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レッドクリフ-赤壁の戦い-

中国史愛好家にとって「赤壁」とは三国時代の有名な戦場を指し,そこでの戦いは三国志で最も盛り上がる場面の一つである。一般の方には「レッドクリフ」という映画の方が有名であろうか。そして愛石家にとっての「赤壁」がまた別にある。それは東京都奥多摩町に存在している。

東京都奥多摩町の白丸ダムは5-10年に一度くらいの頻度で水が抜かれ,その際に普段は水没している赤い岩肌があらわになる。そこはかつての白丸鉱山でありマンガン鉱石が採掘されていた。1998年の水抜きのとき,この赤壁から多摩石/Tamaiteという鉱物の新種が見いだされた。2003年に見つかった鉱物は東京石/Tokyoiteという新種となった。希にかつ短期間のみ現れる赤壁であるが,そのたびにお宝が出てくるのだから愛石家はハンマーを片手に赤壁に戦いを挑むことになる。

そして2015年12月,久々に白丸ダムの水が抜かれた。ただし2016年2月には水門を閉じ始めるとも聞いているので赤壁が顔を出すのはやっぱり短い期間のようだ。さらに次回は10年後があるか無いかといった状況らしい。そんなわけで私もこのレッドクリフ -赤壁-に挑戦してきた。とはいえ伝説の赤壁は私には太刀打ちできないほど堅かった。ハンマーでの戦いは友人に任せることにして,私は自分の武器で戦ってみようと思う。私にとっての赤壁の戦いは採集後となる。いつものように写真と分析。

さて,ここから先は写真とコメントになる。分析を始めたところなので徐々にとなるが,公表できるものを挙げていこうと思う。

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多摩ちゃん?(2016/2/2) 青い光  (2016/2/2) 続・青い光(2016/2/3) むしろオレンジ(2016/2/4) 白壁 (2016/2/4)
琥珀色の(2016/2/4) 多摩ちゃん??(2016/2/5) 定番の赤 (2016/2/5) 白と小さな赤 (2016/2/5) 想定外 (2016/2/6)
いつどこで(2016/2/8) オレンジ脈その1 (2016/2/12) オレンジ脈その2 (2016/2/12) 多摩ちゃん! (2016/2/12) やっぱり赤いよ (2016/2/12)
どこかで(2016/2/26,4/14) XXX XXX XXX XXX

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多摩ちゃん?

下に示す二つの写真は今回の赤壁から得られた採集品である。倍率と視野が違うだけで同じ標本。おおむね4×3センチの範囲にべったりとオレンジ色を帯びた葉片状の鉱物が張り付いており,見たところこれは多摩石かなと思えた。しかしながら,白丸鉱山には多摩石の他に,そのK置換体のガノフィル石,およびNa置換体のエグレトン石が産出し,これら三種は見た目で区別できないと言われている。こいつはどの鉱物でしょうか?

Eggletonite
エグレトン石 / Eggletonite

見た目でわからないなら分析してみましょう。この標本からランダムに10個の結晶をピックアップしそれぞれ分析してみたところ,ことごとくNaタイプであった。これはエグレトン石になる。Mindatにエグレトン石の写真が掲載されているが,それを上回るサイズの結晶なので今のところ世界最大級の結晶と言えるかもしれない。ちなみに白いところはセルシアンだった。

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青い光

赤壁には白い脈がたくさん入っておりいくつかの鉱物が予想されるが,ただ白いだけの脈なので見た目ではさっぱり判別できない。それでも鑑定が比較的容易だとされる鉱物がある。ベニト石だ。ベニト石は短波長の紫外線で青く蛍光するという性質があり,西久保ら(2007)は紫外線照射により比較的容易に判別できることを報告した。今回採集されたサンプルを見てみよう。下に掲載した写真は紫外線照射のbeforeとin-situである。照射するとばっちり青く光ることが見て取れるのだが・・・(写真のあとにつづく)

albite_1
紫外線照射前

albite_2
紫外線照射中

紫外線でバチバチに蛍光しているこの部分はベニト石と思っていたのだが,真実は違っていた。光っているところもそうでないところも,これはぜんぶがAlbiteなのである。そんなアホなと思うかもしれないが,残念ながらそうなのだ。光っているところと光っていない部分の組成的な違いは電子線レベルでは検出できなかった。ちょっと粒子サイズが違うかなというくらい。実は私は同じ経験をしたことがある。大分県の下払鉱山にも青く蛍光する鉱物があり,ベニト石を期待したが調べるとAlbiteだった。また出くわしてしてしまった。ホンモノはきっとあるのだろうが,青蛍光=ベニト石という鑑定方法は当てにならないのです。よけいなことしやがってとか言わないでください。

というように書いてしまったが,この戦いの敗者は私であった・・・

次も見てほしい。

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続・青い光
 
上のように結論づけたのだがやっぱりなんか違和感。いくら何でも蛍光が強すぎるだろう。しかし光学顕微鏡で見てもベニト石のような高屈折率鉱物はやっぱり見あたらないし,X線でも引っかからない。もう一回調べるならSEMかな。

albite_3
光るところと光らないところから試料を取り出してマウント。紫外線で確認すると左はばっちり光っている。SEMでみるとさあどうなるか。

3_benitoite
これは上の写真で右の光ってない試料のSEM写真。全体が曹長石で白く写っているところはマースター石である。曹長石はやや粗粒にみえる。

無題-1
上の写真で左の光っている試料のSEM写真。あれだけばっちり光っているにもかかわらずやっぱり全体が曹長石で,不純物はよりすくなく見える。左側とか真ん中やや上にある白いのはマースター石。右側の曹長石がやや細粒になっている。違いはそれくらいかな・・

結局は先日の観察と同じだなーと当初は思っていた。が,黄色い矢印の先に注目。わずか3ミクロン程度の粒がちょびぃとだけいるのがわかるだろうか。なんとこれがベニト石でした。あれだけ自己主張しといて,これぽっちの本体かよ! なんてえげつない。いっぱい居るならともかくこんなのはざっとみてもゴミかと思えるくらい少ない。光学顕微鏡でわかるはずもなく,X線の検査すらすり抜ける悪魔がここに居ましたよ。もしかするとSEMの分解能以下のサイズでも散らばっているのかもしれない。ヤラレタ感がハンパない。戦いの火蓋が切られたばかりだというのにもう一敗地に塗れてしまった。ということで,青い光はやっぱりまあベニト石ということで。これは下払鉱山も見直すべきだな,はぁ・・。

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むしろオレンジ

赤壁が赤いのはチャートにちらばる赤鉄鉱のせいで,愛石家であってもこれをほしいという人はまずいない(稀にはいる)。それとは別に愛石家が恋い焦がれてやまない赤い鉱物がここには出る。それは東京石 / Tokyoiteであろう。だがその産状は情報に乏しい。東京石そのものは恵与標本を持っているが,切断研磨してあるので私には産状がよくわからない。それでも松原先生の「新鉱物発見物語」を読むにブラウン鉱のそばにはありそうだなってことで,今回はブラウン鉱を主に採集していた。幸いなことにブラウン鉱は非力な私でも容易に採集できたし,なにより戦士たちの割残しがたくさん放置されていたので採集は苦ではなかった。次は写真。

tokyoite
よーく見てみると左右2ミリの狭い範囲に赤よりはオレンジに近い鉱物がいるではありませんか。こいつがヤツなら予想よりも赤が薄い。でもでもでもでもですよ。も・し・か・し・て・・・。

こいつをほんの少し削りだしてSEMで分析してみたら,これは東京石だった。リン(P)・砒素(As)・珪素(Si)・硫黄(S)をごく少量含むが,まあそれは想定内の微量成分。ブラウン鉱に狙いを絞ったのは正解で,狙い通りのドンピシャである。誰と勝負しているわけでもないがこれは勝った気がする。

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白壁

産地はV字型の谷で,赤壁に向かって立つとその後ろにも壁がそそり立つという構図になる。赤壁の後ろの壁は砂岩で,白いから白壁と言っておこう。その白壁には白い細脈がたくさん走っている。もちろん誰かがすでに叩いており,下には白壁から外された脈の破片がたくさん散らばっていた。これをいくつか持って帰って観察してみた。

Harmotome
予想したよりも結晶がたくさんあって,小さいながらも大部分が自形結晶だった。分析もしてみたところこれは重土十字沸石のようだ。十字双晶があることを期待していたのだがさっぱり見つからない。

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琥珀色の

マンガン鉱床にはよく琥珀色したガラス質のモノがよく出てくる。赤壁も例外ではないようでこれがたくさん出る。

Amorphous
おおむね脈状でブラウン鉱をぶった切っているものが多い。厚いものは濃い琥珀色を示す。ビール瓶みたいな色とも言える。薄いと色はあまりでないが,石を湿らしているようなヌラっとした光沢は特徴的。分析するとマンガンとシリカの他にアルミニウムとカルシウムがやや多くて,結果的に多摩石の化学組成にかなり近かった。ただし非晶質なので鉱物ではない。案外これが多摩石の前駆体になっているのかなと考えている。

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多摩ちゃん??

白~ねずみ色を背景にして赤褐色の葉片状鉱物がちらほら見える。なんだろねこれ。白とねずみ色は想像できるが,赤いのはもしかして・・。あなたが多摩ちゃんですか? 黄色いシミみたいなものもあるなあ。

Pennantite
Pennantite
白はセルシアン,ねずみ色はテフロ石で,これは予想通り。そして赤褐色はペナント石 / Pennantiteだった。緑泥石の仲間なので葉片状に見えたのはまあ納得。そして黄色いシミはエグレトン石だった。結晶が薄いと黄色く見えるのもそうりゃそうか。エグレトン石と多摩石はNaかCaかの違いだから,多摩石だけが赤褐色ということはないだろうな。

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定番の赤

マンガン鉱山には比較的こいつが出ることが多い。

Copper
自然銅。破面が顔をだすと銅色になるが,長石に埋もれていると赤色に見える。でも赤銅鉱ができているとかではない。わからない鉱物がたくさんあるこの現場で見知った顔にでくわすとなんだかほっとする。

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白と小さな赤

赤壁の足下には戦いの痕跡が残されており,数センチくらいの破片がバラバラ落ちている。それを適当にあつめて持って帰って観察すると白い脈とその脇に小さな赤い部分があった。

Banalsite
白い脈はバナルサイトが主体でハイアロフェンがぼつぼつ入っているのだが,肉眼的には区別できない。白脈の中央やや右にある小さな赤い部分はストロンチウム紅簾石。バナルサイトと近接していてもストロンチウム紅簾石にBaの固溶は皆無。惜しむらくはこれは適当に拾い集めたものなので,露頭ではどのあたりに該当するのかさっぱりわからないこと。

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想定外

東京石を含むブラウン鉱塊はあまり大きいモノではなく,比較的小さい数センチくらいのレンズ状で赤壁に埋まっていた。そしてブラウン鉱そのものは普通のブラウン鉱にしか見えなかったのだが・・

Braunite
数センチ程度のレンズ状で見るからに普通のブラウン鉱の塊。特に怪しむところはないと思えたが・・

braunite
このブラウン鉱塊のSEM写真でいわゆるCOMP像。一目瞭然で,ぐちゃっぐちゃです。一筋縄ではない。

ブラウン鉱塊の中身はかなり予想と異なっており,実はブラウン鉱そのものは案外多くなかった。SEM写真中で最も白っぽく写っている部分は小さい粒の集まりで,これはストロンチアン石。その次に明るい灰色に写っている比較的大きな塊,これがブラウン鉱。そして最も暗い灰色でたまに棒状に伸びているように見えるところはなんとガノフィル石だった。石英がほとんど含まれていない。こんなことってあるの?? これはまったくの想定外。

赤壁で戦うのは明日(2/7)がラストチャンスと聞いている。ただ私にとっての赤壁はこのあたりから本格的な戦いになってきそうだ。

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いつどこで

いつ頃どうやって手に入れたか定かではない白丸鉱山の石が私の標本箱にあった。何年の赤壁で出たモノかはわからない。全体で2センチ程度しかないちっぽけな標本で,ラベルはマースター石。マースター石は黄色~オレンジ色と言われているが,この標本は肌色に近いのでなんだか不安に思えてきた。そう言えばこの標本を確認したことはなかったな。

Marsturite
この脈はマースター石が主体で7-8割,あとは相変わらずの曹長石が入っていた。マースター石は数百ミクロン程度の結晶で,このスケールの写真だとガサガサの印象になる。なんだかちまたで言われているマースター石の標本とは印象が異なるが,まあラベルどおりで良かった。
今回採集した試料にはこういった印象の脈は見あたらなかったので,これが赤壁のどのあたりにあったのかは不明。そう言えばキュムリ石もさっぱり見あたらず,これも古い標本に限られるのだろうか。そもそも今回採集したサンプルが全体をカバーしていないのだろう・・。

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オレンジ脈その1

これは今回のオレンジ脈。上のマースター石とはなんだか色味がちょっと違うがモノは同じだろうか?

Marsturite
Marsturite (dark) and Rhodonite (bright)
観察してみると100ミクロン程度の葉片状結晶の集合だった。結晶の中心部がマースター石で,その外縁部がバラ輝石となっている。ほとんどこれのみだったので,上の曹長石混じりのマースター石脈とは色が違って見えたのだなあ。

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オレンジ脈その2

これも今回オレンジ脈。上のマースター石+バラ輝石とはまた違った印象の脈。

Marsturite and Marshallsussmanite
よりのっぺりとした質感。結晶粒は小さいのだろうなと思ったら案の定ものすごく小さい。この脈中のオレンジはやっぱりマースター石で白はカリ長石だった。それで,これだけで終わりかと思っていたのだが,なんだか違うモノも入っている。

Marsturite and Marshallsussmanite
この写真で中央から右下に流れる暗灰色がその違うモノの部分になる(左側はマースター石)。分析値はSiO2 52.27, MnO 18.75, CaO 16.18, Na2O 9.54, Total 96.74wt%。これをO=8, OH=1で規格化すると,Na1.07Ca1.00Mn0.92Si3.02O8(OH)となり,これは南アフリカからの2013年公表の新鉱物・マーシャルサスマン石 / Marshallsussmaniteとぴったり合う。H2Oを逆算すると 2.59 wt%で,それを考慮したTotalは99.33wt%とこれもほとんど理想的。ただ小さいのでこのサンプルからはXRDの取得は至難だろから,有力な候補ということにしておきましょう。

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多摩ちゃん!

スバラシイ標本ではないが何とか多摩ちゃんを見つけた。

Tamaite and Marsturite
中央上下に流れるオレンジ色の脈はやっぱりマースター石。白はほとんどハイアロフェン+含バリウム菱マンガン鉱。その左側にある反射しているところが多摩石。色そのものはマースター石と区別しがたいが,劈開が反射するのでそれを頼りにすればなんとかわかる(ような気がする)。

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やっぱり赤いよ

東京石の産状をもっとよく知るべく,それっぽい標本を細かくバラしてみた。

Tokyoite
Tokyoite
多くの標本を1センチ程度までバラバラにしてしまったが,おかげで東京石の特徴がよくわかるようになった。東京石は数センチから10センチ程度のブラウン鉱が母岩にパッチ状に含まれるような石に来る。そして,そのブラウン鉱の中に東京石は来ている。おおむね脈状で,白い曹長石やオレンジのマースター石を伴う。こういった産状だと東京石は赤色がよく出ている。ずっと上に掲載したブラウン鉱の上に直にのるモノより見つけやすい産状だろう。ただ,赤いのがすべて東京石かというとそうではない。一枚目の写真は東京石なのだが,二枚目の写真だと中央は東京石で,そのやや右下の鈍い赤はストロンチウム紅簾石だった。いずれにしてもそれっぽいモノを含むブラウン鉱をバラすと,東京石は結構入っている印象である。

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どこかで

見たような景色だがこれも今回の白丸から出たしろもの。さてこいつらは何者でしょうか。

Tinzenite and Epidote-(Sr)

赤い方,一見ペラペラしておりそれだけで多摩石かもという期待を抱かせるが,これはストロンチウム簾石だった。そして黄色のほうはチンゼン斧石。やっぱりこの景色は見たことがあると思った。それからだいぶ見てきて改めて思うがやっぱり多摩石は赤くはならない。いくらペラペラであっても赤ければ多摩石の可能性はないだろう。チンゼン斧石は外見上マースター石との区別が難しい。判断に迷ったら針でつついて見ると良いと思う。多摩石は簡単に針が刺さり,マースター石もガリッと削れる。一方で緑(紅)簾石やチンゼン斧石は針では易々とは傷がつかないほど硬い。それにしてもチンゼン斧石まで出てくるようだと,オレンジっぽい色=マースター石とはいかなくなった。

4/14:ちょっと訂正。チンゼン斧石 -> マンガン斧石。分析結果は(Ca3.81Mn2.18)Σ6.00(Al3.57Fe3+0.46)Σ6.00Si7.98B2O30(OH)2。分析値でCa>Mnなのでチンゼン斧石 / Ca6Al4[B2Si8O30](OH)2としてしまったがサイトで考えなくてはならなかった。Caエンドと考えるのではなく,Ca : Mn = 4 : 2に注目して,これはマンガン斧石 / Ca4Mn2+2Al4[B2Si8O30](OH)2とすべきでした。

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