、産出そのものが消滅してしまうこともある。結果的に花崗岩ペグマタイトならどこでも顔を出すという鉱物ではなく、むしろトパーズを産出するペグマタイトのほうが例外的に思える。またトパーズはモース硬度8の指標鉱物であり、これは石英よりも硬いことになるが、へき開が発達しているため方向によっては石英に負けることがある。一方で、岩石中に微細なトパーズが無数に散在する場合だと、その岩石(例えば一部のろう石)はヒスイ輝石岩にも劣らない無類の堅さを発揮する。フッ素(F)を水酸基(OH)で置き換えたトパーズの産出やその合成相も知られているが、それはまだ鉱物種として確立されていない。
ミアス鉱 / Miassite
ミアス鉱 / Miassite
Rh17S15
熊本県美里町払川
ウラル山脈南部の東麓を流れるミアス川は古くから砂金・砂白金の産地として知られ、これまでに4種類の白金族鉱物が新鉱物として見いだされている。ミアス鉱はそのうちの一つで、その名が示すようにミアス川から名付けられた。ロジウム(Rh)と硫黄(S)が17:15というユニークな組成を持ち、結晶構造もまたかなり面白い内容となっている。ミアス鉱は砂白金の包有物として産出するためにその姿は研磨片でしか拝むことができなかったが、熊本の砂白金の調査の過程で未加工のミアス鉱を写真に捉えることができた。その姿は強い光沢を示す黒色で、肉眼的にはラウラ鉱やエルリッチマン鉱とほぼ共通するということが判明した。
砒ロジウム鉱 / Rhodarsenide
砒ロジウム鉱 / Rhodarsenide
RhAs2
北海道羽幌町愛奴沢川
砒ロジウム鉱は白金族元素のロジウム(Rh)とヒ素(As)を主成分とする鉱物で、南東ヨーロッパの一国であるセルビア共和国を模式地として、化学組成に基づいて学名が定められた。単独で産出することのない鉱物で、いわゆる砂白金の内部に包有される産状を示す。そもそも産出自体が非常に稀な鉱物であるが、それでも北海道の砂白金にはそれなりに伴われることが分かってきて、ようやくその姿を写真で捉えることができた。砒ロジウム鉱はやや黄色を帯びた銀色の金属で、イソフェロプラチナ鉱とルテニイリドスミンの境界に伴われていた。
スペリー鉱 / Sperrylite
スペリー鉱 / Sperrylite
PtAs2
熊本県美里町払川
スペリー鉱はプラチナ(Pt)二砒化物となる化学組成を持つ黄鉄鉱族の鉱物で、主にカナダとロシアのニッケル硫化物鉱床から産出する銀白色に輝くコロっとした結晶が有名であろう。スペリー鉱は日本では砂白金として得られることがあり、写真は全体がほぼスペリー鉱で覆われている(輝いている箇所はエルリッチマン鉱)。微細な結晶粒が集合し、さらには川ずれによってやや摩耗しているため、日本産のスペリー鉱は海外産の標本とは似ても似つかない姿であった。学名はザドベリー(カナダ)の鉱山会社に勤務していた化学者のFrancis Louis Sperry (1861-1906)にちなんで命名されている。Sperryはスペリー鉱の模式標本を提供したと伝わる。
蓮華石 / Rengeite
蓮華石 / Rengeite
Sr4Ti4ZrO8(Si2O7)2
岡山県新見市大佐山
蓮華石はペリエル石超族の下位分類であるチェフキン石族の一員となる鉱物であり、新潟県糸魚川地域のヒスイ輝石岩転石から発見され、ヒスイ輝石岩をもたらした蓮華帯にちなんで命名されている。その蓮華帯の延長に相当する地に岡山県大佐山が知られており、このたび大佐山のヒスイ輝石岩からも蓮華石が産出することが判明した。大佐山ではルチルを伴う角閃石脈からやや離れた箇所に黒色の小塊としてぽつんと蓮華石が現れる。その小塊はチタン石をまとい、切断すると産状がよくわかる。ややロジン岩化が進行した箇所からは黒色を呈する蓮華石の柱状結晶も見いだされている。大佐山のヒスイ輝石岩は古くから有名で、関連研究も様々あるために調べつくされていると思っていたが、手を出してみれば蓮華石のほかに松原石、タウソン石、セリウムトルネボム石も同時に見いだされるなど、予想外に未開拓な部分が残っていた。2021年の鉱物科学会で報告する予定で講演要旨を提出したところ。
松原石 / Matsubaraite
松原石 / Matsubaraite
Sr4Ti5O8(Si2O7)2
岡山県新見市大佐山
松原石は国立科学博物館で地学部長を務めた松原聰(1946-)にちなんで命名されたペリエル石超族チェフキン石族の一員となる鉱物で、蓮華石から見るとジルコニウム(Zr)をチタン(Ti)に置き換えた理想化学組成を持つ。松原石はこれまで新潟県糸魚川地域のヒスイ輝石岩転石からのみ産出が知られる鉱物であったが、岡山県大佐山のヒスイ輝石岩からも松原石の産出を確認した。大佐山の松原石は、ヒスイ輝石岩中の角閃石脈に伴われるルチル(一枚目)の裂傷を満たすように無数に生じている(二、三枚目)。しかし、無色透明であるために同じ個所を拡大して撮影しても存在を認識できない(四枚目)。写真で所在がわからないのはすこし残念だが、このような褐色ルチルにはほぼ必ず松原石が伴われるという頼もしさがあり、電子顕微鏡下では簡単に見つかる。松原石の産出は大佐山が世界でも二例目となるが、従前の松原石には知られていない斜方(直方)晶系の構造となっていた。
タウソン石 / Tausonite
タウソン石 / Tausonite
SrTiO3
岡山県新見市大佐山
タウソン石はイルクーツク市(ロシア)にある地球化学研究所で所長を務めたLev Vladimirovich Tauson(1917-1989)に因んで命名された灰チタン石超族の鉱物で、灰チタン石(perovskite: CaTiO3)のストロンチウム置換体(SrTiO3)にあたる世界的な稀産種である。日本では新潟県糸魚川地域のヒスイ輝石岩から産出が報告されており、大佐山ヒスイ輝石岩からもタウソン石が産出した。ルチル+チタン石集合の周囲をぐるっと取り囲むように多数のタウソン石が生じており、ルーペでは厳しいが、実体顕微鏡であればその姿を捉えることができる。結晶は淡い桃色が多いものの、やや紅色が強く出ることもある。形状は不定形が多く、断面からは12面体の結晶もあることがうかがえた。破断面の強い光沢はしばしば共存するジルコンと見間違えやすいが、タウソン石は紫外線で蛍光を示さないので区別できる。
セリウムトルネボム石 / Törnebohmite-(Ce)
セリウムトルネボム石 / Törnebohmite-(Ce)
Ce2Al(SiO4)2(OH)
岡山県新見市大佐山
セリウムトルネボム石は接触変成を受けた石灰岩が主体のBastnäs鉱山(スウェーデン)を模式地とする稀元素鉱物で、スウェーデンの地質学者であるAlfred Elis Törnebohm (1838-1911)にちなんで命名された。その産地は北欧に集中しており、特殊な地質環境が要求されるのかもしれない。日本ではこれまで報告がなかったが、このたび岡山県大佐山のヒスイ輝石岩からセリウムトルネボム石が見出された。角閃石脈中に淡い緑黄色を呈する板状の集合体で産出し、核(コア)にモナズ石または褐簾石が見られることがある。ヒスイ輝石部にも産出するが、その場合はコア鉱物が主体で、セリウムトルネボム石は薄い反応縁に過ぎないため肉眼的にはコア鉱物のみと見える。
マンガノヘルネス石 / Manganohörnesite
マンガノヘルネス石 / Manganohörnesite
Mn2+3(AsO4)2·8H2O
佐賀県厳木町厳木鉱山
マンガノヘルネス石は藍鉄鉱族の一員となる鉱物で、二価マンガン(Mn2+)を主成分とする含水ヒ酸塩鉱物である。珍しい元素を主成分とするわけではないが世界的に見ても稀産となっている。マンガノヘルネス石は無色透明な板状結晶が放射状に集合した姿になりやすく、いったん産出するとそういった形状ばかりがみられる。ただしこういった姿は他のマンガン含水ヒ酸塩鉱物でも頻出する。そのため見分けが難しいことが稀産種となっている理由のひとつかもしれない。学名はヘルネス石(Hörnesite: Mg3(AsO4)2·8H2O)の二価マンガン(マンガノ)置換体であるためで、ヘルネス石そのものはインペリアル自然史博物館(オーストリア)のMoriz Hörnes(1815-1868)にちなむ。
ソーダエリオン沸石 / Erionite-Na
ソーダエリオン沸石 / Erionite-Na
Na10[Si26Al10O72]·30H2O
長崎県壱岐島長者原
エリオン沸石は1898年に記載された古典的な沸石族の鉱物で、羊毛のような外観であったことから羊毛を意味するギリシア語をもとに学名が定められた。このエリオン沸石は今の分類ではナトリウムを主成分とするソーダエリオン沸石であり、今となってはカルシウム(Ca)とカリウム(K)を主成分にする種も存在する。ただしこれらうちソーダエリオン沸石は最も稀産で、日本では長者原が唯一の産地だと思われる。針状結晶となりやすく、杏仁状組織の空洞でソーダレビ沸石の表面を覆う産状が知られているものの、ソーダエリオン沸石だけが集まって棒状になった姿もまた見られる。
ギスモンド沸石 / Gismondine
佐賀県唐津市鎮西町打上
ギスモンド沸石 / Gismondine
Ca2(Si4Al4)O16·8H2O
海外の標本を見ると灰ギスモンド沸石は典型的には八面体結晶のようだが、日本産の標本でその姿はちょっと見たことがない。日本産の標本はザクザクという印象で、三角形の面だけ強調された板状結晶がまばらにまたは密に集まった集合体となっている。学名はイタリアの鉱物学者であるCarlo Giuseppe Gismondi (1762-1824)にちなんで1817年に命名されている。灰十字沸石をしばしば密接に伴い、灰ギスモンド沸石と混合した集合はかつて新種と誤認されてZeagoniteという名称が与えられた(後に抹消)。なお本鉱は2021年まではサフィックスのつかないただのギスモンド沸石であったが、2021年にストロンチウムギスモンド沸石が承認されたことを受けて灰ギスモンド沸石へと改名された。
ブルグナテリ石 / Brugnatellite
ブルグナテリ石 / Brugnatellite
Mg6Fe3+(CO3)(OH)13·4H2O
愛知県新城市吉川鉱山
ブルグナテリ石はPavia大学(イタリア)で鉱物学の教授を務めたLuigi Valentino Brugnatelli(1859-1928)にちなんで1909年に命名された鉱物で、ハイドロタルク石超族の一員に位置付けられている。蛇紋岩に典型的に伴われる鉱物であり、吉川鉱山では透明感のあるオレンジ色を呈する微細な鱗片状結晶として産出した。写真には乳白色のブルース石くらいしか共生鉱物は見えていないが、ブルグナテリ石よりも強いX線回折ピークが出るほど多量の舎利塩が伴われている。なお、作成時に多量の水をつかう薄片では舎利塩は消失して検出されない。薄片観察から始め、次いでX線パターンをみると、極めて矛盾する結果となるため混乱したことがある。
イットリウムピータース石 / Petersite-(Y)
滋賀県湖南市灰山
イットリウムピータース石 / Petersite-(Y)
Cu6Y(PO4)3(OH)6·3H2O
イットリウムピータース石はニュージャージー州(アメリカ)にある採石所から見いだされた鉱物で、ニュージャージー州からの鉱物の研究に貢献したアメリカ自然史博物館の学芸員であるThomas A. Peters (1947-)およびJoseph Peters (1951-)兄弟にちなんで命名された。翠緑色や黄緑色を呈する小さな六角柱状結晶を典型的な姿とし、放射状に集合することが多い。銅を含む酸化帯に現れるミクサ石族鉱物であり、特にアガード石とは共存することがある。希元素鉱物であるピータース石にはイットリウム(Y)、セリウム(Ce)、そしてランタン(La)を主成分にもつ種類が知られており、それらがすべて産出する国はいまのところ日本のみである。
ソーダ沸石 / Natrolite
千葉県南房総市丸勝石産採石場
ソーダ沸石 / Natrolite
Na2(Si3Al2)O10·2H2O
ソーダ沸石はナトリウム(Na)を主成分とする石という意味のギリシア語で名付けられた沸石で、和名ではナトリウムの英名である「ソーダ」を冠して呼ばれている。四角柱状の細長い結晶がピラミッド型に閉じる姿が典型で、凝灰岩や玄武岩~安山岩の晶洞にこういった結晶がしばしば放射状に集合する。また、高圧型の変成岩ではソーダ沸石岩と呼べるほど集合することがあり、愛媛県関川や新潟県姫川などでは稀にソーダ沸石岩の転石が見られるものの、その露頭は見つかっていない。同質異像にゴンナルド沸石がある。またソーダ沸石は中沸石やスコレス沸石とは同じ結晶構造であり、本来ならそれらは一つの根源名でまとめられるべきであったが、この三種は固溶体を形成しない。そのため沸石超族の命名規約では分類ルールの第一項として、ソーダ沸石、中沸石、スコレス沸石については独立の根源名を与えると宣言された。
バクダット石 / Baghdadite
バクダット石 / Baghdadite
Ca3Zr(Si2O7)O2
岡山県高梁市備中町布賀北露頭
バグダット石はイランの首都バグダット市にちなんで命名された鉱物であるが、模式地はバグダット市があるバグダット県とは隣り合ってもいないスレイマニヤ県にある。当地のバグダット石はゲーレン石に包有される100μm程度の粒で産出するが、日本では岡山県布賀から数cmに成長したバグダット石が産出することで注目された。今のところ世界で最も大きなバグダット石を産出した産地ではないだろうか。それは石灰岩に埋もれた淡い茶色の塊であるが、短波長の紫外線で強烈な黄色の蛍光を示す特徴がある。
パリゴルスキー石 / Palygorskite
パリゴルスキー石 / Palygorskite
(Mg,Al)2Si4O10(OH)·4H2O
三重県南伊勢町村山
パリゴルスキー石は白色から乳白色を示す繊維状の結晶が絡み合った姿で産出することが非常に多く、その様が皮にも見えることから山皮(マウンテンレザー)と呼ばれる。ただし皮のように頑丈ではなく引っ張ると簡単にちぎれる。ちぎれた部分はふわふわしており、さわるとやわらかい。マグネシウムを含むケイ酸塩鉱物が変質することで生成し、その母岩は様々あるものの、岩石中の裂傷を埋めるように産出することが多い。砕石所などでは母岩から外れて落ちたパリゴルスキー石の塊が落ちていることがあり、水たまりに浮いていることもある。学名は模式地であるPalygorskaya(ロシア)にちなむ。
ラウラ鉱 & エルリッチマン鉱 / Laurite & Erlichmanite
熊本県美里町払川
ラウラ鉱 / Laurite
RuS2
エルリッチマン鉱 / Erlichimanite
OsS2
ラウラ鉱とエルリッチマン鉱はそれぞれルテニウム(Ru)とオスミウム(Os)の二硫化物という組成をもつ鉱物で、いずれも黄鉄鉱と同じ結晶構造となっている。どちらも砂白金鉱床にはふつうにみられるために産地は非常に多い。しかしながら単独の粒として得られることはめったになく、ほとんどの場合で砂白金の内部に包有されて産出する。そのためラウラ鉱とエルリッチマン鉱は産地は多くともその姿を知る者がほとんどいないという鉱物であったが、熊本県払川ではそれらが見えている砂白金粒が採集できる。写真の標本はイソフェロプラチナ鉱であるが、黒色で強く輝く互いに接した二つの粒を持っている。小さいほうがラウラ鉱で、大きいほうがエルリッチマン鉱。肉眼的に区別はできないが、統計的にはエルリッチマン鉱の場合が多かった。ともかくこのように見えているラウラ鉱やエルリッチマン鉱は世界的に非常に珍しい。学名についてラウラ鉱はなかなか珍しい由来となっている。ラウラ鉱は、発見者(F. Wöhler)の友人であるCharles A. Joy(コロンビア大学の化学者)の妻Laura R. Joyへの賛辞として名付けられた。エルリッチマン鉱についてはNASAの電子顕微鏡アナリストであるJozef Erlichman (1935 – )にちなむ。いずれも由来が人名なので、和名はその読みのままとしたい。
ベリル / Beryl
岐阜県中津川市福岡鉱山
ベリル / Beryl
Be3Al2Si6O18
ベリルは古代から存在が認識されている鉱物で、古くからの呼び名がそのまま学名となったようで正確な起源をたどることが困難になっているが、ギリシア語で青緑の石を意味するBeryllosが由来である可能性が考えられている。明治37年発行の日本鉱物誌には「緑柱石 又 瑠璃」として紹介されており、その名が示すように柱状結晶で産出することが多く、色も青や緑色を示すことがある。しかし色に関しては無色透明であることも多く、黄色やピンク色系統も発現することがある。そのせいか最近では緑柱石ではなく学名のカタカナ読みのベリルを耳にする機会が多い。ペグマタイトを典型的な母岩とし、産地は多い。苗木地方ではバートランド石を伴うことがある。
リーブス石 / Reevesite
リーブス石 / Reevesite
Ni6Fe3+2(CO3)(OH)16·4H2O
三重県鳥羽市菅島
リーブス石はハイドロタルク石超族の下位分類にあたるハイドロタルク石族の一員で、ニッケル(Ni)と三価鉄(Fe3+)を主成分とする炭酸塩鉱物である。見た目の通り二次鉱物で、蛇紋岩のすきまにやや鈍い黄色を呈する細かい鱗片状の結晶が集合して産出する。ただしあまりに細かいために実体顕微鏡なしにはただの黄色い粉にしか見えない。模式地はWolfe Creek隕石クレータ(オーストラリア)であり、世界初のリーブス石は地球に落下した後に風化・変質した隕石の中から発見された。学名はこの隕石を発見したFrank Reeves(1886-1986)にちなむ。同じハイドロタルク石族の一員にはデソーテルス石(Desautelsite)が知られる。
ガレノビスマス鉱 / Galenobismutite
ガレノビスマス鉱 / Galenobismutite
PbBi2S4
山梨県北杜市白州町鞍掛鉱山
ガレノビスマス鉱は方鉛鉱(Galena:PbS)+輝蒼鉛鉱(Bithmuthinite:Bi2S3)の理想化学組成を持ち、それぞれの学名を合わせて命名された。ガレノビスマス鉱の化学組成にもう一つ方鉛鉱を加えるとコサラ鉱の理想化学組成になる。そのためか、コサラ鉱がいると近くにはガレノビスマス鉱がしばしば伴われる。しかし外観で区別は難しいように感じる。またコサラ鉱は少量の銅(Cu)もしくは銀(Ag)を必ず含むが、共存する場合でもガレノビスマス鉱には銅や銀はほとんど含まれない。写真の左上の針状結晶の束はコサラ鉱で、全体を覆う白色粉は硫酸鉛鉱。
コサラ鉱 / Cosalite
山梨県北杜市白州町鞍掛鉱山
コサラ鉱 / Cosalite
Pb2Bi2S5
コサラ鉱は19世紀の中ごろにメキシコのCosalá鉱山から見出された鉱物で、典型的に鉛灰色の針状結晶として産出する。産地の稀な珍しい鉱物ということではないが、目で見てわかる大きさのコサラ鉱となると日本では珍しいかもしれない。コサラ鉱は鉛(Pb)とビスマス(Bi)を主成分とする硫化鉱物だが、必ず少量の銅(Cu)もしくは銀(Ag)を含有し、それらは必須成分であると考えられている。写真の標本だと銀を少量含んでいた。
グラトン鉱 / Gratonite
グラトン鉱 / Gratonite
Pb9As4S15
青森県平川市碇ケ関湯ノ沢鉱山
グラトン鉱はハーバード大学(アメリカ)で資源地質学の教授を務めたLouis Caryl Graton (1880-1970)にちなむ鉱物で、ペルーを模式地とする。日本では青森県湯ノ沢鉱山から1984年に見いだされた。鉛(Pb)とヒ素(As)の硫化鉱物であり、暗い鉛灰色の棒状結晶として産出する。同じく鉛とヒ素の硫化鉱物であるヨルダン鉱とは結晶構造の一部が共通しており、結晶だけ見るとそれらは非常によく似るため区別することは難しい。グラトン鉱はヨルダン鉱よりも低い温度で出現すると考えられている。
砒四面銅鉱 / Tennantite
秋田県大館市釈迦内鉱山(亜鉛砒四面銅鉱)
亜鉛砒四面銅鉱 / Tennantite-(Zn)
Cu6(Cu4Zn2)As4S13
銅砒四面銅鉱 / Tennantite-(Cu)
Cu6(Cu4Cu2)As4S13
砒四面銅鉱は砒四面銅鉱シリーズの総称であり、そのうち亜鉛(Zn)を主成分とする場合だと亜鉛砒四面銅鉱という鉱物種となる。現時点で、そのほかに鉄(Fe)、銅(Cu)、水銀(Hg)を主成分とする種が知られている。銅砒四面銅鉱についてはペルー産の新鉱物として2021年に承認されたばかりである。実はそれに先立って手稲鉱山からも硫砒銅鉱に埋没する産状で銅砒四面銅鉱をみつけていたのだが、小さいので手も足も出なかった。ともかくこれでようやくラベルが書ける。いわゆる砒四面銅鉱はアンチモン(Sb)を主成分とする四面銅鉱から見るとそのヒ素(As)置換体に相当する。そのことから和名においては便宜性のために砒四面銅鉱と呼んでいるが、根源名は人名に由来する。根源名は元素としてのイリジウム(Ir)やオスミウム(Os)を発見したイギリス人化学者のSmithson Tennant(1761-1815)に因んで1819年に定まった。砒四面銅鉱は四面銅鉱族の一員であるからにして、その結晶はやはり四面体を基本とした形状となりやすい。四面銅鉱やシリーズ内の種とは固溶体によって化学組成が連続的に変化するため、一つの結晶に複数の鉱物種が存在することがある。
四面銅鉱 / Tetrahedrite
秋田県大館市花岡鉱山(亜鉛四面銅鉱)
亜鉛四面銅鉱 / Tetrahedrite-(Zn)
Cu6(Cu4Zn2)Sb4S13
鉄四面銅鉱 / Tetrahedrite-(Fe)
Cu6(Cu4Fe2)Sb4S13
四面銅鉱は16世紀には存在が知られていた鉱物で、四面体(tetrahedron)の結晶で出現することに因んで19世紀中ごろに名付けられた。和名はさらに化学組成も反映させている。いわゆる四面銅鉱は多様な化学組成を示し、一般にその置換関係も複雑であり、そのややこしさは角閃石にも通じる。そのために四面銅鉱のことを「硫化物角閃石(sulfide amphibole)」と言及した論文がある。ごく最近になって四面銅鉱族の命名規約が整備され、個々の鉱物種の上段にシリーズ名が設けられた。そのため今となってはたんに四面銅鉱というとシリーズに入る鉱物の総称であり、個々の鉱物としては亜鉛(Zn)、鉄(Fe)、水銀(Hg)の種類が知られている。写真は亜鉛四面銅鉱と鉄四面銅鉱であり、一般には亜鉛四面銅鉱のほうが産出例は多いと言われている。
コーク石 / Corkite
コーク石 / Corkite
PbFe3+3(SO4)(PO4)(OH)6
京都府京都市右京区御室
明礬石超族のうちのビューダン石族は、硫酸基(SO4)に加えてもう一つリン酸基(PO4)もしくはヒ酸基(AsO4)をもつ鉱物のまとまりで、コーク石もそのうちの一種として知られる。ヒ酸基をもつビューダン石から見て、そのリン酸基置換体がコーク石となる。一般には鉛を含む鉱床の酸化帯で見つかることのある鉱物だが、写真のコーク石は珍しいことにペグマタイトの空隙に生じていた。黄色で板状の結晶がコーク石で、球状に集合した黒色の針鉄鉱を伴っている。学名は模式地が所属するコーク郡(アイルランド)に因んで命名されている。
アントワン石 / Anthoinite
アントワン石 / Anthoinite
AlWO3(OH)3
京都府和束町石寺
アントワン石はコンゴ共和国で見いだされたアルミニウムを主成分とする含水タングステン酸塩鉱物で、学名はベルギーの鉱山技師である Raymond Anthoine(1888-1971)にちなむ。遷移金属元素を含まず、白色の粉末を押し固めたような姿で産出することが典型。灰重石の変質で生じるため広く分布がありそうだが、今のところ世界的に見ても稀産の部類であろう。ただし、それは白色の粉末という姿で産出するためにあまり興味を持たれず見過ごされているだけかもしれない。和束ではエムポロロ石を伴うことが報告されていたが、この標本からはそれは検出されなかった。偏りがあるのかもしれない。
鉄重石華 / Hydrokenoelsmoreite
鉄重石華 / Hydrokenoelsmoreite
(□,Na,H2O)2(W,Fe3+,Al)2(O,OH)6·H2O
京都府和束町石寺
鉄重石華はパイロクロア超族の一員でエルスモア石族に分類される。かつてはferritungstiteという学名であったが命名規約の変更で今の長い学名が定まった。今の学名の根源名は模式地であるElsmore鉱山(オーストラリア)に由来するが、和名はそのまま変える必要はないだろう。水を多く含むタングステン酸塩鉱物で、鉄も多く含まれるためおおむね黄色に染まる。そして多くの場合で黄色い粉の集合として産出する。石寺では結晶として産出することがあり、それは非常に小さいが透明な八面体であった。
黄粉銀鉱 / Xanthoconite
黄粉銀鉱 / Xanthoconite
Ag3AsS3
北海道千歳市美笛千歳鉱山
黄粉銀鉱は粉もしくはその条痕色が黄色を呈することから、粉および黄色を意味するギリシャ語にちなんで名付けられた鉱物で、和名もその意味を踏襲している。その結晶は大きいと紅色を帯びるものの、薄い小さいものほど橙から黄色となる。淡紅銀鉱とは同質異像の関係にあり、淡紅銀鉱の場合だと粉になっても紅色を保つ。そのため黄粉銀鉱とは条痕色を比べることで確実に鑑定できる。物質的には低温相(淡紅銀鉱)および高温相(黄粉銀鉱)の関係性であり、180-200℃程度にその境界が存在する。
ニッケル孔雀石 / Glaukosphaerite
ニッケル孔雀石 / Glaukosphaerite
CuNi(CO3)(OH)2
愛知県新城市中宇利鉱山
ニッケル孔雀石の学名は青緑色の球体という意味のギリシャ語に由来し、ニッケル(Ni)と銅(Cu)を主成分とした含水炭酸塩鉱物である。典型的にはその名の由来通り緑色系統の球体として産出するが、集合体が小さい場合だと黄色みが強く出てくる。細かいところを除けば孔雀石とはおおむね共通の結晶構造となっていることから、和名においてはニッケル孔雀石となっている。しかし孔雀石の銅をすべてニッケルに置換したNullaginiteという鉱物がすでにあり、日本ではまだ見つかっていないがもし見つかった際は和名があまり適切ではなくなってしまうかもしれない。
ブロック石 / Brockite
ブロック石 / Brockite
(Ca,Th,Ce)(PO4)·H2O
福島県石川町野木沢地域
ラブドフェン族の鉱物は一般に希土類元素に卓越するが、希土類元素よりもカルシウム(Ca)のほうが多い種類が存在し、それがブロック石である。アメリカ地質調査所のMaurice R. Brockに因んで命名された。日本では福島県石川町の北部にある野木沢地域から、まるで高野豆腐のような質感で産出する。ただしこれは仮晶であり、元の鉱物はトール石だったと思われる。実際にトール石が内部に残存していることがある。こういった外観の仮晶はかつて野木沢石や粟津石などと呼ばれた。
ハッチンソン鉱 / Hutchinsonite
ハッチンソン鉱 / Hutchinsonite
TlPbAs5S9
北海道洞爺湖町洞爺(財田)鉱山
ハッチンソン鉱もまたタリウム(Tl)を主成分とする稀産の鉱物で、日本では洞爺(財田)鉱山で見つかっている。ぱっと見は黒色であるが、浮いた箇所に紅色が見えることからわかるように本来の色(自色)は濃い紅色である。英語ではこの色をスカーレットヴァーミリオン(Scarlet-vermillion)と言ったりする。断面はダイアモンド光沢を示すので硬そうな印象を受けるが、実際は爪でも傷がつくほどもろい。洞爺(財田)鉱山では周囲にロランド鉱を伴っていた。学名はケンブリッジ大学(イギリス)で鉱物学の教授を務めたArthur Hutchinson (1866-1937)にちなむ。
ロランド鉱 / Lorándite
ロランド鉱 / Lorándite
TlAsS2
北海道洞爺湖町洞爺(財田)鉱山
ロランド鉱は北マケドニア共和国から見出されたタリウム(Tl)を主成分に持つ硫ヒ化鉱物で、ハンガリーの物理学者であるLoránd Eötvös (1848-1919)に因んで命名された。ロランド鉱は赤色の板状結晶として産出し、その姿はしばしば共存する鶏冠石と見分けがつかない。ただし鶏冠石とは違い、光に触れる環境で放置しても光沢は変わらない点で長期的には見分けがつくかもしれない。北海道洞爺(財田)鉱山から見つかったロランド鉱も鶏冠石とよく似ているが、周囲には紅が濃すぎてほぼ黒塊に見えるハッチンソン鉱が伴われる。
菱亜鉛鉱 / Smithsonite
菱亜鉛鉱 / Smithsonite
Zn(CO3)
愛知県新城市中宇利鉱山
中宇利鉱山は戦時中に鉄(Fe)やニッケル(Ni) を目的に開発されたが、すでに閉山して久しく、今となっては放置された坑道や廃石に多様な二次鉱物が生じている。写真の菱亜鉛鉱もその一つで、これは亜鉛(Zn)を主成分とする炭酸塩鉱物である。中宇利鉱山で亜鉛の鉱物などこれまで聞いたことがなく、まったくの不意打ちにうろたえてしまった。菱コバルト鉱や菱ニッケル鉱とは固溶体を形成し、写真の標本だと亜鉛>コバルト(Co)>ニッケルの内容となっている。一般的には粒状や菱形、それが伸びた棒状、さらに束にまとまったりと多様な姿があり、色も不純物の影響を受けて様々あるのでつかみどころがない。その上で産状もあてにならないことがあると今回わかった。学名は化学者・鉱物学者のJames Smithson(1754-1829)にちなんでおり、スミソニアン博物館の由来にもなった人物としてのほうが有名かもしれない。和名は典型的な結晶形状と化学組成から。
車骨鉱 / Bournonite
埼玉県秩父市秩父鉱山大黒鉱床
車骨鉱 / Bournonite
CuPbSbS3
車骨鉱は埼玉県秩父鉱山産の標本が古くから有名で、多重双晶によって生じた凸凹が歯車のようにも見えたことから、歯車の古い言葉である車骨からその和名が定まった。しばしば針状のブーランジェ鉱を伴う。手持ちの標本は小さいが名前の由来となった凸凹の様子はうかがえる。産地が変わってもその特徴は共通であり、愛媛県古宮鉱山でも同じような形状の結晶として産出する。結晶は黒色だがその結晶面は光をよく反射する。学名は人名に由来しており、フランスの鉱物学者であるJacques-Louis, Comte de Bournon (1751-1825)にちなむ。
マンガンパイロスマル石 / Pyrosmalite-(Mn)
栃木県鹿沼市鷹ノ巣鉱山
マンガンパイロスマル石 / Pyrosmalite-(Mn)
Mn2+8Si6O15(OH,Cl)10
マンガンパイロスマル石の根源名は火および臭うという意味のギリシア語に由来し、加熱すると臭いにおいを発する。そんな命名の由来をもつ鉱物だが、その標本はむしろいい匂いがしそうな印象すらある。日本ではマンガンパイロスマル石というと栃木県の久良沢(きゅうらさわ)鉱山と鷹ノ巣鉱山が二大産地であり、透明感のあるピンク色をした六角形の板から棒状結晶が良く知られている。やや黒色を帯びる結晶は内部に多量の金雲母を伴っている。愛媛県古宮鉱山の標本は褐色に汚れたバラ輝石のようにも見えていたが、よく見るとそれは橙色の板状結晶の集合体で、これもマンガンパイロスマル石であった。他の鉱床でも産出があるのかもしれないが、古宮鉱山のような産状だと気づくことはむずかしい。
マンガン重石 / Hübnerite
群馬県みどり市萩平鉱山
マンガン重石 / Hübnerite
Mn2+WO4
マンガン重石はドイツの鉱山技師であるAdolph Hübner(1830?-??)に因んだ学名を持つ鉱物であるが、和名においてはタングステン酸塩鉱物のことを「~重石」と呼ぶ慣習があり、マンガン(Mn)を主成分とすることからマンガン重石と呼ばれている。光沢の強い濃赤色の板状から柱状結晶として産出することが非常に多く、一般的にマンガン重石の判別は難しくない。ところが全く思いがけない姿になることがあるようで、銅蔵鉱山から見いだされた橙色の針状結晶もまたマンガン重石であった。
輝銀銅鉱 / Stromeyerite
兵庫県宍栗市倉床大身谷鉱山
輝銀銅鉱 / Stromeyerite
CuAgS
輝銀銅鉱はドイツ人化学者のFriedrich Stromeyer (1776-1835)に因んで命名された鉱物であるが、和名においては鉱物の光沢と、銀(Ag)と銅(Cu)からなる化学組成に基づいて呼ばれている。いわゆる銀黒の構成鉱物として含まれる産状が一般的で、大身谷鉱山の鉱石にはかなり多く輝銀銅鉱が含まれていた。結晶は黒色であるがその名が示すようにチカチカと良く輝く。銅鉱石中にも伴われ、マッキンストリー鉱とは頻繁に離溶組織で共生する。一方で輝銀銅鉱の自形結晶となるといずれの鉱床でもなかなかお目にかかる機会がない。それでも秋田県小坂鉱山内ノ岱においては、黄銅鉱の上に生じた小さな輝銀銅鉱の結晶が見いだされた。
テルル石 / Tellurite
テルル石 / Tellurite
TeO2
静岡県下田市河津鉱山
テルル石はテルル(Te)の二酸化鉱物であり、結晶として産出すると透明感のある黄色から橙色の板もしくは柱状の姿となる。日本においてテルル石というと河津鉱山が代表的な産地であり、なかなか多様な姿を見せてくれる。いずれも美しい。テルル石はベータ(β)型と呼ばれる結晶構造をしており、アルファ(α)型の結晶構造を有するパラテルル石とは同質異像の関係にある。鉱石の破断面にみられる「ナメクジの這った痕」様な産状がパラテルル石だと俗に言われているが、個人的にはそれを調べてパラテルル石が検出されたためしがない。テルル石の学名はテルルを含んでいることに由来する。
鶏冠石 / Realgar
鶏冠石 / Realgar
AsS
北海道札幌市手稲鉱山
鶏冠石はヒ素(As)と硫黄(S)からなる鉱物で、ルビーにも似た鮮やかな紅色を示すため鶏冠石は鉱物標本として人気が高い。ただし光(特に太陽光)の影響でパラ鶏冠石へ変質しやすく、そうした部分は粉っぽくオレンジ色が強く出てくる。写真の標本だと左端はおそらくパラ鶏冠石(Pararealgar)へ変質してしまっている。学名は「鉱山の粉」を意味するアラビア語に由来し、和名は鶏の冠(とさか)に似ていることから名付けられた。群馬県西ノ牧鉱山や三重県丹生鉱山が産地として有名であるが、北海道手稲鉱山でも少量産出した。
苦土大隅石 / Osumilite-(Mg)
苦土大隅石 / Osumilite-(Mg)
KMg2Al3(Al2Si10)O30
鹿児島県薩摩川内市山之口
苦土大隅石はその名前からして日本産の新鉱物にみえるが、実はドイツを模式地としている。苦土大隅石は日本でも古くからその産出は知られていたが、正式な記載論文が発表されていなかった事情があり、ドイツ産の苦土大隅石がロシアの研究者によって2011年に新種として登録された。学名、和名ともに大隅石(osumilite)のマグネシウム(Mg)置換体であることを意味する。大隅石とは分析なしに区別することはできない。また、六角柱状結晶や多色性が菫青石とよく似ている。岐阜県月ヶ瀬も苦土大隅石の産地として知られるので手に知れたが、その標本は苦土ではない大隅石であった。
水亜鉛土 / Hydrozincite
三重県いなべ市北勢町新町
水亜鉛土 / Hydrozincite
Zn5(CO3)2(OH)6
鉱物の外観を示す言葉として土状光沢(Earthy luster)がある。土のようなという意味であるが、それはおおむねのっぺりとしており、その名称がふさわしいかどうかいつもよくわからない。水亜鉛土は亜鉛(Zn)の含水炭酸塩鉱物であり、学名は化学組成を反映している。和名も同様に化学組成からなっているが、最後が「土」で終わる珍しいケースとなっている(鉱物は「石」か「鉱」で締めることが一般的)。水亜鉛土は亜鉛を含む鉱床の酸化帯に珪亜鉛鉱と共にしばしば出現するが、産出規模が小さい場合が多く、見てくれが地味であることも相まって注目されることが少ない。短波長の紫外線で弱いながらも青い蛍光を示す特徴がある。
イライト / Illite
イライト / Illite
K-deficient muscovite
愛媛県西条市加茂川
愛媛県西条市の加茂川には「ヒスイ」と称される岩石が転がっていることがある。ヒスイというだけあって爽やかな緑色が特徴的だが、重量感のある堅硬緻密な糸魚川ヒスイとは性質が大いに異なっており、加茂川ヒスイは軟くかつ軽い。その実態はイライトと称される白雲母の変種であり、イライトは現時点で通称名であるため、ここでは石ころに分類する。組成的には通常の白雲母と比較してクロム(Cr)を含むこととカリウム(K)が大きく欠損している特徴がある。構造的には大量の積層欠陥を含む。それでも古くからその存在は知られており、その名称は発見地が所属するイリノイ州(Illinois)に因んで命名された。
フェロサポー石 / Ferrosaponite
フェロサポー石 / Ferrosaponite
Ca0.3(Fe2+,Mg,Fe3+)3(Si,Al)4O10(OH)2·4H2O
愛媛県久万高原町黒妙
フェロサポー石は粘土鉱物として分類される鉱物で、いわゆる粘土の中に含まれる鉱物である。そのためにフェロサポー石は通常は目に留まることのない存在であろう。しかし安山岩の空隙に苦土フェリエ沸石や鱗珪石と共に、葉片状結晶の放射状集合体として出現することがある。その場合でも小さいがある程度まとまって出現するとさすがに目に留まる。安山岩を割ってすぐだとフェロサポー石は鮮やかな濃緑色を示すが、徐々に退色するために標本箱に収まるころには鮮やかさが失われる。学名はサポー石(saponite)の二価鉄置換体(Fe2+: Ferro)であることから。根源名(ルートネーム)のサポー石(saponite)は石鹸を意味するラテン語に由来し、その標本から石鹸のような光沢やさわり心地が感じられたとされる。
ガノフィル石 / Ganophyllite
福島県いわき市御斎所鉱山
愛媛県大洲市河辺用ノ山鉱山
右下の赤いところを除いてのっぺりした橙色がガノフィル石(中央の金属は自然銅)
ガノフィル石 / Ganophyllite
(K,Na)xMn2+6(Si,Al)10O24(OH)4·nH2O (x=1-2; n=7-11)
ガノフィル石は葉片状で輝くという意味のギリシア語から命名された鉱物で、橙色を帯びるへき開片からは命名の由来となったさまを観察することができる。一方でへき開がよくわからない産状も多く、微粉末集合に見える産状(鹿児島県大和鉱山)ならまだしも、のっぺりした産状(愛媛県用ノ山鉱山)だとそれと気づくことすら難しい。ガノフィル石はカリウム(K)を主成分とし、ナトリウム(Na)を主成分とするエグレトン石(Eggletonite)やカルシウム(Ca)を主成分とする多摩石(Tamaite)とガノフィル石族としてまとめられている。これらの外観や産状は共通であり組成も連続的に変化するために確実な同定には分析が必要となるが、ガノフィル石の産出が圧倒的に多いことを経験している。
クリントン雲母 / Clintonite
クリントン雲母 / Clintonite
CaAlMg2(SiAl3O10)(OH)2
埼玉県秩父市秩父鉱山石灰沢
クリントン雲母は脆雲母に分類される雲母で、政治家であるDeWitt Clinton (1769-1828)に因んで命名された。日本で産出するクリントン雲母は石灰沢から産出する透明感のある淡緑色で六角板状の結晶が著名であろうが、海外では茶色系統の結晶も少なからず産出が知られている。外観は他の雲母族の鉱物と共通するため、鑑定は産状や結晶の特徴を考慮する必要がある。クリントン雲母をはじめ、脆雲母に属する雲母はその名が示すようにもろく、その結晶には弾力がないため曲がることなく砕けてしまう。
ヒスイ輝石 / Jadeite
ヒスイ輝石 / Jadeite
NaAlSi2O6
新潟県糸魚川市ヒスイ海岸
ヒスイ輝石は輝石族の一員となる鉱物で、造岩鉱物であるために日本だけでも産地はけっこう多い。しかし標本としてのヒスイ輝石となるとその産地はぐっと少なくなり、どこか一つ上げるとするとやはり糸魚川地域がその代表となるだろう。糸魚川においてはヒスイ輝石が主体となる岩石(ヒスイ輝石岩:Jadeitite)の一部が宝飾品としての翡翠(Jade)として珍重され、大小さまざまなヒスイ輝石岩が河川や海岸で採集できる。写真の標本はやや紫がかったいわゆる「ラベンダー翡翠」として採集された小礫であるが、中心部に穴が開いている。こういった小礫は翡翠コレクターには嫌忌されるだろうが、鉱物コレクターとしては結果的にちょっとうれしかった。分析してみるとそれはヒスイ輝石の結晶であったのだ。学名は翡翠(宝飾品として)の英名であるJadeを由来としておりそれはラテン語→スペイン語→フランス語から生じた名称とされる。翡翠は側面の痛みを治すと考えられ、側面という意味から生じているようだ。また、いわゆる「ヒスイ」という言葉は、鉱物(ヒスイ輝石:Jadeite)、宝飾品(翡翠:Jade)、岩石(ヒスイ輝石岩:Jadeitite)が混同され、言葉としてややこしくもあるが、日本鉱物科学会はもろもろひっくるめた「ヒスイ」を日本の国石として定めた。
閃ウラン鉱 / Uraninite
福島県郡山市富士鉱山
閃ウラン鉱 / Uraninite
UO2
閃ウラン鉱は四価ウラン(U4+)の二酸化鉱物で、花崗岩を初めとする深成岩には微細ながらも普遍的に含まれる。それらのペグマタイトでは肉眼的な大きさに成長した結晶が稀に認められ、富士鉱山では黒色の粒状結晶が産出した。この産地では周囲に緑色箔状のリン銅ウラン石を伴うことが多い。福島県水晶山でも産出があり、フェルグソン石の柱面に寄り添う強い光沢の四角長柱状結晶が閃ウラン鉱であった。学名は主成分となる元素(ウラン)に由来する。和名においては断面が金剛光沢を示すことから「閃」をつけ、また「石」ではなく「鉱」で呼ぶことが古くから慣例となっている。
ブランネル石 / Brannerite
ブランネル石 / Brannerite
UTi2O6
鹿児島県薩摩川内市双子島3坑
鹿児島県薩摩川内市の西方に浮かぶ双子島は花崗岩~石英閃緑岩から主になるものの、小規模に銅鉱床が胚胎されていたことから大正6-7年にかけて採掘された。この鉱床は銅を含むだけでなく数カ所で放射能異常が報告されており、その異常はウラン(U)とチタン(Ti)からなるブランネル石の濃集であることが突き止められている。ブランネル石は貝殻状断口を示す柱状結晶として石英中に産出し、近傍に黄鉄鉱をしばしば伴うことがこの産地の特徴となっており、日本では双子島が唯一の産地となっている。学名は地質学者であるJohn Casper Branner (1850-1922)に因んで命名された。
方沸石 / Analcime
方沸石 / Analcime
NaAlSi2O6·H2O
千葉県南房総市
方沸石はサイクロペアン諸島(イタリア)から最初に見いだされた鉱物で、加熱や摩擦で弱い静電気を生じることから「弱い」を意味するギリシア語に基づいて名付けられている。典型的に無色透明から白色の24面体結晶として産出し、白色の場合は白榴石と肉眼的に区別ができない。玄武岩の晶洞によくみられ、続成作用でもしばしば生じる。写真は凝灰岩中の脈状鉱物として生じた方沸石。なお方沸石は数多い沸石超族の中でもっとも最初に構造解析が行われた沸石としても知られている。
鉄雲母 / Annite
鉄雲母 / Annite
KFe2+3AlSi3O10(OH)2
北海道浦賀町乳呑川
通称で黒雲母(Biotite)と呼ばれている雲母は、二価鉄(Fe2+)を主成分とする鉄雲母とマグネシウム(Mg)を主成分とする金雲母(Phlogopite)との固溶体となっている。その固溶体はほとんどの場合で多くの場合で黒色を帯び、外観からは鉱物種を分けることはできない。北海道乳呑川の上流には玄武岩質の半深成岩が露出しており、そこには六角板状のいわゆる黒雲母が伴われている。分析をしてみるとそれは鉄雲母であった。鉄黒雲母の学名は模式地であるアン岬(アメリカ)に由来しており、和名は化学組成に基づいている。
アラバンド鉱 / Alabandite
愛媛県大洲市戒川鉱山
アラバンド鉱 / Alabandite
MnS
アラバンド鉱はルーマニアを模式地とするマンガン(Mn)と硫黄(S)からなる鉱物で、硫酸マンガンを意味するスペイン語で名付けられている。海外ではアラバンド鉱は黒色で八面体の結晶となる標本がよく知られており、その結晶表面は光をよく反射する。そのきらめきを「閃」と解して、かつては「閃マンガン鉱」という和名が用いられた。しかし日本で産出するアラバンド鉱は多くが鈍い緑色の粉をぎゅっと押し固めた姿であって、名は体を表していない閃マンガン鉱という和名は徐々にすたれた。今となっては学名のカタカナ読みでアラバンド鉱を用いることが多い。それでも三重県の山田鉱山では閃マンガン鉱とギリギリ言えるような光沢のある結晶が産出した。ラムベルグ鉱(Rambergite)とは同質異像の関係にあたる。
パイロファン石 / Pyrophanite
福島県いわき市御斎所鉱山
パイロファン石 / Pyrophanite
MnTiO3
パイロファン石はスウェーデンを模式地とする鉱物で、典型的には濃赤色の六角板状結晶として産出する。マンガン鉱山ではまれでない程度に見かけ、典型的な姿で産出することが多く、断面であっても赤色の板状という特徴からパイロファン石の産出は気づきやすい。一方で小さな箔状の結晶はルーペ程度ではチカチカ光るのみで一見してパイロファン石とは気づきにくい。パイロファン石はその姿が炎に例えられ、炎のように見えるという意味のギリシア語が学名の由来となっている。
ウエリン石 / Welinite
ウエリン石 / Welinite
Mn2+6(W6+□)(SiO4)2O4(OH)2
三重県伊賀市真泥山田鉱山
ウエリン石はスウェーデンの鉱物学者であるEric Welin(1923-2014)にちなんで命名された鉱物で、マンガン(Mn)とタングステン(W)を主成分とするケイ酸塩というめずらしい組成となっている。山田鉱山においてはテフロ石を主体とした鉱石中にアラバンド鉱を伴い、強い金剛光沢を示す赤褐色の不定型な結晶粒として産出する。共通の産状と外観でマンガン重石も産出するが、調べた範囲内で山田鉱山ではウエリン石のほうが産出が多かった。ウエリン石は世界的にも稀な鉱物であるが、日本では他に3箇所の産地が知られている。
赤錫鉱 / Rhodostannite
赤錫鉱 / Rhodostannite
Cu1+(Fe2+0.5Sn4+1.5)S4
北海道札幌市豊羽鉱山
赤錫鉱は黄錫鉱(Stannite: Cu2FeSnS4)に似た化学組成ながらもそれと比べて赤みを帯びることから名付けられた鉱物で、学名のRhodoはギリシア語で赤色を意味している。和名はその直訳になるが、赤みが感じられるかどうかは微妙と思う。またその結晶構造は黄錫鉱とは無関係であり、赤錫鉱はスピネル超族の一員である。写真の中央が赤錫鉱であり、その両脇は黄錫鉱となっている。赤錫鉱は石英と共に脈状に分布し、その脈にはヘルツェンベルグ鉱も伴われているが、分析なしには同様の外観を示す錫石とは区別がつかない。世界的に見て産出の非常に稀な鉱物で、その産地は日本では愛媛県別子鉱山と北海道豊羽鉱山のみとなっている。
キャノン石 / Cannonite
キャノン石 / Cannonite
Bi2O(SO4)(OH)2
静岡県下田市河津鉱山
キャノン石はビスマス(Bi)を主成分とする硫酸塩鉱物であり、二次鉱物として生じる。日本では数カ所でしか産出が記録されていないが、調べてみると輝蒼鉛鉱にはしばしばキャノン石が伴われていた。しかし多くの場合でそれは薄い皮膜でしかなく、そのために気づかれないのだろう。結晶として成長するとキャノン石は無色の板状結晶として産出し放射状に開くことが非常に多い。キャノン石の学名は模式標本を提供したBenjamin Bartlett “Bart” Cannon(1950-2019)に因んでおり、アメリカで最初に発見された。
モガン石 / Mogánite
モガン石 / Mogánite
SiO2·nH2O
愛媛県久万高原町高殿
モガン石はやや水を含むことがあるものの基本的にはSiO2を理想化学組成とし、石英とは同質異像の関係にある。そして玉髄(超微細な石英を主とする集合体)において、モガン石は石英と共にその主要構成鉱物として産出する。つまり玉髄であればモガン石は少なからず入っており、その産出はまったく稀はない。ただし超微細であるために電子顕微鏡であってもその結晶を捉えることは難しく、その検出にはラマン分光法が特に有効である。標本としてはなにか特徴があってほしいので、個人的には写真のように球状の玉髄についてモガン石のラベルを付している。学名は模式地(スペイン)に由来する。
ヘス鉱&ペッツ鉱 / Hessite&Petzite
ヘス鉱 / Hessite:Ag2Te
ペッツ鉱 / Petzite:Ag3AuTe2
静岡県下田市河津鉱山
静岡県河津鉱山はテルル(Te)を伴う金銀鉱床で、金(Au)や銀(Ag)とテルルからなる金属鉱物を産出した。その代表的な鉱物としてヘス鉱とペッツ鉱が知られ、写真の標本ではそれらが半々程度含まれている。いずれも銀灰色の金属として石英中に産出し、不定形な自然テルルとはやや見分けが難しい。ヘス鉱はヘスの法則を提案した化学者のGermain Henri Hess(1802-1850)に、ペッツ鉱は鉱物コレクターでもあった化学者のKarl Wilhelm Petz(1811-1873)にちなむ。いずれも19世紀には命名された古典鉱物として知られるが、結晶として産出することは非常に少ない。ヘス鉱は単斜晶系の鉱物であるが、155℃以上で立方晶系となる。155℃以上で合成されたヘス鉱の結晶は六角の面が強く出ていた。
リッカルド鉱 / Rickardite
リッカルド鉱 / Rickardite
Cu3-xTe2
静岡県下田市河津鉱山
リッカルド鉱は銅(Cu)とテルル(Te)を主成分とする鉱物で、破断面は銀白色を呈する。しかし非常に錆びやすいため、まず青みがかったあとで最終的には紫色となる。ただしその紫色はリッカルド鉱の典型であるため、テルル鉱床で紫色の金属となるとリッカルド鉱がまず思い浮かぶ。写真の標本もその典型であり、リッカルド鉱はその内部に自然テルルを伴い、周囲にはブルカン鉱やカラベラ鉱など他のテルル化鉱物も伴われる。学名は鉱山技師の Thomas Arthur Rickard(1864–1953)にちなむ。
単斜ヒューム石 / Clinohumite
単斜ヒューム石 / Clinohumite
Mg9(SiO4)4F2
愛媛県松山市重信川
単斜ヒューム石はヒューム石族のヒューム石系列のひとつで、同系列ではコンドロ石と並んで産出が多い。外観はいずれも共通して橙色で塊状であり、ドロマイトに伴われることが多く、基本的にはスカルンでよくみられる鉱物である。コンドロ石と共存することがしばしばあるものの、それ以外との共存は少ない。写真の標本についても同様であった。学名はヒューム石の単斜晶系多形(ポリモルフ)であることに由来する。そしてヒューム石はイギリスの貴族であり鉱物コレクターでもあったAbraham Hume(1749-1838)への献名として1813年に名付けられた鉱物である。
水酸単斜ヒューム石 / Hydroxylclinohumite
水酸単斜ヒューム石 / Hydroxylclinohumite
Mg9(SiO4)4(OH)2
愛媛県四国中央市富郷町藤原
ヒューム石族のヒューム石系列の鉱物にコンドロ石、単斜ヒューム石、ヒューム石、ノルベルグ石が知られており、これらはいずれもフッ素(F)を主成分とする鉱物である。そのうち単斜ヒューム石についてのみその水酸基(OH)置換体となる種が知られており、それが水酸単斜ヒューム石である。愛媛県藤原では蛇紋岩中に橙色で塊状となる単斜ヒューム石が古くから知られており、それはチタン(Ti)を含むことばかり注目されてきたが、データをよく見るとフッ素が検出されていないため、これは鉱物種として水酸単斜ヒューム石である。念のために写真の標本も調べてみたが、やはりフッ素は検出されなかった。学名は単斜ヒューム石の水酸基置換体というそのままの意味である。
マンガンヒューム石 / Manganhumite
マンガンヒューム石 / Manganhumite
Mn2+7(SiO4)3(OH)2
福島県いわき市御斎所鉱山
ヒューム石族のマンガンヒューム石系列の鉱物にはアレガニー石、マンガンヒューム石、園石が知られている。いずれもバラ輝石を伴うマンガン鉱石中に産出するが、ほとんどの場合で微細な粒状結晶が集合した塊として産出する。肉色から淡紫褐色と称される色味は三種でほとんど共通するため、分析する以外にこれらを分ける方法はない。そして、日本ではマンガンヒューム石は三種の内で最も産出が稀な鉱物であろう。福島県御斎所鉱山から産出した写真の標本を調べたところ、多くがマンガンヒューム石からなっており、あとは少量の園石が伴われるのみであった。
十字石 / Staurolite
富山県黒部市宇奈月
十字石 / Staurolite
Fe2+2Al9Si4O23(OH)
十字石は双晶によって十字に交わることが多い鉱物で、学名もまた十字を意味するギリシア語に由来する。主に中圧型の変成作用で生じる鉱物で、特に原岩が泥岩である場合は多量に形成される。富山県宇奈月の十字石が古くから知られ、雲母に包まれた黒褐色の棒状結晶が典型的である。片理に沿った破断面では雲母の光沢が強いために十字石がわかりにくいが、切断面ではわかりやすい。愛媛県では東赤石山の南側に当たる肉淵谷において茶褐色の十字石が少量得られたことがある。福島県古殿町では高アルミナ土壌を原岩とした変成岩中に見られた。
ニフォントフ石 / Nifontovite
ニフォントフ石 / Nifontovite
Ca3[BO(OH)2]6·2H2O
岡山県高梁市備中町布賀鉱山四番坑
ニフォントフ石は1961年にロシアの地質学者であるRoman Vladimirovich Nifontov(1901-1960)に因んで命名された鉱物で、世界中で5箇所しか産地が知られていない。そのうちのひとつが岡山県布賀鉱山で、おそらく最も多産する産地であろう。2002年に布賀鉱山4番坑において田邊晶洞と称される巨大なパッチが発見され、その中から大量に見出された。写真は鉱物学会の巡検が開催された際に、参考試料として参加者に配られた標本になる。無色透明な柱状結晶の結晶端が斜めにざくっと切り落とされた形状が特徴的で、見てのとおり単斜晶系の対称性をもつ鉱物である。
苦土蛭石 / Vermiculite
苦土蛭石 / Vermiculite
Mg0.7(Mg,Fe,Al)6(Si,Al)8O20(OH)4·8H2O
愛媛県松山市睦月島熱ノ鼻
苦土蛭石は学名のカタカナ読みでバーミキュライトともよく呼ばれるが、製品としてのバーミキュライトとの混同を避けるためにここでは苦土蛭石と表現する。学名はラテン語でvermiculorと称される蠕虫(ぜんちゅう:ワーム)の一種に由来し、鉱物を加熱するとワームのような形態に伸長する特徴がある。和名ではそのワームについて蛭と訳しているが、節くれ立って伸長した姿はミミズのほうが感覚的には近いだろう。主に花崗岩に含まれるいわゆる黒雲母が風化すると苦土蛭石となるが、スカルンでは初生鉱物として苦土蛭石が生じることがある。苦土蛭石は黒雲母に非常によく似た外観を呈するが、それよりも硬度が低く、爪でも容易に傷をつけることができる。
ジョンバウム石 / Johnbaumite
ジョンバウム石 / Johnbaumite
Ca5(AsO4)3(OH)
岡山県高梁市備中町布賀鉱山
ジョンバウム石はフランクリン鉱山から見出された燐灰石超族燐灰石族の一員となる鉱物で、鉱山でヘッドジオロジストとして活躍したJohn Leach Baum(1916-2011)にちなんで命名されている。日本では布賀鉱山でのみ産出が確認されている。布賀鉱山はホウ酸塩の新鉱物を多く輩出する鉱山として名高いが、複数のヒ酸塩鉱物もまた坑内の一部の露頭から産出することが知られる。ジョンバウム石もその一つで、燐灰石族鉱物の典型である六角板状から柱状の結晶形が空隙に発達する。遷移金属を含まないために無色透明である。
錫石 / Cassiterite
山口県岩国市喜和田鉱山
錫石 / Cassiterite
SnO2
錫石は錫(Sn)の二酸化鉱物で、花崗岩のペグマタイト、気成鉱床、金属鉱床やスカルンなどにしばしば現れる。ルチルと同じ結晶構造をしているため、自形結晶だけを見るとルチルと見分けがつかないこともよくあるが、産状も込みで考えると錫石だと考えつく。比重が高いために河川では砂鉱として採集されることがあり、錫石からなる重砂はズシリと重い。金属鉱床では黄錫鉱の周囲にまとまって生じるほか、石英中に微細結晶が散乱する産状もある。錫石は古来よりの錫資源でもある。学名はローマ時代以前に「ヨーロッパの西海岸沖の島」に当てられた「Cassiterides」に由来する。その島の正確な場所は長年にわたって議論されており、いまのところスペイン本土のことではないかと考えられている。
ローウォルフェ石&ラウテンタール石 / Wroewolfeite&Lautenthalite
ローウォルフェ石&ラウテンタール石 / Wroewolfeite&Lautenthalite
ローウォルフェ石 : Cu4(SO4)(OH)6·2H2O
ラウテンタール石: PbCu4(SO4)2(OH)6·3H2O
兵庫県朝来市新井鉱山
兵庫県新井鉱山は江戸期から昭和中期まで稼働した鉱山で、鉛(Pb)銅(Cu)を目的に採掘されていた。鉱石としては使い物にならない砕石がまとまって放置されており、そこは鉛や銅を主成分とする数々の硫酸塩鉱物が二次的に生じる場となっている。その中で花形というべき鉱物の一つにローウォルフェ石が知られており、もともとはラング石と考えられていたものが、結晶形の違いから同質異像のローウォルフェ石だと看破されたという経緯がある。ごく最近になってこのローウォルフェ石の標本を手に入れることができ、電子顕微鏡でその内部を調べてみるとラウテンタール石が連晶となっていることが判明した。いずれもCuO6シートにSO4四面体がくっつくという点で共通した構造となっており、そのシートが連続すればローウォルフ石で、鉛を挟むとラウテンタール石となるため、それらが連晶して産出することはごく自然であった。ローウォルフェ石はアメリカの地質学者であるCaleb Wroe Wolfe (1908-1980)に、ラウテンタール石は模式地に因んで命名されている。
透輝石 / Diopside
静岡県静岡市葵区口坂本
透輝石 / Diopside
CaMgSi2O6
透輝石の学名は発見された結晶の外形から、二方向および外観という意味のギリシア語に基づいて命名されている。和名は透明な輝石族鉱物であることからきていると思うが、どこの標本が基になっているかはわからない。それはともかく透輝石の結晶は典型的には板状で結晶端は尖る。しかしそうならない形状も多く見かけ、例えば角柱状結晶はよく見かける。双晶によってひずんだ六角形にもなり、結晶端が平坦であると燐灰石やベスブ石と見間違える。まるで芋飴のようなコロっとした結晶もあるなど、外観は多様。色もまた様々で、純粋な組成に近い透輝石の結晶は無色透明であるが、含まれる二価鉄(Fe2+)が多くなると緑色が強くなる(洞戸鉱山、青谷、室久保川)。クロム(Cr)の場合も緑色が出てくる傾向があるが、二価鉄の場合とはちょっと系統が異なる緑と言える(上佐野)。三価鉄(Fe3+)とチタン(Ti)が含まれるようだと濃い紫となり、かつてはファッサ輝石と呼ばれた(宮窪町)。三価マンガン(Mn3+)だと紫でもすっきりとした印象となり、ビオランという別名がある(舟子沢鉱山)。産地や産状もまた非常に多様で紹介しきれない。このように透輝石は多様な姿を示す鉱物であり、ほかの鉱物との誤認も非常に多く、典型的な姿でない場合は鑑定が非常に難しい。
鉛アガード石 / Plumboagardite
鉛アガード石 / Plumboagardite
(Pb,REE,Ca)Cu6(AsO4)3(OH)6·3H2O
兵庫県川西市国崎
鉛アガード石はミクサ石族鉱物であり、その一員であるザレシ石から見てその鉛(Pb)置換体に相当する鉱物である。ミクサ石族鉱物の外観はおおむね共通し、針状から六角柱状結晶で産出する。この標本については肉眼的には鮮やかな緑色の針状結晶がぶわっと広がる。産地情報と見た目からイットリウムアガード石と思っていたが、調べてみて鉛アガード石であることが分かった。累帯構造でセリウムアガード石、ザレシ石の部分も存在する。名称はアガード石の鉛置換体という意味で名付けられたが、アガード石は希土類元素を主成分とする鉱物であり、単純にその鉛置換体でもないため、その名称は今思えばふさわしくない。また公式リストの組成式もチャージバランスがあっていないなど問題がある。チャージバランスを考慮すると鉛アガード石の理想化学式はPbCu6(AsO4)2(AsO3OH)(OH)6·3H2Oとなるべきである。
イットリウムアガード石 / Agardite-(Y)
広島県生口島瀬戸田町林
イットリウムアガード石 / Agardite-(Y)
YCu2+6(AsO4)3(OH)6·3H2O
アガード石はフランスの地質学者であるJules Agard (1916-2003)に因んで命名された鉱物で、後に主成分となる希土類元素の種類で分けることが決められた。そのうちイットリウム(Y)を主成分とするアガード石が世界的にも最も分布が広い。日本でもアガード石というとこのイットリウムアガード石である場合が非常に多い。銅鉱床の酸化帯にしばしば出現し、濃緑色の六角柱状結晶が放射状に集合する姿が典型。細ければ結晶は針に見える。いわゆるミクサ石族鉱物であり、同族別種となる鉱物を伴うこともある。
リューコスフェン石 / Leucosphenite
リューコスフェン石 / Leucosphenite
Na4BaTi2B2Si10O30
新潟県糸魚川市青海町金山谷
リューコスフェン石はグリーンランドを模式地とする鉱物で、世界的にもその産出は稀だと思われる。日本では新潟県金山谷で産出が知られるのみとなっている。その化学組成をみると確かにこのような元素がそろう環境は滅多にない。わずかに青みがかったくさび形の結晶となり、曹長岩の隙間から顔を出している。この曹長岩には奴奈川石や青海石が産出するため、無色透明なリューコスフェン石は見落とされがち。学名は白色およくさび形のギリシア語が由来となっている。
黄銅鉱 / Chalcopyrite
北海道札幌市豊羽鉱山
黄銅鉱 / Chalcopyrite
CuFeS2
黄銅鉱は銅(Cu)の資源として重要な鉱物で、いわゆる銅鉱石は多くの場合で黄銅鉱が主要構成鉱物となっている。新鮮な標本は自然金に見まがうほど黄金色に近く輝く。結晶形は様々あるが、三角形の面が出やすいという印象を抱いている。別子型の鉱床では結晶はあまり見られないが、微細な黄鉄鉱と混然一体となった含銅硫化鉄鉱という鉱石として黄銅鉱が得られる。黄銅鉱を含む鉱石は風化作用で硫酸が生じ、自身は朽ちていくが、溶けだした銅イオンは孔雀石をはじめとした色鮮やかな二次鉱物の原料となる。黄鉄鉱に似ながら銅を含むことが学名の由来となっており、銅と黄鉄鉱を意味するギリシア語から名付けられた。和名は色と成分に因む。
コロラド鉱 & テルル鉛鉱 / Coloradoite & Altaite
コロラド鉱 / Coloradoite:HgTe
テルル鉛鉱 / Altaite: PbTe
長野県佐久穂町大日向採石
コロラド鉱とテルル鉛鉱はそれぞれ水銀(Hg)と鉛(Pb)がテルル(Te)と結びついた鉱物である。いずれも古来より知られた鉱物であり、世界的にその産地も決して少なくないのだが、ほとんどの場合で電子顕微鏡によって観察できるサイズでかつほんのわずかに産出するのみという鉱物である。大日向採石から採集された石英に付着する金属光沢を有する紫黒色の樹状結晶集合を調べてみると、それはコロラド鉱(芯)とテルル鉛鉱(周縁)からなっていた。目で見えるコロラド鉱やテルル鉛鉱は少なくとも日本産では記憶にない。いずれも模式地が学名の由来となっている。コロラド鉱:Colorado州(アメリカ)、テルル鉛鉱:Altai市(カザフスタン)
灰クロムざくろ石 / Uvarovite
愛媛県新居浜市東赤石山
灰クロムざくろ石 / Uvarovite
Ca3Cr2(SiO4)3
クロム鉄鉱やクロム苦土鉱に伴われるざくろ石は、クロムを多く含むものの鉱物種として灰バンざくろ石や灰鉄ざくろ石に留まることが多い。それでも数多くみていくと、クロムが主成分となった灰クロムざくろ石に遭遇することがある。必ず緑色を呈し、結晶として産出すると12面体であることが非常に多いが、日本の産地では結晶形が認められることがそもそも少ない。多くの場合、結晶形が認められずクロム鉄鉱の割れ目を充填する産状となる。学名はロシアの政治家で学者でもあったSergey Semeonovich Uvarov伯爵 (1786-1855)にちなんで名付けられた。
グラウト鉱 / Groutite
グラウト鉱 / Groutite
Mn3+O(OH)
北海道今金町美利河鉱山
ピリカ型と呼ばれる温泉作用で沈殿した層状マンガン鉱床に特異に発達する鉱物のひとつにグラウト鉱が挙げられる。水マンガン鉱(Manganite)やファイトクネヒト鉱(Feitknechtite)の同質異像だが、産出はグラウト鉱が最もまれだと思われる。ダイアスポア(Diaspore)と同構造で、その三価マンガン(Mn3+)置換体でもある。北海道美利河鉱山ではグラウト鉱は黒色で強い光沢を示す葉片状の結晶として産出し、それが放射状や脈状に集合する。学名はアメリカの岩石学者であるFrank Fitch Grout (1880-1958)に因む。
フッ素燐灰石 / Fluorapatite
栃木県今市市文挟クレー鉱山
フッ素燐灰石 / Fluorapatite
Ca5(PO4)3F
フッ素燐灰石は40種あまりからなる燐灰石超族のなかにあって、おそらく最も産出の多い鉱物であろう。火成岩、変成岩、堆積岩のいずれにおいても普遍的な構成鉱物として含まれる。しばしば石英に伴われ、六角形で板状から柱状として成長し、無色透明からやや黄色を帯びることが多い。一方で衝撃に弱く割れやすいために元のままの形状で得られることはあまり多くない。文挟クレー鉱山では粘土中から透明な結晶が採集されたことがある。根源名であるApatiteは欺くという意味のギリシア語が元になっており、同様の産状で外観が共通な緑柱石などと紛らわしいことがその背景にある。学名はフッ素を主成分とすることが反映されている。和名は化学組成に因む。
イットリウムチャーチ石 / Churchite-(Y)
イットリウムチャーチ石 / Churchite-(Y)
YPO4·2H2O
愛媛県松山市立岩鉱山
希元素鉱物を伴うペグマタイトでは、放射線の影響で長石がしばしば赤色化している。そういった長石は内部に微細な割れが多く入っており、イットリウムチャーチ石はそういった隙間でしばしば生成する。本来は無色透明な板状結晶であるのだが、結晶に微細な割れが無数に生じることで白色に見える。希元素鉱物は主成分とする希土類元素によって種が細分化されるが、チャーチ石についてはこれまでイットリウム(Y)を主成分とする種のみが知られる。学名はイギリスの鉱物学者であるArthur Herbert Church (1834-1915)に因んで命名された。
ビッティンキバラ輝石 / Vittinkiite
ビッティンキバラ輝石 / Vittinkiite
MnMn3MnSi5O15
岩手県田野畑村田野畑鉱山松前沢
いわゆるバラ輝石が3種に細分化され、現在の定義のバラ輝石からみてそのマンガン(Mn2+)置換体がビッティンキバラ輝石になる。ビッティンキバラ輝石の化学組成を単純化するとMnSiO3とまとめることができる。この化学組成はパイロクスマンガン石と共通であり、ビッティンキバラ輝石とパイロクスマンガン石は同質異像の関係にある。見た目でこれらを区別することは非常に困難だが、産状が鑑定の手助けとなる。例えば、ビッティンキバラ輝石は低圧高温で生じるのに対し、パイロクスマンガン石は高圧低温の環境で安定化する。テフロ石に囲まれ方解石を伴わない産状で、産地が高温でカリカリに焼かれている場合だとビッティンキバラ輝石の可能性が高くなる。岩手県田野畑鉱山は高温環境にあったとおぼしき産地で、テフロ石に囲まれるバラ輝石を調べてみたところやはりビッティンキバラ輝石であった。学名は模式地であるVittinki iron 鉱山(フィンランド)に因む。和名ではビッティンキ石とするだけでも良いが、ほかのバラ輝石と釣り合いをとるためにここではビッティンキバラ輝石と表現する。
フェロバラ輝石/ Ferrorhodonite
フェロバラ輝石 / Ferrorhodonite
CaMn3Fe(Si5O15)
福島県南会津町小立岩
いわゆるバラ輝石が3種に細分化され、現在の定義のバラ輝石からみてそのフェロ(Fe2+)置換体がフェロバラ輝石になる。写真の標本は灰鉄輝石とヨハンセン輝石の中間的な組成となる粗粒な輝石が母岩となっており、その小さな隙間に方解石が伴われ、塩酸で方解石を処理して出てきた結晶がフェロバラ輝石であった。淡いピンクで、小さいながらも柱状に成長している。これまでいわゆるバラ輝石の標本をいくらか調べてみたが、フェロバラ輝石が単体で産出する例はおそらく多くない。
バラ輝石/ Rhodonite
愛媛県西条市丹原町鞍瀬鉱山
バラ輝石/ Rhodonite
CaMn2+3Mn2+(Si5O15)
バラ輝石はまるでバラのような色合いであることから、バラ色を意味するギリシア語が学名の由来となっている。かつては輝石構造だと考えられていたためバラ輝石という和名が定まったが、現在では準輝石構造であることが判明している。2019年になりバラ輝石族というまとまりが定義され、バラ輝石(Rhodonite)、ビッティンキバラ輝石(Vittinkiite)、フェロバラ輝石(Ferrorhodonite)の三種が分類されることになった。バラ輝石は珪質なマンガン鉱石にはたいてい顔を出す鉱物で、ピンク色をした葉片状の結晶として産出するほか、微細粒子の集合した塊状でもよく見られる。塊状の標本は切断することでその組織が面白い模様となって現れる。副成分に二価鉄(Fe2+)やマグネシウム(Mg)を含むことが一般的で、おそらくはその影響で色味が変化する。紫色を示すバラ輝石にはマグネシウムがやや多く含まれていた。
菫青石 / Cordierite
宮城県川崎町本砂金安達
菫青石 / Cordierite
Mg2Al4Si5O18
菫青石(きんせいせき)の典型的な結晶は濃い青色を示し、それを菫(すみれ)に見立てて和名が定まった。多色性と言って、光の方向によって色合いが変化する特徴もある。しかし青みがかっていても全体的には灰色や白色で産出する場合がむしろ多い。産状は多様で、やや苦鉄質な花崗岩や泥質片岩では主要構成鉱物の一つとして含まれ、ときおり大きな結晶が顔を出す。泥質片岩で見られる結晶は多重双晶によって六角形となり、これが風化すると桜石となる。菫青石の学名はフランスの地質学者Pierre Louis Antoine Cordier (1777- 1861)に因んでいる。
セカニナ石 / Sekaninaite
セカニナ石 / Sekaninaite
Fe2+2Al4Si5O18
愛媛県今治市小大下島
セカニナ石は鉄菫青石とも呼ばれ、菫青石から見てその二価鉄置換体に相当する鉱物である。セカニナ石は菫青石と比較すると産出が圧倒的に稀な鉱物で、まず見かけることがない。それでも愛媛県小大下島では石灰岩を貫く花崗岩脈中にセカニナ石の結晶が見られた。その結晶は貝殻状断口に割れ、割れ口は透明感に欠ける鈍い緑色で、光沢は油脂状を示す。その姿は菫青石とは似ていないため、和名は鉄菫青石ではなくセカニナ石がふさわしいと思う。学名はチェコの鉱物学者であるJosef Sekanina (1901-1986)に因んで命名された。セカニナ石の最初の発見者と伝わる。
硫砒鉄鉱 / Arsenopyrite
岐阜県山県市美山町相戸鉱山
硫砒鉄鉱 / Arsenopyrite
FeAsS
鉄(Fe)とヒ素(As)の硫化鉱物である硫砒鉄鉱は、典型的には黄色の金属光沢を示す菱形結晶として産出するが、割りばしのようにすっと伸びた柱状結晶も知られる。かつて尾平鉱山から柱状結晶の群晶が産出し、それは今では市ノ川鉱山の輝安鉱と並ぶ銘柄品という扱いであろうか。しかし、硫砒鉄鉱は大気中の水分との反応で硫酸を生じ、それによって周囲を巻き込みながらボロボロになっていく。岩石中から顔を出してすぐは鋼灰色を示し、そのうち黄色となり、やがてまた灰色が強く出てくる。さらに緑色を帯びてひねた匂いが漂うようになるともう末期。あとは朽ちるのみとなる。
火閃銀鉱 / Pyrostilpnite
火閃銀鉱 / Pyrostilpnite
Ag3SbS3
宮崎県西米良村天包山
火閃銀鉱の学名は火および輝くことを意味するギリシア語に由来する。和名では火はそのまま訳し、輝くについては瞬間的にきらめくという意味の「閃」と解した。そして化学組成も考慮して「火閃銀鉱」という和名が定まった。かっこいい名前だと思う。雨包山において、火閃銀鉱はたき火の炎のような橙色をした薄板状結晶として産出する。棒状の輝安鉱を覆う産状を示し、同質異像である紅色柱状の濃紅銀鉱を伴う。
アンセルメ石 / Ansermetite
アンセルメ石 / Ansermetite
Mn2+V5+2O6·4H2O
埼玉県飯能市小松鉱山
アンセルメ石はマンガン(Mn)を主成分とする含水バナジウム酸塩鉱物で、鉱物学者であるStefan Ansermet (b. 1964)に因んで命名された。Fianel鉱山(スイス)で見出された鉱物で、模式地を同じくするフィアネル石をしばしば伴う。日本においても埼玉県小松鉱山でアンセルメ石とフィアネル石は共存する。皮膜状で産出すると両者は区別できないが、結晶として産出すると見分けることができる。アンセルメ石の結晶は透明感のある濃赤色を呈し、結晶端が斜めに落ちる板状結晶が特徴となっている。
クロリトイド / Chloritoid
岩手県住田町尻高沢
クロリトイド / Chloritoid
Fe2+Al2O(SiO4)(OH)2
クロリトイドは緑泥石族(Chrorite group)の鉱物とよく似た外観を示すことから、Chroriteをもじって命名された。和名では外観と物理的な特徴から硬緑泥石とも呼ばれるが、ここではカタカナ読みで表記する。岩手県住田町では片岩中の濁った濃緑色の塊状集合として産出し、一方向に劈開があるため破断面は緑泥石族のように見える。ただしクロリトイドはモース硬度が6.5と長石並みに高く、モース硬度2-3程度の緑泥石と大きく異なる。
緑鉛鉱 / Pyromorphite
岐阜県飛騨市神岡鉱山
緑鉛鉱 / Pyromorphite
Pb5(PO4)3Cl
緑鉛鉱は鉛(Pb)とリン(P)を主成分とする燐灰石族の鉱物で、褐鉛鉱からみてバナジウム(V)をリンに置き換えた鉱物になる。金属鉱床の酸化帯にしばしば出現する鉱物で、とりわけめずらしいということは無い。和名が示すように緑色を示す標本がおおかったのだろう。しかし、黄色の結晶もそれなりに見かけ、それはヒ素置換体にあたるミメット鉱とは区別が付かない。さらには紫色の標本もあり、緑鉛鉱という和名は勇み足だったかもしれない。また学名は色とは無関係である。学名は火と形を意味するギリシア語に由来し、溶融体を冷やす過程で結晶が成長するためだとされる。
褐鉛鉱 / Vanadinite
褐鉛鉱 / Vanadinite
Pb5(VO4)3Cl
群馬県沼田市利根町数坂峠
褐鉛鉱は鉛(Pb)とバナジウム(V)を主成分とする燐灰石族の鉱物で、学名はバナジウムを主成分とすることに由来する。褐色を示す結晶が典型的であることから、褐鉛鉱という和名となっている。一方でバナジン鉛鉱の呼び名もよく使用され、どちらが良いということではなく、それは個人の好みである。褐鉛鉱は燐灰石族の鉱物であり、六角形を基本とした針状から柱状結晶として産出する。結晶が太いほど褐色が濃い傾向があるようだ。数坂峠では変質を受けた斑レイ岩中に脈状に分布し、小さいながらも典型的な色、形のわかる良結晶が産出した。
メラノテック石 / Melanotekite
メラノテック石 / Melanotekite
Pb2Fe3+2O2(Si2O7)
群馬県沼田市利根町数坂峠
メラノテック石は鉛(Pb)と三価鉄(Fe3+)を主成分とするケイ酸塩鉱物で、世界的にも稀産の鉱物である。日本では今のところ数坂峠が唯一の産地である。変質を受けた苦鉄質岩の裂傷に産出し、黒色で強い光沢をもつ板状~柱状結晶がすばらしい。ここのメラノテック石は世界に誇れる結晶ではないだろうか。原産地(スウェーデン)などでは黒色球として産出する。その姿が融けてできた様に見えることから、「黒」および「融ける」を意味するギリシア語が学名の由来となっている。
霰石 / Aragonite
新潟県新発田市赤谷鉱山
霰石 / Aragonite
CaCO3
霰石は模式地であるAragón(スペイン)に因んで学名が定まった。和名は温泉中に生じることのある球状集合体が霰(あられ)に似ていたことからとされる。その霰は含まれる不純物によって色とりどりに染まることがあり、新潟県赤谷鉱山では青から緑色系統の霰が産出し、所々で鍾乳洞のようになる。鉱山が稼働中には坑道壁が青色に染まっていたと伝わる。しかしそれは霰石としてはむしろ例外的な産状であって、霰石はおもに熱水脈や火山岩の晶洞などに生じる。方解石とは同質異像の関係であり、共存することがある。伊予市ではそういった標本が得られた。結晶は概ね無色透明で、針や棒状、まれに板状結晶で産出し、細い結晶は絹糸光沢を呈する。また放射状にも集合することが多い。玄武岩の晶洞に生じる紅色を呈する結晶も知られている。
褐鉄鉱 / Limonite
愛知県豊橋市高師原
赤鉄鉱や、針鉄鉱、鱗鉄鉱をはじめとした鉄の(水)酸化鉱物の集合体のことを褐鉄鉱と呼ぶ。褐鉄鉱のなかの鉱物構成比率は様々であり、実体としては岩石に近い。湿地帯などで鉄バクテリアの作用によって稲の根の周囲に生じ、しばしば棒状の集合体となる。断面をみるとかつて根があった箇所は空孔となっている。こういった褐鉄鉱は豊橋市の高師原で多く見られたことから、「高師小僧」と呼ばれる。褐鉄鉱は黄鉄鉱の風化過程でも生じ、黄鉄鉱の外観を残したまま褐鉄鉱に変質した結晶は「升石」と呼ばれる。小さなものは砂鉱として頻繁に見られる。褐鉄鉱は含銅硫化鉄鉱鉱床の風化帯に大規模に生じることがあり、それは「ヤケ」と称され、別子銅山の発見のきっかけともなった。このような褐鉄鉱の中には微細なデラフォッス石(Delafossite)が生じている。褐鉄鉱の英名は湿った草原を意味するギリシア語にちなんで名付けられた
トリニティー / Trinity
京都府京丹後市峰山町大路
鋭錐石、板チタン石、ルチルはいずれもTiO2を理想化学組成とする鉱物で、同質異像(組成が同じで構造が異なる)関係にある。写真は京都府大路のペグマタイトから産出した三位一体(トリニティー)標本。緑色を帯びた紡錘形結晶が鋭錐石、透明感のある黄色板状結晶が板チタン石、黄~橙色で三角形集合となっている基盤がルチル。このような標本はおそらくたいへんめずらしい。
ルチル / Rutile
愛媛県新居浜市銅山川
ルチル / Rutile
TiO2
ルチルはチタン(Ti)の酸化鉱物であり、鋭錐石や板チタン石と同質異像の関係にある。その中でもルチルは最も安定なため、様々な地質環境で生じる。三波川帯では角閃岩を切る石英脈中に濃赤色の柱状結晶がよく見られる。徳島県眉山からのルチルが古典標本として知られるが、愛媛県の銅山川や関川でも転石中からしばしば見つかる。蝋石鉱床では錫石成分を少し固溶した黒色結晶となる。学名は赤みがかったという意味をもつラテン語に由来する。和名では金紅石(きんこうせき)と呼ばれることもあったが、今ではたんにルチルと呼ぶことが多い。
紅簾石 / Piemontite
紅簾石 / Piemontite
Ca2(Al2Mn3+)[Si2O7][SiO4]O(OH)
長崎県長崎市琴海戸根鉱山
紅簾石は緑簾石族の一員で、緑簾石から見て三価マンガン(Mn3+)置換体に相当する鉱物である。広域変成岩中に発達するマンガン鉱床においてブラウン鉱を密接に伴い、濃紅色の柱状結晶で産出する。いわゆる紅簾石片岩の主要構成鉱物が紅簾石だと思われているが、ブラウン鉱が伴われていなければそれは緑簾石である。学名は何度か変更されているが、現在の学名は発見された地域に因んでいる。
緑簾石 / Epidote
長野県武石村下本入
緑簾石 / Epidote
Ca2(Al2Fe3+)[Si2O7][SiO4]O(OH)
緑簾石は緑色の結晶がすだれ(簾)のように連なって集合する様から和名がついている。一般的な造岩鉱物で、様々な岩石に普遍的に含まれる。長野県の武石村では凝灰岩中に「焼き餅石」と呼ばれる褐色を帯びた球が胚胎されており、それを割ってみると中身に緑簾石の結晶が成長していることがある。また、少量の三価マンガン(Mn3+)を固溶した緑簾石は紅色を呈し、広域変成岩では主要構成鉱物となる。こういった結晶は紅簾石と呼ばれているが、鉱物種としての紅簾石であることは非常に稀で、ほとんどは緑簾石にとどまる。学名は結晶外形の特徴からギリシア語で増加を意味するepidosisに因む。
イネス石 / Inesite
イネス石 / Inesite
Ca2Mn2+7Si10O28(OH)2·5H2O
高知県香美市吉井鉱山
イネス石はいわゆるマンガン鉱物であり、普遍的な元素を主成分とする鉱物だが見かけることがかなり少ない。高知県吉井鉱山のイネス石は桃色の繊維状から板状結晶として産出し、マンガン鉱石中の方解石脈に伴われていた。褐色や黒色に変化しやすいとされるが、写真の標本については色の変化は特に無いように思える。モノによるのだろう。学名は肉の線維という意味のギリシア語に由来しており、原産地のイネス石は濃いオレンジ色をしている。
灰鉄輝石 / Hedenbergite
長野県川上村甲武信鉱山
灰鉄輝石 / Hedenbergite
CaFe2+Si2O6
灰鉄輝石はカルシウム(Ca)と二価鉄(Fe2+)を主成分とした輝石族鉱物で、主にスカルンで見られる。端成分に近い組成で大きな柱状結晶は強い光で透かすと緑色が確認できるが、ぱっと見ではほとんど黒色にみえる。同じような組成でも非常に細い結晶だと緑色を示すが、急速に変色して枯れ草のような色合いとなる。しばしば透輝石と固溶体を形成し、透輝石との境界に近い組成の結晶は細くとも淡い緑色が維持される。学名はスウェーデンAnders Ludvig Hedenberg (1781-1809)に因む。灰鉄輝石を分析、記載したJöns Jakob Berzeliusの共同研究者であったと伝わる。
トロゴム石 / Thorogummite
トロゴム石 / Thorogummite
(Th,U)(SiO4)1-x(OH)4x
愛媛県松山市立岩鉱山
トロゴム石はかつて独立種として認められていたが、2014年に鉱物種から抹消となった。今ではトロゴム石は野外名であり、変質・加水・非晶質化したトール石を主とした不均質な混合物のことを指す。実体としては黄土色をした土状の集合体で、長石と黒雲母の境界によく生じる。愛媛県立岩鉱山ではこういったトロゴム石をよく見かけた。トリウム(Th)を主成分とするため放射能を有する。かつての学名はトリウムおよびガムに因むラテン語を元に名付けられた。
コンドロ石 / Chondrodite
コンドロ石 / Chondrodite
Mg5(SiO4)2F2
愛媛県睦月島熱ノ鼻
コンドロ石はヒューム石族鉱物の一員で、石灰岩やドロマイト岩中に淡橙色で不定型な粒として産出することが多い。おおむねスカルンに見られる鉱物で、産地は少なくないが、その外観からただの汚れと見なされて見落とされがちである。また同族のヒューム石、単斜ヒューム石、ノルベルグ石とは外観上の区別はできない。学名は粒を意味するギリシア語に由来する。和名は粒石とするのではなく学名のカタカナ読みで対応する。
セリウム褐簾石 / Allanite-(Ce)
京都府京都市如意ヶ岳
セリウム褐簾石 / Allanite-(Ce)
CaCe(Al2Fe2+)[Si2O7][SiO4]O(OH)
褐簾石は主成分とする希土類元素によって種が分けられ、日本ではセリウム褐簾石の産出が最も多い。花崗岩や閃長岩の構成鉱物であり、砂鉱として得られることがある。ペグマタイトで巨晶となるほか、マンガン鉱床にも顔を出す。板状から柱状結晶で、外観は黒色だが薄片では褐色を示す。しばしばトリウム(Th)を非常に多く含み、そういった標本では周囲の長石が赤色化する。セリウム上田石とはしばしば化学組成が連続し、外観から区別することができない。学名は人名に由来しており、最初にこの鉱物を見出したスコットランドの銀行家で鉱物学者でもあったThomas Allan(1777-1833)に因んでいる。
ケティヒ石 / Köttigite
ケティヒ石 / Köttigite
Zn3(AsO4)2·8H2O
岡山県新見市扇平鉱山
扇平鉱山はレグランド石の良標本を産出したことで有名で、その標本にはケティヒ石もしばしば伴われる。レグランド石と同じく亜鉛(Zn)を主成分とする含水ヒ酸塩鉱物であるが、色が全く異なり、黄色のレグランド石に対してケティヒ石は青白い。板状結晶やそれが束になって褐鉄鉱の隙間に見られる。藍鉄鉱やコバルト華と共通の結晶構造。ケティヒ石を最初に分析したとされる、ザクセン王国(現ドイツ)の化学者であるOtto Friedrich Köttig (1824-1892)に因んで命名された。
レグランド石 / Legrandite
レグランド石 / Legrandite
Zn2(AsO4)(OH)·H2O
岡山県新見市扇平鉱山
レグランド石は最初の標本を提供したLouis C.A. Legrand(1861-1920)に因んで命名された鉱物で、亜鉛(Zn)を主成分とする含水ヒ酸塩鉱物である。黄色透明な結晶を特徴とする。結晶端は斜めにそぎ落とされた形状となりやすいが、平らのこともある。日本では宮崎県土呂久鉱山や岡山県扇平鉱山の酸化帯から産出の報告がある。標本としては扇平鉱山のほうをよく見かけ、多孔質な褐鉄鉱に伴われる。
輝水鉛鉱 / Molybdenite
岐阜県白川村平瀬鉱山
輝水鉛鉱 / Molybdenite
MoS2
輝水鉛鉱はモリブデン(Mo)の硫化鉱物で、石墨と同じく滑るように薄くはがれる性質を持っている。金属光沢を示す鉛灰色の六角板状結晶として産出する例が典型として知られるが、微細粒が集合した塊では黒色となる。石英脈や炭酸塩脈に伴われることが多く、小規模な産出なら日本でも産地が多い。極めてまれにモリブデン酸塩鉱物である神岡鉱や伊勢鉱を伴うことがある。古くは輝水鉛鉱と石墨は同じ名称で呼ばれていたが、輝水鉛鉱は酸に溶け、石墨は酸に溶けない性質から名称が分かれたとされる。もとは鉛を意味するギリシア語が学名の由来となっているそうだ。
トチリン鉱 / Tochilinite
トチリン鉱 / Tochilinite
6(Fe0.9S)·5[(Mg,Fe)(OH)2]
岐阜県揖斐川町春日鉱山
トチリン鉱はFeS4からなる多面体層と、Mn(OH)6からなる多面体層がファンデルワールス力で交互に重なる構造となっている。バレリー鉱などと共にとりあえずのところ硫化鉱物に分類されている。トチリン鉱は蛇紋岩から主に見出される鉱物だが、日本ではスカルンからも見いだされている。春日鉱山では金属光沢を示す灰黒色の針状から葉片状結晶が放射状に集合し、磁鉄鉱を伴って石灰岩中に帯状に分布する。学名をVoronezh大学(ロシア)で鉱物学の教授を務めたMitrofan Stepanovich Tochilin(1910-1968)に因む
単斜アタカマ石 / Clinoatacamite
愛媛県伊方町大久
単斜アタカマ石 / Clinoatacamite
Cu2Cl(OH)3
単斜アタカマ石はアタカマ石と同質異像となるハロゲン鉱物で、銅を含む鉱石と海水との反応で生じる。透明感のある濃緑色で三角形の面が特徴的な結晶となるが、アタカマ石やパラアタカマ石もしばしばそのような結晶形となる。見た目でそれらを区別することはできず、調べてみて初めてその存在を個別に認識できる。鉱滓中にも生じることがあり、童子碆の標本は海岸に打ち捨てられた鉱滓中に生じていた。学名はアタカマ石(斜方晶系)のようでありながらも単斜晶系の外形を持つことに由来する。
インヨー石 / Inyoite
インヨー石 / Inyoite
CaB3O3(OH)5·4H2O
岡山県高梁市備中町布賀鉱山四番坑
インヨー石はカルシウム(Ca)を主成分とした含水のホウ酸塩鉱物であり、布賀鉱山においては田邊晶洞付近の天盤に付着していた。環境が整えば室温でも生じることから、布賀鉱山では二次鉱物として生じたと考えられている。方解石の菱形結晶に似た姿で産出するが、無色透明であるため写真でその形状をうまく表現することが難しい。学名は発見地の鉱山が位置するInyo County(アメリカ)に因む。
スローソン石 / Slawsonite
スローソン石 / Slawsonite
Sr(Al2Si2O8)
高知県高知市円行寺
スローソン石はアメリカを模式地とする鉱物であるが、標本として立派なものは日本から報告されている。高知県円行寺近隣ではロジン岩を含む蛇紋岩が分布しており、そのロジン岩中に脈状にスローソン石の結晶が分布する。脈中にはやや灰色を帯びた透明な柱状結晶の一面を伺うことができ、短波紫外線照射によって濃いピンク色に蛍光する。長石の仲間であり当初はパラセルシアンやダンブリ石と同じ構造と報告されたが、生成条件によって異なった対称性も現れる。学名はミシガン大学で鉱物学の教授を務めたChester Baker Slawson(1898-1964)に因む。名前がローソン石と似ているがそれとは無関係。
ブラウン鉱 / Braunite
愛媛県大洲市用ノ山鉱山
ブラウン鉱 / Braunite
Mn2+Mn3+6O8(SiO4)
ブラウン鉱はマンガン(Mn)の主要な資源鉱物であり、多くのマンガン鉱山で見かける。典型的には微細な結晶粒が緻密に集合した黒色塊として産出するため、肉眼的な結晶を見かけることはまずない。一方で長崎県戸根鉱山ではなぜか結晶ばかりという例外的な産地となっている。正方晶系であるが単純な四角柱状という結晶は見かけることはほぼなく、結晶は多彩な面で構成される。結晶面、破断面ともに光沢が強い。学名はゴータ公国(現ドイツ)の領主であったWilhelm von Braun (1790-1872)に因む。記載のための標本を提供したと伝わる。
単斜灰簾石 / Clinozoisite
愛媛県四国中央市関川
単斜灰簾石 / Clinozoisite
Ca2Al3[Si2O7][SiO4]O(OH)
単斜灰簾石もまた広域変成岩において一般的な造岩鉱物として知られる。石英片岩や角閃片岩中に板状から柱状結晶で広く認められ、関川では単斜灰簾石からなる塊も得られた。スカルンや金属鉱床からも見いだされ、小さい結晶は透明な針状となる。そうした姿ではほかの鉱物(例えばバスタム石)ともの差異はあまりなく、肉眼鑑定のみで決めることは難しい。色は様々。また単斜灰簾石は様々な元素を固溶することが通常で、鉄を含むことが多い。灰簾石よりも後で見いだされた鉱物で、斜方晶系である灰簾石の単斜晶系型だと考えられたことが学名の由来となっている。しかし晶系だけでなく構造も異なっており、灰簾石と単斜灰簾石は同質異像の関係となっている。
灰簾石 / Zoisite
愛媛県四国中央市関川
灰簾石 / Zoisite
Ca2Al3[Si2O7][SiO4]O(OH)
灰簾石は広域変成岩において一般的な造岩鉱物の一つで、例えば三波川変成岩には普通に含まれている。ところがこれぞ灰簾石という標本はあまり思い浮かばない。とりあえず自分がよく知る灰簾石は愛媛県関川で見られる結晶である。粗粒な緑簾石片岩を切る白色脈が灰簾石であり、うまく割れると無色透明な灰簾石の柱状結晶が緑簾石と並ぶコントラストのある良い標本になる。関川から東赤石山を挟んで反対側にある銅山川では角閃石片岩の主要構成鉱物として産出し、結晶形は見えないがわずかに紫がかる産状があった。新潟県姫川では白雲母岩に灰簾石が伴われる。灰簾石はたとえ色づいていたとしても分析してみるといつも純粋な組成に近い。同質異像である単斜灰簾石が幅広い固溶体を形成することと対照的である。もともとは模式地に由来するsaualpiteという名称であったが、オーストリアの学者であるSigmund Zois(1747-1819)に因んで再命名された。新鉱物であることに最初に気づいた人物とされる。和名については大正期では黝簾石(ゆうれんせき)となっている。灰簾石の初出はいつだろうかよくわからない。
ベスブ石 / Vesuvianite
長野県川上村甲武信鉱山
ベスブ石 / Vesuvianite
(Ca,Na)19(Al,Mg,Fe)13(SiO4)10(Si2O7)4(OH,F,O)10
ベスブ石は古くから知られた鉱物で主にスカルンに出現する。結晶形は四角柱状を基本とした姿であるが、それが面の発達の程度によってひずんだように見えることもあり、また太かったり細かったりと多様である。結晶端は平坦である場合が多いように感じるが、斜めにそぎ落としたような面が出て尖ることもある。色や透明感は産地ごとに固定されているような印象で、例えば甲武信鉱山では褐色系統の標本ばかりであるが、口坂本の標本は透輝石と誤解しそうな透明な緑色の結晶となっている。結晶形状だけをみるとジルコンとも紛らわしい。塊状で産出する場合はざくろ石と判断がつかないことも多い。今のところベスブ石族は確立されていないが、近縁鉱物は10種ほど知られている。一方で現時点において日本で確認されているのはここに挙げたベスブ石のみとなっている。ホルツタムざくろ石を記載した際に、秩父鉱山石灰沢においてはアルミノベスブ石もしくは苦土ベスブ石が産出することを見出しているが、構造解析ができるサイズではなかったため確実な同定には至っていない。名称については初め「hyacinthus dictus octodecahedricus」と呼ばれ、次いで「hyacinte du Vesuve」となった。結晶形が他の鉱物(例えばジルコン)と紛らわしいため、見せかける、混同するというギリシア語に基づいて「idocrase」と呼ばれたこともある。ヴェスヴィオ火山(monte Vesuvio)を模式地とし、1795年には「Vesuvian」と記されている。いつ頃に「ite」が追加されたのかはたどれなかった。
ダイアスポア / Diaspore
大分県佐伯市木浦鉱山
ダイアスポア / Diaspore
AlO(OH)
ダイアスポアはベーム石の同質異像となる鉱物である。日本では木浦鉱山のエメリー鉱床に伴われる標本がよく知られているが、ラテライトやボーキサイトなどアルミニウムに富む土壌を起源とする変成岩であれば、堆積岩に近い低変成度の岩石にも出現する。新潟県ではダイアスポア、ぶどう石、ソーダ雲母からなる岩石が見られ、その裂傷には再結晶したダイアスポアの板状結晶も伴われる。無色、緑色系統、紫色を帯びた灰色など色は多様で、針状から板状結晶となる。へき開はガラス光沢から真珠光沢を示して強く輝き、石英と同じくらいの硬度を有する。強熱するとバラバラに崩壊するため、散らばるという意味のギリシア語が学名の由来となっている。
ブロシャン銅鉱 / Brochantite
ブロシャン銅鉱 / Brochantite
Cu4(SO4)(OH)6
秋田県鹿角市尾去沢鉱山
ブロシャン銅鉱は銅鉱床の酸化帯に普通に生じる二次鉱物であり、産地は多い。多くは緑色の皮膜状で産出し、そういった形態では孔雀石と紛らわしい。一方で結晶として産出するとなかなか見事であり、ブロシャン銅鉱の結晶は透明感のあるやや青色を帯びた緑色が独特だと感じる。結晶は放射状に開いた集合となることが多い。学名はフランスの地質学者・鉱物学者であるAndré-Jean-François-Marie Brochant de Villiers(1772-1840)に因む。
アフウィル石 / Afwillite
アフウィル石 / Afwillite
Ca3[SiO3(OH)]2·2H2O
岡山県高梁市備中町布賀
アフウィル石は南アフリカのキンバリーで最初に見いだされた鉱物で、De Beersダイヤモンド会社の元役員であるAlpheus Fuller Williams(1874–1953)に因んで名付けられた。日本では三原鉱山や布賀から産出の報告があり、スパー石を切る脈として見られる。やや乳白色を帯びた透明な板状から柱状結晶が放射状に集合する。高温スカルンに産出するが、一連の変成作用の晩期に生成する鉱物であり、生成温度は100-200℃程度と見積もられている。
孔雀石 / Malachite
孔雀石 / Malachite
Cu2CO3(OH)2
秋田県大仙市協和亀山盛鉱山
銅鉱床にはほとんど必ず伴われる二次鉱物であり、銅の二次鉱物としては最も多産する。銅鉱山の石捨て場などでは孔雀石の生成によって全体が緑に色づいて見えたりする。一般的には淡い緑の被膜状で産出し、それは標本としてはあまり魅力的ではないが、たまに濃い緑色の繊維状結晶が集合した孔雀石を見かける。秋田県荒川鉱山などでは微細な孔雀石が層状に沈殿して縞模様を成す標本が知られている。その一方で単結晶での産出はこれまで見たことがない。アオイ科植物の葉のような緑色を暗示するギリシア語が学名の由来となっている。和名については諸説あるものの、経緯などよくわからない。遅くとも江戸期には孔雀石という名称が使われていたようだ。
方鉛鉱 / Galena
宮城県栗原市鶯沢細倉鉱山
方鉛鉱 / Galena
PbS
鉛(Pb)の重要な資源鉱物である方鉛鉱は古くから方々で積極的に採掘され、とりわけ江戸期においては灰吹法によって粗銅から金や銀を回収するために大量の鉛が必要とされた。方鉛鉱は鉱物標本としても人気がある。鉛灰色で四角形や三角形の面に囲まれたごろっとした結晶が特徴的で、完全なへき開があるために断面は非常に強く輝く。ただし時間がたつにつれ白っぽくなることが多い。閃亜鉛鉱と非常によく共存する。ギリシア語で鉛鉱石を意味する言葉がそのまま学名となっており、和名は結晶形と組成との造語。
鉄斧石 / Axinite-(Fe)
大分県豊後大野市尾平鉱山
鉄斧石 / Axinite-(Fe)
Ca4Fe2+2Al4[B2Si8O30](OH)2
斧石を冠する鉱物がいくつかある中で、鉄斧石は尾平鉱山において日本で初めて見いだされた斧石である。尾平鉱山の鉄斧石については数センチの結晶はざらに見かけ、ときに10センチを超えることもあり、そういった結晶が放射状にぶわっと展開する標本が有名であろう。尾平鉱床区として見たとき産地は宮崎県にもまたがり、日之影町からの鉄斧石もまたよく知られる。斧に例えられる名称を持つその結晶は平たくエッジが鋭い。透明感のある茶色であることが多いが、紫色を帯びた灰色もあり、主に化学組成によると思われる。学名も斧を意味するギリシア語に由来する。2007年以降は接尾語を用いてその主成分を表すようになった。
ベルチェ鉱 / Berthierite
ベルチェ鉱 / Berthierite
FeSb2S4
奈良県吉野町三津
ベルチェ鉱はアンチモン(Sb)の資源として採掘対象になる鉱物で、日本では石英を主体とする熱水脈鉱床において輝安鉱に伴われることが多い。ベルチェ鉱ばかりの鉱床もあるが、おおむね小規模。鉛灰色の金属光沢を示し、板状から棒状の結晶となる。その外観は輝安鉱によく似るため新鮮な標本では見分けは困難。しかし、輝安鉱が黄色に変質しやすいことに対して、ベルチェ鉱は黒色から褐色に変質することが多い。変質の程度が軽い場合は結晶が虹色をまとう。学名はフランスの化学者・鉱物学者であるPierre Berthier(1782-1861)に因む。別の鉱物であるベルチェリン(Berthierine)もまたBerthierに因んで命名されている。
灰束沸石 / Stilbite-Ca
愛媛県久万高原町槙の川
灰束沸石 / Stilbite-Ca
NaCa4(Si27Al9)O72·28H2O
灰束沸石はカルシウム(Ca)を主要な交換可能な陽イオンとする束沸石のことで、その名が示すように束状で産出することが非常に多い。結晶が平行に連なった集合体は灰輝沸石と、単独の結晶はステラ沸石と紛らわしいことがある。個々の結晶は無色から白色の平板状で、結晶端は平坦や三角。個体によってはガラスもしくは真珠光沢を示す。そういった光沢や鏡を意味するギリシア語と主成分に基づいて学名が定められた。和名は産出形態に由来する。
スコレス沸石 / Scolecite
スコレス沸石 / Scolecite
CaAl2Si3O10·3H2O
愛媛県久万高原町高殿
沸石はフレームワークの種類とシリコン(Si):アルミニウム(Al)の比、それから「交換可能な陽イオン」に基づいて種が分けられる。学名はフレームワークについて根源名(ルートネーム)が与えられ、その陽イオンについては接尾語を用いて表記する。例えばカルシウム輝沸石だと学名はHeulandite-Caの表記になり、Caがカッコに囲まれずにむき出しなのは「交換可能」であることを意味している。そういった点でスコレス沸石の場合はやや例外な扱いになる。スコレス沸石、ソーダ沸石、中沸石については、実は同じフレームワークで陽イオンの種類が異なる関係にある。つまり上のルールに基づくとこれら三種は一つの根源名と接尾語の関係となってもいい。しかしそうなっていないのは、スコレス沸石、ソーダ沸石、中沸石のフレームワークの中にある陽イオンが交換不可能な関係にあるためである。簡単には固溶体が成立しないと考えればよい。そのためスコレス沸石はほかの二種と同じフレームワークでありながらも単独の根源名で区別され、カルシウム(Ca)を主成分とする。スコレス沸石は絹糸光沢を示す白色の針状もしくは板状結晶で産出し、多くの場合で放射状に集合する。学名は虫を意味するギリシア語に由来し、スコレス沸石の結晶を強熱するとミミズや芋虫のように変形することが知られている。
珪灰石 / Wollastonite
愛媛県小大下島
珪灰石 / Wollastonite
CaSiO3
珪灰石はスカルンにおいて最も多産するケイ酸塩鉱物であろう。スカルンだけではなく火成岩や広域変成岩にも生じ、産地は日本中いたる所にある。鉱物採集の旅/四国・瀬戸内編という書籍の中に珪灰石の産地として愛媛県小大下島が挙げられており、真白い絹糸のような美しい鉱物と紹介されていた。このように珪灰石は白色の繊維状結晶で産出し、束状から放射状に集合することが多い。ただしそのような繊細な結晶ばかりではなく、秩父鉱山石灰沢では親指より太い柱状の結晶がざくざく突き刺さっている露頭が見出されている。福島県多田野からは頭付きの無色透明な結晶が産出した。これは稀な例だと思われる。学名はイギリスの化学者・鉱物学者であるWilliam Hyde Wollaston(1766-1828)への献名となっている。
黒曜石 / Obsidian
黒曜石 / Obsidian
島根県隠岐の島町久見
黒曜石は天然に産出する流紋岩質組成で非晶質なガラスを指し、鉱物ではなく岩石である。黒色で光を美しく反射させる様から江戸期に黒曜石の名が与えられた。非常に良い名だと思う。縄文時代から良質な石器原料として各地で採掘されており、隠岐の島の黒曜石は広域に流通していたとされる。英名はエチオピアにおいてObsiusという人物がこの石を発見したことに由来すると伝わる。
スパー石 / Spurrite
岡山県高梁市備中町布賀西露頭
スパー石 / Spurrite
Ca5(SiO4)2(CO3)
スパー石はティレー石と同じく炭酸基を持つケイ酸塩鉱物で、これもまた高温スカルンに生じる。これまで結晶として産出した例を見たことがなく、いつも微粒子が集合した塊状で産出する。本来は無色から白色の鉱物であるため、上記の産状と相まって現場でその産出に気づくことは難しい。しかし布賀では紫色を呈する見事なスパー石が産出し、その標本は世界的にもたいへん有名となっている。また青色を呈するスパー石も見つかっている。発色の本質的な要因は特定されていないように感じる。スパー石はその標本を最初に発見した資源地質学者のJosiah Edward Spurr (1870-1950)に因んで命名された。
ティレー石 / Tilleyite
ティレー石 / Tilleyite
Ca5Si2O7(CO3)2
岡山県高梁市備中町布賀北露頭
ティレー石は炭酸基を含む珍しいケイ酸塩鉱物で、高温スカルンで生成される。日本では広島県久代や岩手県赤金鉱山などが産地として知られるが、標本としては布賀産のティレー石が優れている。一般には無色から白色であるため鑑定が至難だが、布賀産のティレー石は全体的に白色ではありながらも黒色の斑模様が良く伴われるため分かりやすい。またへき開が完全な鉱物であり、手のひら大の標本がそのままへき開片ということも珍しくない。Cambridge大学(イギリス)の教授を務めた岩石学者のCecil Edgar Tilley (1894-1973)に因んで命名された。
自然銅 / Copper
岩手県西和賀町土畑鉱山
自然銅 / Copper
Cu
自然銅は、銅(Cu)の元素鉱物である。銅は人類が道具に加工した最初の金属の1つともいわれ、精錬の必要のない自然銅は利用しやすかったであろう。いわゆる銅鉱床において黄銅鉱などを主体とした鉱脈には自然銅は産出せず、鉱床の酸化帯において沈殿銅として二次的に生じる。三波川帯の結晶片岩では緑色片岩中の石英脈に伴われることがある。新鮮な状態ではCopper-redと称される独特な色を示し、沈殿銅では八面体の一部のような結晶面が見られることがあるが、全体としては不定形。結晶片岩中のものは破断した状態で得られるため、元の形状は不明。裂傷に生じる場合は箔として産出する。鑑定は難しくないが、以前に結晶片岩から黄金色を示す標本が得られた。調べてみたらそれもまた自然銅であった。一般には風化などで変質が進むと黒くなり、分解を伴うと孔雀石が生じる。学名はラテン語で銅を意味するcuprumに由来する英名となっている。
灰菱沸石 / Chabazite-Ca
埼玉県吉見町八反田
灰菱沸石 / Chabazite-Ca
Ca2[Al4Si8O24]·13H2O
菱沸石もまた交換可能な陽イオンによっていくつか種が分けられ、灰菱沸石はカルシウム(Ca)を主成分とする。菱沸石を関する沸石の中で灰菱沸石はおそらくはもっとも普遍的に産出する。菱形や枡形の結晶として見られることが非常に多く、それは和名の由来にもなっている。色は無色から白色であることがほとんどであるが包有物によって色づく結晶も知られる。かなり例外的な事例として包有物無しでも色づくことがあり、福島県飯館村で採集された灰菱沸石は青みを帯びていた。また、多重の双晶によってそろばん玉様の形状となることもあり、そういったものはファコライトと呼ばれる。玄武岩や安山岩の晶洞や空隙にしばしば認められ、蛇紋岩を切る沸石脈の主要構成鉱物にもなる。鉱物の美しさを称賛したポエムである「Peri lithos」に登場し、学名はギリシア語で楽曲を意味するchabaziosにちなむとされる。
ヴァニア石 / Vuagnatite
三重県鳥羽市白木
ヴァニア石 / Vuagnatite
CaAlSiO4(OH)
ヴァニア石はカルシウム(Ca)、アルミニウム(Al)からなる含水のケイ酸塩鉱物で、その組成式は単純と言える。それだけ聞くと普遍的な鉱物に思えるが、思いのほか産地が少なく、結晶標本となるとほとんど見かけることがない。日本では三重県白木と高知県円行寺(近隣も含む)で産出が知られる。わずかに青から黄色味を帯びた透明な柱状結晶がロジン岩中を脈で走り、円行寺では晶洞に四角錘の結晶端をもつ柱状結晶が産出したことがある。ヴァニア石の三価マンガン(Mn3+)置換体はモーツァルト石。ジュネーブ大学(スイス)の教授を務めた地質学者であるMarc Bernard Vuagnat (1922-2015)の長年にわたるオフィオライト研究に敬意を表して命名された。
カリフッ素魚眼石 / Fluorapophyllite-(K)
青森県中泊町大石沢
カリフッ素魚眼石 / Fluorapophyllite-(K)
KCa4Si8O20F·8H2O
魚眼石という名称を有する鉱物は3種あるが、もっとも一般的な魚眼石がカリフッ素魚眼石である。産状は玄武岩から安山岩の晶洞や花崗岩ペグマタイトを始めいくらか知られているが、基本的には低温熱水で生じる鉱物であり、ほとんどの場合で沸石が付近に伴われる。無色透明であることが多いが、まれに青やピンク色を呈する。結晶は四角柱状に伸長し、結晶端は平面や錘状。放射状に集合してイガグリ形となることもある。色付きの結晶がイガグリになった様は非常に美しい。加熱によって葉片状に割れる様子を示唆するギリシア語から命名され、後に化学組成を示す接尾語も加わった。魚眼石の呼び名は各言語で多くあり、そのうち英語ではFish-eye stoneと称される。へき開片の輝きが魚の目に似ていることに由来し、和名もその直訳になっている。
石黄 / Orpiment
石黄 / Orpiment
As2S3
北海道札幌市南区定山渓
石黄(せきおう)は火山活動に伴われる熱水変質作用などで生成し、粘土を伴って生じることが多い。黄色から山吹色を呈するヒ素(As)の硫化鉱物である。針状から葉片状の結晶が放射状に集合した姿がしばしば見られ、定山渓では大きな単結晶の産出も見られた。学名はラテン語をベースにしており、金色の顔料を示唆した内容となっている。和名については中国での呼び名を輸入した際に混乱があったようで、雄黄(ゆうおう)もしくは雌黄(しおう)と呼んだ例がある。今では石黄と呼ばれている。
ハウィー石 / Howieite
ハウィー石 / Howieite
Na(Fe,Mn)10(Fe,Al)2Si12O31(OH)13
愛媛県大洲市藤の川
ハウィー石は高圧低温型の変成作用を受けた鉄マンガン鉱床に産出する。黒色~黒褐色で葉片状や繊維状の集合体となり、それが脈状に分布することが多い。ハウィー石のマンガン置換体である種山石とは固溶体を形成し、鉄を多く含む種山石とは外観で区別ができない。学名はKing’s College, Londonで教授を務めた岩石学者・鉱物学者であるRobert Andrew Howie (1923-2012)に因む。
銅重石華 / Cuprotungstite
銅重石華 / Cuprotungstite
Cu2(WO4)(OH)2
山口県美祢市於福(大和)鉱山
銅重石華は銅(Cu)とタングステン(W)を主成分とする二次鉱物で、ピスタチオグリーンと称される緑色が特徴となっている。被膜や微細粒として主に産出し、その結晶は見たことがない。於福鉱山では灰重石の表面や内部に銅重石華が生じる環境があったようで、本来は白いはずの灰重石の結晶が緑色に染まった標本が知られている。学名は銅とタングステンからの造語となっている。
ズニ石 / Zunyite
ズニ石 / Zunyite
Al13Si5O20(OH,F)18Cl
長野県佐久穂町余地鉱山
ズニ石はろう石鉱床にしばしば出現する、多量のアルミニウム(Al)を主成分とするケイ酸塩鉱物である。結晶はほとんど常に四面体を基本とした形状で現れる。結晶面が強い光沢を示すためにズニ石が表に現れている標本はチカチカと輝く。結晶自体は無色透明ではあるが、その産状から褐色の被膜に覆われやすい。学名は発見地であるZuni鉱山(アメリカ)に由来する。
自然ビスマス / Bismuth
兵庫県養父市大屋町明延鉱山
自然ビスマス / Bismuth
Bi
自然ビスマスは、ビスマス(Bi)の元素鉱物である。いつも端成分に近い組成で、産状としては輝蒼鉛鉱を周囲に伴うことが多い。おおむね不定形で産出するが、破断面には一方向に完全なへき開が現れるため、板状結晶の集合体のように見えることが多い。銀白色にうっすら紅を指したような色あいが特徴的。花崗岩や金属鉱床など産状は多様で、思いがけない場所で見かけたりする。元素としてのビスマスは公式には1753年の発見と言われており、名称は白い塊を意味するドイツ語に由来する。
藍晶石 / Kyanite
愛媛県新居浜市国領川
藍晶石 / Kyanite
Al2SiO5
藍晶石は同質異像である紅柱石や珪線石に比較して高圧側で出現する鉱物で、愛媛県東赤石山を中心とした五良津岩体にはしばしば伴われる。和名はおそらく海外から産する結晶の外観を参考に名付けられたと思われ、鮮やかな藍色を示す柱から板状の標本がよく流通している。日本では愛媛県の明石山系から得られる藍晶石において中心部が藍色に染まる結晶が存在するが、全体的には空色を呈する程度にとどまる。ただし愛媛県浦山川の上流域のイチノマツコ谷からは海外の藍晶石にも匹敵する巨大かつ藍色の美結晶が産出した報告があり、そこでは藍晶石岩とも呼べるような藍晶石ばかりなる岩石が存在している。学名は青を意味するギリシア語に由来する。
紅柱石 / Andalusite
岩手県住田町奥新切横沢
紅柱石 / Andalusite
Al2SiO5
紅柱石は変成度の指標となる鉱物として、同質異像である珪線石や藍晶石などとともに変成岩岩石学では重要視される。低圧低温の環境で出現する鉱物で、変成岩では主にホルンフェルスに生じる。また花崗岩ペグマタイトや熱水変質を受けた粘土鉱床、ろう石鉱床などにも伴われる。ホルンフェルスとしての産状では結晶の中心部に炭化物を含みそれが十字型に配列することがあり、こういった結晶を空晶石と呼ぶ。18世紀末にスペインのAndalusia地域に因んで命名されたが、スペインにそんな名称の地域は存在しないと指摘されている。命名までの過程に何らかの誤解・手違いがあったようだ。
ペクトライト / Pectolite
高知県高知市円行寺
ペクトライト / Pectolite
NaCa2Si3O8(OH)
ペクトライトはソーダ珪灰石とも呼ばれ、珪灰石と同様に準輝石構造となっている。亜ガラス光沢から絹糸光沢を示す白色から透明の板状もしくは柱状結晶となり束状や放射状に集合する。外観だけでは珪灰石とほとんど区別がつかない。スカルンや閃長岩など産出する母岩も様々でロジン岩化が進んだ蛇紋岩中にペクトライトばかりの脈として産出することもある。不純物に乏しく一般に白いが、粒間に菫泥石を含むことで紫色に染まった姿となることがある。ペクトライトからなる集合体は結晶が絡み合っており打撃を加えても割れにくい。よく絡みあることを示唆するギリシア語が学名の由来となっている。
ドーソン石 / Dawsonite
大阪府泉南市新家昭和池
ドーソン石 / Dawsonite
NaAlCO3(OH)2
高知県仁淀川町坂本
ドーソン石は絹糸光沢をもつ白色の結晶が放射状に集合して産出することが非常に多い。和泉層群中の石灰岩質ノジュールに産出するものが非常に有名だが、それに限られない。例えば中央構造線に沿って産地が点在しており泥質片岩の破砕帯でよくみられ、炭酸塩脈に伴われる。しばしばアルモヒドロカルサイトと共存する。しかし肉眼的に区別はつかない。カナダで最も歴史のあるMcGill大学の学長を務めた地質学者のSir John William Dawson (1820-1899)を称えて命名された鉱物である。Dawsonはドーソン石の発見者であるとされる。
アタカマ石 / Atacamite
和歌山県串本町串本
アタカマ石 / Atacamite
Cu2Cl(OH)3
銅を含む鉱石や岩石が海岸近くにあると、化学的風化作用によってほとんど必ずアタカマ石を生じる。被膜や粒状の結晶として産出することが多く、結晶が大きくなると板状になるようだが日本の産地ではそれはあまり見かけない。緑色で結晶表面には強い光沢がある。色の濃淡は結晶のサイズのほか化学組成にも依存しており、銅が別の元素に置き換わると色が淡くなる傾向がある。パラアタカマ石をしばしば伴っているが、外観からは判別できないことが多い。ボタラック石とは同質異像の関係。アタカマ砂漠(チリ)を模式地とする鉱物であることから地名に基づいて命名された。
ステラ沸石 / Stellerite
愛媛県伊予市双海町
ステラ沸石 / Stellerite
Ca4(Si28Al8)O72·28H2O
ステラ沸石は真珠光沢を有する面が大きくでた板状結晶として産出し、その外観上の特徴は束沸石とほとんど共通する。それもそのはずで、両者は化学組成が異なるが結晶構造の基本的な枠組みが一致している。経験的には単結晶で産出すればステラ沸石、束状集合であれば束沸石であることが多いとされる。それが実際にどこまで通用するか検証したことはないが、写真の標本については見たところ単結晶で、調べてみたら確かにステラ沸石であった。学名はドイツ生まれの探検家・動物学者であるGeorg Wilhelm Steller (1709-1746)に因んで名付けられた。
藍鉄鉱 / Vivianite
藍鉄鉱 / Vivianite
Fe2+3(PO4)2·8H2O
三重県四日市市
藍鉄鉱は水分子を持つ鉄(Fe)のリン酸塩鉱物で、板状から爪状の結晶で藍色を特徴とする。しかしその色はもともと無色透明だったものが空気に触れたことで変質した状態。濃いものほど変質が進んでいる。変質がさらに進むと褐色になり、サンタバーバラ石へと変化する。藍鉄鉱は土壌や粘土中に球果状に集合してノジュールで産出することが多く、中心に生物の遺骸を持つこともある。学名はイギリスの政治家、鉱物学者であるJohn Henry Vivian (1785-1855)に因んで命名された。藍鉄鉱の発見者だとも伝えられる。
アルモヒドロカルサイト / Alumohydrocalcite
アルモヒドロカルサイト / Alumohydrocalcite
CaAl2(CO3)2(OH)4·4H2O
徳島県東祖谷山村
四国の中央構造線に伴ってしばしば破砕帯が発達し、著しく変質している露頭が散見される。おおむね炭酸塩鉱物を伴い、微量に含まれるニッケル(Ni)によって緑色化した苦灰石を多く含む。アルモヒドロカルサイトはそういった岩石を切る脈として産出し、絹糸光沢を示す細い針状結晶が放射状に集合する。クロム(Cr)をわずかに含むものはピンク色を呈する。しばしばドーソン石も伴われるが肉眼では判断がつかない。アルミニウム(ALUMinium)、水(HYDRated)、カルシウム炭酸塩(CALCITE)の組成であることから、学名が名付けられた。
斜開銅鉱 / Clinoclase
斜開銅鉱 / Clinoclase
Cu3(AsO4)(OH)3
広島県生口島
斜開銅鉱はヒ素と銅を含む鉱床の酸化帯に二次鉱物として生成する鉱物で、かつて生口島では大量に生じた斜開銅鉱によって露頭が藍色に彩られていたと聞く。藍色の板状結晶がしばしば放射状に集合し、岩石の裂傷や空洞に成長する。こうなったとき他の鉱物をあまり伴わない。へき開片の様子から傾いて壊れるという意味のギリシア語が学名の由来となっている。和名はその特徴と銅を含むことによる。
シデライト / Siderite
三重県亀山市加太北在家
シデライト / Siderite
Fe(CO3)
シデライトの学名は鉄を意味するギリシア語に由来し、二価鉄(Fe2+)を主成分とした炭酸塩鉱物である。菱鉄鉱とも言うがここでは学名のカタカナ読みであるシデライトと表現する。堆積岩をはじめ、金属鉱床や火山岩などに伴われるなど多様な産状がある。菱形の結晶よりも爪状結晶で見かけることが多い。色は茶色を帯びがちであるが、無色に近いこともある。茶色を帯びたマグネサイトとは見ただけでは区別がつかない。産状を含めて判断する必要がある。
灰レビ沸石 / Lévyne-Ca
灰レビ沸石 / Lévyne-Ca
(Ca,Na2,K2)[Al2Si4O12]·6H2O
島根県西ノ島町国賀
レビ沸石には交換可能な陽イオンとしてカルシウム(Ca)とナトリウム(Na)を主成分とする種が知られており、カルシウムが主成分となる種には灰レビ沸石の名称が与えられた。含まれているケイ酸が少ない沸石であり、玄武岩などの苦鉄質岩の晶洞に無色から白色の六角板状結晶として生じる。同じくケイ酸が少ない沸石である菱沸石やコウルス沸石を伴うことがあるが、レビ沸石ばかりの晶洞となることもまた多い。学名はフランスの鉱物学者であるServe-Dieu Abailard Lévy(1795-1841)に因む。
ヘルツェンベルグ鉱 / Herzenbergite
ヘルツェンベルグ鉱 / Herzenbergite
SnS
大分県豊後大野市豊栄鉱山
ヘルツェンベルグ鉱は錫(Sn)と硫黄(S)からなるシンプルな化学組成の鉱物である。産地は世界的に少ないわけではない。ただしそれは鉱石中にわずかに含まれる微細粒という産出であって、結晶標本となると今でもなかなか目にする機会が少ない。その一方、かつて豊栄鉱山からヘルツェンベルグ鉱の結晶が産出し、それは世界的に貴重な標本として図鑑などで紹介された。鋼鉛灰色で箔状の結晶が密な集合をつくる。ボリビアで最初に見いだされた鉱物で、化学者であるRoberto Herzenberg (1885-1955)に因んで命名された。
毛鉱 / Jamesonite
愛媛県砥部町古宮鉱山
毛鉱 / Jamesonite
Pb4FeSb6S14
毛鉱はその名が示すように毛のように見える黒~灰色の金属鉱物で、細い結晶は曲線的に伸びて放射状や束状に集合する。ある程度の太さになると、板状から柱状で直線的にすっとした形状となる。そういった結晶は輝安鉱とよく似るが、輝安鉱のように折れ曲がって成長する姿はあまり見かけない。また全体的にブーランジェ鉱(Boulangerite)とよく似ており、見た目で両者を区別することは非常に難しい。一方、ブーランジェ鉱が割と珍しい鉱物であることに対して、毛鉱はマンガン鉱床やスカルン型の金属鉱床でしばしば伴われる。学名はエジンバラ大学(イギリス)の教授であったRobert Jameson (1774-1854)に因む。
デソーテルス石 / Desautelsite
デソーテルス石 / Desautelsite
Mg6Mn3+2(CO3)(OH)16·4H2O
高知県高知市円行寺
デソーテルス石はマグネシウムと三価マンガンを主成分とする炭酸塩鉱物で、世界的には産地が少ない珍しい鉱物であるが、日本では三カ所の産地が知られている。いずこも蛇紋岩地帯であり、円行寺では変質した蛇紋岩の裂傷に明るいオレンジ色をした箔状の結晶がふわっと重なったような姿で産出する。鳥羽市白木では六角板状結晶が産出したと聞いている。スミソニアン博物館のキュレーターであるPaul Ernest Desautels (1920-1991)への献名として命名された。
ストロンチウム輝沸石 / Heulandite-Sr
ストロンチウム輝沸石 / Heulandite-Sr
NaSr4(Si27Al9)O72·24H2O
高知県土佐市
ストロンチウム輝沸石は、ストロンチウム(Sr)を交換可能な陽イオンとして主成分に持つ輝沸石である。灰輝沸石から見てカルシウム(Ca)をストロンチウムに置換した鉱物に該当する。ストロンチウム輝沸石それ自体は無色透明だが、この産地では赤鉄鉱を大量に包有するため赤色を示す。泥岩を切る脈として産出し、道路工事が行われた際の捨て石として積みあがっていた。輝沸石の学名はドイツ人鉱物コレクターのJohn Henry Heuland(1778-1856)に因む。
ノントロン石 / Nontronite
ノントロン石 / Nontronite
Na0.3Fe3+2(Si,Al)4O10(OH) 2·nH2O
静岡県河津町やんだ
ノントロン石は一般的には岩石が粘土化する際に生じる鉱物で、土壌中に普通に含まれる。そのためモノの大小を問わなければ産地はほぼ無限といえる。肉眼的な結晶としては、沸石を伴う玄武岩や安山岩の晶洞の壁面に生じることがある。黄色から暗緑色を呈し、針状から葉片状の結晶が放射状に集合する産状となりやすい。サポナイト(Saponite)との肉眼的な区別は至難と感じる。学名は模式地であるNontron(フランス)に由来する。
ネールベンソン石 / Noelbensonite
ネールベンソン石 / Noelbensonite
BaMn3+2Si2O7(OH)2·H2O
大分県佐伯市下払鉱山
ネールベンソン石はオーストラリアで最初に発見された鉱物で、Otago大学(ニュージーランド)の 地質学者であるWilliam Noel Benson (1885- 1957)に因んで命名された。バリウム(Ba)と三価マンガン(Mn3+)を主成分とする産出が稀なローソン石族鉱物。ローソン石からみてバリウム(Ba)と三価マンガン(Mn3+)の置換体に相当する。下払鉱山では石英を主体としたマンガン鉱石中にまばらに含まれるほか、茶色の板状結晶が脈に沿って寝た状態で濃集して産出することがある。
仮晶 / Pseudomorph
愛媛県砥部町万年
オリビンの仮晶で現在は苦灰石
ある鉱物が成長したのちにその結晶形が保たれたままで別の鉱物に置き換わる、という現象が天然ではよく発生する。そのようにして本来はありえない外形となった結晶のことを仮晶(Pseudomorph)と呼ぶ。中心部に元の鉱物が残っている仮晶もある。X線回折という手段がなかった時代は鉱物の外形に基づいて種を分類していたため、仮晶はしばしば混乱を招いた。日本でもっとも有名な仮晶はおそらくはライン鉱(Reinite)であろう。明治初期に新種の鉱物として発表されたが、灰重石として成長した結晶がその外形を残して鉄重石に変わった仮晶であった。
ハウエル鉱 / Hauerite
ハウエル鉱 / Hauerite
MnS2
青森県むつ市恐山
ハウエル鉱はマンガン(Mn)の二硫化物で、黄鉄鉱のマンガン置換体に相当する。暗褐色の八面体結晶として産出し、世界的にも産出が稀な鉱物である。日本では恐山がおそらく唯一の産地であり、噴気活動によって生じる。かつて道路工事の際に多産したと聞く。学名は Joseph Ritter von Hauer (1778-1863)とFranz von Hauer (1822-1899)の親子に因む。オーストリア出身で、古生物学や地質学の発展に貢献した。
安ゴールドフィールド鉱 / Stibiogoldfieldite
安ゴールドフィールド鉱 / Stibiogoldfieldite
Cu6Cu6(Sb2Te2)S13
鹿児島県薩摩川内市入来町入来鉱山
安ゴールドフィールド鉱は四面銅鉱族の中で四価のテルル(Te4+)を主成分とするゴールドフィールド鉱亜族の一員であり、さらにアンチモン(Sb)も主成分のひとつに持つ。命名規約にはゴールドフィールド鉱(Goldfieldite: (Cu4□2)Cu6Te4S13)と砒ゴールドフィールド鉱(Arsenogoldfieldite: Cu6Cu6(As2Te2)S13)もゴールドフィールド鉱亜族として挙げられているが、現時点で砒ゴールドフィールド鉱は鉱物種として確立されていない未来のメンバーである。これまでゴールドフィールド鉱とされてきた鉱物はこの3種のどれかになるが、詳細な分析なしには区別できない。主に金を伴う熱水鉱床に産出し、珪石中に帯状に分布する。結晶として産出することがほとんどないため、鉛灰色の破断面を目安に判別するのだが、遠目には黒色に見える。根源名は模式地であるMohawk鉱山(アメリカ)が位置していた新興都市(Goldfield)の名称に由来する。その名が示すようにGoldfieldは金を多産した。
ザレシ石 / Zálesíite
岡山県高梁市備中町布賀鉱山
ザレシ石 / Zálesíite
CaCu6(AsO4)2(AsO3OH)(OH)6·3H2O
ザレシ石はミクス石族の一員で、カルシウム(Ca)と銅(Cu)を主成分とするヒ酸塩鉱物である。一般的には銅鉱床の酸化帯に出現するが、布賀鉱山では石灰岩の晶洞に現れた。水色から淡緑色の六角柱状結晶が放射状に集合した姿で産出することが多く、柱面は絹糸光沢を呈する。組成変化に富み、通常は希土類元素も少量含まれる。布賀鉱山のザレシ石はビスマス(Bi)を多く含む一方で希土類元素を全く含まないことが報告されている。喜多平鉱山のザレシ石はアルミニウム(Al)を含むとされるが、この標本からはアルミニウムは検出されなかった。やはり個体ごとに組成が異なるのだろう。学名は模式地のZálesíウラン鉱床(チェコ)に因む。
ビューダン石 / Beudantite
福島県南会津町舘岩鉱山
ビューダン石 / Beudantite
PbFe3+3(AsO4)(SO4)(OH)6
ビューダン石は明礬石超族の一員で、さらに細かく分けられたビューダン石族というまとまりの中での筆頭鉱物である。鉛を伴う鉱床の酸化帯にしばしば生じ、うぐいす色の被膜や微小粒として主に石英の晶洞に出現する。結晶が大きくなると黒っぽくなる。同じ明礬石超族である尾去沢石やビーバー石も共通の産状と外観を示すためにそれらとは肉眼的に区別がつかない。命名は19世紀で、フランス人鉱物学者であるFrançois Sulpice Beudant (1787-1850)に因む。
ルソン銅鉱 / Luzonite
ルソン銅鉱 / Luzonite
Cu3AsS4
鹿児島県南九州市赤石鉱山
ルソン銅鉱は硫砒銅鉱の同質異像であり、共通の化学組成ながら結晶構造が異なっている。ルソン銅鉱は硫黄分の多い中~高温熱水鉱床中に産出し、南薩型金鉱床でよくみられる。赤石鉱山では細かい繊維状の結晶が水晶の晶洞内を充てんする産状を示す。フィリピンのルソン島で最初に見いだされた鉱物であり、学名は発見地に由来する。
洋紅石 / Carminite
洋紅石 / Carminite
PbFe3+2(AsO4)2(OH)2
山梨県甲州市黄金沢鉱山
黄金沢鉱山は戦国期の武田氏の時代に金を採掘したことに由来する名称の鉱山であるが、現代においてはもっぱら二次鉱物の産地として知られる。特に独特な濃赤褐色を示す洋紅石の産出が著名であり、水晶や黄鉄鉱の晶洞中に球状の群晶が認められる。個々の結晶は平たがねのような形状をしている。洋紅石の色はカーマインレッド(carmine-red)と称され、それがそのまま学名の由来となっている。カーマインレッドとはカイガラムシ色素から得られる濃赤色のことであり、日本ではそれを洋紅色と和訳するため、鉱物の和名もそれにならって洋紅石とされた。
ティール鉱 / Teallite
ティール鉱 / Teallite
PbSnS2
北海道札幌市豊羽鉱山
ティール鉱は鉛(Pb)、錫(Sn)、硫黄(S)からなる鉱物で、ペラペラの箔として産出する。日本においては豊羽鉱山がおそらく唯一の産地だろう。よく見られる標本は岩石から分離された標本であり、私はティール鉱の産状を最近まで知らなかった。写真の標本は黄鉄鉱が主体の標本で、晶洞中に箔状のティール鉱が生じていた。別の晶洞にはウルツ鉱が伴われる。学名はSir Jethro Justinian Harris Teall(1849-1924)に因んでおり、Teall氏はイギリスおよびアイルランド地質調査所の局長を務めた。
石炭 / Coal
石炭 / Coal
三重県熊野市紀和町
石炭は主に炭化した植物を起源とする堆積物であり、しばしば大規模に濃集するため、それはもはや岩石ともいえる。石炭は、古代の植物が未分解のまま地中に埋没して地熱や地圧の影響を受けて石化した物質の総称でもある。燃料物質として有用な資源となり黒色で硬質なものほど良質とされる。一方で石化の程度が弱いものは褐色を帯びているために褐炭(もしくは亜炭)と呼び、また水分量が多いため燃料には向かない。石炭や褐炭は堆積岩が主体の地域では割とよく顔を出す。写真の標本はランタンピータース石の現地調査の際に河原で拾った。
灰重石 / Scheelite
灰重石 / Scheelite
CaWO4
福岡県香春町三ノ岳横鶴坑
灰重石はカルシウムのタングステン酸塩鉱物であり、塊状の灰重石はタングステン(W)の重要な資源鉱石となる。白い見た目に裏腹なずっしりっとした重さと、短波紫外線による強烈な青色蛍光が面白いが、蛍光を示さない灰重石もある。典型的には八面体の結晶となり、その構造はフェルグソン石と同形と考えられている。学名はスウェーデンの化学者であるCarl Wilhelm Scheele(1742-1786)に因んでいるが、和名は化学組成に基づいている。
リビングストン鉱 / Livingstonite
リビングストン鉱 / Livingstonite
HgSb4S6(S)2
岩手県八幡平市松尾鉱山
リビングストン鉱は水銀(Hg)とアンチモン(Sb)を主成分とする硫化鉱物であり、おそらくアンチモンの価数が一定ではないために構造内にさらに過剰の硫黄(S)が含まれる。日本では松尾鉱山が唯一の産地である。そこではほとんど黒色に近く見える濃紫色の板状結晶が、辰砂を伴って黄鉄鉱中に産出する。学名は探検家のDavid Livingston(1813-1873)に因んでいる。
ウルツ鉱 / Wurtzite
北海道択捉島茂世路岳
ウルツ鉱 / Wurtzite
ZnS
ウルツ鉱は閃亜鉛鉱と同質異像の関係であり、同じ化学組成ながらも構造が異なる。ウルツ鉱の構造は六方晶系の対称性を示し、結晶も六角形となりやすい。ウルツ鉱は閃亜鉛鉱よりも高温で生じ、択捉島世路岳では火山ガスの噴気孔に黄色の六角板状結晶として成長する。また豊羽鉱山では茶褐色で六角板状結晶が花弁状に集合した姿で産出する。学名はフランスの化学者であるCharles Adolphe Wurtz(1817-1884)に因む。
閃亜鉛鉱 / Sphalerite
大分県豊後大野市豊栄鉱山
閃亜鉛鉱 / Sphalerite
ZnS
閃亜鉛鉱は様々な産状と個体があり一言で表すことが難しい。色で言うと、ここでは黒~べっこう~ベージュ色の標本を挙げた。豊栄鉱山の閃亜鉛鉱は光沢の強い黒色の個体で、結晶面に成長の過程が残っている面白い標本である。神岡鉱山の閃亜鉛鉱はいわゆるべっこう亜鉛と呼ばれる標本で、べっこうのような色合いが特長となっている。剣岳鉱山でみられるベージュ色の閃亜鉛鉱は緑色に蛍光するが、千原鉱山の結晶は黄色の蛍光を示すなど、蛍光色にも多様性がある。閃亜鉛鉱の学名は「信用を裏切る」という意味のギリシア語に因んでいる。閃亜鉛鉱はしばしば鉛の資源である方鉛鉱と紛らわしい姿で産出するが、閃亜鉛鉱からは鉛を得られないことが由来とされる。
ぶどう石 / Prehnite
ぶどう石 / Prehnite
Ca2Al(Si3Al)O10(OH)2
島根県松江市美保関町北浦
ぶどう石の学名はオランダの軍人であるHendrik von/van Prehn大佐(1733-1785)に因んでおり、1788年に命名された。初めて人の名前が付けられた鉱物とされる。また変成度の指標にされるほど普遍的な鉱物でもあり、低温低圧の変成(変質)作用で生じる。産地も様々知られているが、北浦からの結晶標本は図鑑に紹介されるほど有名となっている。淡い青色を帯びた透明な板状結晶が放射状に集合する姿が標本としては典型的。和名はぶどうのような外観に因んで定まったとされるが、日本で産出するぶどう石はぶどうにはさほど似ていないので、和名は海外産の標本の見てくれに因んで定まったのかもしれない。
陣笠状ジルコン / Zircon
陣笠状ジルコン / Zircon
ZrSiO4
愛媛県芸予諸島
ジルコンは正方晶系の鉱物であり柱状に成長することが多い。一方でそれとは異なる形態、特に正方晶系とは思えない様で産出するジルコンが古くから知られており、総じて変種ジルコンと称される。写真は変種ジルコンのひとつで、いわゆる陣笠状ジルコンと呼ばれる。イットリウム(Y)とリン(P)に富む組成であることが多く、断面は短波紫外線の照射で緑色に蛍光する。芸予諸島の一つである大島の大頭山から得られた陣笠状ジルコンは新種と考えられ、かつては「大山石」と呼ばれた。
ブルース石 / Brucite
ブルース石 / Brucite
Mg(OH)2
愛媛県八幡浜市頃時鼻
ブルース石はマグネシウム(Mg)の水酸化物であり、変質した蛇紋岩にはしばしば伴われる。通常は粉状なので気づかないことが多いが、頃時鼻のブルース石は蛇紋岩を切る脈として大規模に生じており結晶も認められる。頃時鼻ではしばしば水苦土石(Hydromagnesite)を伴う(写真右上束状結晶)。学名はアメリカの鉱物学者であるArchibald Bruce (1777-1818)に因んでいる。和名は水滑石と呼ばれることもあるが、滑石(Talc)と異なる鉱物であるため、カタカナ読みでブルース石とする方が良いだろう。二価マンガン置換体(Mn2+)にキミマン鉱がある。
板チタン石 / Brookite
長野県川上村居倉
板チタン石 / Brookite
TiO2
板チタン石はTiO2を主成分とする鉱物で、同質異像である鋭錐石と共に水晶を伴う晶洞に産出することが多い。結晶は小さい板状であることが多く、水晶から外れやすい。また花崗岩地帯を流れる小さな沢でパンニングすると、板チタン石の結晶片も入ってくることがある。学名はイギリスの結晶学者・鉱物学者であるHenry James Brooke (1771-1857)に因む。和名は形状と化学組成の造語となっている。
フランケ鉱 / Franckeite
フランケ鉱 / Franckeite
Pb21.7Sn9.3Fe4.0Sb8.1S56.9
大分県豊後大野市豊栄鉱山
フランケ鉱はボリビアで見いだされた鉱物で、模式標本は採掘エンジニアをしていた二人の兄弟から提供された。学名は二人のファミリーネームに因む:Johann Heinrich Karl (Carl) Francke (1832–1907) と Ernst Otto Francke (1838-1913)。日本では大分県豊栄鉱山からの標本が古くから知られ、ピンク色のクトナホラ石に埋没する灰黒色の板状結晶として見られる。晶洞には西洋剣の様な形状をしめすフランケ鉱の自形結晶が認められ、しばしば針状の毛鉱が伴われる。フランケ鉱は二種類の鉱物の混合と考えられたこともあったが、現在は独立種であることが確定している。
自然オスミウム / Osmium
自然オスミウム / Osmium
Os
北海道小平町小平蘂川
自然オスミウムはオスミウム(Os)の鉱物で、砂白金として見いだされる。銀白色であるが、同じく砂白金として得られる自然イリジウムやルテニイリドスミンに比較して、やや青みを帯びる。結晶として産出する場合は、扁平な六角板状結晶であることが多い。そのため結晶であれば自然オスミウムの肉眼鑑定は難しくない。自然オスミウムは北海道の砂白金には普遍的に含まれている。
ルテニイリドスミン / Rutheniridosmine
ルテニイリドスミン / Rutheniridosmine
(Ir,Os,Ru)
北海道羽幌町上羽幌愛奴沢川
ルテニイリドスミンは北海道を原産地とする鉱物で砂白金として見いだされた。イリジウム(Ir)-オスミウム(Os)-ルテニウム(Ru)からなる金属鉱物であり、組成的にはイリジウムが最も卓越するため、それだけに注目すると自然イリジウムの範疇にはいるが、自然イリジウムとは結晶構造が異なる。六方晶系の鉱物で、3もしくは6回対称をうかがえる晶癖が発達することがある。かつてイリドスミンと呼ばれた砂白金の一部は現在のルテニイリドスミンに該当する。なお元素鉱物は元素そのものと区別するため「自然」という接頭語を置き鉱物と元素を区別するが、ルテニイリドスミンは単体元素鉱物ではないため、「自然」の接頭語は不要である。
自然イリジウム / Iridium
自然イリジウム / Iridium
Ir
北海道羽幌町上羽幌愛奴沢川
自然イリジウムは白金族元素の一つであるイリジウム(Ir)の鉱物で、結晶構造は立方晶系に属する。非常に硬い金属であるため針つついてもまったく傷をつけることができない。純度が高い場合には磁石にくっつくことはないが、金属鉄とは完全な合金を形成しうるので鉄が多く含まれる自然イリジウムは磁石に反応する。ただしそういった自然イリジウムの産出はかなり稀。銀白色の金属光沢を示し、通常は不定形な塊状の砂白金として得られるが、ごく稀に等方的な対称性を示すを結晶が認められる。
イソフェロプラチナ鉱 / Isoferroplatinum
イソフェロプラチナ鉱 / Isoferroplatinum
Pt3Fe
北海道羽幌町上羽幌愛奴沢川
イソフェロプラチナ鉱はプラチナ(Pt)と鉄(Fe)を主成分とする鉱物で、世界各地の砂白金鉱床から見いだされている。茶色がかった銀色の外観を示し、わずかに磁性があるため磁石にそれなりに反応する。自然白金とは外観上は全く区別がつかない。日本においては熊本県から多産することを見いだしたが、北海道では稀産といえる。学名は結晶構造が等方的であることおよび主成分に因んでいる。
フェロニッケルプラチナ鉱 / Ferronickelplatinum
フェロニッケルプラチナ鉱 / Ferronickelplatinum
Pt2FeNi
北海道羽幌町上羽幌愛奴沢川
フェロニッケルプラチナ鉱はロシアの砂白金から見いだされた鉱物で、日本でも同じく砂白金から見いだされた。砂白金の表面を不完全に覆う産状で、茶色がかった銀色の鉱物である。強磁性でもあるため、フェロニッケルプラチナ鉱をまとう砂白金は磁石にバチッとくっつく。類似した色合いのイソフェロプラチナ鉱とは磁性の強さで区別がつく。イソフェロプラチナ鉱はフェロニッケルプラチナ鉱ほどは磁石に反応しない。学名は化学組成に因んで命名されている。
ベゼリ石 / Veszelyite
秋田県仙北市角館町日三市鉱山
いわゆる「荒川石」
ベゼリ石 / Veszelyite
(Cu,Zn)2Zn(PO4)(OH)3·2H2O
ベゼリ石は銅(Cu)と亜鉛(Zn)を主成分とするリン酸塩鉱物で、人目を引く鮮やかな色合いから人気がある。銅鉱床の風化帯に二次鉱物として産出し、秋田県荒川鉱山の支山である日三市鉱山から産出したベゼリ石は、かつては新鉱物と考えられて荒川石の名称で呼ばれた。同様に岐阜県神岡鉱山からのベゼリ石も新鉱物と誤認され、こちらは神岡石と呼ばれた。後年に滋賀県石部緑台からもベゼリ石が見いだされている。学名はハンガリーの鉱山技師の A. Veszeli (1820-1888)に因む。
ホランド鉱 / Hollandite
ホランド鉱 / Hollandite
Ba(Mn4+6Mn3+2)O16
愛媛県砥部町古宮鉱山
日本においてホランド鉱は酸化的かつ珪質なマンガン鉱床でよく見られる鉱物で、ブラウン鉱を伴う石英脈中に金属光沢をしめす灰黒色の針状結晶として産出する姿が典型的となっている。その独特な結晶構造はホランド鉱型構造と称される。面白いことに、一見して無関係なカリ長石を高圧と高温状態におくとホランド鉱型構造となる。学名はSir Thomas Henry Holland (1868-1947)に因む。
灰ダキアルディ沸石 / Dachiardite-Ca
灰ダキアルディ沸石 / Dachiardite-Ca
Ca2(Si20Al4)O48·13H2O
静岡県河津町浜
灰ダキアルディ沸石はこの産地における名産の一つと言え、凹凸のある球状集合体で産出する。集合体表面の質感は曇りガラス様であるが、破断面からは個々の結晶が透明感のある板状であることがうかがえる。学名はイタリア人鉱物学者のAntonio D’Achiardi (1839–1902)に因む。
苦灰石 / Dolomite
新潟県新発田市赤谷鉱山
苦灰石 / Dolomite
CaMg(CO3)2
苦灰石はカルシウム(Ca)とマグネシウム(Mg)を主成分とする炭酸塩鉱物で、セメント原料から食品添加物まで様々の用途がある有用な資源鉱物である。鉱物標本として見たとき、その結晶の多様性が面白い。典型的には菱形の形態となるが、爪状と呼ばれる形態で見かけることも多い。色は白もしくは透明が本質的であるが不純物の影響で色づくことも多い。学名はフランス人鉱物学者・地質学者のDéodat (Dieudonné) Guy Silvain Tancrède Gratet de Dolomieu (1750-1801)に因んでいる。和名は化学組成に基づいて苦灰石とされてきたが、最近ではそのままドロマイトと呼ぶことが多い。
脆銀鉱 / Stephanite
脆銀鉱 / Stephanite
Ag5SbS4
秋田県湯沢市院内鉱山
脆銀鉱は銀(Ag)とアンチモン(Sb)を主成分とする硫塩鉱物で、低温の熱水鉱脈鉱床中に産出する。秋田県院内鉱山では石英脈の晶洞に結晶が見られた。写真はその分離結晶であり、双晶による擬六角板状となっている様子がうかがえる。和名は脆いという特徴と銀を含むことから名付けられているが、学名はオーストリアの鉱山局長およびエンジニアであるArchduke Stephan Franz Victor von Habsburg-Lothringen (1817-1867)に因んで命名された。彼は生涯にわたる鉱物コレクターであったとされる。
デーナ石/ Danalite
デーナ石/ Danalite
Be3Fe2+4(SiO4)3S
山口県岩国市喜和田鉱山
デーナ石はYale大学(アメリカ)のJames Dwight Dana (1813-1895)へ献名された鉱物で、赤褐色の四面体結晶を特徴とする。二価鉄(Fe2+)とベリリウム(Be)を主要な陽イオンとしたケイ酸塩鉱物で、陰イオンには酸素(O)の他に硫黄(S)が入るという珍しい化学組成となっている。日本での最初の産出は広島県三原鉱山であるが、標本としては喜和田鉱山産の結晶が近年はよく見られる。
パイロクスマンガン石 / Pyroxmangite
パイロクスマンガン石 / Pyroxmangite
Mn2+SiO3
愛知県設楽町田口鉱山
パイロクスマンガン石が記載されたのは1913年のことで、マンガンを含む輝石族の新種だと考えられた。そのため学名は輝石(Pyroxene)とマンガン(Manganese)を組み合わせた造語となっている。しかしながら後年にパイロクスマンガン石は輝石族ではなく準輝石族であることが明らかにされた。パイロクスマンガン石は層状マンガン鉱床においてかなり普遍的に存在しており、桃色をおびた緻密な塊や脈で産出するため、多くの場合で類似の外観を示す(いわゆる)バラ輝石と混同されている。またビッティンキバラ輝石とは同質異像の関係にある。パイロクスマンガン石は田口鉱山では美しいピンクレッドの結晶として産出する。
黒辰砂 / Metacinnabar
黒辰砂 / Metacinnabar
HgS
三重県多気町丹生鉱山
黒辰砂は辰砂(Cinnabar)と同じ化学組成をもつが、辰砂より高温で結晶化した鉱物である。合成実験では345-481℃の温度で生じる。さらに高温だとハイパー辰砂(Hypercinnabar)というまた別の鉱物となる。辰砂が典型的な朱色を示すことに対し、黒辰砂はその和名の通りに黒色であることを特徴とする。黒辰砂は辰砂と共存することがほとんどで、学名は伴うことを意味するギリシア語(Meta)と辰砂(Cinnabar)との造語からなっている。
角銀鉱 / Chlorargyrite
角銀鉱 / Chlorargyrite
AgCl
北海道枝幸町歌登鉱山
角銀鉱は銀の塩化鉱物であり、熱水型金銀鉱床の酸化帯に二次鉱物として生じる。海外ではホーン・シルバーと称される尖った標本が知られており、そのために角と銀を意味するギリシア語からCerargyriteという名称で呼ばれたことがあり、和名もホーン・シルバーの和訳となっている。一方で現在の学名は化学組成に基づいている。歌登鉱山においては角銀鉱は主に紫褐色のサイコロ状結晶で生じる。角銀鉱は軟らかい鉱物で砕けるということがなく、針でつつくとぬめっと潰れる。
リチア電気石 / Elbaite
リチア電気石 / Elbaite
Na(Al1.5Li1.5)Al6(Si6O18)(BO3)3(OH)3(OH)
茨城県妙見山
リチア電気石はリチウムを主成分とする電気石の一種で、リチウムペグマタイトに産出する主要な鉱物である。その結晶は無色・ピンク・青・黄色などと一般に多様であり、妙見山でも写真のような淡青色の結晶の他にピンク色の結晶が産出するようだ。学名は模式地であるイタリアElba島に因む。
イットリウムヒンガン石 / Hingganite-(Y)
イットリウムヒンガン石 / Hingganite-(Y)
BeY(SiO4)(OH)
福島県水晶山
イットリウムヒンガン石はベリリウム(Be)と稀元素のイットリウム(Y)を主成分とする含水ケイ酸塩鉱物で、ガドリン石超族の一員となっている。水晶山では褐簾石を伴うペグマタイトの晶洞に無色透明な結晶としてイットリウムヒンガン石が産出する。満州とモンゴル高原を分かつ大興安嶺山脈を模式地とし、学名は興安(ヒンガン)に因む。
テフロ石 / Tephroite
愛媛県大洲市戒川鉱山
テフロ石 / Tephroite
Mn2+2(SiO4)
テフロ石は変成マンガン鉱床には普遍的に産出する主要な鉱石鉱物である。青みを帯びた灰色で緻密な塊状で産出することが普通で、学名も灰色を示すギリシア語が由来となっている。肉眼的な結晶はまず見かけない。しかし所変われば品変わるというところで、田野畑鉱山においてテフロ石はガラス光沢を示すウグイス色の結晶粒として産出することがある。
オルシャンスキー石 / Olshanskyite
オルシャンスキー石 / Olshanskyite
Ca2[B3O3(OH)6]OH·3H2O
岡山県高梁市備中町布賀鉱山
オルシャンスキー石は新しい産地が見つかるたびに出回る標本が大きくなる。オルシャンスキー石はもともとロシアで見つかったが、1ミリ以下の非常に細い針のような結晶だった。二番目の産地となった岡山県布賀では数ミリの薄板状の結晶が産出して話題となった。そして最新産地の内モンゴル自治区内にある鉱山では、オルシャンスキー石は数センチを越える結晶で産出する。学名は地球化学者のYakov Iosifovich Ol’shanskii (1912-1958)に因む。
水亜鉛銅鉱 / Aurichalcite
水亜鉛銅鉱 / Aurichalcite
(Zn,Cu)5(CO3)2(OH)6
滋賀県湖南市石部緑台
水亜鉛銅鉱は銅鉱床の風化帯に生じる水酸基(OH)、亜鉛(Zn)、銅(Cu)を含む炭酸塩鉱物で、真珠光沢を示す水色の葉片状結晶が放射状に集合した姿で良く産出する。湖南市石部緑台にあった採石所からはかつて立派な水亜鉛銅鉱が多産した。学名の由来は正確にはよくわからないが、銅と亜鉛を含むことを暗示しているらしい。
ミメット鉱 / Mimetite
ミメット鉱 / Mimetite
Pb5(AsO4)3Cl
栃木県日光市日向
ミメット鉱は鉛(Pb)を伴う銅鉱山において二次鉱物としてよく見られる鉱物で、典型的には黄色で水晶に似た形の結晶となる。一方でそれ以外の外観となることも多く、同様の環境で生成する緑鉛鉱(Pyromorphite)と区別が難しいことから、「模倣者」という意味のギリシア語が学名の由来となっている。ミメット鉱は緑鉛鉱に比べると産出がややまれという印象。
ユークレース / Euclase
ユークレース / Euclase
BeAlSiO4(OH)
岐阜県中津川市下野
ユークレースの原産地はブラジルとされており、学名は「簡単に割れる」という意味のギリシア語に因んでいる。ベリリウム(Be)を主成分とするケイ酸塩鉱物で、シンプルな化学組成の鉱物であるが産地は限られている。日本では中津川市からごく少量が産出した。写真の標本はペグマタイト中の煙水晶に伴われる結晶で、ほんのわずかに青みを帯びている。
バートランド石 / Bertrandite
バートランド石 / Bertrandite
Be4Si2O7(OH)2
岐阜県中津川市蛭川
バートランド石はフランスから最初に見つかった鉱物で、フランス人鉱物学者の Émile Bertrand (1844 – 1909)に因んで命名された。ベリリウム(Be)を主成分とするケイ酸塩鉱物で、緑柱石(Beryl)と共に花崗岩ペグマタイト中に見られることが多い。板~升形の結晶として産出し、しばしば緑柱石に伴われる。採集の衝撃で外れやすいうえに、小さく透明なため見落とされがち。
ザバリツキー石 / Zavaritskite
ザバリツキー石 / Zavaritskite
BiOF
岐阜県中津川市恵比寿鉱山
ザバリツキー石はビスマス(Bi)と酸素(O)とフッ素(F)からなり、ハロゲン化鉱物に分類される。自然ビスマスや輝蒼鉛鉱が変質して生成する鉱物とされるが、私にとってはザバリツキー石とは聞いたことがあれども実体がよくわからなかった鉱物であった。ながらくその標本を所有していなかったが、恵比寿鉱山の標本を最近になって手に入れてその実態がようやく理解できた。中心から外側に向けて、自然ビスマス(金属)-ザバリツキー石(青黒色集合体)-白雲母(淡橙色葉片状結晶)となっている。泡蒼鉛(Bismutite)をしばしば伴うとされるが、それは検出されなかった。ザバリツキー石の学名は石油化学の専門家であるAleksandr Nikolaevich Zavaritskii(1884-1952)への献名となっている。
ストロンチアン石 / Strontianite
ストロンチアン石 / Strontianite
SrCO3
高知県佐川町
ストロンチアン石はスコットランドのStrontian村から見出され、1791年に発見地に基づいて学名が命名された。そしてストロンチアン石から元素としてのストロンチウム(Sr)が発見されている。日本において肉眼的に捉えられるストロンチアン石は高知県佐川町に分布するの鳥ノ巣石灰岩から見出されている。この石灰岩は天然タールを豊富に含み、割るたびに熱したアスファルトのような臭いがする。ストロンチアン石は石英や方解石の晶洞中に白色の繊維状結晶が放射状に集合した姿で見出される。
銀星石 / Wavellite
高知県高知市豊田
銀星石 / Wavellite
Al3(PO4)2(OH)3·5H2O
銀星石はイギリスで発見された鉱物で、その学名は発見者とされる医師の William Wavell (1750-1829)に因んで命名された。一方で和名は明治期に輸入されたボヘミア産の標本の特徴を見立てて命名されたとされる。銀星石は角柱状結晶が放射状に集合した姿が一般的で、断面はよりその特徴が際立つ。風化した堆積岩の隙間や裂傷、石英脈の晶洞中に生じることが多い。高知市豊田では造成工事中に多産したことがあるが、日本では産出はやや稀なほう。
レダー石 / Roedderite
レダー石 / Roedderite
KNaMg2(Mg3Si12)O30
鹿児島県薩摩硫黄島硫黄岳
レダー石はアメリカ地質調査所のEdwin Woods Roedder(1919-2006)に因んで命名された鉱物で、1966年にIndarch隕石から最初に見出された。1980年になってドイツのBellerberg火山から地球初のレダー石が見出されたという論文が発表された。レダー石は大隅石や杉石の近縁種で六方晶系の構造を持ち、海外においては六角柱状の結晶が知られている。日本では硫黄島から産出し、サニディン(白色)の角レキ状集合の隙間を普通輝石(緑色)と共に満たす産状で青色のレダー石が見出されている。最近になって硫黄島のレダー石は多くがチェイス石(Chayesite:KMg4Fe3+[Si12O30])だと言われるようになった。しかし、写真の標本の分析値は解析的には二価鉄(Fe2+)のみという結果で、マグネシウムを上回らない。そうなるとこれはチェイス石ではなくやっぱりレダー石。
鉄かんらん石 / Fayalite
鉄かんらん石 / Fayalite
Fe2+2(SiO4)
静岡県熱海市上多賀赤根崎
伊豆半島の付け根に位置する熱海市あたりの地質は主に安山岩であるが、上多賀あたりにごく小規模に玄武岩質の火砕岩が露出している。海岸の転石には多孔質な岩石が認められ、晶洞や裂傷の壁は微細なクリストバル石でびっしり埋め尽くされている。そのなかに黒色米粒状の鉄かんらん石がポツリポツリと埋まっている。学名は発見地であるFaial島(ポルトガル)に因む。赤根崎の鉄かんらん石は内部にライフン石(Laihunite)が生じているとされる。
クリノクロア / Clinochlore
三重県鳥羽市菅島
クリノクロア / Clinochlore
Mg5Al(AlSi3O10)(OH)8
クリノクロアは緑色片岩中の最も主要な造岩鉱物であり、産地はそれこそ世界中の至る所に存在する。学名には緑色という意味が含まれているが、厚みが薄いと面内はほとんど透明に見える。六角形もしくは三角形の板状結晶が基本で、それが面方向に積み上がった集合体となることも多い。またアルミニウム(Al)が少量のクロム(Cr)によって置き換えられるとスミレ色を呈する様になる。こういったクリノクロアは菫泥石(きんでいせき)と呼ばれ、しばしばクロム鉱床に炭酸塩鉱物と共に伴われる。
サーサス石 / Sursassite
サーサス石 / Sursassite
Mn2+2Al3(SiO4)(Si2O7)(OH)3
愛媛県大洲市上須戒鉱山
サーサス石はスイスのOberhalbstein地域から最初に見出され、Oberhalbsteinの別名であるSursassに因んで命名された。低温高圧型変成作用に伴う熱水活動に密接に関連して生成し、アルデンヌ石(Ardennite)ともしばしば共生する。日本でも低温高圧型変成帯である三波川帯からいくつかの場所で見出されており、上須戒鉱山では積み上げられている捨て石の中にサーサス石の結晶が観察される。透明感のあるオレンジ色が特徴となっている。
氷長石 / Adularia
氷長石 / Adularia
KAlSi3O8
三重県鳥羽市加茂鉱山
カリウム(K)を主成分とする長石にはシリコン(Si)とアルミニウム(Al)が規則正しく並ぶ微斜長石(Microcline)と、やや無秩序で並ぶ正長石(Orthoclase)、完全に無秩序で並ぶサニディン(Sanidine)が知られている。これらは基本的には生成時の温度で決まり、低温→高温の環境で微斜長石→正長石→サニディンが出現する。そして氷長石は正長石の亜種として位置付けられており、独立の鉱物種ではない。正長石よりは規則正しいが微斜長石よりは無秩序なシリコン-アルミニウム配列を持ち、微斜長石と正長石の中間的な構造となっている。外見的には菱型や双晶による封筒状の結晶が典型的で、それが氷のようなヒンヤリとした印象をもつことが特徴である。英名はAdula山地(スイス)で初めに見つかったことに由来する。
剥沸石 / Epistilbite
剥沸石 / Epistilbite
Ca3[Si18Al6O48]·16H2O
愛媛県久万高原町高殿
学名は諸性質が束沸石(Stilbite)に似ていることから、近似という意味のギリシア語(Epi)を用いてEpistilbiteと名付けられた。和名はこの沸石が薄く割れやすい特徴に由来しており、剥沸石(はくふっせき)と呼ばれている。一方でこの沸石は外見にも特徴があり、封筒状の結晶形となることが非常に多い。ややシリコンに富む組成であり、玄武岩より安山岩の晶洞に産出することが多い。
フェロジュルゴルド石 / Julgoldite-(Fe2+)
フェロジュルゴルド石 / Julgoldite-(Fe2+)
Ca2Fe2+Fe3+2(Si2O7)(SiO4)(OH)2·H2O
島根県松江市美保関町
島根半島に貫入した苦鉄質岩の多くは熱水変質作用を被っており、晶洞および熱水脈には低変成相に特徴的な鉱物が粗粒に結晶化する産状が観察される。パンペリー石族のフェロジュルゴルド石もその一つで、淡い草緑色の板状結晶として産出し、しばしば無色透明な板状結晶のトムソン沸石と共生する。日本ではパンペリー石族の鉱物は晶洞に産出してもルーズな結晶となる例が多いが、フェロジュルゴルド石の結晶は非常に端正な姿となっている。また一部には三価鉄(Fe3+)が支配的なフェリジュルゴルド石(Julgoldite-(Fe3+))が伴われるが、詳細な分析や構造解析なしにそれらは区別できない。学名はシカゴ大学(アメリカ)のJulian R. Goldsmith(1918-1999)に因んでいる。
灰トムソン沸石 / Thomsonite-Ca
島根県松江市美保関町
灰トムソン沸石 / Thomsonite-Ca
NaCa2Al5Si5O20·6-7H2O
トムソン沸石は数ある沸石の中でも最もシリコン(Si)に乏しく、アルミニウム(Al)に富むタイプの沸石で、玄武岩をはじめとした苦鉄質岩に伴われることが多い。島根県産の標本は古くから著名で、玄武岩の晶洞中にバビントン石(Babingtonite)と共に産出する。岡山県産の標本はおそらくは稀な産出で、石灰岩中の晶洞に現れた。板状結晶が典型的な姿であるが、しばしば放射状から球状に集合する。トムソン沸石にはカルシウム(Ca)およびストロンチウム(Sr)を主成分にする種が知られ、カルシウムを主成分にするトムソン沸石は灰トムソン沸石と呼ばれる。学名はGlasgow大学の化学者Thomas Thomson(1773-1852)に因む。
鉄白燐石 / Leucophosphite
鉄白燐石 / Leucophosphite
KFe3+2(PO4)2(OH)·2H2O
三重県伊勢市矢持町
秩父帯に属する石灰岩層は地下水の侵食を受け所々で洞窟が形成され、洞窟内ではコウモリをはじめとした様々な生物が生活している。気の遠くなるほどの時間が経過する中で生物は世代交代を繰り返し、洞窟内には大量のグアノ(糞の化石)が形成される。そのグアノの中にオレンジ色の小球が生じており、調べてみたところそれは鉄白燐石であった。学名は白い燐酸塩鉱物という意味のギリシア語を元にしており、和名の鉄白燐石は化学組成も考慮した表現となっている。しかし写真の標本を見てのとおり鉄白燐石は必ずしも白くない。
ヘスチング閃石 / Hastingsite
ヘスチング閃石 / Hastingsite
NaCa2(Fe2+4Fe3+)(Si6Al2)O22(OH)2
岡山県高梁市備中町用瀬山宝鉱山
ヘスチング閃石は1896年に命名された角閃石で、学名は発見地のHastings郡(カナダ)に因んでいる。この角閃石も最新の角閃石の命名規約の中では例外的な扱いで、ルール通りならフェロフェリパーガス閃石(Ferro-ferri-pargasite)とされるところだったが、いまさらヘスチング閃石の名称を消すと混乱が生じるという理由で名前が残った。山宝鉱山のヘスチング閃石は蛍石と共に生じているのでフッ素が多く含まれているのかと思いきや、水酸基が支配的であった。
アクチノ閃石 / Actinolite
新潟県青海川
アクチノ閃石 / Actinolite
□Ca2(Mg4.5-2.5Fe2+0.5-2.5)Si8O22(OH)2
アクチノ閃石はマグネシウム(Mg)を主成分とする透閃石(Tremolite)から見て、二価鉄(Fe2+)を端正分とする角閃石に与えられた名前であったが、最新の角閃石の命名規約では、マグネシウム(Mg)端成分に対してルートネームを与え、二価鉄(Fe2+)端成分に対しては「フェロ(ferro-)ルートネーム」とする命名法を基本としている。そのため命名規約の基本ルールに従うとアクチノ閃石はフェロ透閃石(Ferro-tremolite)になるはずだったが、アクチノ閃石は古来から使われてきた名称であり今さら名称を消すと混乱が生じる。そこで例外的な組成区分を設定してアクチノ閃石の名称を残すことになった。本来のルールどおりなら今の定義のアクチノ閃石は透閃石(Tremolite)の範疇となる。
学名は繊維質な石という意味のギリシア語に因んでおり、1794年に命名された。アクチノ閃石の標本は個体差が大きく結晶のサイズで質感が大きく異なる。ここでは上から下に結晶サイズが大きくなる順で標本を並べている。上の写真は数ミクロン以下の結晶の集合体で、いわゆる軟玉に相当する標本となる。真ん中の写真にあるアクチノ閃石は長軸方向が1センチ程度あるが厚みは100ミクロンもないためかほとんど無色近い。下のアクチノ閃石は人差し指程度の大きさがあるが透明感が失われている。
ゲルスドルフ鉱 / Gersdorffite
ゲルスドルフ鉱 / Gersdorffite
NiAsS
兵庫県養父市夏梅鉱山
ゲルスドルフ鉱は1845年にSchladming(オーストリア)のニッケル鉱山主であったJohann Rudolf Ritter von Gersdorff(1781-1849)に因んで1845年に命名された。日本でも早くから存在が知られ、1907年に夏目鉱山から見出されている。三角形の面を組み合わせた八面体の結晶で産出し、夏目鉱山では紅砒ニッケル鉱と縞状組織を形成することが多い。ゲルスドルフ鉱には3種類の同質異像があり、それぞれGersdorffite-P213、Gersdorffite-P3、Gersdorffite-Pca21という別々の学名が与えられている。
紅砒ニッケル鉱 / Nickeline
紅砒ニッケル鉱 / Nickeline
NiAs
兵庫県養父市夏梅鉱山
紅砒ニッケル鉱はニッケル(Ni)とヒ素(As)からなる鉱物であるが、赤銅色を示すため発見当時は銅の鉱石と思われていた。しかしどんなに工夫を凝らしても銅を摘出することができなかったため、ドイツ神話のいたずらな妖精(Nickel)と銅の合成語である「kupfernickel」という名称が1694年に与えられた。1751年にAxel Fredrik Cronstedt(1722-1765)はkupfernickelから銅を抽出しようとして、代わりに単離されたのがニッケル(Ni)である。ニッケルという元素は紅砒ニッケル鉱から見出された。鉱物としては1832年に今の学名である「Nickeline」が与えられ、一時期「Niccolite」とも呼ばれたが、1971年に国際鉱物学連合がNickelineの使用を推奨している。和名は外観と成分に由来している。夏梅鉱山では蛇紋岩中に球状の塊で産した。
ソーダダキアルディ沸石 / Dachiardite-Na
ソーダダキアルディ沸石 / Dachiardite-Na
Na4(Si20Al4)O48·13H2O
千葉県南房総市荒川
ダキアルディ沸石はピサ大学(イタリア)のAntonio D’Achiardi (1839–1902)に因んでおり、Antonioの息子であるGiovanniによって1906年に命名された。これまでナトリウム(Na)、カリウム(K)、カルシウム(Ca)を主成分とする3種があり、最初に記載されたダキアルディ沸石はカルシウムを主成分としていた。ナトリウムを主成分とするソーダダキアルディ沸石は1975年にAlpe di Siusi(イタリア)から見出されている。ソーダダキアルディ沸石は日本では新潟県柳新田が産地として知られている。写真の標本は砂岩を切るオパール脈の晶洞に生じた束状集合のソーダダキアルディ沸石で、千葉県南房総市荒川から産した。
ざくろ石 / Garnet
ざくろ石 / Garnet
ざくろ石の英名はGarnet(ガーネット)であり、赤い結晶がザクロ(Granatum)の実に似ていることからそう呼ばれるようになったとされるが、他の説もある。和名については「ざくろ石」、「ザクロ石」、「石榴石」、「柘榴石」などの表記があり、文章校正の際に悩まされる。このうち「柘榴石」については、ザクロの木は「柘(ツゲ)」ではないから「柘榴石」表記は本来正しくない、という意見がある。ここでは「ざくろ石」の表記を採用する。
鉱物としては単にざくろ石と呼ぶと、ざくろ石型構造をもつ鉱物の総称となる。より正確に分類すると「ざくろ石超族(Garnet Supergroup)」という大きなまとまりがあり、その下に「ベルゼライト族(Berzeliite Group)」、「バイティクレアイト族(Bitikleite Group )」、「ガーネット族(Garnet Group)」、「ヘンリターミエライト族(Henritermierite Group )」、「ショーロマイト族(Schorlomite Group)」が区分される。それぞれの族の中に個々の鉱物種がぶらさがり、ざくろ石超族は合計で35種(2019年10月時点)から構成されている。多くは固溶体を形成し、塁帯構造が著しい場合もままある。そのため一つの結晶であっても鉱物種として2種類にまたがるケースもざらにある。
ざくろ石は一般的な造岩鉱物で、多様な地質環境で見かける。日本でも古くから産出が知られ、明治37年発行の「日本鉱物誌」では16箇所の産地のざくろ石が紹介されている。12-36面体のコロッとした結晶が特徴で、含まれる成分によって様々な色合いを示す。灰鉄ざくろ石と灰バンざくろ石のラメラによるレインボー効果を示すざくろ石も知られる。ここでは種を厳密に特定せずにざくろ石を並べている。
リッベ石 / Ribbeite
リッベ石 / Ribbeite
Mn2+5(SiO4)2(OH)2
愛媛県大洲市戒川鉱山
リッベ石はアレガニー石(Alleghanyite)と多形(同質異像)を成す鉱物で、1987年にナミビアの Kombat Mineから記載されたのが最初となる。学名は鉱物学者のPaul Hubert Ribbe (1935-2017)に因む。日本では1991年に三波川変成帯に位置する複数のマンガン鉱山から同時に報告され、その中に戒川鉱山が含まれている。リッベ石はハウスマン鉱と共に濃紫紅色の緻密質な集合体を形成する。アレガニー石も伴われることがあるが、それはリッベ石集合体を切る細脈として生じる。産状からリッベ石はアレガニー石よりも高い圧力・温度条件で生じると考えられている。
トラスコット石 / Truscottite